いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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子や孫に誇れる町を渡したい 陸上イージス撤回をめざして 阿武町・女性座談会

 山口県と秋田県の2カ所にイージス・アショアを配備する国の計画が浮上して2年余りが経過しようとしている。両地域とも住民の根強い反対世論が渦巻いている。山口県萩市の陸上自衛隊むつみ演習場への配備をめぐり、反対の第一声を上げたのが演習場に隣接する阿武町宇生賀の農事組合法人「うもれ木の郷」の女性グループで、それに続いて福賀地区の農業組合法人や自治会が次次と声を上げた。今年2月にはむつみ演習場へのイージス・アショア配備に反対する阿武町民の会が結成され、人口3300人の町で有権者の六割が会員となり、反対の意志を表明している。今回、阿武町の女性たちに集まってもらい、イージス・アショア配備に反対する思い、まちづくりへの思いとこれからの展望について語ってもらった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 司会 まず、19日からおこなわれた防衛省の説明会に参加して感じたことから出してもらいたい。

 

  防衛省の説明を聞きながら、「防衛省 みてきたような ウソをいい」という川柳が浮かんだ。説明会ではこれまで以上に防衛省がおたおたしていた。改めて絶対に配備反対を諦めてはいけないと思った。今回の説明会では、昭和36年4月1日に交わされたむつみ演習場の覚書が話題になり、中四国防衛局の森田局長が「イージス・アショア配備は覚書の範囲をこえている。市や県と協議しなければならない」といったことは注目されるべきだと思う。


 むつみ演習場は、戦後、村有未開墾地を農林省(当時)が買収し、国有開拓地として開拓農家が入植した土地だ。しかし開拓地は農地としてはうまくいかず開拓農家の負債がふくれあがるなかで、当時の村長・村議会が「開拓農家の窮状を救うため」と判断し、地元村民の反対もあるなかで自衛隊に土地を売却した。昭和36年当時のむつみ村長から、自衛隊演習場にすると決断したときの胸の内を直接聞いたことがある。「非常に苦渋の選択」だったということだ。覚書を見ると「自衛隊側は民生を阻害しないようにする」「演習場は演習場としてしか使用を認めない」「事件があるときは当事者間で協議をし、協議が整わない場合にはさらに協議会を開く」とされている。先人たちは演習場が他の用途で使用されることがないようにきちんとした覚書を残してくれている。

 

  私は説明会で意見をいうために準備していたが、時間切れでいえなかった。私たち女性が何年もかけて農業やまちづくりに努力し実践してきて今があるということ、秋田では住宅地との距離が問題になっているが、むつみは民家がもっと近いということを強くいいたかった。私たちは自分の生活を守るためではなく、子や孫のためにこの美しい自然を引き継ぎたいということだ。


  住民が質問や意見をいうのに防衛省がきちんと答えないのにはがっかりした。防衛省は口調は「丁寧」かも知れないが、中身のない説明だった。説明会をやればやるほど、住民側の反対の思いが強くなっている。町民の方からもっと行動を起こすことが必要だ。


 A イージス・アショアを配備する際、自衛隊員250人で警備するというが、物物しくてやれない。防衛省の2回目の説明会で「基地」という言葉が出た。一度配備されればこの地域一帯が基地化される。防衛省は「健康にもまちづくりにも影響ない。対策を講じます」というが、絶対に自然や景観が壊れるし、すでにイメージ的に風評被害が出ている。


  以前の説明会で防衛省の課長が、ブースターの落下場所について「絶対に陸上に落ちないとはいえないが、弾道ミサイルが我が国の領域を直撃することと比較すると、被害は比べものにならない」と発言したが、それが本音だなと思った。住んでいる人が少ないからということだろうが、同じ命ではないかと思う。私の心の中でイージス・アショアに反対する思いは揺らぐことはない。


 先日、地域の活動で福賀に視察に来た宇田の方が、イージス・アショアの予定地を見て「あんなに近いのか、他人事じゃない」と驚いていた。まだまだそういう方が多い。阿武町で起きていることだということを町民のみなさんにももっと関心を持ってもらいたい。どうしたらより多くのみなさんに関心を持ってもらえるかが課題ではないかと思う。防衛省はむつみが適地だとしかいわないが、住民あっての国だろうと思う。私たちが訴えてきたことを全然聞き入れてもらっていない。

 

農漁業中心の町づくり
県内で唯一人口を維持

 

春の田植え作業も集落全体で協力しておこなう(阿武町宇生賀)

 司会 みなさんはまちづくりにどのような思いでとりくんできたのか。


 A イージス・アショアについて防衛省がいう難しい理屈はわからないけど、とにかく私たちは地域を守るという思いでやっている。阿武町は地域づくり、まちづくりでいえばどこにも負けていない。宇生賀地区は先祖から引き継いできた農地を守るために、集落全体で協議してほ場整備し、平成9(1997)年に県内で初めて農事組合法人「うもれ木の郷」を立ち上げた。私はこの地に人が来たら、100㌶の田んぼの中にある親水公園に案内する。美しい故郷を見てもらいたいからだ。そしてそこから700㍍しか離れていないところにイージス・アショアが配備されること、一番近いところは直線で500㍍しか離れていないことを伝えると、みんなが驚く。

