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中国電力は上関原発建設の意思なし ボーリング調査は中間貯蔵施設のため 祝島裁判口頭弁論の準備書面で矛盾を指摘

(2025年9月24日付掲載)

口頭弁論がおこなわれた山口地裁岩国支部(山口県岩国市)

 山口地裁岩国支部で9月18日、上関原発建設計画をめぐり中国電力が「上関原発を建てさせない祝島島民の会」を訴えた裁判の第15回口頭弁論がおこなわれた。この裁判は、2019~21年にかけて中電が3度にわたりボーリング調査をおこなおうとした海域で、祝島の漁師が通常の操業をおこなっていたため調査を実施できなかったことをめぐり、中電が「妨害された」として2022年10月に民事訴訟を提起したもの。今回の口頭弁論では、祝島の漁業者と祝島島民の会代表、明治学院大学名誉教授の熊本一規氏の3人が証言をおこなった。また、島民の会側が提出した準備書面では、中電側が原子力規制委に対する新規制基準を踏まえた上関原発設置許可申請の手続きを進める意思がない状態が続いていることを暴露し、原発建設がこれ以上前に進みようがないことを指摘している。そのうえで、中電側の訴えの矛盾点を指摘し、「妨害予防請求」が成立し得ないことを明らかにしている。(熊本一規氏による証人尋問の報告は別掲

 

 まず、上関町における原発建設計画と、中電が祝島島民の会に対して訴えを起こした裁判の経緯について振り返ってみる。1982年に中国電力による上関原発建設計画が浮上してから、今年43年が経過する。この間、中電はあらゆる手を使って漁業者や町民の反対を抑え込み、原発建設を推進しようとしてきたが、粘り強い反対運動の前に原発建設は足踏みが続いていた。

 

 2000年には、祝島を除いた関係7漁協と中電のあいだで漁業補償交渉を妥結したものの「当事者」である祝島の漁業者は補償金を受けとっていない。そのため、中電は四代田ノ浦の海面に手を付けられない状態が続いている。祝島の漁業者が補償金の受けとりを拒み続ける以上、原発計画は一歩も前に進まないという事実は、これまでの原発反対のたたかいの経過によって証明されている。

 

 こうしたなか、2011年3月に東日本大震災での福島第1原発事故が発生し、中電は工事を一時中断。以来、上関原発をめぐる中電側からの大きな動きはなくなっていた。中電は2012年10月に埋立免許の延長を申請したが、山口県は7度にわたって判断を先送りにし、2016年8月に、村岡知事が「発電所本体の着工時期の見通しがつくまでは、埋立工事を施行しないこと」を条件に延長を許可している。だが、その後も祝島の漁業者が断固として補償金受けとりを拒否しているため中電は埋立に着手できていない。村岡知事は2019年と2022年にも埋立免許の延長を許可している。

 

 こうしたなか、中電は2019年10月8日に、福島原発事故後の新たな規制にそった原子炉設置許可申請のためのボーリング調査をおこなうことを山口県に申請し、県は同年10月31日にボーリング調査のための一般海域占用許可を出した。

 

 その後、中電は2019年から2021年まで毎年、計3回にわたってボーリング調査実施のための準備作業をしようとした。しかし当時この海域では祝島の漁業者が釣り漁業を営んでおり、中電がおこなう調査への同意は得られず、作業が実施できなかった。このとき、中電側は社員らが乗り込む船で祝島の漁業者が乗り込む漁船に近づき、職員らが両手両膝を着いてひたすら頭を下げて「協力」をお願いしたが、漁業者らは釣り漁業を続けた。中電よりも、漁業権を有する漁業者の立場の方が強く、争いの余地などないことは誰の目にも明らかだった。

 

 打つ手がなくなった中電は、裁判所に「祝島の漁業者は調査を妨害している」とする民事調停を申し立て、2022年10月5日に、第1回の調停が開かれた。だが、冒頭から中電が「法廷論争は一切しない」といって議論を避け、調停は不成立となっている。その後、中電は法律論を避けると思いきや、同年10月25日に、「上関原発を建てさせない祝島島民の会」を山口地裁岩国支部に提訴した。

 

 中電の主張は、同社が20年近く前の2008年10月に取得した「埋立免許」を論拠として「埋立施工区域を占有できる」、また「埋立施行区域内で祝島の島民らが営む自由漁業に対して妨害排除を請求できる」といったものだ。

 

 この訴えをめぐり、現在に至るまで約3年にわたって裁判が続いており、9月18日には第15回目の口頭弁論にて祝島島民の会側の証人尋問がおこなわれた。

 

 中電は今回の民事訴訟の被告を「祝島島民の会」としているが、中電がボーリング調査のための準備作業を実施しようとしたときに海上で漁業を営んでいたのは祝島の漁業者であり、島民の会ではない。被告を間違えて訴訟を起こせば、場合によっては被告不適格となり、訴えが却下されかねないような間違いを犯している。今回おこなわれた証人尋問でも、祝島島民の会側からは「調査の海域に船で入り、漁をすることはあくまで個々の判断」だとし、祝島島民の会としての組織的な指示ではないことも明らかにされている。

 

工事着工の見通しなし 準備書面で根拠示す

 

 この裁判をめぐり、祝島島民の会は9月4日付で山口地方裁判所岩国支部宛に「準備書面(15)」を提出している。準備書面とは、口頭弁論がおこなわれる当日までに、みずからの主張や相手の主張に対する反論などを記載して裁判所に提出する書面だ。また、口頭弁論のさいに口頭で説明しきれない詳細な主張や証拠などを書面に記載することで、当事者の主張を正確に、かつ網羅的に裁判官に伝える役割がある。裁判官はこの準備書面の内容を参考に事実認定や法律論の整理をおこなう。

