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「戦争になれば標的に」 長射程ミサイル配備めぐる熊本市民の危惧 司令部のみ地下化し住民説明会もなく

(2026年3月6日付掲載)

陸上自衛隊健軍駐屯地への長射程ミサイル配備の中止を求め1200人が参加した集会(2025年11月9日、熊本市東区健軍商店街)

 今月中にも健軍駐屯地への「12式地対艦誘導弾能力向上型(長射程ミサイル)」の配備が差し迫っている熊本市東区健軍では、配備に対し地域住民から不安と怒りの声が上がっている。昨年夏に「健軍に長射程ミサイルを配備する」との報道がされて以後、1200人をこえる反対集会が2度開かれても住民説明会が開催されることもなく、地元住民でありながら蚊帳の外に置かれてきた。「健軍が攻撃対象になるかもしれない」という住民の危機感は、アメリカとイスラエルのイラン攻撃によって、中東の米軍基地が報復攻撃の対象となっている現実を目の当たりにして、切実なものとなっている。政府は2027年度には冨士駐屯地(静岡県)への配備を予定するなど、健軍駐屯地への配備を足がかりに全国へと長射程ミサイルの配備を広げようとしているなかで、地域住民の思いを取材した。

 

 健軍駐屯地は1954年に開設され、西部方面総監部が置かれるなど九州・沖縄防衛の中心地として機能してきた。12式ミサイル連隊が日本で初めてつくられたところで、2016年に同駐屯地の第5地対艦ミサイル連隊に16両の12式地対艦誘導弾が配備された。今度配備されるミサイルがこれの「能力向上型」で、旧式と比べて射程は約5倍の1000㌔㍍。上海など中国本土の沿岸部も射程圏内となることから、対中国を想定した段階を画した軍備増強となる。

 

 同駐屯地は、熊本市東区の中心部に位置し、半径2㌔圏内に、保育施設が29カ所、小学校12校、中学校7校、高校8校、大学が1校あり、周囲は駐屯地を囲むようにして市営住宅やマンションが建ち並び、すぐ隣には市民病院、数百㍍先には東区役所や商店街などもある。そんな住宅地のど真ん中にある駐屯地へ長射程ミサイルを配備するという重大事項を住民たちは昨年8月にニュース報道で耳にしたきりで、住民説明会も開催されず、何も知らされないまま配備期日は目前に迫っている。市長も知事も「防衛は国の専管事項だ」として、説明会の開催を要請することもしていない。

 

米イラン戦争で現実味 緊張感高まる自衛隊の町

 

12式地対艦誘導弾の発射車両

 昨年11月に反対集会が開催された健軍商店街に近い場所で保育園を営んでいる建川美德氏は計画発表以降、一貫して長射程ミサイル配備反対を訴えてきた。建川氏は「今世界はトランプのやりたい放題でイランとアメリカの戦争が始まるなど、いつ世界戦争に拡大してもおかしくない状況になっている。世界戦争などになれば健軍は間違いなく狙われる場所になる」と指摘する。

 

 駐屯地にほど近いこの保育園に通う園児の保護者や卒園児、職員の家族などにも自衛隊関係者は多い。そのため建川氏がミサイル配備反対を訴えることに「自衛官の親を持つ子どもがどう感じるのか考えないのか」「いじめにつながるのではないか」との批判もあったという。建川氏は「身近なところに自衛隊関係者がいるからこそミサイル配備に反対している。熊本地震など災害のときは自衛隊に助けられてきたし、何も自衛隊員を責めているわけではない。しかし長射程ミサイルの配備は日本が戦争へと進む道だし、健軍がミサイル標的にされる道だ。戦争になれば、園児の保護者、卒園児、職員の家族が戦地に行くことになる。イランとアメリカの戦争が始まって中東に派遣されるかもしれないと不安を感じている自衛隊員もいると聞いた。戦地に行くと思って自衛隊員になった人は誰もいない。私たちは自衛隊員、地域住民を戦争に巻き込んでいく国のやり方、防衛政策に対して声を上げている」と話した。

 

 また防衛省が長射程ミサイルについてホームページ上で、「状況に応じて、平素の配備先から必要な場所に移動して任務にあたることになるため、特定の場所への配備をもって、その場所で運用することになるわけではない」としていることに対し、「防衛省は“長射程ミサイルは移動式だから健軍駐屯地が狙われるわけではない”といっているが、狙われないのであればなぜ健軍駐屯地の司令部だけ地下化を進めているのか説明がつかない。国のいっていることはすべてが茶番だ」と憤りを語った。

