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韓国のフッ化水素国内生産が進展 日本企業を危機に追いやる安倍政府の輸出規制

 「徴用工問題」に端を発する日韓両政府の軋轢(あつれき)は、日本政府が韓国をホワイト国から除外し、半導体素材などの輸出規制に踏み切ってから一段と悪化の一途をたどっている。韓国の輸出の2割を占める半導体生産を狙って「経済制裁」を仕掛けた安倍政府だが、韓国では日本からの輸入に依存してきた半導体素材の自国生産を成功させ、日本が離脱した半導体素材市場をめぐって欧米企業も含めた激しい争奪戦がくり広げられている。韓国への「報復措置」として安倍政府がおこなった輸出規制は、みずから日本の企業をアジア市場から締め出し、その首を絞めるものとなっている。

 

韓国での高純度フッ化水素の生産工程(韓国JTBC放送より)

日本製が9割を占める半導体素材

 

 韓国内では新年早々「フッ化水素の自国生産に成功」のニュースが飛び交った。日本からの対韓輸出規制強化を受けて国内供給が滞っていた半導体素材主要3品目(フッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミド)のうち最も需要の大きいフッ化水素について、韓国化学メーカー「ソウルブレイン」が、不純物を「1兆分の1」にまで抑えた高純度フッ化水素の抽出に成功し、大口供給先であるサムスンやSKハイニックスの品質検査を通過して日本産の代替として工場出荷を開始。韓国政府はこれらの素材や部品を国産化する予算として、前年の2・5倍となる2兆1000億ウォン(2400億円)をつけてこれを後押しする。原材料を台湾や中国からの輸入に切り換えるとともに、安定供給に向けて今後さらに生産能力を高め、国内需要の70~80%を担う規模に拡大していく方針だという。


 ガラスの化学加工や半導体製造時のシリコン酸化膜のエッチングに用いられる高純度フッ化水素は、毒物及び劇物取締法の医薬用外毒物に指定されているうえに製造には高度な技術力を必要とするため、これまでは世界でもステラケミファ、森田化学工業、ダイキンの日本企業3社しか製造していなかった。世界三大家電メーカーのサムスンやLGエレクトロニクスなど最終消費財の製造企業を抱える韓国では、国内で使用するフッ化水素の約4割を日本企業からの輸入に頼ってきた。


 韓国の2019年1~5月までの日本からの半導体素材3品目の輸入額(輸入全体におけるシェア)をみると、

 レジスト=1億351万6000㌦(91・9%)
 フッ化水素=2843万6000㌦(43・9%)
 フッ化ポリイミド=1214万2000㌦(93・7%)

であり、割合としても日本からの輸入が突出している(韓国貿易協会統計)。


 一方、同じ時期の日本のフッ化水素の輸出先も、韓国向けが全体の85・9%を占めている。2位の台湾向け(7・8%)、3位の米国向け(3・3%)とは量・金額ともに桁違いであり、日本企業にとっても韓国市場は必要不可欠な位置を占めている。高い技術力で高品質の素材を提供する日本と、世界的シェアを持つ電子製品の製造でそれを必要とする韓国とは切っても切れない関係にあり、日本の貿易黒字にも大きく貢献する品目といえる。


 ところが安倍政府の「輸出規制」発表後、それまで毎月3000~3500㌧、額にして6億~8億円の規模を保っていたフッ化水素の韓国向け輸出量は、昨年8月に一気にゼロとなり、昨年9月は372万円(前年同月比99・4%減)、11月も4693万円(同93・5%減)と低迷を続けた。


 高純度フッ化水素の世界市場でシェア70%を占めるステラケミファ(大阪市)は、昨年7~9月期の売上高が前年同期比21%減(74億600万円)、営業利益が88%減の1億4800万円にまで落ち込んだと発表。同9月中間決算も売上高が12%減、営業利益が56%減となった。


 同じく高純度フッ化水素を独占製造していた森田化学工業(大阪市)は、韓国市場における3分の1のシェアを占めてきたが、政府の「禁輸措置」によって大口取引先を喪失。そのため同社は、現地工場での生産に切り換えたり、中国浙江省の日中合弁企業に約100億円を折半出資して高純度フッ化水素の生産を始めることを決めた。その日のうちに韓国に製品を納入できる日本に工場を持ちながら、政治的措置によって身動きがとれず、わざわざ中国から韓国に輸出する迂回供給を強いられている。

 

好機と見なす米国メーカー 韓国に新規工場建設

 

 日本の輸出規制を好機とみて動き出したのが、これまで韓国市場に参入できなかった米国メーカーである。日本の「撤退」によって開いた韓国市場の大穴に色めき立って進出をはじめている。


 半導体製造装置世界シェア4位のラムリサーチ社は昨年11月、米シリコンバレーからソウルに拠点を移転する方針とともに、京畿道に5000万㌦(55億円)を投じて半導体製造工程の核心装備を開発するR&Dセンターを設立することを発表。シェア1位のアプライド・マテリアルズも移転を検討している。


 さらに1月には、世界最大の化学メーカーの米デュポン社が、次世代半導体製造に使うEUV(極端紫外線)レジストを開発する工場を韓国に設置するため31億円を投じると発表。日本による輸出規制品目の一つであるEUVレジストは、JSR、信越化学工業、東京応化工業(TOK)などの日本企業が世界市場の90%以上を占め、韓国の年間輸入量3億2069万㌦(約353億円)のうち93・2%を日本製が占めていた。日本は米国の経済制裁に従わされるが、米国は日本の制裁には同調するわけではなく、むしろチャンスにしてアジアにおける日本企業のシェアをとり込む姿勢を強めている。


 日本企業でも、光ファイバーの素材に使われる石英ガラスの世界シェア2~3割を占める東ソー・クォーツ(山形)が韓国に数十億円投資して新工場建設(2021年稼働開始)に踏み切り、日華化学(福井)は19億円をかけて韓国に工場を建て、精密機器の画面処理に使われるフッ素化学品の生産を今年2月から開始するなど、日本企業の「日本離れ」まで引き起こしている。これらの事態を受けて、経産省は昨年12月に輸出規制を一部緩和したが時すでに遅く、もとのシェアをとり戻すメドは立っていないのが現状だ。


 シャープ、日立、東芝などの日本の大手電機メーカーが世界水準から立ち遅れて撤退、後退するなかで、これらの企業を支えてきた中小企業が培ってきた技術力と精緻な製品が日本の強みとなり、世界規模の市場を持つ韓国をはじめとするアジア企業の有力な調達先となってきた。徴用工訴訟は、かつての戦争で日本軍国主義が植民地にした朝鮮半島で三井、三菱などの独占企業がくり広げた横暴に対して被害者個人が起こした賠償請求であり、そもそも政府が介入するべき性質のものではない。にもかかわらず、政府が報復措置として「韓国の半導体産業を潰せ」と大鉈をふるった輸出規制は、巨大な市場を持つアジアのサプライチェーンから日本企業をはじき出し、長年の努力と信頼関係によって日韓協業体制をつくってきた中小企業を崖っぷちに追いやっている。


 安倍外交がいかに短絡的かつ盲目的であるかを物語っており、「反日」的ともいえる輸出規制措置を撤回し、近隣諸国との関係改善を早急にとりくむことが求められている。

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