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南北対話がつくる朝鮮情勢の新局面 米国主導の圧力路線は破綻

会談前に握手をかわす韓国首席代表の趙・統一相(右)と北朝鮮代表の李・祖国平和統一委員会委員長(9日、板門店)

 北朝鮮と韓国政府による南北会談が9日、約2年ぶりに軍事境界線上の板門店でおこなわれた。北朝鮮の核開発を焦点に米国が制裁と圧力路線を強め、北朝鮮側もミサイル実験で対抗するなど、朝鮮半島を舞台にした武力衝突の危機が高まるなか、「南北の当事者間で平和的解決を目指す」とする南北合意が結ばれた。軍事衝突を前提とした圧力合戦から、対話のテーブルへと移行しつつある朝鮮情勢の新たな局面をどう捉えるか。本紙は記者座談会をもって状況を分析した。

 

「当事者間で平和的解決めざす」 合意で強調


  南北高官(閣僚)級会談には、韓国からは趙明均統一部長官を首席代表とする代表団、北朝鮮からは祖国平和統一委員会(祖平統)の李善権委員長を団長とする代表団が参加した。会談にいたる経過は、韓国の文大統領がトランプ大統領に平昌五輪開催中(2月9~25日)に予定されていた米韓合同軍事演習の延期を提案し、しぶっていたトランプが年明けになって急きょ合意した。それを受けて、北朝鮮が南北会談に応じる流れとなった。終始、韓国が主導した形だ。


 会談後に発表した共同宣言文では、平昌五輪の成功を「民族の位相を高める契機」にするため、北朝鮮が五輪に高官級代表団、選手団、応援団、記者団などを派遣すること、そのための実務会談をおこなうことの他、以下の内容を合意した。


 ①南と北は、軍事的な緊張状態を緩和し、朝鮮半島の平和的な環境を作り、民族的な和解と団結を高めるために共同で努力する。南と北は現在の軍事的緊張状態を解消していかなければならないという見解を同じくし、これを解決するために軍事当局会談を開催する。


 ②南と北は多様な分野で接触と往来、交流と協力を活性化させ、民族的な和解と団結を高める。


 ③南と北は南北宣言を尊重し、南北関係で提起されるすべての問題を、わが民族が朝鮮半島問題の当事者として、対話と交渉を通じ解決していく。このために双方は南北関係の改善のための南北高位級会談とともに、各分野の会談も開催する。


 五輪を入口にして、「当事者間による平和的解決」を強調した内容になっている。遮断していた軍事通信線(偶発的な衝突を防ぐためのホットライン)も1年11カ月ぶりに開通するなど、まったく対話の道筋のない一触即発の事態は回避された。


  日本メディアは「北朝鮮ペースの会談」「米韓同盟の分断だ」と騒いでいるが、民族間の問題を民族間で意思疎通しながら解決するということは、誰も反対できるものではない。日本にとっても、「いつミサイルが飛んでくるかわからない」という状態は回避され、安倍首相のいう「存立危機」は脱したわけだ。


 とりわけ、これまでのようにアメリカや6カ国(中国、北朝鮮、日本、韓国、米国、ロシア)などの各国の利害が入り乱れる合意ではなく、南北の当事者がリードしていくことを確認したことの意義は大きい。

 

 

  会談にあたって、韓国の文在寅大統領は「わが民族の運命はわれわれがみずから決定すべきだ。植民や分断のように、われわれの意志と関係なく運命が決められた不幸な歴史をくり返さない」と主張し、北朝鮮側も「外部勢力によって南北間の対決状態が長く続いてきたことによる不信と誤解は、和解と団結を通じて克服できる」とのべており、南北間に対話再開を妨げる要素はなかった。「対話ではなく圧力だ」と恫喝して、あくまで「核開発の放棄」を条件に対話を拒否し、軍事演習の実施を譲らなかったのはアメリカで、原子力空母3隻を動員して過去最大の軍事演習をしたり、核搭載可能な戦略爆撃機を飛ばしたり、韓国にTHAAD(終末高高度ミサイル防衛システム)を配備させるなど、戦争を前提とした威嚇をくり返してきた。だが、そのトランプも平昌五輪開催中の軍事演習を延期する韓国の提案を呑み、南北会談について「100%支持する」と態度を軟化させた。


