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山口県政界めぐる地盤変化 県議会議長選で起きた反乱 下関では安倍派が好き放題【記者座談会】

(2025年5月30日付掲載)

前田晋太郎・下関市長と平岡望・山口県議(3月、下関市長選にて)

 7月の参院選が迫るなかで、「保守王国」などといわれてきた山口県では、それまで中央政界での影響力を背景にして安倍晋三・安倍事務所が牛耳ってきた状態から、これが亡くなったもとで今度は柳居俊学県議会議長&林芳正官房長官(自民党山口県連会長に就任予定)らに権力が移行し、県議会や県内の各自治体においてもパワーバランスに微妙な変化があらわれている。本紙では幾度となくその様子について観察してきた記者たちで座談会を持ち、地方議員や政治家どもの移り身や裏切り、その根拠について分析してきたが、直近の暗闘や変化について改めて記者たちで論議してみた。

 

参院選が近づくなかで…

 

 A 参院選が近づくなかで県内でも候補者を擁立する政党周辺は選挙モードに切り替わっている。自民党は安倍晋三が清和会の頭数としてねじ込んだ北村経夫が改選を迎える。前回選挙では統一教会の信者らが選挙事務所で実務を担っていたことが明らかになっていたが、今回も隠れ信者らがボランティアで手伝うのだろうか? と話題にされている。各地で集会を開いて回り、自民党への逆風を肌身に感じるのか党の公約でもない消費税減税を訴えたりしている。

 

 B 参院選情勢でいえば、山口県選挙区で出馬が明らかになっているのは、自民党が北村経夫、国民民主党が関谷拓馬、参政党から山崎珠江、無所属で戸倉多香子の4人だ。戸倉はもともと立憲民主党から立候補するはずだったのが、連合山口が異を唱えて立憲民主党本部から公認がおりず、無所属での出馬となった。戸倉擁立を主導したとされる立憲民主党山口県連のトップでもある平岡秀夫(衆院比例)は選挙で全面支援するが、党としては自主投票なのだそうだ。連合が突き放して実質的に足場などないなかで、戸倉としては上関原発反対、中間貯蔵施設反対を押し出し、有権者の受け皿になりたいと主張している。

 

 連合としては国民民主党推しなのだろう。中央の連合の変化も反映している。もともと連合山口といっても様々な組織の寄せ集めで、昔の同盟系も総評系も混在しており一筋縄ではない。保守王国のなかで自民党を中心とする権力にすり寄り、ぶら下がって生息してきた勢力でもあって、たとえば上関原発計画についても日立など鉄鋼関連の労組は推進している有様だ。労働者の味方としてたたかっている勢力などとは山口県民は誰一人思っていない。与(よ)党、野(や)党の真ん中の「ゆ」党なのだ。それが国民民主に乗り換えるというのは不思議な話でもなんでもない。そういうシフトが中央政界レベルで動いているなかで、戸倉&平岡の側がハシゴを外されたような印象だ。

 

 C 戸倉擁立に異議があるとして、立憲民主党から下関選出県議の酒本哲也が離党表明して、すかさず距離を置く動きを見せた。元親戚でもある加藤寿彦(元民主党県議、立憲民主党所属)の地盤を引き継いだだけなのだが、まるで加藤の顔に泥を塗るような振る舞いに周囲は唖然としている。

 

 立憲民主党でいえば、下関では市議会議員に東城しのぶを当選させたものの、これが一年で離党して自民党会派入りをして驚かせたことがあったが、今度は県議までも離党して、残っている所属議員は下関市議会の秋山(安倍事務所秘書出身)のみ。これも「自民党から出たい」と周囲に漏らしていると話になる有様で壊滅目前だ。政治的信念とかが希薄なのか、今風なのか、入党とか離党がいかにもカジュアルで身軽なものになっている。まあ、安倍事務所から捨てられた人間を立憲民主党が拾い食いみたく抱えたり、境界線などあってないようなものだが、長年にわたって馴れ合ってきたのを隠しもしなくなったということだろう。

 

