(2026年1月14日付掲載)

山口県知事選が今月22日告示、2月8日投開票の日程でおこなわれる。ほぼ無風状態だった過去の知事選とは異なり、今回は4期目の当選を目指す現職の村岡知事に対して、自民党所属の女性県議だった(年末に自民党山口県連から処分された)有近氏が対抗馬としてあらわれ、実質的な保守分裂選挙になろうとしている。山本繁太郎元知事が亡くなったもとでおこなわれた2014年の知事選で村岡知事が初当選して以降、山口県知事選といえば野党系泡沫候補との消化試合が続いてきた。ところが今回の選挙は山口県政で「天皇」とまで呼ばれるようになった県議会議長・柳居俊学氏(周防大島)率いる自民党山口県連とそのいいなりになっている現職知事・県政に対して、県内各地の自民党員や保守系のなかで反発が鬱積しており、その思いを代弁するように有近氏が真正面から批判を加える異例の展開となっている。告示を一週間後に控えるなかで、県知事選をめぐる各地域の情勢と、県知事選で問われるべき県政の実態について、取材にあたってきた記者たちで論議してみた。
議長が“執行権”握る山口県政の歪な構造
A 告示まで残り約1週間となり既にポスター掲示板が設置されているが、巷では県知事選の空気はまるで乏しい。県民全体のなかではしらけた空気が支配的だ。出馬を表明しているのは現職の村岡嗣政(53)、自民党県議の有近眞知子(42)、市民連合をはじめとした野党系が擁立した大久保雅子(61)の3人で、「三つ巴の選挙戦となる」といいたいところだが、実質的には村岡vs.有近の構図だ。
現職の村岡は、自由民主党山口県支部連合会、公明党山口県本部、国民民主党山口県総支部連合会、日本労働組合総連合会山口県連合会、山口県市長会、山口県市議会議長会、山口県町村会、山口県町議会議長会の8団体から推薦を受けて4選目を目指しての出馬となる。既存政党や団体が軒並み現職支持でつき、表向きは盤石の体制だ。一方で、2期目の自民党県議(柳井市選出)で村岡の前の山口県知事だった故・山本繁太郎の姪でもある有近は無所属での出馬となる。

有近真知子氏(昨年12月、山口市)
B 先に立候補を表明したのは有近だった。昨年9月初旬に開いた会見で立候補を表明し、当時は自民党会派に所属して党県連女性局長でもあったが、知事選では自民党を離党して無所属での出馬となる。出馬会見の翌日に自民党山口県連は党紀委員会を開いて、有近に対して2年間の党役職停止と議会の役職の辞任勧告処分を下した。県連に楯突き、謀反を起こすけしからんヤツということなのだろう。処分の理由について友田有県連幹事長は、県政与党会派に所属しながら立候補を表明し、県連側に相談なく会見を開いたことなどをあげ、「著しく党規を乱した」と主張した。だが、有近自身は4年前の知事選のときから県連に出馬を相談しており、今回も出馬については県連側と話をしていたそうだ。今回の記者会見についても事前に相談はしていたと主張している。
こうした一連の騒動が報道されたことで、県内では有近の出馬を知る人はある程度増えた。当初、有近に対する見方は「自民党の女性議員が1人で飛び跳ねている」「柳居からハシゴを外され自民党から処分された泡沫」というものが大半だった。ところが本人も陣営も山口県内を駆け巡って各地域の重要ポイント・重要人物に旺盛に接触していき、年末まできて当初の泡沫感が覆っている。激戦になるのでは? ちょっと見応えのある選挙になるのでは? という見方が次第に広がっている。昨年12月4日におこなわれた県議会11月定例会の一般質問に立った有近が、質問の最後に県知事選出馬にあたっての「率直な思い」として以下のようにのべた。
―― “どれだけ訴えても変わらないことがあったり、自由な議論ができなかったり、誰がいったかによって政策が実現したりしなかったりという現実に違和感を覚えるようになった。この違和感を放置し、変えないまま県議を続けていくという選択肢は私にない。
今の山口県は、率直にいっておかしい。県政をチェックする役割を担う県議会の意思は大変重く尊重しなければならないが、県政を執行するのはあくまでも知事であり県であって、県議会ではない。しかし、今の山口県は「県議会がいうのなら仕方がない」と県職員のみなさんが諦めざるをえないほどに県議会が強くなり、知事が弱くなってしまっている。そのため、県職員のみなさんは、県議会、もっといえば一部の自民党の意向を絶えず気にしながら県政を進めなければならない。
