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柳井市議選で争点となった上関町の中間貯蔵施設建設計画 「反対」議員が過半数に 争点鮮明にした市民の動き

(2025年12月12日付掲載)

 山口県柳井市で4日におこなわれた市議会議員選挙では、定数16に対して新人7人が当選した。これまでの無風選挙とはうって変わり24人が立候補した今回の市議選では、隣接する上関町で建設が計画されている核燃料廃棄物の中間貯蔵施設問題が最大の争点となり、結果は10人の反対派(住民団体がおこなった公開質問状の結果による)が当選し、選挙前まで議会内少数派だった反対派が過半数を大きく上回った。地元住民団体が「反対派議員を過半数に」を目標に掲げ、候補者全員の賛成・反対の態度を可視化したチラシを全戸配布するなど、市民みずからの力で選挙争点を鮮明にして「山口県を関電のゴミ捨て場にするな」の民意を示した。柳井市内で選挙後の反応を市民に聞いた。

 

「核のゴミ捨て場にさせぬ」の世論圧倒

 

 今回の柳井市議会議員選挙では、定数16に対して選挙前の欠員2に加え、4人の現職が引退を表明し、立候補した現職は10人。これまでの選挙では「ほとんど無投票」といわれるほど議員の顔ぶれが変わらない状態が続いていたなかで、今回は新人が14人立候補し、選挙前から「こんな選挙は初めて」「どんな候補者がいてどんな選挙になるのか」と市民の関心は高かった。とはいえ開票結果を見てみると、過去最低の投票率だった前回選挙(55・90%)をわずかに1・37㌽上回る57・27%。「もっとたくさんの人に投票に行ってほしかった」という市民の声も少なくなかった。

 

 ただ市議会議員16人中7人が新人となり、議員の顔ぶれは大きく変化した。選挙前の市議の平均年齢は70・8歳だが、当選者には30~30代も多く、平均年齢は59・1歳と若返りも進んだ。

 

 柳井市の「上関の中間貯蔵施設を考える周防住民の会」(井上重久会長)が、選挙前に立候補予定者らを対象におこなった公開質問状の結果によると、24人の立候補者のうち「反対」が13人、「無回答」(実質賛成)が6人、「判断できない」が5人という構図だった。選挙結果は、反対派が10人当選して過半数議席を大きく上回った。また、無回答だった現職議員1人が落選し、「判断できない」と曖昧な態度を示した新人候補者は若手候補であっても落選するなど、柳井市内における「中間貯蔵施設はいらない」「関西電力のゴミを持ってくるな」の根強い世論を改めて示す結果となった。

 

全候補の態度を一覧に 市民はチラシ見て判断

 

 上関の中間貯蔵施設問題が最大の争点となったことは間違いない。長年選挙に関わってきた市民は「新人が多数立候補していたので、ある程度の変化は予想していたが、いざ蓋を開けてみると現職の落選もあったり、“この人は当選するだろう”という候補が落選したりと想定外が多かった。その理由を丸一日考えたが、やはり中間貯蔵施設に対する各候補者の態度を市民がよく見ていたのだと思う。表だって主張する人は少ないが、市民のなかに中間貯蔵施設反対の思いが強くあるのだとわかった」「市政の問題は様々あるが、結果から見ると、今回の選挙の最重要争点は中間貯蔵施設問題だったと見る以外にない。意識的に“中間貯蔵施設問題を争点化しよう”と動いた市民は多くはなかったと思うが、各候補者の賛成・反対の態度には注目が集まったし、投票するうえで重要な判断材料になったのだろう」と話していた。

 

 どの候補者が中間貯蔵施設に反対、賛成、もしくは曖昧な態度を示しているかを可視化したのが、「周防住民の会」が市内に全戸配布したチラシだ。同会は、既存政党や企業にはまったく関わりのない市民団体で、今年8月には4172筆の反対署名を集め、市議会に対して中間貯蔵施設建設反対の決議を求める請願を提出した。請願のなかでは、極めて膨大な危険物質(使用済み核燃料)が関西から来ることや、テロを含める一定程度の明らかなリスクに対して「誰も安全を約束できない」ということ、さらには福島級の事故が起きた場合、市民は住む家を失うことなどを指摘し、これらを「市民の安全を守る」ための判断根拠・材料として訴えた。

 

 しかし、議会はこの請願を9月議会で「継続審査」(継続審査への反対6、賛成8)として先送りにした。同請願は現職市議らによる12月議会でも審査される予定だが、ここでも結論が先延ばしにされる可能性が濃厚で、同請願は議員の任期満了にともない審査未了廃案となる可能性が高い。