 

 今回祝島島民の会が提出した準備書面では、そもそも中電側が上関原発建設に関する手続きを進めようとする姿勢を示していないことに加え、上関原発計画がこれ以上前に進みようがなく、発電所本体の着工見通しはまったくないこととその根拠を示している。そのうえで、中電側の訴えは成立しないと反論している。

 

 まず準備書面では、中電が原子力規制委員会に対して、福島原発事故を踏まえた新規制基準に基づく原子炉設置許可申請の「補正書」を提出する必要がある点について触れている。原子力規制委が上関原発に係る設置許可申請の新規制基準への適合性を審査する審査会合をおこなうには、中電による補正等が必要となる。だが、現在まで中電による補正等がなされていないため、審査会合が開催されていないと指摘。また、原子力規制委も、中電による補正等がなされる時期を承知しておらず、「審査会合の予定ないし見通しについてのべることはできない」という状態だとのべている。

 

 そのうえで準備書面では、中電による「補正」がなされない以上、原子力規制委が上関原発の設置許可申請に関する審査手続きを開始できないのは当然であると指摘している。

 

 中電はこれまでの裁判のなかで、新規制基準の施行後の平成25(2013)年102月25日に原子力規制委員会設置法附則第23条第4項に基づく書類を提出し、平成26(2014)年4月10日付け一部補正をおこなっており、原子力規制委がそれぞれ受理したうえで「現在も同申請を審査中としている」などと主張してきた。

 

 これに対し準備書面では、「(中電が)あたかも本件設置許可申請につき、原子力規制委員会において、何らかの審査手続きが進められているかのような主張をしてきた。しかし、原告の主張する“審査中”の実態は、なんら中身のないものであった」と反論している。

 

 そして、新規制基準施行後、中電が12年以上の長期間にわたり補正等をしていないことから「常識的に考えれば、原告は新規制基準を踏まえた原子炉設置に行き詰まり、もはや新規制基準を踏まえた本件設置許可申請の手続きを進める意思を喪失したと考えるべきである」とのべている。また、この点については今後、中電代表者に対する尋問で立証する予定だとしている。

 

 山口県の村岡知事は、平成28(2016)年8月3日に、中電に対して「発電所本体の着工時期の見通しがつくまでは、埋立工事を施行しないこと」を要請している。だが、中電が新規制基準を踏まえた補正等をしない限り原子力規制委の審査会合が開催されることはないため、準備書面では「発電所本体の着工時期の見通しがつく」日が到来することはないと指摘している。

 

 着工時期の見通しがつかない以上、山口県知事からの「埋立工事を施工しないこと」という要請が解除されることはない。そのため中電は公有水面の埋立工事を施工できない。こうした関係性を踏まえ、準備書面では「原告が本訴訟で妨害予防請求の根拠としている公有水面埋立権なる権利の実態は上記の如きものである」とのべ、これ以上事業を前に進められない中電の立場を暴露している。

 

ボーリング調査 中間貯蔵施設に流用か

 

中電のボーリング調査を阻止する祝島の漁業者ら(2005年)

 さらに準備書面では、中電自身が新規制基準を踏まえた補正等をおこなわず、審査会合を開催できない停滞状況を作り出しているにもかかわらず、他方で開催する予定のない審査会合に提出する資料の収集を口実として、海上ボーリング調査を実施しようとすることにはまったく整合性がないと指摘している。

 

 そのため、これまでも島民の会側は、海上ボーリング調査で得たデータを使用済み核燃料の中間貯蔵施設の設置許可申請に流用するのではないかと指摘してきた。これに対して中電側は明確な回答をしていなかったが、今年8月29日に中電が上関町に提出した中間貯蔵施設の立地調査報告書には、中間貯蔵施設の建設予定地周辺の断層の活動性が調査の対象とされていた。そのため準備書面では「ボーリング調査の結果が、中間貯蔵施設の設置許可申請に流用されることは確実である」と指摘している。

 

 そのうえで、中電が今回の訴訟を提起した真の目的は「山口県知事から得ている公有水面埋立許可が現在まで失効していないことを奇貨として、本件設置許可申請手続きで提出するデータの取得ではなく、中間貯蔵施設の建設に向けた準備の一環としてのデータ収集をおこなおうとしていると考えざるを得ない」と指摘している。

 

 最後に準備書面では、中電側の訴えが成立しない根拠をのべている。

 

 中電は、海上ボーリング調査の妨害を排除するために「公有水面埋立権に基づく妨害予防請求」をおこなっている。また中電は、海上ボーリング調査は、上関原発敷地内で確認された断層の活動性評価の実施を目的とするものであり、「埋立後」に建設される予定の上関原発に関する「安全審査に万全を期す」ためのものであると明言している。つまり中電は、ボーリング調査は埋立のためではなく、埋立後のために必要だと主張してきた。

 

 中電側の訴えに対し準備書面では、「公有水面埋立法」の法的効果が、①埋立免許によって埋立地の所有権者をあらかじめ確定し、②埋立後に埋立免許を得た者が竣工認可を得ることによって埋立地の土地所有権を取得すること、に限定される点を確認している。

 

 そのうえで、中電が埋立を遂行するために必要のない海上ボーリング調査を実施しようとしている点に触れるとともに、法的効果が「埋立地」に限定される公有水面埋立法を持ち出して「公有水面埋立権に基づく妨害予防請求」をおこなっている中電側の矛盾点を突き、「請求の成立しないことが同準備書面により鮮明となった」と結論づけている。

 

 次回の口頭弁論は、10月30日に山口地裁岩国支部でおこなわれる。

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