私はこの状況を放置するのではなく変えたい。政治家として最後にこの違和感だらけの県政を変えて、真っ当な山口県政をとりもどすことに挑戦したいという強い思いから、新たなステージに挑戦することを決意した。”――
A 県政にかかわっている人が聞けば、これは完全に柳居&村岡、現県政に向けた真っ向からの批判だとわかる。演説は新聞報道やネット動画などで話題になって、かなりインパクトを与えた。いわば反撃の狼煙(のろし)をあの封建的な県議会のど真ん中でぶっ放したのだ。別に有近をひいきするわけではないが、「柳居天皇」にびびって県幹部職員や男性議員たちが萎縮するなかで、女性議員が一人悠然と演説するわけだから、たいした度胸だ。「おっ、やるじゃない」と思った人は多かったようだ。職員たちの難儀も代弁していた。そうして県議会演説を契機に空気が変化していったというか、選挙情勢としては「有近もっとやれ!」が強くなっていった印象がある。遠慮してビビりながら言葉を選んでやる選挙など誰も相手にしないが、こうして真っ向から批判を加えて何をどう変えたいのかわかりやすく訴えるのはむしろ正攻法だ。日ごろは県政など「中二階」な存在で無関心な県民も多いが、どうなっているのか知る契機にもなる。正面から県政の在り方を問う選挙になるなら、それはいいことだ。
保守分裂選挙に発展 注目された有近演説

村岡嗣政知事(昨年10月)
C 現職の村岡は2014年に前職の山本繁太郎の辞職にともなう選挙で初当選(当時41)したのだが、当時安倍晋三が山本繁太郎の後任として目を付けていた中央省庁の官僚3人に皆断られて困っていたところ、手を挙げたのが総務省財政企画官の村岡だったという。こうした経緯もあり、今でも「安倍さんが連れてきた人だから」という理由で支持する層は一定いるようだ。選挙で当選すると下関の安倍事務所に一目散に挨拶に行くような関係で、いわば安倍晋三の置き土産だ。しかし、安倍晋三は亡くなり、安倍事務所も解体となった。大きな後ろ盾を失ったもとで一層柳居&林体制の自民党山口県連に依存度を深める関係にもなっている。逆らったらタダの人で、政治家としての後援会組織もなく行き場などないのだ。
過去の知事選は基本的に野党がアリバイ的に擁立する泡沫候補との消化試合だった。自民党山口県連が丸抱えで村岡の選挙をとりくみ、本人はみこしの上に乗っかっていただけだ。いくら投票率が低かろうが、相手が泡沫で脅威でないなら楽勝なのだ。自民、公明に加えてこれらにぶら下がっている連合などの組織票をまとめれば難なく当選できるというものだ。
村岡本人は市議や県議の経験もなく、政治家としてのがっちりとした地盤がない。すでに3期も知事をやっているのに、任期中に自分の後援会組織を広げていくわけでもなく県連に頼りっきりの選挙をやってきた。ある意味怠慢であるし、「12年も知事をやっていながら自前の組織がまるでない男」ともいわれている。今回は村岡にとって初めて「選挙らしい選挙」をたたかうことになる。ある意味見物だ。選挙で鍛えられるのが政治家なわけで、もっと自分で自分を追い込みなさい! と思う。
B 村岡陣営も県内各地で後援会を立ち上げているが形式的なものだ。たとえば熊毛3町(上関・平生・田布施)ではいきなり県連から町長らに「後援会を立ち上げろ」と指令が来て、各町長が後援会長をやらされている。とりあえず3町合同で「囲む会」を開いてはみたものの、ただ命令に従っただけで後援会組織の実体はまるでない。これまで選挙に関わってきたような人たちの間でも「後援会長はいるが、実動部隊なんていない」といわれている。これでは中身がスカスカだ。自民党というネームバリューだけに頼るほかない。
選対本部の体制は本部長に県連会長の林芳正を据えている。ただ実際には、柳居俊学(議長)と守田宗治(下松選出の県議)の2人が本部長代理を担って指揮を執り、以下の役職もみな自民党県議がずらりと並ぶ。事務局長も県連幹事長の友田(下関選出の県議)ということで、実質的に柳居、守田、友田の3人がとりまとめる選挙といわれている。まさに県連丸抱え選挙だ。
村岡が出馬会見をおこなった日、その前に山口市内では自民党の政経セミナーが開かれていたのだが、本人の会見よりも先に柳居俊学が村岡の県知事選出馬を表明した。ちなみにこの日の来賓挨拶は、県連会長である林芳正の次に県議会議長の柳居がおこない、県知事である村岡の挨拶はその次だった。序列をあらわしている。県知事が県議会議長を飛び越えて先に挨拶をするなど無礼千万というのが自民党山口県連における常識なのだ。他の式典でも同じで、主催者側が気をつけなければならないポイントになっている。
