(2025年8月29日付掲載)

山口県平生町で実施された住民アンケートと山口県知事、平生町長宛ての要望書
山口県熊毛郡上関町で、原発から出る使用済み核燃料の中間貯蔵施設を建設する計画をめぐり、中国電力は現地でおこなってきた立地可能性調査の結果について、8月29日に上関町に「立地は可能」と報告する方針を決めた。2023年8月、地元住民や周辺市町に何の説明もないまま突如として浮上したこの計画をめぐっては、強引で身勝手な進め方をする中電や、中間貯蔵施設建設を急ぐ張本人である関西電力、そして原子力政策を推進しながら地域への説明責任も果たさない国に対して、上関町内外から怒りの声があがってきた。周辺自治体(柳井市、田布施町、平生町、周防大島町)では、反対の世論が圧倒しており、建設反対の署名が多数寄せられ、各市町でおこなわれたアンケートでは反対が平均7割をこえる。上関町の西哲夫町長は「受け入れ判断は上関で」と、周辺自治体の民意などお構いなしの強硬姿勢を見せるなか、周辺市町の住民たちが横に繋がり、実質的な「核のゴミの最終処分場」建設を阻止する動きが広がっている。
反対署名や要望書の提出あいつぐ
上関町への中間貯蔵施設建設計画は、2023年8月2日に中国電力が上関町役場を訪れ、町に対して建設を持ちかけたことで明らかになった。同町では1982年に浮上した原発建設計画が、2011年の福島第一原発事故を機にストップしたまま進展がなく、建設が見通せない状況となっている。国からの交付金もあてにできなくなり町財政がひっ迫した上関町は、独自の地域振興策を生み出せず人口減少は加速。今年7月1日時点で、人口は2146人となり、高齢化率は59%となっている。
こうしたなか、西町長が中国電力に対して地域振興策を頼み込み、これに応えて中国電力が中間貯蔵施設の建設を持ちかけた――これが、中間貯蔵施設建設計画浮上の経緯だとされている。
表向きは上関町と中国電力との関係性で浮上した計画のように見えるが、この計画は中国電力と関西電力の共同事業となっており、中国電力よりもむしろ福井県内の原発施設内にため込み続けている使用済み核燃料の県外搬出先確保を急ぐ関電の事情が大きく関わっている。
関電管内で現在稼働している大飯、高浜、美浜の3原発内に貯蔵されている使用済み核燃料は、すべて許容量の80%をこえており、早ければ2~3年で上限に達するといわれている。県外に搬出できず満杯となれば、関電は運転停止に追い込まれる可能性がある【図1参照】。

地元の福井県は、関電の原発を稼働させる条件として、使用済み核燃料を県外搬出するよう求めており、関電も2026年度から搬出することを約束していた。だが、1997年に完成するはずだった「搬出先」である青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場は、昨年9月に着工以来27回目の完成延期が発表され、30年近く経っても完成の見込みはない。これにともない、関電は県外搬出の工程表見直しをよぎなくされた。
今年2月、関電は再処理工場に28年度から30年度までの3年間で計198㌧(大飯、高浜、美浜の2原発7基の発生量の約1・5年分相当)の使用済み核燃料を搬出することなどを盛り込んだ工程表を福井県に提示し、杉本達治知事が3月に容認した。工程表では、27年度は高浜原発からフランスへ70㌧搬出する計画を示した。また、28年度は六ケ所村の再処理工場に78㌧、フランスへ70㌧搬出することなどに加え、「県外で中間貯蔵施設を確保し30年ごろに操業開始」を約束している。県外の中間貯蔵施設とは上関の計画のことであり、関電はすでに操業開始時期まで明示している。だが、計画が浮上してからの2年間、関電は地元や周辺自治体に対して一切説明をしていない。
2年前の8月に浮上した建設計画をめぐり、西町長はそれから半月足らずで町議会の議決もないまま中電の立地可能性調査受け入れを表明した。中電は、同日から町内の社有地で文献調査を開始している。調査を開始した年から、国は上関町に対して「電源立地等初期対策交付金」として年間最大計1億4000万円を交付。さらに今年度、国は山口県と上関町への電源立地地域対策交付金として、約13億5000万円を盛り込んだ。昨年度の交付金約6億円から大幅に増額している。
昨年4月からは、中電によるボーリング調査が始まり、同11月に終了。中電は、この調査の結果から「適地」だと判断して今回、上関町に対して調査結果を報告する。また、今後中電は中間貯蔵施設の規模や、使用済み核燃料の貯蔵容量などを盛り込んだ事業計画の作成などを進めていくとみられている。
まるで関電原発の便所扱い 周辺市町に説明なし
中電が「適地」だと報告することは、上関町内や周辺市町の住民の誰もが予想していた。以前から「中間貯蔵施設問題が参院選の争点になるのを避けるために、選挙後に出されるだろう」といわれてきたため、中電の動きとしては想定通りだ。とはいえ、計画をめぐる手続きとしては一つ次の段階へ入ることになり、今後は上関町だけでなく周辺自治体としての対応にも注目が集まる。
