いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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旧植民地主義の亡霊との対決 74年前に引き戻すな 本紙記者座談会

日韓の友好平和のために

 

 徴用工問題への対応に腹を立てた日本政府が韓国をホワイト国から除外し、韓国経済の根幹を脅かしたことをきっかけにして、両政府の対立が深まりを見せている。韓国ではいわゆる「反日」運動が盛り上がっているわけではなく、問題は植民地支配の清算について誠実に向き合わない安倍政府にあり、開き直って「経済制裁」を仕掛けてきたことに対してあくまで屈服しないという態度を貫いている。一方で、植民地支配をした側、当時の為政者たちのDNAを引き継ぐ安倍政府の側が、過去に犯した侵略の罪を認めず、しかも戦争を知らない子どもたちばかりになった日本社会において、メディアが目前の事象だけを切りとった異様なる嫌韓を刷り込んで民族差別意識を助長するなど、知性や理性の底が抜けたのかと思うほど唖然とした状態となっている。日韓両国が友好平和な関係を築いていくためにどうすべきなのか、記者座談会で論議した。

 

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日本の敗戦後、仙崎港から引き上げる朝鮮人

  下関は朝鮮半島とのつながりが深く、それこそ戦後の調査では人口の約1割が在日朝鮮人だった。終戦後に帰国しようと下関を目指した人たちが、さまざまな事情で帰ることができず、人口比としても大きな比率を占めている。在日朝鮮人がどんな思いをして日本社会で暮らしてきたのかは、以前にも一世の故・姜海洙(カン・ヘス)さんの証言を掲載したことがあるが、並並ならぬものがある。


 二世、三世、四世と経て、それこそ帰化した人もいれば、日本人と結婚して子どもを産んだり、その子どもが日本人と結婚して子どもができたりで、在日にルーツを持つ日本国籍の子どもたちも相当数いる。この街で育った者としては、幼少の頃から在日の友人などいるのが当たり前だ。通名で暮らしている友人もいれば、進級進学に際して、突然朝鮮名を名乗り始め「誇りを持って生きたいんだ」と話す友人もいた。なぜ、これほど在日朝鮮人が日本にいるのか? と子どもですら疑問に思うものだ。


 それこそ明治以後からの朝鮮侵略の歴史や日韓併合から35年に及ぶ植民地支配、創氏改名や強制連行など、歴史的事実に基づいてなにをしたのか理解しなければ相手との対話など始まらない。なぜ伊藤博文は安重根に殺されたのか、祖国に踏み込む侵略者として恨まれていたからだ。明治維新の直後からずっと手を出してきた歴史がある。目先の事象のみを捉え、感情的になって「オマエは反日だ!」とか「さては在日だな!」とかいう輩については、言葉は悪いがバカではないかと思う。そんな単純な話かと。日本人としても今後アジアの近隣諸国と友好平和を望むならしっかりと勉強しないといけない。無知では正しい未来を切り開けない。


  関釜フェリーで韓国から来る観光客も随分と減っていることが話題になっている。定員560人に対して60人程度とかが続いているようで、下関港の関係者たちは痺れている。駅前ショッピングセンターのシーモール界隈は関釜フェリーの乗り場が近いこともあって、以前なら朝鮮語でワイワイお話しながら歩いている観光客がいたが、こちらもめっきり減っている。てきめんだ。統計発表とのタイムラグもあって直近の数字がわからないものの、輸出入にも影響は大きいという。以前なら関釜フェリーの船着き場周辺には輸出するレクサス(自動車)やコンテナをはじめとした物資がたくさん並んでいたが、最近は閑散としている。安倍晋三のおかげで韓国貿易にたずさわっている人人が苦渋の表情を浮かべている。それこそ在日関係者も多く従事している。


