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映画『タネは誰のもの』が完成 種苗法改定の意味現場で探る

 TPPに反対し日本のタネと農業を守る活動を続けている山田正彦氏(元農林水産大臣)らが作製を進めてきた映画『タネは誰のもの』(企画・一般社団法人心土不二/監督・原村政樹/プロデューサー・山田正彦/65分)がこのたび完成した。今月31日(土)に完成披露上映会が日比谷コンベンションホール(日比谷図書文化館B1)で開催される予定のほか、すでに全国約10カ所での上映が決まっている。

 

 この映画は、今年6月に国会成立が見送られ、継続審議となった種苗法改定の動きに対して賛否が渦巻くなか、自家採種・自家増殖している農家と、種苗育成農家の双方の声を伝えるため、北海道から沖縄まで、さまざまな農業の現場を取材し、種苗法改定案が日本の農業を深刻な危機に陥れる可能性を、専門家の分析も含め農業の現場から探った作品だ。

 

 2018年4月、主要農作物種子法が廃止された。国民の食糧確保に不可欠であるコメ、麦、大豆の優良な種子を公共財として守っていたこの法律が、「民間の品種開発意欲を阻害している」というのが理由だった。そして農水省は「みつひかり」など民間の品種を奨励して回った。その背景にあるのは、その前年に施行された農業競争力強化支援法だ。この法律は八条四項で、これらの公的機関が長年蓄積してきた育種に関する知見の民間への提供を促進することをうたっている。

 

 これに対し、地方自治体は種子条例を制定し、コメ作りを守ろうと動き出した。ところが、それに追い打ちをかけるように種苗法の改定が動き始めた。

 

 映画では、その動きを追いながら、種子島のサトウキビ農家や北海道の大規模稲作農家、埼玉県のサツマイモ農家、有機栽培農家など、多様な農業現場にカメラを向け、日本各地で今もさまざまな品種の自家増殖がおこなわれ、農業・食を支えていることを伝えている。消費者がなかなか目にすることのできない農家の営みは新鮮だ。

 

 「農家の土性骨は一種、二肥、三作り。買い苗でどんな苗が来るかわからないということは、畑をつくっても、技術を教わっても、三分の一不安を抱えているということだ」「タネは代々地域で、みんなで守ってきたもの。それを一企業が持つのはおかしい。種子はだれのものでもなく、みんなで共有して、みんなで守っていくものだと思う」。こうした農家の言葉から、自家増殖が経営的な問題にとどまらず、長年の積み重ねによってその土地にあったよりよい品種を生み出す基礎となっていることが伝わってくる。

 

 また今回の種苗法改定に賛成の立場をとるブドウの育種現場にも赴いて実情と思いに耳を傾け、育種家の経営の厳しさも明らかにしつつ、その解決方向も探ろうとしている。

 

 しかし、今回の改定はこうした小規模な育種家を守るためのものではない。映画のなかで、東京大学大学院(国際環境経済学)の鈴木宣弘教授は、「大きな流れのなかで一番もうけさせたい方は別にいる」と警鐘を鳴らす。グローバル種子企業が日本国内で大々的に活動するようになれば、むしろ一生懸命いい種をつくり供給している人たちは邪魔になってくるのだ、と。

 

 種苗法改定の背後にある巨大グローバル企業の影。急速に進むグローバル化のなかで、改めてタネの権利が問われている。タネは誰のものなのか。映画を通じて、種子法廃止と種苗法改定がどのように農業に影響を与えるのか、農水省のいう「海外流出を防止するため」というのは本当なのか、さまざまな疑問点が理解できる内容となっており、種苗法改定の国会審議が迫るなかで必見の作品となっている。

 

 11月1日(日)からオンライン配信・DVDの販売が開始される予定で、全国各地での自主上映会の開催を募集している。

 