中電から事前になんの説明も受けていなかった周辺市町の首長らは、計画浮上直後からの2年間、地元住民に対する説明責任も果たせず、中間貯蔵施設問題への対応に苦慮してきた。そのため、まずは「周辺市町で足並みを揃えて国や中電、上関町に対して意見をあげていこう」ということで、柳井市、田布施町、平生町、周防大島町の首長が議論を重ねながら方向を一致させて対応してきた。
昨年12月末の協議では、現在行き詰まっている核燃料サイクルをめぐる今後の見通しや、中間貯蔵施設の位置づけなどについて、原子力政策を進める国がきちんと住民に説明するよう要請する方針をまとめた。だが、現時点で国の動きはまったくない。
周辺1市3町と上関町は、「柳井地域」という一つの枠組みの下、水道事業や消防・救急医療などを一体的に運営する方式をとっており、単なる「隣町」や「周辺自治体」という位置づけをこえた関係性のもとで行政運営をおこない、住民生活が成り立ってきた。にもかかわらず、今回の中間貯蔵施設問題について上関の西町長は「上関で決める」という姿勢を崩しておらず、周辺市町を無視した進め方を強行しようとしている。こうした態度は今後の自治体運営や相互の信頼関係にも関わる問題で、自治体関係者の間でも「これまで上関の原子力問題は、周辺自治体としてもデリケートな問題として、みなが気を遣って慎重に対応してきた。それを、“今回だけは上関だけで決めます”ということは許されない」と厳しい声もあがっている。
また、上関町内のみならず周辺市町の住民の間では、核燃料サイクルの破綻が明白であるなか「中間貯蔵施設というが、実質最終処分場ではないか」との世論が圧倒的だ。計画が浮上して以降、それぞれの市町では地元住民が主体となって反対署名や住民アンケートがとりくまれ、どの市町もアンケートでは七割をこえる住民が反対の意志を示している【図2参照】。そうした世論を代表して山口県や地元首長や議会に対して、反対を表明するよう求める要望書や請願の提出もあいついでいる。

平生町住民反対が75% 自治会等がアンケート
上関町に隣接する平生町では8月19日、地元自治会長などによる「上関の中間貯蔵を考える平生町民の会」が、山口県庁を訪れ、村岡嗣政知事に対して計画に反対するよう求める要望書を提出した。また、要望書には町内148自治会のうち109自治会で実施された住民アンケート2117件分を添えた。アンケート結果は、計画への反対が75%を占めた。
また、平生町民の会は21日には平生町長に対しても要望書とアンケート結果を提出。これを受け、浅本町長は「施設があるかないかでいえば、私もない方がいいと思う」とコメントしている。
県に提出した要望書では、計画浮上当初から村岡知事が、「県としては広域で考える」「上関の周辺市町の判断・理解が重要」とのべてきたことに触れ、こうした発信は、上関の西町長の独断でリスクを負わされることへの不安を抱える周辺住民にとっては心強いとしている。また昨年、周辺市町で次々と住民から反対の声が上がり、いくつものアンケートによって大多数の住民が反対していることが数字で示され、今年に入ってからは田布施町議会で中間貯蔵施設に対して反対決議がされ、周辺地域住民の意志が正式な行政手続きの形でも表明されていると指摘している。
そして、平生町でもアンケートを実施することで、周辺市町全域の住民の意識調査が完成(1市3町すべてのアンケート調査が出そろう)することになると考え、住民の思いをとりまとめたことを報告している。
そのうえで、県知事に対する要望事項として次の2点を求めている。
一、県民が未来に向けても安心して暮らせる地域であり続けるために、山口県として上関町の使用済み核燃料中間貯蔵施設建設計画に対して反対の表明をすること。
二、上関の周辺市町の住民の意思を上関町と同等に考え、周辺市町すべてにおいて計画への明らかな賛成表明が揃わない限り、計画に関する県の許可を下さないこと。
要望書のなかには、中間貯蔵施設に対する平生町民の声が列挙されている。
▼危険な核廃棄物を瀬戸内海を通して運ぶと、もしもの事故のときに周辺市町だけの被害では収まらない。山口県の広い範囲にも危害が及び、瀬戸内海全体に広がってしまう。
▼アメリカとロシアによって、各関連施設が攻撃されたり占領されたりすることが現実に起きている。岩国の米軍基地の近くに大量のウランが置かれてあると格好の標的にされてしまう。
▼南海トラフ巨大地震の不安があるのに、さらに核の問題まで出てきてしまい、災害にあったら復興は不可能になる。不安が倍増する。このまま平生に住んでいて大丈夫なのかと心配(つい最近も、立地予定地のすぐ近くを走る海底活断層が発見されたとのニュースを見た)。
▼そもそも再処理工場が計画通りに進んでいれば、中間貯蔵施設は建てる必要がないはず。再処理工場とそれを燃料として再利用する発電は本当に実現できるのか?