 

 議会が請願をまともに取り扱う気がないなかで、周防住民の会では「次の市議選では反対派を過半数に増やして、3月議会で反対決議をあげよう」との目標を立て、今回の選挙を迎えた。

 

 選挙を前に、同会では2回にわたって、郵便局の「タウンプラス」を利用し、市内にチラシを全戸配布している。その数は商店や企業なども含め1万5500軒分だという。第一弾では反対決議を求める請願の継続審査に反対した議員と賛成した議員を名前入りで公表した。市議選直前に配布した第2弾のチラシでは、柳井市内の政治活動家(現職市議含む)26人に公開質問状を送り、中間貯蔵施設への賛否やその理由、さらに議会に反対を求める請願が出された場合の対応について質問し、その結果を一覧表にして全戸配布した。

 

 ↓市民団体が作成したチラシ(表・裏)

 公開質問状には18人が回答した。回答しなかった8人のうち5人は、反対決議を求める請願の継続審査に「賛成」した現職議員(山本達也、藤沢宏司、平井保彦、田中晴美、川﨑孝昭)らで、彼らは中間貯蔵施設への「消極的容認派」といえる。それ以外の候補者の回答結果はすべてチラシに掲載されており、市民がこのチラシを見れば市議選立候補者全24人が中間貯蔵施設に対してどのような態度を示しているのかが一目でわかるようになっている。

 

 ある商店主は「今回はたくさんの新人が出馬したが、まったく知らない人ばかりだった。誰がどんな主張をしているかもあまりわからないなかで、地元の市民がこうして情報を発信してくれるだけでもありがたい。“ぜひ中間貯蔵施設を作ってくれ”という柳井市民はいないはずだ。私もこのチラシを見て投票に行ったし、当選した議員たちは“反対”の意志を必ず貫いてほしい」と話していた。

 

 市内の商店などで聞き込みをおこなっていると、多くの市民がチラシを捨てずに棚や引き出しの中に保管していた。

 

 別の商店主は「選挙期間中、複数の知人と中間貯蔵施設の話題になったが、みんなチラシに目を通しており、そのことが話題になった。共産党と公明党以外の候補はみんな無所属で出馬しているが、当選した新人のなかには完全な無所属ではなくバックに政党や組織がついている人も複数いる。議員になってからどのような動きをするかは注目だ」と話していた。

 

 選挙後、民放が当選者に対しておこなったアンケートでは、10人だったはずの「反対」が、早くも9人へと減っている。質問状で反対と答えた新人に対しては、今後圧力や切り崩しも加わることが予測されるが、3月議会で審議されると見られる反対決議をめぐり、各当選者がどのような態度を示すかに注目が集まる。

 

 ある市民は「新人に対する切り崩しは当然あるだろう。その時に本人たちが支持者を選ぶか、体制側をとるかが問われる。チラシを全市民が見ているし、市民は議員の態度を見ている。3月議会での審議は最初の“踏み絵”になるだろう。結果によっては次の四年後の市議選に関わってくる。チラシを見れば議員の裏切りがひと目でわかる。そういう意味でも、今回の選挙ではチラシを作って市民に配った人たちの勝利ではないか」と語っていた。

 

 周防住民の会の井上代表も「選挙期間中はいろいろな人から“わかりやすいチラシだった”と反応があった。個人的に100人以上の人に出口調査をしたが“自分が投票した候補者が中間貯蔵施設に反対なのか賛成なのかわからない”という人はほとんどいなかった。選挙で反対派議員を議会の過半数にすることを目標に掲げ、どの候補が反対なのかを示し、それを判断基準に投票してほしいという思いでチラシを全戸配布した。中間貯蔵施設は作ってほしくないが、誰に投票すれば良いか分からないという人たちにとって少しでも役に立てたのなら嬉しい」と手応えを語っていた。

 

 また、井上代表は「選挙期間中に知り合いの美容師から“今回は井上君たちに風が吹いていると思う”といわれた。美容師がいうには、普段の選挙なら客の方から選挙の話題が出てくるのだが、今回はそうした会話がまったくなかったそうだ。市民みんながチラシを見ていて誰が賛成で誰が反対かを知っているので、中間貯蔵施設を容認する候補を推しているというと、自分まで容認なのかと相手に思われてしまう。それくらい、市民のなかでは中間貯蔵施設反対の世論が圧倒しているという実感が広がっていたと思う」と話していた。

 