 上映料金…1回につき1万円+税
 上映用素材…DVD、ブルーレイ、オンライン(Vimeo)
 宣伝材料…チラシ(A4サイズ両面カラー・裏面下3㌢㍍の余白あり)1枚6円(10枚単位)、ポスター(A2サイズ片面カラー)1枚300円(2枚以上)、プレス資料(A4サイズ・モノクロコピー)1部100円(すべて税込)

 

 ※独自でチラシやポスターを作成するための画像データは無償で提供
 ※上映素材、宣伝材料の配送手数料として一律500円が必要
 申し込み…申し込み書に必要事項を記入して、配給元のきろくびとまで。公式ホームページに準備までの詳しい流れが記載されている。

 

プロデューサーのことば

 

山田正彦 (元農林水産大臣) 種子法は2017年の国会で衆参両議院で僅か11時間足らずの審議で可決されてしまいました。当時、新聞テレビで殆ど報道されることがなかったのです。私はなんでこんな大事な問題を報道しないのだろうと悔しい思いでした。そのころ農政ジャーナリストの会でたまたま原村政樹映画監督にお会いしたのです。

 

 監督が『無音の叫び』『武蔵野』等の農業のドキュメンタリー番組を制作していることを知っていましたのでその場で思い付きで「タネの映画を作っていただけないか」と話したのがきっかけでした。

 

 種子法廃止に疑問を持っていた私たち仲間はそれからJA水戸の組合長八木岡努さんを会長に日本の種子(たね)を守る会を設立して、手分けして全国各地を回りました。この2年間の間に種子法に代わる種子条例が北海道から鹿児島県まで21の道県で成立したのです。そのころから原村監督にも時折原原種の栽培をしている農業試験場の現場などを撮影していただきました。

 

 そのうちに2018年5月日本農業新聞1面トップに「自家増殖原則禁止へ転換」との記事が掲載されました。そしてついに2020年には登録品種の自家増殖一律禁止の種苗法の改定法案を閣議決定、通常国会に同法案が上程されたのです。

 

 種苗法改定についてなんのことなのか殆どの人が何もわからないのが現状でした。種苗法の問題は難しくいくら説明してもなかなかわかってもらえないのです。当時はラウンドアップで末期癌になったとしてモンサントを訴えた学校の用務員ジョンソンさんに対する判決が言い渡されたのです。カリフォルニアの裁判所でモンサント社に320億円の支払いを命じました。このことは超トップニュースとして世界を震撼させましたが、日本だけは何故なのか報道されませんでした。私は原村監督と米国に飛んでジョンソンさんに最後のインタビューをしていたのです。

 

 それだけではありません。私は種苗法の問題点をわかっていただくには自家増殖の現場を農家の生の声を映像にするしかないと思い原村監督に相談しました。それからコメ、麦、大豆の自家採種の現場、イチゴ、サツマイモ、サトウキビ等の農業の現場を北海道から沖縄まで取材に回りました。種苗法改定に賛成の立場の育種家の林ブドウ研究所の林慎悟さんの話、衆議院会館での農水省との話し合いでの知財課長の話、東大教授鈴木宣弘教授にもインタビューできました。

 

 それに、山形県のさくらんぼ紅秀峰がオーストラリアへ流出したのを現行種苗法のもとで裁判で差し止めた水上進弁護士の話も映像にできたのです。

 

 通常国会では幸運にも柴崎コウさんの「きちんと議論がされて様々な観点から審議する必要のある課題かと感じました」と拙速な法改正に対して懸念を示した発言もあり先送りされました。

 

 そして安倍総理が辞任、菅内閣になりました。解散も取り沙汰され、私は種苗法改定の審議は来年の通常国会でなされるだろうと考えていましたら、なんと10月26日から始まる通常国会で審議されることになりました。

 

 大変心配です。原村監督にお願いして食の安全の映画『食の安全を守る人々』の前に『タネは誰のもの』のドキュメンタリー映画を完成させていただき、こうして試写会を開くことができるようになりました。

 