 

むつみ演習場側(手前)から見た宇生賀地区。4集落73戸の農家で農事組合法人「うもれ木の郷」をつくっている。(提供・うもれ木の郷)

  私は宇生賀の農事組合法人が始まってからみなさんと関わるようになった。農業も共同作業になったので、草をとったりと、つらい仕事もみんなで一緒にやるので仲間意識が強くなる。法人化したことで結束力も強くなって、この地域を守っていかなければという思いも強くなった。自分の家のことをするだけなら、こんな郷土を愛する気持ちは芽生えなかった。


  最初にここに嫁に来たとき、部落のどこに誰がいるかもわからなかったが、法人化されて一緒に農地を耕すようになり仲間ができた。


 A 宇生賀も福田も地域づくりで農林大臣賞をもらっている。コメもスイカも、梨もブランドになっている。それは自然の綺麗な水があり、空気があってできたものだ。その自然を今壊そうとしている。同じ国の省庁でありながら、農林省は地域づくりに関して表彰し、防衛省はその地域を壊すようなイージス・アショア計画を持ち込んでいる。ミサイル基地が地域の力になるわけがない。阿武町はミサイル基地ではなくて農業生産基地だ。


  福賀に嫁いできて50年以上、農業や地域づくりに力を注いできた。農事組合法人「福の里」の直売所では、お正月時期は餅の注文がたくさん入ってくるので大忙しだ。福賀でとれる農作物を加工、販売するために研究と努力を積み重ねてきた。「福の里」では、宇田郷でその朝水揚げされた新鮮な魚を扱っている。こんな山奥で朝とれた新鮮な魚が買えると大喜びで、山口や周南などからも「福の里」に買い物に来るようになった。毎年11月におこなわれるルーラルフェスタは国道沿いにある直売所をつないでみなさんに回ってもらうイベントだが、楽しみにされているのが「福の里」の餅まきで、県内からたくさんの人が来て盛り上がる。みんなの努力が積み重なって今のように多くの人が集まるようになった。これは女性でないとできなかった。女性の力はすばらしいと思う。女性の力をこの運動でもっと発揮できないだろうか。

 

ルーラルフェスタでは宇田郷でとれた新鮮な魚が抽選で配られる(提供・福の里)

  2005年の市町村合併のとき、合併せずに阿武町単独でいくと決めたことが本当によかった。阿武町は早い時期に上下水道を整備したり、小・中学校のトイレの洋式化や子育て対策などに力を入れて、若い人が選んでくれるようなまちづくりを他に先んじてとりくんできた。先見の明があったと思う。


  阿武町は今、「選ばれるまちづくり」を掲げて若い人を呼び込む施策をうって、山口県内で唯一人口を維持している。人口の社会増は5年間で3・9%のプラスと全国で17位。町の人口は社会増より自然減が上回って3274人と減少傾向にあるものの、独自のとりくみは全国の自治体から注目を集めている。その努力を続けていって、若い人が農業で独り立ちできる環境をつくっていけば、まだまだ外から若い人が入る可能性は十分ある。私も息子が2年後に阿武町に帰る気になった。親が地域のなかで楽しみながら、作物をつくったり草を刈ったりと一生懸命やっている姿を見ているからだろう。そしたら面白いことに他にもそのような動きが出始めた。


  阿武町奈古にある道の駅は地元産の新鮮で安い農産物や鮮魚が置かれ、たくさんの人で賑わっている。その日にとれた鮮魚が手頃な値段で販売されていて、その賑わい方は近隣の道の駅とは違うようだ。阿武町は農漁業を中心に町をつくっているから。宇田郷漁協や奈古の漁師も頑張っている。


  宇生賀で薬草の栽培をしているから、予約制でもいいので薬膳料理を出して食べてもらう場所をつくってもいいのではないか。宇生賀の大豆でつくる豆腐や湯葉もおかずにくみ入れていい。とにかく福賀地区に人を呼び込んでお茶一杯でも飲めるような場所ができたらいいと思う。なによりそれが多くの人にこの福賀の自然を見てもらうことにつながる。そして「こんな人家の近くにイージス・アショアが配備される」ということを実際に多くの人に見てもらい、広げていくことが大切だと思う。

 

多くの客で賑わう「道の駅阿武町」

女性たちによるおいしい豆腐づくり(阿武町宇生賀)

阿武町の一大事
もっと仲間増やしたい

 

  イージス・アショア問題は阿武町の一大事だと思う。福賀地区だけではなくて町全体の問題として考えていかないといけない。だから自分が住んでいる地域で、もっと情報を発信していこうと思っている。