 いわゆる野党勢力、自民党批判勢力の目くらましというか、たたかっているようなふりだけして欺瞞し、かさぶたのような役割を果たしていたのに、恐らく与党にすり寄りたいという本性が抑えきれないのだろう。「野党」みたいな仮面をかぶって本来ガス抜きとして配置されているはずなのに、それがわかっていない。見る者が見たら、ある意味役割をはきちがえているのだが、よくいえば正直でもある。わかりやすい。それで酒本は無所属で当面活動するといっているが、下関の連合関係者のなかでは国民民主党に移るのだともっぱらだ。連合が抱えるそうだ。それで、下関市議会には酒本の子息を擁立するという話もひそひそと語られている。立憲民主党の秋山にぶつけるのだろう。下関ではついに立憲民主党の壊滅ということになる。反安倍みたいな仮面をかぶったいかがわしい勢力もいるなかで、案外すっきりするのかもしれない。

 

 B 欺瞞する者がいなくなるという点ではわかりやすい。他の政治勢力がポストを奪うだけだ。れいわ新選組なんかが市議会にも複数送り込めばいいし、県議会にも挑めばいい。「オマエらどけ!」といって「ゆ党」を押しのけて躍り出るチャンスにはなり得る。有権者にとって自民党以外の選択肢は求められるわけで、受け皿は必要になる。俯瞰(ふかん)してみるとそういう流れになっていく。必然的に。

 

 C 立憲民主党が野党としてもパッとしないなかで国民民主党推しが中央政界でもトレンドになっているし、いまどきは玉木がメディアに持ち上げられて“国民民主党人気”が意図的に煽られている。自民党が参院選で惨敗することが目に見えているなかで、与党とゆ党の大連立で乗り切るという線がありありだ。もともとは維新をメディアがやんやと持て囃して橋下徹が暴れていたが、これが賞味期限切れになったなかで国民民主党が次なる駒なのだろう。不倫野郎が芸能人ほど叩かれることもなく党の代表に居座り続け、二重基準もいいところだ。表舞台に出られなくなった芸能人の不倫野郎たちも怒っていいのではないか。「なんでオレたちだけ叩かれて、干されて、タマキンだけは許されるんだよ!」と――。

 

  あとこれは余談なのだが、立憲民主党を離党した酒本が豊前田で経営しているライブハウスで、前田晋太郎や市幹部職員たちによるライブを開催したりしている。以前から対立などしていないし、仲良くやっているわけだ。前田晋太郎についてはライブばかりやっている印象もあるが、中小企業の社長たちのなかでも「ライブ見に来てよ!」とチケットを買わされるのについて「あいつは遊び人か」という声も強い。

 

県議長ポスト巡る暗闘 史上最長の柳居体制

 

柳居俊学・山口県議会議長

  いわゆる野党の側の変化が山口県にも反映して顕在化しているが、自民党はどうかだ。県議会では5月半ばに県議会議長選がおこなわれ、柳居俊学の続投が決まった。最大会派の自民党のみならず野党側も取り込んで、41票(47人の議員のうち)を得ての選出となった。5期連続7回目で、県政史上最長の議長の誕生だ。「センチュリーに乗った柳居様」といわれ、いまやどこへ行くにもセンチュリーに乗ってあらわれる。下関で先日、林芳正の国政報告会が開かれたさいにもセンチュリーで乗り付けていた。

 

 この県議会議長選を巡って、県議会の自民党会派内で水面下では一悶着あったことを中国新聞がすっぱ抜いたが、関係者に聞いたところ、「反乱」というほどの大げさなものではなく、マッチが燃えた程度の動きが瞬殺で吹き消されただけみたいでもある。関係者いわく、さすがに柳居俊学の続投はないだろうという雰囲気のなかで、防府の島田教明(元県議会議長・島田明の子息)、美祢の中本喜弘(元河村建夫秘書、安倍事務所の配川、鮎川両秘書と同郷)、下関の平岡望(元安倍事務所秘書)、萩の笹村直也、長門の笠本俊也、光の河野亨(元自民党県連会長の子息)の6人が会合を持ち、柳居はもう長いので別の候補を出そうという動きを見せたそうだ。議長になりたかったのは島田と河野で、あとのメンバーは柳居でなければ誰でもいいので2人で話し合って決めてくれといい、島田と河野が話し合った結果、候補は島田になった。

 

 その6人組の動きを知った下関の西本健治郎が仲間に入れてくれと加わろうとしたが、西本の世代・同期は柳居から「柳居を応援する」という血判状を書かされているとかで、後々大変なことになるということで「立場が悪くなるから入るな」と蹴ったらしい。ところが、「それでも僕は島田さんを応援したいから入れてくれ」と頼み込んで加わり、6人組の一連の企ては西本から岩国の畑原勇太(柳居俊学の前の県議会議長の子息)を通じてみな柳居に筒抜けとなり、つぶされたそうだ。西本が内偵のような役割を果たし、6人組からはさぞ恨まれているのだろう。しかし、柳居からしたら西本・畑原のおかげで寝首をかかれずに済んだのだ。