2023年8月の計画浮上から2年間、周辺市町では反対の署名や請願の提出、アンケートなどが地元住民によってとりくまれてきた。だが、平生町ではそうした動きがなかったため、他市町から「ぜひ平生町からも住民の声を上げてほしい」「住民の世論が数字で見えると自治体も動きやすいのではないか」という声がかかり、今年五月から各自治会内の回覧板を使って住民の意向を確認するアンケートを実施した。
活動の中心となったのは、町内の自治会長たちだ。これに町議も加わり「上関町の中間貯蔵施設を考える平生町民の会」を立ち上げ、148ある住民自治会の自治会長にアンケートへの協力を訴えたという。
アンケートをとりくんだ自治会長の一人は「会のメンバーが町内の各自治会長の所を一軒一軒訪問して、自治会の各班ごとの回覧でアンケートを実施してもらえるよう頼んで回った。その結果、109もの自治会が協力してくれ、町内の住民の世論をある程度反映させることができたと思う」と手応えを語る。なかには「政治的なことには協力できない」という自治会長もいたが、その自治会の重鎮的な住民が「大事なことだから協力するべきだ」といって実施に至った地域もあり、5月から6月の約2カ月間かけて町内に協力が広がっていったという。
町民の会のメンバーは「政治的だとか関係なく、平生町に暮らす住民の生活がかかった住民自治のための大事な活動だと思ってとりくんできた。思っていたよりも協力してくれる自治会が多く、中間貯蔵施設の問題について“自分たちも何かやらないといけないと思っていた。ありがとう”という声もあった。平生町は保守的な地域で、国の政策に対してこれほど明確な反対の声を住民自身のとりくみによって示したことは初めてではないかと思う。これにより、上関町の周辺市町すべてのアンケート結果が出そろった。今回のアンケートを通じて、住民一人一人が“自分も声をあげていいんだ”と感じてもらえたらと思う。中電が“適地”だという調査結果を示すことは目に見えているが、今以上に周辺市町の住民同士で連携を強め、反対の活動を横に広げていきたい」と意気込みを語っていた。
田布施町議会は反対決議 実質の「最終処分場」
田布施町議会では3月21日、中間貯蔵施設建設に反対する議員らが提出した反対決議案を賛成多数(賛成6、反対5)で可決した。2月におこなわれた町議会議員選挙では、上関原発や中間貯蔵施設建設に反対する町民世論に押される形で反対派候補が多数当選して議会内で過半数を占め、山口県内の市町としては初めてとなる反対決議可決に至った。また議会は、「上関町での中間貯蔵施設の設置について事業者および国からの説明を求める決議」も賛成多数で可決している。
反対決議の内容は以下の通り。
上関町で計画されている「中間貯蔵施設」は、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムやウランを取り出す「核燃料サイクル」が行き詰まっている中、「最終の貯蔵施設」になる可能性が高い。
もし、中間貯蔵施設や運搬経路において事故が起きれば、上関町はもとより、田布施町を含む周辺市町、山口県、瀬戸内海、西日本の住民の安心・安全を脅かすものである。
これほど重要な問題を上関町だけで判断することは許されない。
住民が安心して暮らせる生活環境を守り、次の世代に手渡すことこそ、極めて重要である。
よって田布施町議会は、次の通り決議する。
田布施町議会として、上関町での「中間貯蔵施設」の建設に反対する。
(引用終わり)
田布施町では昨年12月、同町2つの住民団体が計3372人分の署名とともに中間貯蔵施設建設への反対を求める陳情を町議会に提出していた。だが議会はこの陳情を「継続審議」とし、その後、議員の任期満了にともない、2月26日でこの陳情は審議未了廃案としていた。