県央・東部で盛上がり 県連への反発を反映
B 今回の知事選では、県央・東部地域では自民党関係者の周囲で一定の盛り上がりを見せている。有近が県議に選出された柳井市では、井原健太郎市長が12月に有近支援を表明した。井原はもともと民主党時代の平岡秀夫(現衆議院議員)の秘書をしていたこともあって、当選後から柳井市では自民党内からの反発がかなり強く、議会でも風当たりが強かったためやりたい政策にことごとく反対されていた。そのためどうしようもなくなって柳居俊学を頼り、隣町の自民党周防大島支部に所属したという経緯がある。そうしたしがらみがありながらも地元県議の支持を表明したということもあって、支持者の間では有近支援にかなり熱が入っている。
ところが井原が有近支援を表明した直後、県から柳井市に対して「予算を止める」という脅しがあったそうだ。「井原はけしからん」ということで柳居が怒り、友田を経由して平屋副知事から柳井市議会の山本達也議長のところに連絡があったそうだ。県議会(実質柳居)からのこうした連絡は、友田→平屋のルートで下りてくることが多いそうだ。もはや県政運営すらも自分たちの政局争いの道具に利用するというのだから市民からしたらたまったものではない。
C 岩国も毎回県知事選では「盛り上がらない地域」といわれてきたが、今回は自民党の大部分が有近支援で動いている。村岡が初当選したときから岩国の後援会長を務めてきた「カシワバラ・コーポレーション」の会長が、今回は有近支持に回っている。加えて商工会議所会頭で県内外で手広く事業をおこなっている警備会社「CGSコーポレーション」(中国警備保障)の豊島社長も支援を表明した。両氏は有近の事務所開きにも参列していた。その他、岩国市議会の桑原前議長を筆頭に自民党市議らも有近のSNSに顔まで出して支援するなど、岩国の自民党組織は大部分が有近で固まりつつあるようだ。
有近が12月に県議会で「柳居批判」をやった直後、頭にきた柳居が友田を使い、岩国の有近支持者である豊島社長(中国警備保障)に対して「お前のところには仕事を回さない」と脅しをかけたという話も出回っている。柳居本人は表には出てこず、その他の件でも汚れ仕事みたいな役回りは大概が友田や副知事がやっている印象だ。なんだか友田が鉄砲玉みたく思えてしまう。ちなみに年始の県の警備業協会の新年の集まりは、今年は県の関係者は全員欠席だそうだ。もうバチバチに火花が散っている。
A 自民党内でもっとも激しく割れているのが萩市だろう。昨年3月に市長選がおこなわれたのだが、この選挙では河村建夫(前衆議院議員)の実弟で現職の田中文夫市長が、自民党県連が推す前市長・藤道健二を破って再選している。前回選挙と同じ顔ぶれだったが、林&柳居(県連)は萩で2連敗だった。萩市を巡っては衆院の選挙区再編の直前に河村建夫を3区から追い出して林芳正が参院から転身して選挙区を奪いとった。このしこりで河村派と林派が市長選を巡って何度もバチバチの激突をくり返してきた経緯がある。
この市長選をめぐって一昨年12月、自民党萩支部で「電撃的」な臨時総会が開かれ、当時の役員全員が突如解任されたことがあった。これは自民党県連の会長だった元県議の新谷和彦や現県議の岡生子らが関わっていたようで、「自民党萩支部の執行部体制の運営問題を疑問視」という建前だが、要するに市長選で県連が推す藤道に推薦をとりつけるために田中市長派を排除した。だが市長選では解任された役員らを中心に奮起した田中陣営が勝利した。そうした感情的な思いが今回の県知事選にも繋がっており、元萩支部幹事長で現職の関伸久市議らを筆頭に市内18地区で有近後援会を組織している。市長である田中文夫も有近を全面バックアップしており、河村派が打倒県連で雪崩を打っている。市長選での田中vs.藤道の構図がそのまま有近vs.村岡へと引き継がれており、萩は県内でもとくに自民党が大きく分裂している。
自民党県連の混乱 安倍晋三亡き後の変化
B それに比べて下関は盛り上がりに欠けている地域だろう。もともと県知事選に対しては「下関で知事選を一生懸命にやる人はあまり見たことがない」「下関が頑張ったところでどうせ県は見てくれない」など自民党関係者たちの間でも冷めた空気があり、本気で知事選にとりくむ人は少ない。今回の選挙も保守分裂とはいうものの、安倍の死後、前田晋太郎は市長選で完全に林派に鞍替えしているし、表面上は安倍vs.林の構図は終わったことになっている。吉田真次が安倍晋三後継の衆院議員といっても安倍派は解体まっしぐらで、まとめ役だった安倍事務所秘書軍団もいなくなった。