 C 問題の発端になったのは、まぎれもなく徴用工問題だった。当初は「ガツンとやってやれ」と主張していた閣僚もいたとか、GSOMIA破棄まできた顛末の内幕が少しずつ暴露されているが、安倍政府がG20後に揺さぶりをかけたのがホワイト国除外だった。日本政府内でも外務省や経産省など関係省庁の事務次官級が検討に検討を加えたうえで実行したのだ。韓国政府が大慌てするだろうと意図したのだろう。そして思いのほか韓国政府が断固として対抗したために慌てている。「韓国との関係修復はしばらくは無理だ…」などと今になって誤算に痺れている様子が諸諸の報道からは伝わってくる。


 日本国内では、「いつまで戦後賠償をせびってくるのか」「74年も前のことをまだ持ち出してくる」という漠然とした嫌悪感があおられているが、そもそもの徴用工問題とはなにか、では戦後賠償はいかなるものだったのか、事実を整理して正しい解決方向に導く営みが乏しい。雰囲気だけで嫌韓なるものを蔓延させてはならない。


  徴用工は1910年の日韓併合以後に朝鮮半島から強制的に日本の工場や炭鉱に労働力として動員された人人のことだ。韓国政府が認定した徴用工は約22万6000人にのぼる。1942年に日本政府が制定した「朝鮮人内地移入斡旋要綱」による斡旋や、1944年には植民地下の朝鮮に全面的に「国民徴用令」を発動して強制的に動員した。太平洋戦争の末期は日本人の働き盛りの男たちはみな徴兵で戦地に送り込まれ、労働力が足りない状況に直面していた。ならば朝鮮人で補おうと考えたのが天皇制軍国主義の支配層だった。


 日本政府は1965年に締結された「日韓基本条約」とそれにもとづく「日韓請求権協定」によって徴用工の賠償問題は解決済みと主張し、「元徴用被害者の損害賠償請求権は請求権協定で消滅し、これを無視した韓国最高裁の判決と放置した文政権がまちがっている」の一点張りだ。しかし、元徴用工が個人として強制労働を強いた日本企業を相手取り、賠償を請求するのは当然の権利であり、被告である三菱重工業は韓国大法院の判決に従うべきなのだ。日本政府も日韓請求権協定にかかわる過去の国会答弁において、個人の請求権は協定によって消滅することはないと認めている。これは国家間の戦後賠償とは性質が異なる話で、ごっちゃにしてはならない。


 世界的にも1960年代とは状況も変わって、過去の戦争責任や植民地支配とかかわって重大な人権侵害に対しては法的責任を認める流れが主流となっているなかで、ドイツでも2000年に「記憶・責任・未来」基金を立ち上げた事例がある。三菱重工業になりかわって政府が前面に身を乗り出し、和解や解決に待ったまでかけて国をあげて経済制裁で対抗するというのは極めて異様な対応といえる。相当に感情的になっている。

 

  今回問題になっているのは三菱重工業だが、それこそ、この界隈で見ても筑豊の炭坑で麻生財閥がどれだけの朝鮮人をこき使ったかだ。宇部の長生炭坑もしかり。そこでどれだけの朝鮮人坑夫が死んでいったか考えないといけない。あの戦争でひどいことをした連中、企業が償いなど何もしていないし、けじめをつけていないのは事実なのだ。

 

強制連行され炭鉱で働く朝鮮人坑夫

米国覇権弱体化の中で

 

  ムキになる感情の根はどこにあるのかだ。これは岸信介のDNAを引き継ぐ安倍政府の性質とも深く関わっている。そして歴史を74年振り戻したかのような日韓対立に発展している。目下、文在寅をことのほか悪役に見立てて揺さぶりたい意図が首相官邸のみならずメディア報道にいたるまで貫かれている。ワイドショーなどは自国の政治家の斡旋利得罪の追及には及び腰のくせに、文在寅側近の娘の大学入学を巡る疑惑を毎日追及している始末だ。韓国のメディアよりも扱っている時間が長いと韓国人の知り合いが驚いていた。それなら森友問題の安倍昭恵はどうなるのかと思う。側近の娘の大学入学どころではない。