こうした議会の肩すかしに対して、署名を集めてきた地元住民たちを中心に「議会内で反対派議員を多数派にして反対決議を実現させよう」という声が高まり、政党・政派関係なく多くの町民が結束して世論の力で議会内の勢力図を逆転させた。
この間、田布施町内で中間貯蔵施設建設反対のとりくみの中心を担ってきた男性は「政党や企業のしがらみなどはあるが、町民一人一人の感情からいうと九八%が中間貯蔵施設に反対している。誰もが“なぜ関電のゴミを上関町が受け入れなければならないのか”と感じているはずだ。反対派の町議は6人に増えたが、その他の議員も“個人的には反対”という者もいる」と語る。また、「日本で核のゴミの受け入れのために喜んで手をあげているのは上関町長だけだ。対馬では、市長が最終処分場に反対して国の文献調査受け入れを拒否している。使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルはもはや破綻し、60億円をつぎ込んだ“もんじゅ”も役立たずだ。絶対安全とは誰もいいきれないものを、田舎に押しつけて最小限の補償金で済ませようという魂胆が見え見えだ。どんなにカネをもらったとしても、暮らしの安全には代えがたいものがある。それがみんなの思いだ」と話していた。
柳井市でも反対署名提出 市議選前に住民圧力
柳井市でも8月12日、「上関の中間貯蔵施設を考える周防住民の会」が、市議会に対して建設に反対するよう求める請願を提出した。また、住民の会は7月に市内全戸を対象にした署名活動を郵送で実施し、約1カ月間で市外の家族らを含む4172人(市内在住は3908人)の署名を集め、これも請願に添えて提出。「多数の市民が不安を感じ、反対の意思を表明している」と訴え、住民の意志を反映した判断を議会に求めている。柳井市議会は九月議会でこの請願について審議する見通しだ。
柳井市では今年12月に市議会議員選挙を控えている。この選挙で、田布施町のように中間貯蔵施設に反対する議員を増やそうという声が市内で高まっており、現在候補者擁立に向け着々と準備が進められている。
周辺市町の住民が主体となってとりくむ中間貯蔵施設建設反対の運動は、40年間体を張って原発建設を阻止してきた上関町内の住民にも届いている。祝島の住民は「2年前に中間貯蔵施設建設計画が出てから、周辺の市町で反対署名がたくさん集まっていることや、ここ最近では田布施町で反対決議を上げたことなどをニュースで知り、とても励まされている。ここまではっきりと周辺の住民から反対の意志表示が目に見えるのはこれまでになかったことだ。自民党の力も弱くなっているが、そうした政党や組織の縛りも弱くなって住民一人一人が声を上げやすくなってきているのではないかと思う。そうした声を、自治会長たちが力を合わせて集めてくれるのは本当に嬉しい」と話していた。
中電による上関町への「適地」報告後、中間貯蔵施設建設計画をめぐる新たな動きが出る可能性は高い。そのような情勢のなかで、周辺市町1市3町の住民からも「反対」の意志表示が出揃い、周辺市町で横の結束を強めて迎え撃つ構えだ。
今から27年前に、福井県知事が「原発の恩恵を受けている消費地でも傷みを分かち合うべき」と要望したことを受け、関電は使用済み核燃料の県外搬出を約束しているが、以来、その危険を引き受ける自治体は消費地である関西地方ではどこも現れていない。だからといって、上関町へのわずかな交付金と引き替えに、「原発の恩恵」など何も受けていない山口県の住民が危険を押しつけられる筋合いはない。「山口県を関電のゴミ捨て場にするな」というのが圧倒的な住民世論であり、周辺市町の住民たちの手でゼロから組織されてきた反対の世論と運動は、地元の行政や議会を巻き込み、影響を強めながらいっそう拡大するすう勢となっている。

関西電力の使用済み核燃料・中間貯蔵施設建設調査を受け入れを表明した上関町の西哲夫町長(中央)。登庁時に抗議の住民たちに囲まれた(2023年8月、山口県上関町)





