  今、萩市、阿武町の全域と山口市阿東町地域で「ジオパーク」をやっている。この地域の過去一億年の大地や火山活動の変遷をたどるというもので、要はこの地域一帯の自然環境を持続させていこうという活動だ。だからイージス・アショア問題と密接に関わる問題だ。ジオパークに携わっている人とも一緒に考えていく必要がある。


  阿武町のなかでも奈古や宇田の人たちに実態をもっと知らせる必要がある。福賀の人にとっては身に迫る現実だが、他地区の人に実際に演習場を見てもらうなどして町民が共有しないといけない。その意味で奈古、宇田地域にも仲間を増やしていきたい。


  そのために11月末に町民の会の広報紙を出して、町内に全戸配布したのはとてもよかったと思う。町民の会がどのように動いているのか、誰が読んでもわかる内容だったし、町民に知らせることができた。読んだ人の意見も聞いてみないといけない。


  先日も町民の方が町民の会にということでカンパを持って来られた。日頃そういう話をしない方だが、応援してもらっているということだ。


  関心を持っている奈古や宇田の人たちに動いてもらうためにも、イージス・アショアが人体や作物にどんな影響が出るのかなどの問題点について私たちもしっかり勉強して伝えていかなければならないと思う。


  私たちの信念を曲げることなく、地道に仲間を増やしながら訴え続けるしかない。


  私たちも地域でこいのぼり祭りや「じゃがいもほりほり」などのイベントで他地域から人を呼んでいる。他地域の人にもこの問題に関心を持ってもらい、一致団結できる仲間を増やすことだと思う。


  新聞などによると秋田では政党政派など関係なく、みんなが配備に反対している。自分たちの地域全体の問題として盛り上がっている。普通ならそうならないといけない。山口県でもそのような動きになったらいいなと思うが、反対の声を上げたら「共産党だ」などとレッテルを貼ろうとする。それはちょっとおかしいと思う。


  秋田県は県議会や市議会などが連携して反対で動いている。それは山口県とは違うところだ。


  男性の理論と女性の理論は違う。だから女性はストレートにおかしい、許せないという思いをもっと発信してもいいと思う。男性的な理論でいえば、反対したら「共産党」などというレッテルを貼って一つになれない。だが女性は、地域のために、子や孫のために一つになって声を上げられる。町民の会としてもそういう動きをつくっていくためにやれることはやりたい。

 

秋田県の動きにも注目
町民の意志が町長支え

 

  それにしても日本の狭い土地にあれだけの施設が2基もいるのだろうか。賛否両論ある問題で専門家でないからわからない部分もあるが、戦争につながるような施設が必要かと疑問に思うことはたくさんある。


 B 仮にイージス・アショア配備が決まったとしても、完成するのは5年後、10年後になるだろう。「アメリカの中古品を買わされて使い物にならない」という話もあるようで、イージス・アショアの値段についてもアメリカのトランプさんのいい値で買わされていて、おかしな話だ。


  私は最近思うのだが、安倍さんに関わる森友、加計問題、今回の桜を見る会の問題など、政権の足元を揺るがすような問題が起こったら必ず北朝鮮がミサイルを撃っている。桜を見る会騒動のなかで北朝鮮は2発撃った。それで政権に関するニュースから目がそらされるという事例が過去に3回あった。


  これから若い人に感心を持ってもらうためのアピールが必要だと思う。


  山口県の村岡知事はハワイの研究施設に視察に行ったが、まずは福賀の自然や宇生賀のうもれ木の郷の状況、むつみの千石台大根の生産地もしっかり見てもらう必要がある。ぜひ福賀に知事を呼んで女性の思いを直接伝えよう。 


  山口県知事がイージス・アショア配備の是非を判断するのに、候補地のこんな近くに民家があるということを見てもらう必要がある。他の県会議員も、萩市長にもぜひ見ていただきたい。それは私たち女性の切なる思いだ。


  阿武町議は「反対」の姿勢は持っているが、いざ具体的な行動に踏み込むとなると「ちょっと待て」になる。だから女性の純粋な思いとして働きかけるしかない。現に宇生賀の女性たちが第一声を上げたことで、これほど動き出したのだから。


  本当にこのままじっとしていてはいけない。寝ても覚めてもこの問題が頭を離れたことはない。


  ピンチはチャンスなんだから。私たちはなにか今一つここで動きをつくらないといけない。


  花田町長は覚悟を決めてやっている。「このままイージス・アショアが来れば阿武町がなくなる」という危機感だろうと思う。町長が全国に向けて「アショア配備反対」のメッセージを発してくれているから、その町長を後押しできるのは私たち阿武町民の会しかいない。町長にとっては女性グループや農事組合法人、自治会などが反対の請願を提出し、町の半分以上の人が反対の意志表示をしたという、町民の思いが力になっている。そして私たち自身も町長の勇気ある行動に支えられている。


  花田町長の行動は全国でも注目され評価されている。あれほど町民のことを思う町長はいない。先人から引き継いだ故郷を守るためにどうすればいいか、私たちは考えないといけない。イージス・アショアが撤回になれば、阿武町は本当に選ばれる町になると思う。

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