 

 畑原は県議会の議運委員長のポストを得て取り立てられた。島田と切り離す意味なのか、河野は副議長ポストにおさまった。もっとも内偵役として大活躍した西本だが、6人組から恨まれるというリスクまでおかしたわけだから、これは委員長ポストをもらったくらいでは割にあわず、前田晋太郎の後の下関市長ポストでも狙っているのではないか? と話題にされている。県連の推薦は柳居一強体制のもとでなんなく下りるだろうし、前田晋太郎も次は出ないことを周囲に公言している。下関での影響力拡大をはかろうとしている柳居にしても、西本市長体制はもってこいなのかもしれない。

 

 安倍派が「柳居に手を突っ込ませるな!」と暗闘をくり広げてきたが、安倍晋三亡き後の撤退戦はこのように動いている。県知事も安倍晋三が引っ張ってきた村岡が評判が悪く柳居のいいなりだが、これを切って柳井市選出の有近眞知子(県議)を出そうとしているそうだ。もう、柳居の思うがままなのだろう。

 

 C 安倍晋三が中央政界でのし上がっていく過程で、山口県政界では安倍派の天下が続いていたが、すっかり柳居&林に権力が移行している。県選出代議士といっても林芳正がもっとも経験が長く、あとは世襲の若造とかばっかりだ。岸信千世が安倍・岸派の血を継ぐ継承者としているものの、これだって柳居に怒鳴られながら選挙しているような有様だ。自民党県連すなわち柳居天皇には逆らえない関係になっている。

 

 とはいえ、萩市長選でも長門市長選でも自民党県連が乗り込むたびに返り討ちにされ、柳居の思うがままにはならないのも現実だ。「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」ではないが、下関市長選ではさすがに日和ったのか、前田晋太郎が林派に頭を下げたことをもってこれを取り込み、柳居&林タッグで別候補を擁立するということはしなかった。新選挙区の衆院選もあったし、安倍派の牙城を刺激しないほうが得策とみたのだろう。それで「前田君は3期まで」が前提なのか、本人も今期で最後なのだと吹聴している。そのかわり「好きにやらせてもらう」のだと。

 

市幹部交え県議囲む会 「好きにやらせて貰う」

 

  「好きにやらせてもらう」とは、いったい何を好きにやろうとしているのかだ。ちょっと驚くのだが、5月20日に平岡望県議を囲む会みたいなものが開かれ、そこに下関市長の前田晋太郎を筆頭に市幹部職員が総勢15名も呼ばれて会食したそうだ。場所はみもすそ川別館。18時から20時半。会費は飲み放題で1人1万2100円。二次会は唐戸の徳川に移動してやっている。

 

 参加した市職員としては、水道局の伊南局長、建設部の伊藤部長、部次長、道路河川建設課長、公共建築課長、道路河川管理課長、住宅政策課長、都市整備部の即席部長、部次長、市街地開発課長、公園緑地課長、都市計画課長、建築指導課長、港湾局の経営課長、江崎調整監といった面々だ。建設部、都市整備部の部長、課長連中が軒並み集められている。市職員からすると恐らく行きたくないと思っている人も多いのだろうが、行かざるを得ない圧もあるのだろう。

 

 市幹部職員がぞろぞろと勢揃いして、一人の県議を囲んでおもてなしをするなどあまり聞いたことがないが、こうやって市政は動いているんだと思わせる。伊南水道局長の開会挨拶からはじまり、「主賓」の平岡望が挨拶し、伊藤建設部長が乾杯の音頭をとって歓談に移ったそうだ。

 

 平岡望は「伊南水道局長と江崎調整監の声かけで招いていただいた。市長を支える幹部が多く集まっていて感謝する。引き続き、弟分の市長を支えてほしい」とのことで、歓談のなかでは柳居が気に入らないのか、センチュリーの問題は「周防大島の坊主のわがまま」なのだとか、上京したさいにもセンチュリーを頼んでいるとか、はたまた県議会や委員会は茶番で、執行部がすべて原稿を作って議員はそれを読むだけ、特に経験の浅い議員、下関では西本などはつまらない奴で、寝ている議員もいるし、質問は原稿の棒読みだし、中学生でも県議ができるといわれているのだとか、県の部長人事は県議が決めるもので、議長のお気に入りの女性が観光部長をしているのだとか、「へぇ~、そうなんだ」と思わせることも話していたそうだ。

