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下関にスクランブルをかけにきた戦闘機 首相お膝元への地ならし

 下関海響マラソンが催された5日の午前8時40分頃、下関市街地の上空でこれまで聞いたことがないような爆音がとどろいた。休日の朝、まだ休んでいる人人は音にビックリして飛び起きるほどで、「何事だろうか」と話題をさらった。爆音の主は航空自衛隊のF―2戦闘機で、この日おこなわれた「下関海響マラソン2017」のスタートに合わせ、開催10回目に華をそえるため「展示飛行」に飛来したのだった。

 

 海峡メッセには1万3000人のランナーと応援する大勢の人人が集まっていた。午前8時30分にフルマラソンの号砲が鳴り、ランナーがスタート地点を離れた約7分後、「10周年記念大会に航空自衛隊築城基地のF―2機が展示飛行で華を添えます」という会場アナウンスと同時に、彦島側から豆粒のような高さで2機の戦闘機が姿をあらわした。パイロットが防府市出身と山陽小野田市出身の2人であることが、郷土山口の誉れであるような調子でマイクで紹介された。人人は戦闘機を見上げたが、鑑賞する間も、写真を撮る間もないほどのスピードで、轟音とともに飛び去っていったのだった。

 

 2機はそのまま市街地上空を飛行したあと、関門海峡上空へ抜けた。そして太刀浦海岸の上空でUターンすると、再び関門海峡から下関市街地方面へ向けて飛行し、往路よりも高度を下げ、着陸態勢でライトを点滅させながら再び会場上空を飛び、そのまま彦島方面へと飛び去っていった。滞在時間はわずか三分ほどだった。あっという間の出来事に、会場では「あれで終わり?」「何だったんだ?」といった声も聞かれた。

 

 「海響マラソンで下関の上空を戦闘機が飛ぶ」ことについて、直前にチラシが関門海峡沿岸の住宅に配布され、目にした市民を驚かせていた。地上約300㍍を時速450㌔で飛ぶことを知らせるこのチラシは、戦闘機の轟音が響く可能性のある彦島全島、唐戸等中心市街地の海峡沿いから長府外浦辺りまでの地域のみに1万7500枚が配布された。「築城基地のご協力により、F―2(ジェット機)の展示飛行を行い、第10回記念大会に華を添えます」として、「戦闘機」という表現を避けているが、F―2はまぎれもない戦闘機である。「マラソン大会で戦闘機が飛ぶのか?」「小月自衛隊ではなくて、わざわざ築城から来るの?」「市が金を出すのか?」などさまざまに話題を呼ぶところとなった。このチラシは対岸の門司でも5000枚が回覧された。

 

 人工島を中心とした不気味な都市改造が進み、米軍艦船の寄港こそここ数年は少ないものの、自衛艦の寄港は以前にも増して頻繁になっている。ここに来てスクランブル発進を担当するF―2が上空を飛ぶというのだから、下関市民にとっては心穏やかではない。

 

 プログラムにも記載はなく、急遽決まった戦闘機の飛来について、本紙は事前に大会事務局を務める下関市観光・スポーツ部に取材したが、経緯が曖昧で誰が依頼したのかがはっきりとしない。現場職員の説明によれば、これまでも自衛隊山口地方協力本部が救護車を出し、海響マラソンに協力してきたのだという。そして、10周年記念の企画を立てるなかで、同協力本部を通じて「自衛隊でも何かできないか」という話になり、築城基地のF―2の展示飛行が決まった。実行委員会側の提案なのか、自衛隊側の提案なのかは不明ということであった。

 

 大会事務局長の吉川英俊氏(市観光・スポーツ部長)は、「日頃から自衛隊と交流があるが、懇親会などの非公式の場で展示飛行ができないかという話になった。当初はブルーインパルスを呼ぶ案も出て、自衛隊に“華を添える”形で協力できることをお願いした。お願いするなら展示飛行だという話だった」「市から戦闘機を飛ばしてくれとお願いしたわけではない。が、最終的に市の方が来て下さいというお願いをした。自衛隊が積極的にいわれた話ではなく、どちらかというと、うちがお願いした話と認識している」と、よくわからない説明をしていた。

 

 吉川事務局長は、「あくまでも市(大会実行委員会)が議論してお願いしたものだ」と強調する一方で、「実行委員長は経過を知らないと思う」というし、運営委員の1人である三木副市長が知ったのも決定した後であり、実行委員会というのが誰を指すものかも疑問が残る。結局のところ、だれが発案し、どこでどのような議論がなされて決まったのか具体的な経過は不明なままである。

 

 最終的に自衛隊側から築城基地のF―2が展示飛行するとの連絡を受けたのは9月6日だ。直前に決まったため、選手名などを載せたプログラムを作成する日程には間に合わず、急遽チラシを配布する形になったという。なお、市職員も含め、事情を知らない市民からすると「自衛隊機を呼ぶのに市が金を出すのだろうか」という疑問が出ていたが、その点については大会実行委員会は予算を出さず、自衛隊の協力であると強調していた。

