仕事仲介大手「クラウドワークス」のWeb上に「中国批判系」「嫌中」をうたう動画制作の仕事依頼の募集が掲載されていたことが問題になり、「差別や誹謗中傷につながる依頼」に該当するとして同社が慌てて非公開にする措置をとった。同社の仕事仲介のサービスは、個人や企業がネットを介して登録会員に業務を委託できるというもので、過去にもこうした「中国・韓国批判系」「日本称賛系」といった動画の制作依頼やYouTubeに投稿する動画の台本作成、編集作業などが数千円単位の業務として発注され、中国人の迷惑行為やモラルの欠如、彼らに天罰が下ったりするフィクション動画の制作などが複数依頼されていたことも明らかになっている。昨今世間を賑わせている犯罪集団・匿流の「指令役」→「回収役」「リクルート役」→「実行部隊」ではないが、右傾化ビジネスの末端においても似たような業務発注・小銭稼ぎの構造があることを浮き彫りにしており、SNSで流布される様々な意図を持った政治系動画というのが、こうやって大量に生み出されていることを物語った。
世論は人為的につくられる――。宣伝扇動のプロフェッショナルの力によって、物事を捉える視線の角度を変えたりねじ曲げたり、本質を逸らして問題をすり替えたり、サブリミナル効果等々も駆使して何度も何度もすり込むように印象づけたり、善悪二元論で片側を叩いて片側を持ち上げてみたり、テクニックは様々だろうが、いまさら驚くことでもない。メディアがずっとやってきた世論誘導の定石である。社会を揺さぶるようにセンセーショナルな事件をぶち上げてその他の重大な案件から注目を逸らしたり、五輪等々のイベントに大衆の視線を釘付けにしている隙に為政者が重大な政策をおし進めていたり、時として郵政劇場選挙のような選挙結果を左右する世界だって作り出す。広告代理店の最大手・電通などはその司令塔として目されるほどメディア業界のトップに君臨し、テレビ局や新聞社も頭が上がらない関係であることはよく知られている。
それにしても、いまやYouTubeを筆頭に政治系動画のなんと多いことか。それこそ中国やアジア近隣諸国を誹謗中傷する陳腐な動画は溢れかえっているし、「奈良公園の鹿さんが可哀想」系もその類いだろう。逆に「ニッポンすごい」系の動画もしかり。その他にも政党や政治家がみずから発注しているのか、自身の称賛系動画や演説の切り抜き動画が溢れかえり、選挙でもSNSの動員が大きな影響力を及ぼすほど存在感を増している。メディアが「オールドメディア」などと呼称されて信頼が乏しくなっているなかで、より凶暴で乱暴な表現が飛び交うSNSを介して、誰がどこから発信しているかも曖昧な形で言論空間が作られ、雰囲気や空気を持っていく。しかし、今回のクラウドワークスで明るみに出たように意図的に司令塔役の何者かがカネを出して業務を発注し、言論を宣伝扇動する力は加わっているのである。
安倍政権以降、電通が首相官邸に「クリエイティブディレクター」を出向させてきたという。なるほど、ここが司令塔になって排外的な世論扇動を外部発注していく仕組みができていたというのなら、右傾化ビジネスの心臓部としては妙に合点がいくものがある。クラウドワークスしかり、自民党がカネを渡してX(旧Twitter)で野党系議員をけなしたり大暴れしていたDAPPIについてもその一群にほかならなかったのかもしれない。あるいは直近の選挙で死にあがきを見せた某宗教団体だってカネなら腐るほど信者から巻き上げてきたわけで、世論扇動でSNSを動員するのにはカネに糸目を付けないだろう。兵隊となる信者だって無数におり、ネットを拡声器にした「大きな声」で雰囲気を持っていくくらいお茶の子さいさいである。
日本国内でいま「嫌中」を煽る意図は、為政者をして台湾有事への武力参戦すら公言するなかで、かつての暴支膺懲(ぼうしようちょう・横暴な支那を懲らしめるの意)と同じように中国を蔑み、戦争すら厭わぬという危険な道に誘うものにほかならない。何者かがカネを出してSNSで刷り込みを実行しているなかで、こうしたプロパガンダに身を委ねるわけにはいかない。
吉田充春

