 

 そして後から到着した前田晋太郎が、平岡県議とは弟分・兄貴分の関係だ。私は甘やかされているから何でも聞いてくれるし、何とかしてくれる。頼りになる兄貴分。3期目も新体制でスタートした。今日は重要な顔ぶれに集まってもらった。次(市長選)は考えていない。だから好き放題させてもらう。何も怖いものはない。二拠点や火の山だって駅前だって。特に駅前は当選後ではなく、選挙前に公言して良かった。山銀やエストラストはやる気があって機運の高まりも感じる。反面、商店会には「票を失うことになる」と脅されたが全然たいしたことはない。市議相手でも何でも答える自信がある。何も怖くないが、命や自殺に関する発言には気をつけている。以前の「お悔やみトリップ」は言い過ぎた。当時は北九州市長とも盛り上がっていたから、その場の勢いで言ってしまった。市議もたいしたことはない。このままだと夏の参院選で自民党は大敗するだろう。だから市議も慌てている。今の市議はみなたいしたことはない――等々、要旨話していたそうだ。市長自身は次の会食が入っていたようで30分ほど歓談して豊前田に移動していったという。

 

  「好きにやらせてもらう」「怖いものはなにもない」あたりが気になるフレーズなのだが、いったい何を好きにやらせてもらうつもりなのかだ。そして、建設部、都市整備部の面々と平岡望がつながって、いったい何をしようというのだろうか? という疑問だ。参加した市職員たちは口をつむっているが、特定の県議と市幹部職員がこうして私的につながり、親分子分のような関係になっていくのだろう。そして、何年か前にもどこかの電気関係の安倍派企業が公共入札で連続して落札率99%で仕事をとって「神ってる!」と驚かれたようなことが起きるのだろうか。あんなものは予定価格を事前に教えてもらってないとできるような芸当ではない。

 

 いずれにしても市幹部職員を15人も招集するなど異例だ。しかも市長の兄貴分ということで、市職員からするとものは言えない。なにか案件をねじ込んできたらいいなりになるというのだろうか。健全な距離感を保つのは市職員としては予防措置でもあるが、こうしてズブズブとつながると「それはおかしい」と思っても抗えない関係に絡めとられてしまうのがオチだ。携帯電話の番号まで交換させられて…。

 

 下関市顧問のK氏が役所内の暗闘に敗れ去ったいま、「入札情報を聞きたがってんじゃないの?」なんて思ってしまうではないか。だいたい県議会議員なんだから県庁、県政を舞台に働けばいいのに、そっちでは柳居俊学に睨まれて、安倍派の最後の牙城となった下関市政に食い込もうというのだろうか。そうなのだとしたら悲哀も感じる。

 

  「好きにやらせてもらう」の中身なんだが、確かに好き放題にやっている。トップに君臨していた安倍晋三がいなくなって、そして安倍事務所がなくなって、抑えが効かない状態に拍車がかかっているのだろう。ある意味で壺の蓋というか、「悪さをしたら安倍先生に迷惑がかかる」「配川さんに叱られる」とかの重しになっていたのが、壺の蓋が吹っ飛んで溢れ出ているかのようだ。安倍派の重鎮たちも引退していくなかで、明らかに統率はとれていないし、現に下関市長選挙でも1万票以上も減らした。実は牙城は溶解しているのに「これからはオレたちの時代だ」みたいになっているのだとしたら、願望と現実は食い違っていくほかない。勘違いした人間は足下をすくわれるものだ。

 

 市長界隈がライブでドンチャンくり返しているのも、なんだかたがが外れた状態を物語っているようにも見えて仕方ない。

 

固定資産税減免疑惑も 安倍派特定企業に

 

  「好き放題している」の一例なのだが、市長選が間近に迫った昨年12月ごろから、前田市長が特定企業に固定資産税の減免をしようとしているという問題が囁かれ始めた。相手方は安倍元首相の有力な後援者だったことで知られる港湾建設業者のK社という話だ。今まで「機械設備」という扱いで固定資産税が課税されていた作業船に「船舶特例」を適用するようにという同社の要望に前田市長が応え、実際に令和7年度の課税で特例が適用されたという。減免額は数千万円になるともいわれており、それだけ市税収入が減少することを意味する。

 