 来年の3月議会で反対決議を目指す方向だというが、「当選した10人の“反対派”すべてがそのまま反対決議に協力してくれない可能性もある。すでに選挙後のアンケートでは反対といっていた候補が“やはりディベート(討論)が必要”といい出したりもしている。だがそうした今後の議員一人一人の動きに対して市民の目が向けられているし、今回配ったチラシも足かせとして効果を発揮してくれるのではないか」と話していた。

 

無風状態の市政変革を 市民に開かれた議会に

 

 新人が多数立候補した今回の市議選には、これまでの停滞した無風状態の市政に対する市民の鬱積した思いも反映している。政治経験がない若手も多く、16人中7人の議員が新人となるため、「議会運営は大丈夫だろうか」という心配の声も少なからずある。とはいえ、それ以上に市民に開かれた議会運営を期待する声が多い。

 

 ある商店主は「今までの議員は議会で何をしているのかさっぱり分からない人ばかりだった。高齢でほとんど目立った活動もないまま席だけがある状態の議員もいた。そういう意味では今回の選挙を終えて、これからどんな議会になるのかという楽しみはある。新しい議員たちには頑張ってほしい。政治の素人も多数いるが、市民に向けてオープンな議会であってほしい」と話していた。

 

 別の店主は「柳井市は大きな工場や企業がない。製造業というよりは、農漁業と商売人の街だといわれてきた。しかし今はすごい勢いで人口減少が進み、人口は3万人を下回っている。生産者も減り、それにともない商売人も減っている。経営は厳しく余裕がないので人を雇えなくなり、若い世代の働く場もなくなっていく。駅前から白壁通りに向けた地域が商店街といわれてきたが、今このエリアで物品販売をしている店はわずか5~6件だ。このままで本当に大丈夫なのかという危機感をみんなが持っている。今までの議員は市民の話は聞くが、議会では波風を立てずおとなしくしている人ばかりだった。現役世代の議員が市民の声をもっと議会に届けてほしい」と語った。

 

 ある市民は「柳井市は、基地の街・岩国市と、原発問題を抱える上関町との間に挟まれた“谷間の地域”だ。米軍の戦闘機は夜も当たり前のように飛ぶし、近年は柳井の市街地上空付近を飛ぶことも増えた。それでも岩国のような“基地交付金”はないし、恩恵も波及してこない。また、上関町の30㌔圏内の周辺市町として原発や中間貯蔵施設は市民生活と直結する重大な問題だが、長年“当事者”としての扱いは受けていない。昔から柳井市民はおとなしいといわれてきた。だが基地や原発、中間貯蔵施設問題を抱え、同じ地域住民として影響を受けるのに蚊帳の外に置かれたような状態が長年続いてきたなかで、市民のなかにもふつふつとしたフラストレーションが溜まっていたのだと思う。今回の選挙では、中間貯蔵施設問題という一つの問題をめぐり、はっきりとした民意を示す選挙になったと思うし、市政そのものも“変えていこう”という思いが反映されたと思う」と話していた。

 

県知事選への影響は? 柳井市の県議が出馬

 

 今回の柳井市議選は、来年1月22日に告示を迎える山口県知事選(2月8日投開票)の動向にも少なからず影響を与える。地元柳井市の有近真知子県議(自民党)が今年9月に知事選への出馬を表明したため、自民党県連が推す現職の村岡知事との保守分裂選挙となることが予想されるためだ。有近氏の立候補表明に対し、自民党県連は2年間の党役職停止と議会の役職の辞任勧告の処分を下している。

 

 柳井市内の商店主は「今まで自民党の県議として有近さんの選挙を支えてきた柳井市議たちも、次の県知事選では村岡知事側に付くのか、有近さん側に付くのかを迫られることになる。一般市民にとってはあまり関係ないことだが、企業関係や議員と繋がりが強い有権者は、自民党県連と地元の県議のどっち側につくか迷っているところもある。その人たちは、今回の市議選であからさまな選挙活動はしにくかったのではないか」と話した。

 

 長年選挙に関わってきたという市民は、「今回初めて当選した市議たちも、わずか数カ月後の県知事選で自分の政治判断が問われることになる。新人市議たちにとってはいきなり気の毒だが、知事選が最初の“踏み絵”になるだろう」と話していた。

 

 今回の市議選を通じて、市民の間では「思っていたよりも静かな選挙だった」という声が多かった。それは、その後の県知事選を見据えた柳井市内の政治的混乱を反映し、様子見的な有権者が少なくなかったことも影響したのではないかとの見方もある。

 