 さすがは原村監督です。日本各地の農業の里山の風景等美しい映像で、しかもそれぞれの立場の生の声を実に見事に映像に収めて編集しています。何よりも、人々が長い間その土地、気候にあったタネを受け継いできた事実をわずか30年の間に少しばかり改良したからとして、著作権のように育成者権利のものだとして金儲けの道具にしていいものかどうか考えさせられる映画です。

 

 国連総会でもタネは農民の権利として決議され、日本も批准した食料・農業植物遺伝資源条約でも自家採種は農民の権利とされているのです。

 

監督のことば

 

原村政樹監督 日本の農業と食料が巨大グローバル企業に脅かされる動きが急速に進んでいるのではないか、その実態を明らかにしようと、昨年2月から山田正彦プロデューサーと撮影をはじめました。モンサントの除草剤、ランドアップの主成分・グリホサートの大幅規制緩和、遺伝子組み換え食品不使用の表示不可への動き、ゲノム編集食品の表示無しの流通認可、種子法廃止とその背景にある農業競争力強化支援法、と、続けざまに安倍政権は企業(外資)による食の支配に道を開き続けてきました。そうした流れの中で、種苗法改定も持ち上がりました。しかし、その動きに関して、最近になるまで日本のマスコミの報道は殆どありませんでした。これほどの日本の農業と食の安全を左右する事態の進行が知らない内に忍び寄ってくることはとても怖いことだと感じたのです。しかも農水省の説明はなるほど、と納得してしまいそうな記述ばかりです。本当にそうなのか? 最初はわからないことだらけでしたが、撮影を進める内に、本当のことが見えてきました。

 

 私がこの映画を創ろうと考えたのは、種苗法改定についてネット上などで様々な意見が飛び交うようになっていたからです。賛否が鋭く対立していました。ざっくり言えば「タネの特許反対」と「育種家の権利を守れ」という真向からの対立です。「何か欠けている!」と私は感じました。双方の理屈はそれぞれあり、言い分はあるのですが、実際、タネや苗から作物を育てている農業の現場が見えてきません。理屈だけの論争に見えました。でも一番大切なのは農業の現場はどうなっているのかです。農家にとってタネや苗とどう向き合って作物を育てているのか、育種家はどんな思いで新品種を開発しているのか、そのことを知らないで論じあうのは不毛だと考えたのです。

 

 そこで北海道から種子島まで各地の農家を訪ね、それぞれの想いに耳を傾けました。すると取材した皆に共通することは、単に経済的利益のためではなく、タネという命の源と正面から向き合い、食を守るという使命感を持っていることでした。彼らの声の端々に、心打たれる深い言葉が沢山ありました。そこには私たち都会に暮らす現代人が忘れがちな確かな精神性がある、それは30数年、農業の現場を取材してきた私の確信でもありました。

 

 映画の中で東京大学の鈴木教授は「今回の動きの背景に多国籍アグリビジネスのタネの独占が潜んでいる」と答えてくださいました。つまりタネを金儲けの道具にするということです。それは私が映画で込めた農の精神性とは真逆の貧しくも卑しい心です。

 

 私たち人類はどうして存在しているのでしょうか 地球が誕生して46億年、生命が誕生して35億年、植物が陸上に上陸したのは4億7000万年前、それから農作物の祖先である被子植物が誕生したのが1億年前と言われています。途方もない時間の流れの中で生命は進化を遂げ、タネも現在に至っています。決して人間がタネを作ることはできません。品種改良も、その長い長い、途方もなく長い命の連鎖に少しだけ手を加えただけだと私は思っています。

 

 生命の営みに畏れと敬意を忘れてはならない、一部の巨大企業の利益のためにそれを売り渡してはならない、皆が共存できるように、もし種苗法を改定するなら、今は対立している農家と育種家の双方が納得できて、お互いが手を握り合えるような法律にしてほしいと願ってこの映画を完成させました。

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