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「#広がれありがとうの輪」の偽善

 新型コロナウイルスの感染予防の徹底と、患者の治療にあたる医療従事者をはじめとした人々への差別・偏見をなくすためとして、厚生労働省が12月4日から対話型情報発信プロジェクト「♯広がれありがとうの輪」を開始したという。それでコロナの感染拡大が防止できる訳でもないのだが、一方でGoToキャンペーンもやりながら、またコロナ禍においても引き続き病床削減を実行しながら、そのツケによって疲労困憊している医療従事者にSNSで「ありがとう」を発信せよというのである。


 それで仮に何万人、何十万人が「ありがとう」とつぶやき、「ありがとう」のインフレ状態になったところで事態が改善されるわけでもなく、気休めにしかならないのに、いったい何の意味があるというのだろうか。むしろ医療従事者に対しては、GoToのような感染促進政策をやった政府の「ごめんなさい」が先だと思うのである。そして、口の先で「ありがとう」を言わせる前にいまもっとも国がやらなければならないのは、医療崩壊の瀬戸際に立たされている現場への支援であり、日本全国の多くの病院が赤字経営に追い込まれ、ボーナスカットまで起こっているなかで、医療従事者への危険手当なり病院経営そのものへの支援なり、国内の医療体制が機能するよう大胆に補助金を注ぎ込んで支援することだ。


 それは医療機関や従事者への補償というだけでなく、回り回って国民の生命と安全を守るためにもっとも必要なことだと思う。


 通常の疾患患者を抱えながら、もう片側ではコロナ感染患者にも向き合わなければならない事態に直面し、医療関係者の緊張感は否が応でも高まっている。精神的、肉体的な疲労によって医師や看護師の退職も出始めるなど、困難な状況が各地で露呈している。ICU(集中治療室)の病床が各都道府県で何床あり、その使用率が何%で逼迫している等の情報が連日のように飛び交い、感染拡大地域での実質的な医療崩壊もはじまっているのが現実だ。


 医師曰く、ICUといっても3交代の専属医師が複数人体制でついている機関は少なく、一般の診療科と兼務で医師が診ている「なんちゃってICU」が大半なのだという。知り合いが勤めている総合病院では最近になってECMO(人工心肺装置)の取り扱い研修に2名の医師が出かけたというが、2人ではECMOを動かせず、仮に病院に配備されたとしても人的要員が足りなければ宝の持ち腐れにもなりかねない。重症患者を抱えればつきっきりとなる医師、看護師が増え、癌患者はじめとした他の疾患を抱える患者の手術が先延ばしになったり、コロナ患者以外にも影響は及び、長年にわたって余裕のない医療体制へと改革を進めてきた弊害がいっきに跳ね返っているのである。


 医師会や専門家の悲鳴にも似た叫びがこだまし、政府は何をやってんだ!の声が高まるなかでの「♯広がれありがとうの輪」――。GoToキャンペーンに3000億円とか、アベノマスク2枚に500億円とかのカネを注ぐくらいなら、最後の砦となっている医療機関・医療従事者に全額注ぐほうが社会全体にとってははるかに有益だ。それが「ありがとう」の対価であり、生命の守り人である医療従事者への感謝の表し方だと思う。「ごめんね、ごめんねー」と言われて腹が立つのと同じように、「ありがとう」のインフレもまた嘘臭く、問題はそんなことではないのである。


吉田充春    

 

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