 会談後には、「南北間の対話中はいかなる軍事行動もおこなわない」「適切な時期と状況下で、米国は北朝鮮と対話することができる」と韓国側に約束している。朝鮮半島の不安定化のなかで軍事拠点を構え、自国の武器市場にしてきたアメリカにとって、そうせざるをえない状況に追い込まれたということだ。


  そもそも朝鮮問題は、本来民族間で解決すべきところに、米国とソ連などの大国が介入し、代理戦争の様相を呈して泥沼化した。1953年に結ばれた朝鮮戦争の休戦協定も南北による調印でなく、一方は北朝鮮だが、もう一方はアメリカだ。北朝鮮の核開発も、圧倒的に優位な核軍事力を振りかざして体制転覆(降伏)を迫るアメリカの軍事作戦に抵抗するために始めたもので、そのように当事者の頭越しでの米朝対立が冷戦構造の終焉後もずっと続いてきた。


  アメリカも日本のメディアも、北朝鮮国民の貧困生活や脱北者の様子を映しては「経済制裁の効果が出てきた」「さらなる制裁を」と嬉嬉として報じてきたが、血を分けた同胞である韓国の国民にしてみれば手放しで喜べるわけがない。自分たちの親族がそこにいるのだ。朝鮮戦争以来、南北に離れ離れになって暮らしている離散家族は今も13万人(韓国側の面会申請者)もおり、米朝対立のもとで会うことすらできない。まして、血で血を洗うような軍事衝突を前提にした圧力の継続よりも、一致点を見出して和解の道筋を付けるというのが人道にかなったものであることはいうまでもない。


 南北が「当事者同士による解決」を強調したことは、これまでいかに「当事者外」の介入が強かったかを示しており、米ソ二極構造の崩壊後も軍事的介入を続けてきたアメリカの存在が、いかに問題解決するうえでの桎梏になっているかということだ。

 

韓国世論の大きな変化 文政府を動かす力

 

  ことの背景には、韓国内世論の大きな変化がある。第二次大戦後も、朝鮮戦争に介入した米国傀儡の軍事独裁政治が続き、長年にわたる激しい国民運動によって民主化が実現し、南北和解の道が開けたものの、新自由主義グローバル改革による経済破綻でふたたび軍事的、経済的にアメリカの鎖に縛り付けられた。IMF管理下におかれた緊縮財政のもとで社会福祉の削減、雇用の流動化で失業率は増し、米韓FTA(自由貿易協定)によって製造、保険、金融などの国内産業は外資の食い物にされた。南北関係でも、「太陽(融和)政策が北朝鮮の核開発を助長した」といって、離散家族の再会事業、南北共同運営の開城(ケソン)工業団地の操業、文化、スポーツ交流など10年かけて培ってきたあらゆる南北の交流を断絶し、ふたたび戦争の危機が高まる一方で、アメリカから高額な兵器を売りつけられるなど主権を無視した要求がまかり通る。経済交流の断絶によって、北朝鮮は中国との関係を深めたが、韓国の経済の方が大打撃を受けた。


 一昨年、100万人規模のキャンドルデモで朴槿恵を弾劾した力には、そのような親米政権のもとで腐敗した政治への怒りと、荒廃した社会を立て直す底深い世論の高まりがある。


 新たに大統領に就任した文在寅が「朝鮮半島での軍事行動は、韓国国民の同意なくして誰もできない」「いかなる場合でも武力衝突があってはならない」とくり返しトランプの軍事行動を牽制してきたのも、そうした国民世論を反映したものだ。