  朴槿惠が打倒され、韓国で左派系の文在寅が登場し、米日のいいなりにならないのが面白くないのだ。「北朝鮮のミサイルが!」などといってJアラートを鳴らして大騒ぎしていたのに南北対話を動かし始め、最近では在韓米軍基地の返還を求めたり、新しい動きを見せている。それは韓国の国民の息吹を反映したものだ。中国が一帯一路をやり、そこに朝鮮半島の市場化が加わるとダイナミックに東アジアの経済は動き始める。アメリカも中国やロシアだけにうまみを持って行かれてはたまらないから米朝対話に乗ってくる。必然性がある。


 世界的にアメリカの覇権が弱まるなかで各国が思い切った動きを見せ始め、韓国も変化を捉えて動いていることがわかる。日本だけが蚊帳の外に置かれとり残されている。それで74年前の植民地支配をいまだに正当化している有様なわけで、東アジアの片隅に旧植民地主義の亡霊が追いやられ、遺物となって孤立化しているようにも見える。


 徴用工問題にしても、植民地支配の清算について拒否して向き合わないのは、「僕の爺ちゃんは悪くない」が影響しているのは疑いない。根っこにあるのは植民地支配を正当化したいし、そうしなければみずからを否定することにつながるという意識だろう。


 日本と韓国の戦後出発は、ともにアメリカの軍事支配から始まった。韓国ではアメリカ仕込みの李承晩が送り込まれて軍事政権で国内を抑え込み、一方の日本では天皇のみならず岸信介をはじめとした日本軍国主義の為政者や統治機構が丸ごとアメリカに屈服して武装解除をやり、戦後の地位を保証されたもとで再編が進んだ。官僚機構もそのまま。大本営を主導した朝日新聞の緒方竹虎や読売新聞の正力松太郎などは今度はCIAのエージェントとなってメディアの世界に居座り続けた。岸信介もCIAのエージェントだったことが明らかになっているし、笹川財団の笹川、右翼のドンといわれた児玉など、アメリカの占領支配に協力するものは抱えられ、戦後もポストを与えられた。いわば間接統治の駒だ。

 

岸信介

 韓国でどうだったかというと、これもあまり日本国内では報道されないものの、日本の占領統治に協力していた朝鮮総督府の面面や日本陸軍士官学校関係者などが復職を許され、アメリカはおおいに統治に利用した。それこそ1965年の日韓請求権協定を結んだ朴正煕は日本陸軍士官学校卒の軍人で、昵懇(じっこん)の関係を結んでいた岸信介などは占領時代の上司みたいなものだ。それで8億㌦の経済支援で戦後賠償は終わったみたいなことをいうが、要するにODA方式で三菱重工業はじめとした大手企業が地下鉄工事その他の事業を請け負い、日本にバックさせる、自民党政治家にバックさせるという手法だった。総元締めにいたのが岸信介であり、脇を固めたのは満鉄調査部の幹部だった連中など植民地支配を実行していた面面だ。


 ちなみに満鉄調査部の人員は戦後、電通がごっそりとひきとった。メディアを支配する電通の今につながるルーツでもある。


  いわゆる韓国の保守というのが、日本の旧植民地主義者たちにとっては目下の部下であり、そのもとで深くつながりを持ちながら日韓は経済的にもやっていた。朝鮮戦争によって日本の独占資本は戦争特需で息を吹き返したりもした。朝鮮人が血を流し犠牲になることで利を得て、戦後復興から高度成長までつなげていったのだ。一方の韓国では歴史的に民衆がアメリカ傀儡(かいらい)の軍事政権との非妥協的な闘争によって民主化を勝ちとり、ついにロウソク革命で朴正煕の娘である朴槿惠を打倒した。安倍晋三界隈が面白くない感情の根底にはその変化がある。仲間が打倒されたのだ。そして、東アジアのなかでアメリカに屈服し隷属関係を切り結びながら戦後レジームに縛られているのは日本だけになろうとしている。これは東アジアでのアメリカの影響力の衰えを反映している。七四年前の意識を丸出しにして「韓国けしからん」といまだに上から目線で大騒ぎしているのがいかにバカげたことか自覚しなければならない。


