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改定種苗法を強行可決・成立 学術会議や「桜」騒動の陰で 審議なしのスピード採決

 種苗法改定案が2日の参議院本会議で可決成立した。日本学術会議や「桜をみる会」問題の陰にかくれてわずか15分のあいだに5本の法案を採決したなかの一つが種苗法改定案で、ほぼ審議なしで強行採決をおこなった。地方議会からの改定案見直しや慎重な審議を求める意見書が75件も上がっていたが、その懸念が払拭されることのないまま押し通された形だ。22年ぶりの法改定であり、世界に例のない自家増殖・採種の一律禁止という国の食料安全保障を揺るがす重大問題でありながら、生産者の声や国民の利益に真っ向から対抗する強行可決となった。


 種苗法改定案は11月19日に衆議院で強行可決された。地方公聴会などを開いて農業者の生の声を直接聞くこともせず、審議時間も約7時間という実質審議なしで衆院を通過し、24日に参議院に送られ、参議院の農林水産委員会審議は26日のみで12月1日の同委員会で可決し、2日の本会議で可決成立という超スピード日程だった。


 今臨時国会の開会前から野党は日本学術会議の任命拒否問題を騒ぎ、種苗法改定案の問題点から目をそらす役割を果たしてきたことも、超高速の法案成立に一役買ったといえる。野党のなかでは国民民主党や日本維新の会が改定案賛成に回った。


 今国会審議は「改定案成立ありき」で進めたことにより、さまざまな欠陥が明らかになっている。日本の種子(たね)を守る会は参議院での審議入りの前に、「法案説明でなされた農水省の説明に重大な疑義がある」として以下の要旨の意見をあげた。


 「農水省は種苗法改正の対象となる登録品種の割合は1割程度に過ぎないから、農家には大きな影響は与えないと説明しているが、稲の場合には2018年の品種検査実績においては生産量の4割以上、品種数では64%が登録品種となっている。……事実に基づかないデータを元に法改正の影響が説明され、それを修正することなく、採決するとなれば、これは国会審議の中身が問われることにならざるをえない。実際の正しいデータを元に審議をやり直す必要がある」とし、農水省に正しいデータの提出を求めて審議することを要望している。

 参議院はこの意見を無視して採決を強行した。


 また、種苗法改定案には10項目におよぶ付帯決議がついている。付帯決議は法律ではないため法的拘束力はないが、ほとんど審議せずに強行採決したため、農家や国民への配慮に不足がある欠陥法案であることが付帯決議の多さにもあらわれている。


 付帯決議は11月17日の衆院農水委員会で「種苗法改正案」可決後に自由民主党、立憲民主党・社民・無所属、公明党、維新の会、国民民主党の5派共同提案で動議が出され、賛成多数で可決された。同決議は、「政府は本法の施行にあたり、左記事項の実現に万全を期すべきである」とし以下の10項目(要旨)をあげている。


 ①育成者権の強化が、農業者による登録品種の利用に支障を来したり、農産物生産を停滞させ食料の安定供給を脅かしたりしないよう、種苗が適正価格で安定的に供給されることを旨として施策を講じること。


 ②稲、麦類及び大豆の種苗については、都道府県と連携して安定供給を確保するものとし、各都道府県が地域の実情に応じて果たすベき役割を主体的に判断し、品種の開発、種子の生産・供給体制が整備されるよう、適切な助言を行うこと。


 ③各都道府県が都道府県内における稲、麦類及び大豆の種子の生産や供給の状況を的確に把握し、必要な措置を講じることができるよう、環境整備を図ること。


 ④稲、麦類及び大豆については、品種の純度が完全で優良な種子の供給を確保するため、原原種の採種ほ場では育成者が適切な管理の下で生産した種子又は系統別に保存されている原原種を使用するよう指導すること。


 ⑤種苗法に基づき都道府県が行う稲、麦類及び大豆の種子に関する業務に要する経費については、従前と同様に地方交付税措置を講じること。


 ⑥国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、都道府県等の試験研究機関が育成した登録品種に関する通常利用権の許諾については、その手続等が有機農業をはじめ農業者の負担になることのないよう、適切に運用する。


 ⑦農業者が意図せずに、育成者権者の許諾を得ずに登録品種の自家増殖を行い、不利益を被ることを防止するため、農業者に対して、制度見直しの内容について丁寧な説明を行うこと。


 ⑧公的試験研究機関が民間事業者に種苗の生産に関する知見を提供する場合においては、我が国の貴重な知的財産である技術や品種の海外や外国企業への流出を防止するため、適切な契約を締結する等十分留意するよう指導すること。


 ⑨登録品種の種苗の海外流出の防止に当たっては、ホームセンター等の販売員等が意図せずに登録品種の種苗を外国人に販売すること等により不利益を被ることを防止するため、ホームセン夕ー等に対して、制度見直しの内容について丁寧な説明を行う。


 ⑩新品種の開発は、利用者である農業者の所得や生産性の向上、地域農業の振興につながるベきものであることに鑑み、公的試験研究機関による品種開発、及び在来品種の収集・保全を促進すること。また、その着実な実施を確保するため、公的試験研究機関に対し十分な財政支援を行うこと。


 わざわざこうした内容を付帯決議として付け加えたことは、改定種苗法にこれらに反し、農業者や国民にとって欠陥だらけの法律であるからにほかならない。にもかかわらず成立を急いだ背後には、コロナ禍のどさくさというタイミングを窺う姑息な意図とともに、種子の独占を狙う多国籍企業の要請があることが指摘されている。

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