 この物価高の折り、同じ条件の作業船全体に特例を適用するようにしたなら理解できるが、1社だけ、しかも市長選直前のタイミングとなると、税金を使った買収とみなしてもおかしくない案件だ。

 

 そこで、情報公開請求をしてみると、市長選直前の今年2月12日付で本当にその決定がなされていた。もちろん出てきた資料の多くは黒塗りだ。それには、「非自航型作業船については、船舶として登録されておらず推進器を有しないことより機械設備として課税していた。このたび●●●●(社名と思われる)より●●●●(該当する作業船名と思われる)について、内航船舶特例の適用●●●●確認したところ、推進機能を有していることが確認できたため、●●●●について内航船舶の特例(特例率2分の1)を適用いたしたい」と書かれている。

 

 要するに、今まで「船舶」でないから基準通り固定資産税を課税していたが、「推進機能」を確認できたから「船舶」として認めるというものだ。しかも、要望のあった一企業の作業船についてのみ認めるという。こうした形の決裁は異例だ。

 

K社への船舶特例の適用を決定した決裁文書(情報公開請求で下関市が開示)

 C 「非自航式の推進機能がついた作業船」というのも矛盾しているので、現場を知る人たちに聞いてみたが、やっぱりなかなか想像がつかないようだ。考えられるとすれば、サイドスラスターという設備がついている作業船だという。これは流されたときにプロペラで位置を保持したり、工事区域内の移動くらいはできるものの、「それが推進機能かといわれると、どうだろうか…」と首をかしげていた。サイドスラスターがついていても航行できるわけではなく、作業船と船舶には、リヤカーと車くらいの違いがあるそうだ。それを「船舶」として扱うには無理があるというのが概ねの評価だ。

 

 現物を見たわけではないから、はっきりしたことはいえないが、決裁文書にも「動力がついている」とは書かれていないので、エンジンを備えた自航式の作業船ではない可能性が濃厚だ。

 

  海底を浚渫したり岸壁をつくったりなどの海洋工事に使う作業船はよく目にすると思うが、四角い鉄の塊にクレーンがついていたりする、いわゆる台船と呼ばれるものだ。近年、エンジンを備え、自力航行できる大型の作業船も登場してはいるが、海の仕事をする人たちに聞いてみると、下関近辺では今でもほとんどが「非自航式」だという。別の小型動力船で錨を打ち、ウインチで巻くことで、あの重たい鉄の塊が移動していくのだそうだ。長距離を移動するときは別の動力船で引っ張ってもらう。

 

 素人感覚で、エンジンがついていたら便利ではないかと思うが、業者の多くが「非自航式」を使っているのには理由があるそうだ。エンジンをつけて「船」にすると、船舶法などいろいろな法令が関係するようになり、資格を持った乗組員が必要になったり、定期的な船舶検査が必要になったりするから、ややこしいし全体のコストが上がる。「非自航式」の作業船はあくまで「浮遊物」という扱いだから、該当法令がなく、固定資産税くらいしかコストがかからないし、資格などの面でも制限が少ないというメリットがあるから、「非自航式」が主流なのだという話だった。「浮遊物」だから、船のように総トン数という概念もない。

 

 A 「船舶特例」では、外航船なら6分の1、内航船なら2分の1というように、対象になる船舶の種類と減免率を定めている。内航船でも、遊覧船や遊漁船、ボートレース用のモーターボートは特例の対象外だ。作業船についていえば、今まで国交省などが示している資料を見ても、「自己推進能力を持たない浚渫船、砂利採取船等は本制度でいう『船舶』には該当せず、一般の償却資産(機械設備)として取り扱われる」となっている。だからこれまで「機械設備」として課税されてきたのだ。下関市は今まで「機械設備」だったものを「船舶」にして減税したのだから、判断としては大きな転換だ。

 

 その理由について資産税課に尋ねると、昨年10月に国交省が業界団体に宛てて出した通知があるという説明だった。情報公開請求すると一緒にこの通知も出てきたのだが、業界団体から「特例対象かどうか必ずしも明らかではない」という意見を受けて各業界団体に宛てて出された通知だった。基本的にはこれまでの取り扱いを再度確認する内容だが、そのなかで「(非自航式作業船は)特例対象外になっている船舶(遊覧船や遊漁船、モーターボート)には該当しない」という認識が示されていた。市資産税課の説明によると、それに加えて、今年1月に出た補足通知が「船として判断できるものは特例対象にできるという通知だったので、それにもとづいて個別に判断した」という。

 