  核問題の解決を含めた一連の軍事的緊張を緩和させるためには、今も「休戦」状態が続いている朝鮮戦争の終結(平和条約の締結)が不可欠になっている。あれからもう60年以上もたつのにアメリカは依然として韓国に約3万人の米軍を駐留させて、北を「ならず者国家」「テロ支援国家」に指定し、いつでも先制核攻撃ができる体制を維持している。物量では北朝鮮をはるかにしのぐ軍事力を突きつけているわけで、その脅しが強まれば強まるほど、北朝鮮に核開発や「米本土に届くミサイル」の開発を急がせてきた。北朝鮮の側に、核やミサイルによって積極的に他国の体制を転覆させたり、攻め込む理由も条件もない。アメリカの軍事恫喝や介入に対抗するという防衛的なものであるのに対して、アメリカは軍事施設への限定攻撃や、北朝鮮首脳の「斬首作戦」という積極的な侵攻を目的としている。この関係が終わらない限り、核問題の解決はない。いずれにせよ、いまや一連の圧力政策は、本来目標にしていたはずの「朝鮮半島の非核化」を遠ざける効果になったことは否定できない。


  朝鮮戦争の休戦協定には、戦争を中断し、「すべての外国軍隊を撤退する」という条項があるが、中国が朝鮮から撤退する一方で、アメリカは米韓相互防衛条約によって永久駐留を認めさせ、それ以来、平和(相互不可侵)協定の締結を拒否してきた。


 ブッシュ政府時代には北朝鮮をイラクと同様に「悪の枢軸」「テロ支援国家」と呼んで金正日体制の崩壊を政治目標にし、米朝共同コミュニケ(2000年)で一致した「朝鮮戦争を公式に終結させる」ための四者協議の開催を拒絶した。6カ国協議もオバマが就任してすぐに決裂し、就任前に約束した「北朝鮮と交渉する」どころか、米軍の戦力を大西洋からアジア・太平洋地域へ集中させる再編を進め、「斬首作戦」、領土侵攻と占領、核兵器の模擬爆弾投下による核の先制攻撃訓練などを断続的に実行して協議再開のメドはなくなった。


 「核開発プログラムを廃棄してはじめて対話を開始できる」と主張してきたが、それは北朝鮮に「降伏せよ」というのに等しく、体制が崩壊するか、自爆覚悟で暴発するまで終わらない。その後を引き継いだトランプも「戦略的忍耐の時代は終わった」といって過去最大規模の軍事演習をやって見せたが、事態を悪化させるだけで何の成果もあがらなかった。当事者間による電撃的な南北会談は、この関係の破綻を示すものだといえる。

 

東アジアの多極化を反映  揺らぐ米国の主導権

 

  東アジアをめぐる力関係も大きく変化している。昨年9月、北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを打ち上げ、トランプが「見たこともない炎で応戦する」など核使用までちらつかせて恫喝しているさなか、ロシアと中国は、北朝鮮のミサイルや核開発実験と、米韓合同軍事演習を同時に停止する「凍結のための凍結(ダブルフリーズ)」案を表明した。プーチンは、北朝鮮の最近の核実験やミサイル発射を「国連決議違反」と非難しながらも、「制裁による解決は不可能」「感情にまかせて北朝鮮を追い詰めてはいけない」と米朝双方に自制を求め、北朝鮮の核保有を認めたうえでの対話交渉を求めた。トランプは拒否したが、この案にはドイツなど複数国が賛同している。


 米朝や日朝が断交状態にあるなか、中国やロシア、イギリスなども積極的に北朝鮮と交易関係を結び、経済交流を深めてきた経緯がある。北朝鮮の核開発はあくまで「対アメリカ」である以上、それを棚上げして鉱山物資や石油などの豊富な地下資源の試掘権をはじめ、鉄道開発や人材交流などの経済的実利を優先するというスタンスだ。共通の利害関係を築くなかで北朝鮮の核開発を凍結させ、東アジアでの新秩序を構築するというものであり、圧力一辺倒のアメリカと距離を置いた和平シナリオが動いている。


 日本ではほとんど報道されていないが、北朝鮮に対する韓国の後ろ盾がアメリカ一国だけだった冷戦時代とは違い、それだけ朝鮮半島問題をとり巻く力関係は多極化している。そのなかで「アメリカ・ファースト」で恫喝外交を突き進むアメリカの側が孤立化する趨勢になっている。アメリカ一国では解決する力がない以上、これらの力関係のなかで戦略を見直さなければ、主導権を失って完全に蚊帳の外に置いていかれる。トランプが南北会談を追認する方向に転じた背景には、恫喝外交の破綻のなかで朝鮮利権を失いたくないというアメリカの焦りがある。