 過去の歴史を真に清算し、両国が平等互恵の関係に立って友好平和を築く以外に展望はない。そのために、日本社会の上層に巣くっている旧植民地主義の亡霊を一掃しなければならないし、アメリカに屈服しながら生きながらえてきた残存物を炙(あぶ)り出し、綺麗に掃除することが必要になる。

 

誰が何の為に戦争したか

 

  植民地支配の側の意識を日本国民全体が共有する必要などない。根深い民族差別意識に火をつけようとメディアが必死だが、これは悪質極まりないものだ。朝鮮人を「チョン」などと侮蔑して「日本人すごい」と悦に浸っているような振る舞いを21世紀にもなって再燃させ、未来永劫子どもたちや孫たちの代まで引き継ぎたいのだろうか。やめてくれと思う。こんなものをメディアが躊躇もなくあおっている。低俗な国にしたいのだろう。親や現役世代の意識が子どもに浸透するわけで、むしろ意識的に断ち切らないといけない。尾てい骨にひっついた猿の時代の遺物みたいなものだ。なぜ、植民地支配を実行した支配者、為政者の民族差別意識を一般国民までが共有しないといけないのかだ。


 朝鮮半島の人人を苦しめた者が、同じように日本国民にも塗炭の苦しみを味わわせ、敗北することがわかりきっていた無謀な戦争にかり出して320万人もの邦人の生命も犠牲にした。終戦記念日の慰霊などでよく「お国のために犠牲になられた方方」という表現が用いられるが、「お国のせいで犠牲になった方方」という表現に改めるべきだと誰かがツイッターで発信しているのを見て、本当にそうだと思った。戦争を引き起こした者と、その戦争によって苦しみを強いられた一般大衆をごちゃ混ぜにしてはならない。国家間の対立といっても支配する側とされる側がおり、日本vs韓国などという対立ではない。階級矛盾を捉えたうえで、誰がなにをしたのか理解し、過去の植民地支配の犯罪について清算すべきものは責任をもって清算するというのが正しい立場だ。誇りある日本人であるというなら、なおさらだ。開き直って「この朝鮮人が!」などとわめき散らすような輩は、「すっこんでろ!」といって辱める必要がある。日韓の未来にとって害悪でしかないし、この尾てい骨との別れができるか否かが問われている。74年を経て帰結すべきは74年前ではない。

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロー says:

    私たちが知らなければならない歴史を正確に伝えて下さりありがとうございます。
    大手メスメディアは知悉しているアジア史をなぜ曲解して報道し悪意を拡散するのでしょう?
    とても危険なことです。私たち一人ひとりができることは、この記事をより多くの方たちに
    伝え、大きな誤解を解きほぐし、近隣諸国の方たちと仲良く、平和に暮らせるよう
    誠心誠意尽くすことです。

  2. Tokyotomato says:

    日本のメディアは既に絶滅危惧種となりIWJとか週刊金曜日のみになってしまったと思っていたところ、いかなる権威にも屈する事のない長周新聞と言うのがあることを知った。安倍のおひざ元にこのようなジャーナリストたちがいることを知り、心強く感じた。スポンサーを持たず、購読料と読者からのカンパだけでの財政運営はさぞ大変だとは思うが何とか継続をさせて戴きたいものである。大企業やエスタブリッシュメントに気兼ねの無い報道の精神を貫いていただきたい。しかし、外信や中央政府の情報は、共同通信や時事通信に頼るより方法が無いと思うが、共同と時事は電通と同じく旧満州の同盟通信社と言う情報機関にそのルーツを持っていることは編集部も良くご存知のはずである。このようなソースに頼らざるを得ない事は仕方が無いので、編集部のジャーナリストとしてのセンスでニュースの取捨選択をされているのだろうと、その苦労を察するものです。皆様のご健闘をお祈りするばかりです。(東京在住の一年金受給者)

  3. かっちゃん☆ says:

    気骨溢れる精神はここに生きていることに感銘を受けた。その姿勢を貫いて欲しい。

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