 

 健軍駐屯地は、那覇、築城(福岡)、新田原(宮崎)などとともに「最初に地下化に着手する5施設」の一つに選定されており、23年度より予算が計上され事業に着手。25年度には355億円もの予算が計上され、地下化の工事が進められている。

 

 建川氏は「防衛省は長射程ミサイルの配備だけにとどまらず、今度は弾薬庫までつくるといっている。周囲の住民に影響がないわけがないのだ。防衛省自身もそのことがわかっているから説明会を絶対に開催しようとしない。熊本県選出の国会議員はみな自民党だし、昔から自衛隊のことに対して反対の意見をいうのはタブーのような空気がある。だから、最初にミサイルが配備されたときには何も反対の声が起きなかった。防衛省も熊本なら今回も反対が起きないだろうと考えたのかもしれない。しかしそうやって国のいうことに従い続けてきた結果、いつ健軍が戦争に巻き込まれるかわからない状況に置かれてしまっている。当初に配備された迎撃ミサイルと今回の中国本土にまで届く長射程ミサイルではわけが違う。自衛隊員、地域を守るためにも絶対に反対運動をあきらめるわけにはいかない」と力を込めた。

 

 健軍小学校の出身だという60代の男性は、「この辺りの男子の就職先の第一候補は自衛隊というくらい、同級生も先輩も後輩も自衛隊に行った。“地元で就職するなら自衛隊”というくらい身近な存在でマイナスイメージなどなにもなかったが、今のようにいつ戦争になってもおかしくないという情勢になると話が変わってくる」と話した。

 

 この地域では、中学生になると家まで自衛隊のスカウトが来ていたという。まわりには自衛隊のエリートコースとなる少年工科学校(現・高等工科学校)に行く生徒もおり、そこから防衛大学などに進学し幹部候補になっていくという。男性は、「健軍駐屯地は自衛隊のエリートコースで、健軍駐屯地のトップが幕僚長になったりもしているという話を子どもの頃から学校の先生にも聞かされてきた。健軍駐屯地はすごいところだというのをずっと聞かされて育ってきたので、中学校を卒業してそのまま自衛隊に入った人も多い。自衛隊に入れば給料をもらいながら免許も資格もとれるからだ」と話した。

 

 しかし任期満了前に自衛隊をやめる場合には、「戦争が起きた場合すぐに駆けつける」という誓約書を書かされるのだという。男性もその誓約書を先輩に見せてもらったことがあるというが、「当時は日本で戦争が起きるかもしれないというような雰囲気もなかったからあまり気にもとめなかったが、やはり自衛隊とはそういう場所なんだな…というのは少し感じた。生まれたときから自衛隊や駐屯地は暮らしの一部でマイナスなイメージなどなにもなかったから、中で軍備増強がされようが何も感じず他人事だった。でも今は世界的に情勢が悪化しており、怖いと感じる。今も自衛隊に対して反対などと思うことはないが、ここに長射程ミサイルが配備されることには反対だ」と語った。

 

 そして「長射程ミサイルなどどこに持って行っても反対されるから強行突破してしまおうという国の姿勢を感じる。だから一度も説明会をしない。地元住民といっても本当にニュースで報道している内容しか知らないから、テレビで見ている人たちと同じ情報しか入ってこない。本当になにも知らされていないから、最近では“長射程ミサイルはすでに配備されている”という噂まである。それくらい国はやるだろうなと思うくらい強引な進め方だ」と指摘した。

 

一度も住民説明会なく 「住民守らないのか」

 

 70代の商店主は「この辺りはお客さんも知り合いも自衛隊の関係者が多いから大きな声ではいえないけど、みんなミサイル配備なんて大反対だ。なんでそんな危ないものを健軍に配備しようとするのかとみんな思っている。国は“防衛のため”というが、今度の長射程ミサイルは防衛とはかけ離れた他国を攻撃するためのものだ。私はあと少しの人生だが、子どもや孫がかわいそうだと思う。一体どんな日本になっていくのだろうか。市長も県知事も木原さん(地元選出・官房長官)も国にもっというべきだと思うが何もいわない。住民説明会の一つもないのはあまりにも地元をバカにしていて腹が立つ。これだけ思いがあっても商売をしているとなかなか表だって声を上げることができない。だから私たちのかわりにミサイル配備反対の運動をしてくれている人たちには感謝している。お客さんも反対集会に参加したと話していた」と語った。

 