 B 確かに、1月の補足通知には「固定資産税の課税客体として船舶に該当するか、機械設備に該当するかについて個別に判断するため、個別の事例については、課税庁である市町村にご相談ください」と書かれている。しかし一方で、「10月9日付け通知は、非自航作業船のこれまでの取扱いを変更するものではございません」とも明記されている。基本的にはこれまで通り、非自航式作業船は「機械設備」という扱いだ。

 

 総務省の担当課にも確認してみたが、やはり今までの取り扱いを変更するものではなく、改めて周知したものだという。総務省も現物を見るわけではないから、実態に即して市町村で判断してくださいという意味合いの通知だということだった。この通知をもって判断を変更するというのもちょっと無理があるように見える。

 

  ポイントは「推進機能を持っているかどうか」だが、下関市は現物を見に行って、動くところを確認できたから「船舶」とみなせると判断したといっている。しかし一方で、どの程度動いたら「船舶」とみなすという基準はとくにないという。「船舶とはなにか」という問題にもなってくるが、市の説明を聞く限り、市の担当課が「船舶だ」といえば船舶になるという、さじ加減でどうにでもなるような話にも聞こえる。

 

 しかし、現場を知る人たちの話を聞くと、「船舶」なら船舶なりの手続きが必要だ。内航船舶として特例を受けるなら、添付書類として動力船舶登録票や船舶国籍証書、船舶検査証書など、一緒に提出しないといけない書類もあるはずだが、情報公開請求で出てきた資料にはそういった書類は見当たらない。もし、固定資産税の面だけは「船舶」にして、それ以外の場面では「浮遊物」という扱いにするなら、真面目に納税している人からするとちょっと納得がいかないと思う。他社の台船は固定資産税の減免措置など受けていないのだ。安倍派企業のK社だけならおおいに問題がある。

 

海洋工事に使われる作業台船(下関市)

市長決裁でなぜやらぬ 明らかな「前田案件」

 

  K社への固定資産税の特例適用は「前田案件」といわれている。K社からの要望に対して、前田市長が「自分の責任でやる」といったとか、「下関が率先してやったらいいじゃないか」といったのだとか、いろいろと話題にされている。しかし、それを決定した決裁文書を見ると、資産税課長決裁止まりだ。もし前田市長が担当課には「自分が責任を持つ」とかいっておいて、自分だけ逃げ道をつくっているなら、トップとしてはちょっと卑怯だし、やるなら腹をくくって市長決裁でなぜやらないのかだ。

 

 課税額を決定する期限である3月31日には、K社が市役所に来て「例の件、よろしく頼むな」などといって去っていったという目撃情報もある。こんな歪なことがまかり通っているなら、職員が病気になっていくのも当然だ。というより、この案件は警察も調査すべきではないかと思う。以前、火の山のトルコチューリップ園を巡って山口県警が公園緑地課にガサ入れに入ったことがあったが、資産税課をガサ入れしたらいい。決裁文書ものり弁ではなく具体名が記されているものを手に入れるべきだし、この案件が公正公平な税の取り扱いなのかどうか、他社の台船は減免措置を受けていないなかで、果たしてK社だけが適用されている措置が妥当なものなのか、それとも汚職と見なすのか、取り調べをやるべきだろう。こんなことをするのに財政部長や次長あたりも知らないわけがないし、課長や関係した職員にも事情を聞いて真相を明らかにしないといけない。

 

 B 一般の市民は税金を滞納したら差し押さえの嵐なのに、一方で特定の支持者だけが数千万単位で減免措置を受けるなどどうかしている。というより、犯罪だ。本来なら縄がかかっておかしくない案件でもある。「周防大島の坊主」も山口県警を動かすべきではないか。「好きにやらせてもらう」をはき違えてこんなことばかりするなら、行政は歪められるし、そのもとで働く市職員はますます退職したり休職する者が増える。やってられないだろう。端的には安倍晋三並みの私物化が横行しているということだ。しかも抑えが効かなくなって、任期最後に「好きにやらせてもらう」というのだ。

 

 有力な支持者だけ固定資産税を減免するというが、他の港湾業者も怒っていい。そして、「うちも減免してください」と頼みに行くべきだろうし、すべての業者の台船を減免しないと筋が通らない。市税収入は激減するが、平等でないのがいけない。

 

  好き放題するならしたらいいが、きっちりチェックして下関市民に実情を生々しく伝えることが必要だ。K社の案件については捜査機関が早急に動くべきだ。

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