トランプ大統領が7、8日に予定する訪韓を前にした1日、韓国の文在寅大統領が国会で施政演説をおこない、「いかなる場合でも朝鮮半島で武力衝突を起こしてはならない」とアメリカの北朝鮮挑発を牽制した。いかなる軍事行動も辞さないと示唆する米朝双方に改めて自制を呼びかけた。
文大統領は演説で「朝鮮半島はわが国民が暮らしており、暮らしていく生活空間」だとし、「安全でなければならない。平和でなければならない。これは、憲法が大統領に与えた責務でもある」と強調した。さらに「新しい政府はいつにも増して厳重な安保環境で発足した」とし、「直面した状況を安定的に管理する一方、究極的には朝鮮半島に平和を実現するために努力している」とした。
文大統領は「私たちが達成しようとするのは朝鮮半島の平和」だとし、「いかなる場合でも朝鮮半島で武力衝突を起こしてはならない」「朝鮮半島で大韓民国の事前同意のない軍事的行動はありえない」と北朝鮮に軍事的挑発をおこなうアメリカにくぎを刺した。1週間後の8日にはトランプ大統領が韓国の国会で演説する予定になっている。
文大統領はさらに、「朝鮮半島非核化」原則を再確認し、「南北が共同宣言した朝鮮半島非核化宣言に従い、北朝鮮の核保有国の地位は容認も認定もできない」としたうえで「私たちも核を開発したり、保有することはしない」と表明した。さらに文大統領は「わが民族の運命はみずから決定しなければならない」とし、「植民地や分断のように、私たちの意志と関係なく私たちの運命が決定された不幸な歴史をくり返さない」と強調した。
また、トランプ大統領が訪韓にあたって予定していた、米韓同盟の「最前線」である南北軍事境界線沿いの非武装地帯(DMZ)訪問には韓国側の反発が強く、見送られることになった。「DMZ訪問は金正恩氏を刺激する」と韓国側が懸念をあらわにしてきた。韓国政府は「トランプ大統領のスケジュールはアメリカが決める」と正式には関与を否定しているが、米紙ワシントン・ポストは「文政府の幹部がトランプ大統領のDMZ訪問に反対した。文政府は北朝鮮に誤解され軍事衝突を招く可能性があることや金融市場への打撃、平昌冬季五輪への支障が出ることを恐れている」と報じている。
DMZにある板門店は朝鮮半島停戦のシンボルであり、レーガン、クリントン、ブッシュ、オバマと訪韓した歴代大統領は必ずDMZを訪問して板門店の歩哨らを励まし、「われわれは“自由の最前線”に立っている」(レーガン大統領)と演説するなど最前線で米韓の結束をアピールしてきた。トランプ大統領がDMZ訪問を断念したことは、韓国の国民世論がそれを許さないという背景がある。
文在寅大統領の大統領特別補佐を務める文正仁氏は9月末、国内のシンポジウムで「米韓同盟が崩壊しても戦争だけはやってはならない」と発言している。また、韓国政府は対北政策で米政府の要請を受け入れていない。アメリカは関係国に対北独自制裁を要請してきたが、文政府は度重なる米政府の催促にもかかわらず先送りにしている。独自制裁はこれまで、日本、欧州連合(EU)などが発表している。
文政府はこれまでも、高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題で、結論を先送りしたうえで検証や環境調査を持ち出すなど、延滞させてトランプ大統領を憤慨させた。結局、七月末の「火星14号」(大陸間弾道ミサイル)発射成功で、THAAD配備をようやく決めた経緯がある。こうした文政府の対応も国民世論を意識したものである。
トランプのアジア歴訪は3隻の空母(「ニミッツ」「ロナルド・レーガン」「セオドア・ルーズベルト」)が周辺海域に展開する緊張のなかで始まる。