  シリアや中東と同じくアメリカの影響力の衰退が、アジアでも同時に進行している。トランプのエルサレムの首都認定はアラブ諸国から総反発を受けると同時にNATO加盟国も同調していない。イランとの核合意を一方的に破棄したことに対しても、中国やロシアだけでなく欧州も反発し、核合意の維持へとUターンした。イラン国内の反政府デモへの対応をめぐる制裁発動も不発に終わった。アメリカ国内の深刻な疲弊のなかで外交官を2000人規模で削減するなど、世界外交における影響力を後退させざるをえない状況だ。


 朝鮮半島をめぐる情勢は流動的で、南北会談の一局面だけ見て一喜一憂できるものではないが、アメリカが横ヤリを入れる力を失っている。北朝鮮側が対話を望むなかで、これまでのように軍事演習を強行して南北対話を妨害するなら国際的な孤立はまぬがれないし、かといって自国に有利な対話の条件を引き出すこともできない。妨害すれば東アジアの新たな枠組みに乗り遅れるという条件下で、独自性を強める韓国の動きを追認せざるをえない。

 

見直し迫られる対米従属外交 主体性なく漂流

 

  「北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで米国と完全に一致」といい、世界に「異次元の圧力」を呼びかけてきた安倍政府はハシゴを外された形となった。「完全に一致」していたはずのトランプが「対話支持」に転じる急展開のなかで、「対話のための対話では意味がない。不可逆的な方法で核・ミサイルの廃棄をコミットさせる」(安倍首相)、「北朝鮮に明るい未来はないと認識してもらいたい」(河野外相)と旧態依然の主張をくり返すほかになんの具体策も持ち合わせていない。


 すでに米国務長官のティラーソンは、北朝鮮との「前提条件なしの直接対話」をうち出しており、それを否定していたトランプも「適切な時期と状況下で北朝鮮と対話することにオープンだ」と表明している。北朝鮮が大規模な代表団を派遣するという平昌五輪には、ペンス副大統領を派遣するといっており、目の前で米朝の和解を見せつけられる可能性だってある。韓国、中国、ロシアを含めた協議に向けて急速に事態が動くなかで日本政府だけが完全にとり残されている。


  当事者の頭ごしにアメリカの指示でやった従軍慰安婦問題をめぐる「日韓合意」も、一方の朴槿恵が弾劾されたことによって振り出しに戻り、韓国側からは合意破棄を突きつけられている。これについてもアメリカは「自分で答えを出せ」と突き放しており、安倍政府には独自に解決する力もない。さらに南北協議にまで横ヤリを入れて「圧力だ!」「制裁だ!」を連呼するなら、つまはじきにされるのがオチだ。韓国では朴正煕の娘が弾劾されるなかで、満州時代からの盟友だった岸信介の孫が指揮棒を揮う余地はなくなっている。アジア近隣諸国との関係改善と互恵関係を軽視し、ただアメリカの顔色をうかがうだけの対米従属外交がパンクしている。


  朝鮮問題の平和的解決は、日韓両国民にとって共通の課題であるし、その世論を強めることが重要だ。ミサイルが落ちてくることを前提とした対処だけに汲汲としているのでは話にならない。対話解決が進むなら、1000億円もするイージス・アショアなど必要ないし、バカげた避難訓練も不要だ。だが、トランプも朝鮮半島から手を引いたわけではないし、あくまで「北の脅威」を理由にして憲法改定にまで踏み込もうというのが安倍政府だ。それは日本の人民にとってだけでなく、東アジアの情勢をさらに緊迫させる問題になる。いまや第二次大戦、原爆投下、さらに朝鮮戦争から続く対米従属構造からの脱却が、日本だけでなく韓国でも平和構築の中心問題となっている。軍事力を振りかざしてアジアを脅かしてきた米軍支配を終わらせ、アジアの近隣諸国と連帯して戦争の火種を排除する世論と運動を強めることが求められている。

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