 別の住民は「ここまで国が強引に配備するといっているのだから強行はされるのだろうと思っているが、住民からするとミサイルなんか来ない方がいいというのは当たり前の話だ。国がいくら安全だ、大丈夫だといっても今のイランとアメリカの戦争を見ていると駐屯地近くに住む私たち住民は不安を感じる。報復攻撃として結局基地が攻撃されているではないか。だから、もし何かあったときには国はどのような対応を考えているのか、どこまでを安全ととらえているのか、司令部は地下化がされているが住民用のシェルターをつくる意志はあるのかなど対面で説明くらいはしてほしい」と切実な思いを語った。

 

 そして「健軍駐屯地は西部方面総監部があり、九州・沖縄でも自衛隊の中心部だ。だったら一番に狙われるのは当然なのではないだろうか。こっちからミサイルが届くということは向こうからも届くわけで、それなのに私たちが逃げる場所はどこにもない。駐屯地のまわりには学校も大きな市民病院もあるのだから、せめて説明くらいするべきだ」と訴えた。

 

 30代の女性は長射程ミサイル配備について、「なんで熊本なの? という思いが強い。突然“健軍に配備します”と決定事項として一方的にニュースで報道された。イランとアメリカの戦争のように日本が戦争になったとき、敵から狙われるとしたら健軍になると思う。ミサイルを配備することによって攻撃対象になるというのは小学生でもわかることだと思うのだが、なぜ熊本がその危険性を背負わなければならないのかという説明が何もない。防衛というのであれば、もっと重要施設のある東京に近い場所に置けばいいではないか。大都市と比べ、熊本なら攻撃されてもそんなダメージがないからなのか? なども考えるが、もしそうなのであれば腹の立つ話だ。いろんな技術は発達しているが、結局ミサイルを撃ち込まれたら終わりだ。Jアラートが鳴ってもそもそも住民には逃げる場所がない。海外では学校にもミサイルが撃ち込まれているのを見ると、Jアラートが鳴って子どもを学校に迎えに行ってもその間にミサイルが飛んでくるかもしれないなどと考える」と不安を語った。

 

 数日前にはすぐ頭上をオスプレイが3回も轟音を立てて飛んでいったという。「本当に地響きのような音だった。今までも戦闘機などが轟音を立てて飛んでいることはあったが、数年に一度くらいだった。それが1日に何度も通ったことで、いよいよかもしれないと怖くなった。ミサイルを置く以外のやり方はないのだろうか」と話した。

 

 夫が元自衛官だという別の女性は「夫は以前“日本は戦争はしないといっているのに、毎日機関銃などを撃って戦争の訓練をしているから頭がおかしくなる。戦争のための戦車などを税金で大量に買っているのもおかしい”と話していたが、長射程ミサイルはその最たるものだと思う」と話した。

 

 女性自身も駐屯地に近い場所で育ったため、同級生の親は多くが自衛隊で、子どものころからイベントなどで戦車に乗るなど自衛隊に親しんできたという。しかし息子をつれて自衛隊のイベントに行ったときに、戦車に乗り顔にペイントまでされて違和感を持ったという。「顔のペイントは戦争のためのものだ。熊本の人たちは熊本地震のときも自衛隊に助けてもらったし、自衛隊は人を助けるかっこいいものという感覚がある。こうやって少しずつ感覚が麻痺していたのかもしれない。あまりにも平和ボケしていたから、テレビで基地が攻撃されているのを見ても日本がこうなるという考えに結びついていなかった。でも長射程ミサイルが配備されて、もしかしたら熊本が攻撃対象になるかもしれないと思うととても怖い。健軍駐屯地の周りには区役所も病院も学校もある。なぜこんな住民の多い中心地に配備するのだろうか」とのべた。

 

 そして「夫もだったが、自衛隊の人たちは日本が戦争をするために入っているわけではない。熊本は地震もあったし、人を助けるかっこいいものとして自衛隊を尊敬していた。同級生にも少年工科学校に憧れている人がいたが、そういう自衛隊の人たちを守るためにも戦争につながるものには反対だ。駐屯地が攻撃されれば自衛隊だけでなく、周辺住民も必ず影響を受ける」と話した。

 

 ほとんどの住民が配備反対の思いを語るなか、ミサイル配備は必要だと話す男性は、息子が自衛隊で働いているという。男性は「自衛隊員は戦争が始まってから自衛隊をやめると刑務所に行かなければならない。そういう誓約書を書いているのだ。だから絶対に戦争はいけない。そのための防衛力としての配備だ」と話していた。

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