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日本に軍事力動員迫る米国 イスラム国の人質事件  戦後の分岐点迎えた情勢

 「イスラム国」対応を巡って、資本主義各国が徒党を為して軍事行動を開始しようとしている。日本人2人の人質問題が騒がれていた20日、米大統領オバマは今後1年間の施政方針を示す一般教書演説をおこない、「中東で新たな地上戦に引きずり込まれる代わりに、このテロ組織を弱体化させ、最終的に壊滅させるために幅広い有志連合を率いていく」と宣言。米軍は地上戦に派遣しないが、「関係国との連携」を深めて「イスラム国」掃討にとりくむというもので、日本を含む「関係国」から地上軍を含めた軍事力を総動員する方向を示唆した。人質問題を抱えた日本が、先進各国、とりわけ米国が旗を振っている対「イスラム国」軍事行動に巻き込まれて肉弾として駆り出され、国土がテロの標的にさらされかねない情勢が現実味を帯びている。戦後社会の分かれ目というべき事態を迎えている。
 
 地上戦担う肉弾は他国に依存

 昨年から、「イスラム国」については米軍が中心になって空爆を実施してきた。フランス、オランダ、ベルギー、デンマーク、イギリス、オーストラリア、カナダなども戦闘機を派遣して空爆に参加し、中東ではサウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦といった国国が軍事行動を支援してきた。しかし、本格参戦というものではなかった。
 今年に入って新聞社襲撃事件が起きたのを契機にして、まずフランス政府が本格的に軍事行動に名乗りを上げ、主力空母「シャルル・ドゴール」をペルシャ湾に派遣。一九日から空爆を開始した。昨年、空爆に参加した国国でも国内テロが多発し、この際、一気呵成で有志連合を形成する雰囲気が高まっている。今年1月にパリで開催された「対イスラム国」を巡る国際会議には26カ国が参加し、「必要なあらゆる措置」をとって「イスラム国」とのたたかいを支援すると合意した。アメリカ政府はさらに一歩踏み込んで軍事行動をともにするよう呼びかけてきた。
 アメリカとしてはイラク国内だけでなく、反米色を鮮明にしているアサド政府率いるシリアを主戦場にしたがっており、反アサドを掲げる「イスラム国」がシリア国内に入り込めば入り込むほど、その火の粉がシリアにも飛び火する構図になっている。しかし自国では地上軍を送ることに反発が強く、財政的にも力を失っていることから、各国の動員をはかろうとしている。

 安倍中東外遊が引き金

 そんな最中に起こったのが日本人2人の人質事件である。2人が昨年から「イスラム国」に捕えられていたことは身代金要求などで日本政府は掌握していた。数カ月にわたって生かされていた状況から、「72時間以内に2億㌦(235億円)の身代金を払わなければ首をはねる」と突き出されるきっかけになったのが、安倍首相の中東外遊における振る舞いだった。ヨルダンやエジプト、イスラエルといったアメリカとともに対「イスラム国」包囲網を形成している国国を渡り歩き、「イスラム国とたたかう周辺各国に、総額で2億㌦程度支援をお約束します」と表明したことが引き金になった。
 昨年にも、ニューヨークでイラク大統領と会談した際、「日本は、イラク政府も含む国際社会のイスラム国に対するたたかいを支持しており、イスラム国が弱体化され壊滅されることを期待する」とのべていたほか、九月におこなわれたエジプトのシシ大統領との会談では米軍によるシリア領内での空爆について「国際秩序全体の脅威であるイスラム国が弱体化し、壊滅につながることを期待する」とのべるなど、踏み込んだ発言をくり返していた。
 人質の殺害予告がされて以後、事態に飛び上がって「人道支援だ」と主張しているものの、その中東外遊がイスラム国を刺激したことは疑いなく、「8500㌔離れた日本からわざわざ十字軍に参加した」と名指しで日本政府の対応に矛先が向けられることとなった。
 イスラム世界を敵に回す理由など本来何もないにも関わらず、2人の人質を巡って武力参戦すらしかねない危険な情勢を迎えている。この間、現実に安倍政府が進めてきたことは、集団的自衛権の行使容認であり、「邦人の命」を守るとして地球の裏側まで自衛隊が出動する体制を可能にするものだった。米軍の下請軍隊として自衛隊が肉弾になり、アフリカや中東など地域を限定せずに、その軍事行動に参戦することを米国に求められてきた。さらに武器輸出3原則にかわって「防衛装備移転3原則」を閣議決定し、これまで禁止してきた武器輸出にも道を開いた。外務省はODAの軍事利用についても検討を開始している。今回のイスラエル訪問には日本国内から防衛産業23社が同行したことも伝えられた。
 アメリカ、イスラエルといった中東でもっとも諸悪の根源になってきた国国に追随して、その側で日本政府が立ち回るという露骨なアピールとなった。
 そして中東地域においては、紅海、アデン湾に面したアフリカ東部のジブチに自衛隊の拠点を整備することをうち出したばかりである。中東情勢に即応できるようジブチ国際空港に隣接した土地を現地政府から借り上げ、司令部官舎や隊舎、哨戒機の駐機場や格納庫を建設し、中東・アフリカの活動拠点として位置付けた。ジブチにはアメリカが対テロ戦争の拠点を置いているほか、旧宗主国のフランスもインド洋へのアクセスを保つために軍事拠点を置いている。海賊対策と称して欧州連合(EU)も軍事力を展開している。米軍関係者だけで4000人が配置されているものの、アメリカは財政難で予算が削減され、基地従業員を解雇するなど、その維持が難しくなっている。「ならば日本が」という展開で、肩代わりするような方向に向かっている。
 「積極的平和主義」「人道支援」を叫びながら、やっていることは「イスラム国」挑発にしても武力介入せざるを得ない方向で、戦後70年にわたって歩んできた道から一線を踏み越えたものである。「イスラム国」撲滅なり軍事行動に熱を上げているのは戦争がしたくて仕方がないアメリカであり、みずからは衰退して空爆しかできないなかで、他国の動員を執拗に迫っている。欧州にしても資本主義が末期症状を迎えているなかで、矛盾の矛先をイスラムなりに向けた排外主義を煽って乗り切りたい為政者どもが、かつてのユダヤ弾圧とそっくりな形でイスラム弾圧を始めている。
 この流れのなかで日本が乗せられて足を踏み込むなら、殺されるのは2人では済まない。日本国内がテロの標的にされることが現実味を帯びたものとなり、親日的だったアラブ世界の評価は瞬く間に切り替わることを意味している。戦後70年、武力参戦を踏みとどまっていたのを踏み込むよう求めているのが米国で、まさに戦後の分かれ道というべき緊張した情勢を迎えている。
 対米従属の鎖につながれてアメリカのための戦争に身を投じ、国土を廃墟にしかねない動きに対して、独立、平和を求める大衆的な世論と運動を喚起し、愚かな道に進むことを阻む斗争が迫られている。


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