 

 下関市民にとっては、戦闘機が抜き打ちでスクランブルをかけにきたに等しいものとなった。ただ、上空300㍍という事前のふれ込みよりは相当に遠慮して高い位置を飛んでいたのも特徴で、何をするでもなく中途半端な飛行高度で、轟音だけを響かせて消えていった。「築城基地から飛び立ち、下関の上空を飛ぶ」実績だけをつくったような印象だ。あまりにも一瞬過ぎて、結局のところ何をしたかったのかが意味不明なパフォーマンスでもあった。

 

緊張激化で張り切る理由

 

 F―2といえば、南西地域の防空態勢強化のため、昨年、航空自衛隊三沢基地から20機・290人が築城基地に移転してきたばかりだ。北朝鮮情勢や米中対立が緊張するなかで、小月基地のプロペラ機ではなく、築城基地から戦闘機が下関の街にスクランブルをかけに来たことの意味を考えないわけにはいかない。築城基地を飛び立ったF―2が下関方面へ進路をとれば、そのルートを延長した先にあるのは朝鮮半島である。頭上を戦闘機が飛ぶことや、朝鮮有事において重要港湾として指定されている下関での地ならしと見るのが妥当だ。

 

 朝鮮有事となれば下関市は最前線の要衝で、早くから米軍が重要港湾指定していたことはウィキリークスが暴露している。人工島を中心とした巨大道路を軸に市街地改造が進むのと並行して、第1次安倍政府の時期から、江島市長が張り切って「武力攻撃を受ける町づくり」に熱を上げてきた。下関港はテロ対策でフェンスが張り巡らされ、朝鮮籍の船を捕まえた際の臨検港にも指定された。全国初の市民を動員したテロ対策訓練を関釜フェリーでやったり、六連島に「北朝鮮の潜水艦が来て戦闘員が上陸した」という想定で自衛艦に島民を乗せて避難訓練をやるなど、市民を戦時動員する態勢づくりは全国に先駆けて進んできた。当時、市民のなかでは「バカげたことを」と笑いものにもなったが、それが最近では全国でJアラートをかき鳴らして頭を抱えてしゃがませるなど、下関の後を追うようにして地ならしは拡大している。

 

 トランプ米大統領の初のアジア歴訪にあわせ、日本海へ米空母3隻を派遣することや、11月中旬には西太平洋で米空母3隻が参加しておこなう大規模な軍事演習に自衛隊が参加することもとりざたされ、北朝鮮への軍事挑発は強まっている。このなかで、有事の際の軍事拠点にもなりうる下関でのF―2戦闘機の展示飛行は、たんなる海響マラソン10回の「祝賀」などではない。

 

 朝鮮有事の重要港湾である下関なり関門地域は、朝鮮半島にもっとも近い港で、舞鶴、佐世保と連動した最前線の出撃拠点になる。山口県の奥座敷となる岩国には極東最大の米軍の出撃拠点を備え、そこには普天間基地から空中給油機が移転し、厚木基地の空母艦載機が約60機配置されようとしている。これらが空母や基地間を行き来して攻撃態勢をとり、周囲の自衛隊基地とも連動して動くことになる。だからこそ、米軍は水面下で重要港湾として目を付けていた関係だ。

 

 何か事があれば岩国基地から新幹線なりヘリで人間を移動させることはいかようにも可能で、そうした重要港湾に軍需物資を集積して積み込んだり、佐世保の強襲揚陸艦をはじめとした米艦船が寄港して、人、モノを運び出していくこともできる。関門海峡側の第一突堤をはじめとした米軍御用達の岸壁も既に地ならしは終了している。さらに朝鮮戦争の際にもそうだったように、対岸も含めた関門地域の病院施設に負傷した米軍人や自衛隊員を受け入れることも十分に想定されることである。

 

 下関で利用されるのは海峡沿いだけではない。目下、人やモノを移送するには持ってこいの巨大な道路群が人工島へ連なり、トラック輸送よりもまとめて運ぶことができる鉄道・幡生ヤードにも連結している。いざとなれば縁石をとり払って三車線化できる作りにもなっている。響灘側では吉見の海上自衛隊と人工島をつなぐ北バイパスも完成し、対岸の北九州との連動という面では、今後、彦島方面と小倉を結ぶ第2関門ルート(海底トンネル構想)をつくる計画も浮上している。北バイパス経由で、響コンテナターミナルや日明とも直結していく構想だ。

 

 朝鮮半島を巡る緊張が激化しているもとで、しゃにむに地ならしをしたがる力が加わっている。そしていざとなれば、地ならしではなく24時間以内に体制をとれるよう米軍から迫られているのが「重要港湾」だ。マラソンの10周年と戦闘機の飛行は本来、何も関係のないことなのに、とってつけたような理由で軍隊がはしゃぐのはそのためである。

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