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『実録 頭取交替』に隠されたヒント

 第一生命保険の西日本マーケット統括部徳山分室(周南市)に勤務していた元営業職員女性(89歳・今年7月に懲戒解雇)が約19億円のお金を顧客からだまし取っていたことが明るみになり、山口県の政財界がざわついている。無理もない--。山口県政財界の闇の部分に光が当たろうとしているからで、「女帝、ついにお縄か!」「某銀行は無関係でいられるのか?」と事件の背景についてヒソヒソと話題にしているのである。なかには、山口銀行の元取締役が書いたフィクションなのかノンフィクションなのかわからない著書『実録 頭取交替』を本棚から引っ張り出してきて、登場人物である某銀行の頭取・甲羅万蔵(仮名)と、その力によって銀行内に影響力を持ち、トップセールスマンとなった生命保険会社の山上正代(仮名)との関係に思いをいたし、「事実は小説よりも奇なり」なんて言っている人までいる。

 

 何年か前に『実録 頭取交替』が出版された際、地元書店ではあっという間に在庫が売り切れるほど話題となった。銀行内クーデターによって排除されたT元頭取の派閥の取締役が『実録』なんて銘打って発売するものだから、地元銀行員たちはドラマ半沢直樹を観るくらいハラハラドキドキしてページをめくり、「これって、フィクションを騙ったノンフィクションじゃないか」などと囁きあっていた。当時、登場人物たちの本名を記した一覧メモまで出回り、小説のなかで出てくる銀行御用達の「クラブ果林」は豊前田に実在する「クラブともしび」であるとか、労組上がり(歴史的に某銀行では労組幹部が取締役に出世する)の取締役はアイツだとか、細かなディティールまで深掘りしていたものだ。

 

 小説によると甲羅万蔵が銀行のなかで「天皇」といわれるほど実権を握って恐れられ、その女として銀行内で認知されていた山上正代には、支店長たちも頭が上がらないほどだったという。そして、某銀行とはまるで別会社にもかかわらず、某生命保険会社の保険加入が出世にも響くほどの影響力を持ち、せっせと保険加入に勤しんでいた銀行員たちの様子が描かれている。県内を代表する地銀であり、その傘下の銀行員たちがみな○○生命に加入するだけでも、生命保険会社としては丸儲けである。そうして山上正代は保険会社でも特別室を与えられるほど厚遇される存在となった。要するに、小説曰く「頭取の女としてのし上がった山上正代」というのである。そして、銀行のドンこと「○○天皇」には代議士どもも頭が上がらないほど、歴史的には世話になっているのである。

 

 さて、フィクションの世界から離れてノンフィクションの世界に戻ってみると、第一生命は元営業職員が架空の金融取引を複数の顧客に持ちかけて集金し、少なくとも21人から19億円を集めていたことを明らかにし、7月に懲戒解雇したうえで周南署に詐欺容疑で刑事告発した。そして金融庁は同社に全容解明などを求め、保険業法に基づく報告徴求命令を12日に出すなど、前例のない巨額詐欺事件として注目を浴びている。

 

 被害女性が訴状で明らかにしているところによると、元社員(89歳)から「私のようなトップセールスマンだけが持つことが許される特別枠口座ならもっと高い金利で預かることができる」などと何度も連絡を受けて、母親の死亡保険金である5000万円を寄託したが、弁済期日を過ぎても支払われず、第一生命に問い合わせたところ、特別枠なるものはないことが説明され、だまし取られたのだという。21人から19億--それは単純計算しても1人1億円近く持っている人たちが群がっていたことを意味し、それ事態なんだか別世界があるものだと驚嘆させられる。89歳の元営業職員に、それだけの特権があると熟知していた人たちがいたからこその被害にも見えるのである。

 

 『実録 頭取交替』に登場する「山上正代」の正体こそ、今回19億円の詐取が疑われている第一生命の「正下文子」さんなのではないかと感じている人も少なくない。今回、刑事告発されたのは正下文子さんなのである。当時関係者のなかで出回っていた実名メモを見てみると、その本名とともに、所属企業「第一生命」とはっきり書いてある。武蔵坊五郎 

 

 第一生命は、正下被疑者がだまし取った総額は「約19億円」で「1人あたりの被害額は数百万~2億8千万円」、詐欺行為をはたらいていた期間は「約10年」と発表していたが、その後、被害状況に誤りがあり、顧客からだましとられた金額は4億2000万円だったとされている。

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