 5日には、柳井市の井原市長が県知事選で有近氏を支援する意向を定例会見で表明。井原市長は「地元の政治家がいばらの道、厳しい挑戦をすることに私は敬意を持っている。一人の人間、政治家としてできる限りのことをさせていただきたい」とのべた。地元でも賛否両論入り交じった反応があるが、「なぜわざわざ市議選の真っ最中に表明したのだろうか?」とさらなる混乱や憶測も飛び交っている。年明けの県知事選に向けた混乱はしばらく続きそうだ。

 

周辺市町の民意示すとき 高まる反対世論形に

 

 今回の柳井市議選で「議会内で反対派を多数派にしよう」という動きが広まったが、柳井市に限らず上関町の周辺市町では、特定の組織に頼らない地元住民主導の中間貯蔵施設反対のとりくみが活発化してきた。

 

 柳井市と田布施町、平生町、周防大島町の1市3町と上関町は、「柳井地域」という一つの枠組みの下、水道事業や消防・救急医療などを一体的に運営する方式をとってきた。単なる「隣町」や「周辺自治体」という関係性をこえた共同体として行政運営をおこない、住民生活が成り立ってきた。

 

 しかし、今回の中間貯蔵施設問題について上関の西町長は「上関で決める」という姿勢を崩しておらず、周辺市町を無視した進め方を強行しようとしている。

 

 こうしたなか、周辺市町の自治会や住民が協力し合って「中間貯蔵施設反対」の民意を示そうとくり返し粘り強い運動を続けてきた。

 

 今年8月には、上関町に隣接する平生町の自治会長などによる「上関の中間貯蔵を考える平生町民の会」が山口県庁を訪れ、村岡嗣政知事に対し中間貯蔵施設建設計画に反対するよう求める要望書を提出した。また、要望書には町内148自治会のうち109自治会で実施された住民アンケート2117件分を添えた。このアンケートは、会のメンバーが町内の各自治会長を一軒一軒訪問し、各班ごとの回覧でアンケートを実施してもらえるよう頼んで回り、協力を訴えた。アンケート結果は、計画への反対が75%を占めた。

 

 田布施町議会では今年3月、中間貯蔵施設建設に反対する議員らが提出した反対決議案を賛成多数(賛成6、反対5)で可決した。田布施町では昨年12月に、同町2つの住民団体が計3372人分の署名とともに中間貯蔵施設建設への反対を求める陳情を町議会に提出していた。だが議会はこの陳情を「継続審査」とし、その後、議員の任期満了にともない審査未了廃案としていた。

 

 住民団体を中心に町民の間では、「議会がまともに審議しないなら反対派の議員を過半数にしよう」という世論が高まり、実際に2月の町議選で議会内の勢力を逆転させ、反対決議可決まで実現させた。この「田布施方式」を受け継いだのが今回の柳井市議選だった。

 

 市議選の間、周防住民の会には田布施町をはじめ周辺の住民から何度も励ましの電話が届いたという。井上代表は「何が何でも柳井で反対派議員を過半数にして反対決議を実現してほしいというバトンを繋ぐことができた。柳井市は上関町の周辺市町で唯一の市であり、中心的立場として影響力も大きい。だからこそ絶対に反対派の過半数ごえを実現させたかった。選挙で民意を得た議員が議会で反対決議をあげることの意味はとても大きい。まだまだ気は抜けないが、必ず実現させるために準備を進めたい」と語った。

 

 村岡知事は、2023年8月に計画が浮上して以降、「周辺自治体の理解は重要な要素」「周辺市町の判断も含め広域的に考える」と周辺市町の住民世論は無視できないとの立場を示してきた。これに対し、周辺1市3町では住民アンケートを実施しており、反対の割合は平均74%をこえている。

 

 さらに村岡知事は今年8月に「自治体(行政)としての判断も大事」とのべている。そのため、各市町の市議会が反対決議をあげて自治体として反対の立場を示すことの意味は非常に大きなものとなる。井上代表は「中間貯蔵施設建設は周辺市町の誰もが“やめてくれ”と思っている。賛成議員ですら“個人的には反対”という人も多い。だれも建設してほしいと思っていない。だから私たち住民はどんどん反対の意志を示し、村岡知事が“これだけ地元で反対が圧倒しているのだからさすがにYESとはいえない”というくらいまで世論を作っていきたい」と今後に向けた意気込みを語っていた。

 

 この間、周辺市町から「山口県に核のゴミを持ってくるな」「関電のゴミ捨て場にするな」の住民世論は確実に広がり、市町をこえた住民同士の連携によって地元議会を動かす力はより強固なものとなっている。来年2月には上関町議選、さらに10月には町長選を控えるなか、新たな柳井市議会となる3月議会での上関中間貯蔵施設建設反対決議の実現に向けた動向に注目が集まっている。

 

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