柳居&林が牛耳る自民党山口県連に反発はあるが、今さら反旗を翻して有近支援で組織的に動くような者は少ない。むしろ傷物にならないように注意深く振る舞っている。前田が先陣を切ってSNSで村岡支持をアピールするほどだ。一方で前田の有力な後援会メンバーが個人的な関係から有近を支援し、安倍派企業に紹介して回ったという話も聞く。とはいえ名前を出して大々的に支援を広げるほどではない。要は風見鶏で恐れているのだ。

自民党県連がテコ入れし県議や国会議員らが応援に駆けつけた結果、擁立候補が惨敗した長門市長選(2023年11月、長門市)
C 長門市も知事選で盛り上がっている様子はない。2023年の市長選で自民党山口県連(柳居俊学&林芳正)が乗り出して市長ポスト奪取作戦を展開したが、権力をすべて動員した末に県連がてこ入れした候補が敗北した経緯がある。安倍晋三の死後、選挙区内で初めての首長選だったが、山口県連が安倍派の現職・江原に対抗馬の新人を擁立して、林芳正はじめ国会議員まで現地入りして新人候補支援をくり広げるという異例の選挙だった。選挙区で影響力を広げたい林芳正としては、安倍派市長を排除して林派の番頭にすげ替えたかったのだろう。しかし返り討ちにあった。そして、その後の下関市長選では日和って前田晋太郎(安倍事務所秘書上がりの市長)を取り込んで事済ませた。選挙区でこれ以上感情的な衝突を広げたらたまらないという判断が動いたのだろう。
長門市は市長選の経緯からして萩市と似たような状況だったともいえるし、柳居俊学と地元県議の笠本俊也に対する反発はすごいものがあった。ただ、どうもその後、むしろ再選した江原陣営を支援した安倍派は肩身が狭い感じになっている様子だ。「笠本俊也が自民党長門支部の支部長のままで権力を握っている」とか、「江原派の市議や笠本のいうことを聞かない市議が一人ずつ潰されている」とか話す人もいる。市長選に介入した柳居俊学に対する批判は根強いが、「あれ(柳居)が議長でいる限り、だれがなっても同じだからもう村岡でいいや」という冷めた雰囲気なのだ。いわゆる安倍派の女性たちも含めて、「もう選挙にかかわりたくない」とむしろ自民党離れしている。
A だからといって下関や長門の自民党が村岡に一本化できているわけではない。有近が県連の女性局長をやっていた繋がりで自民党の女性組織が有近支援で動いているし、水面下での動きは一定程度ある。よその市でも女性が中心となって有近支援に力を入れているところが少なくない。下関を含め各市町の女性議員らの一部も有近支援で動くのではと見られている。蓋を開けてみないと選挙結果なんてどうなるかわからないが、あくまで自民党内や周囲においてだけ動きは活発にはなっているのだ。
B 地域によっては盛り上がっているところもあるが、あくまで自民党山口県連の内紛というか分裂選挙であって、圧倒的な県民にとっては「なんのケンカだよ」というレベル。きわめて冷め切っている。とはいえこの12年、柳居俊学をはじめとする県連があちこちの市長選にまで手を突っ込んで各地で紛争の火種をまいてきたし、その度に支持者たちが権力闘争に巻き込まれてしんどい思いをしてきた。「柳居に好き放題やらせすぎだ」という批判は皆が大なり小なりかかえているのも事実だ。そして、どうしてあれほど絶大な権力を県議会議長が持っているのか? とみんなが不思議がっている。異様なのだ。
C 知事選の保守分裂の様相は、一つには自民党山口県連の混乱をあらわしている。安倍晋三が死んで河村建夫や岸信夫がいなくなって、高村正彦も引退。衆議院議員を見ても世襲の兄ちゃんばかりとなり、必然的に林芳正が影響力をもつようになった。林芳正の実力というよりかは柳居の腕力頼みで、両者がタッグを組んで強引に抑え込んできたというのがみなの実感だろう。安倍晋三が亡くなってとりわけたがが外れたように存在感が増した。一方で、萩・長門の市長選では安倍派や河村派から跳ね返されて負け続き。そうした混乱のなかで萩のように派閥争いがより激化する地域もあれば、長門のように権力争いに嫌気がさして選挙そのものから背を向ける地域もある。ただ、いずれにしても一般の県民からすればあまり関係のない話だ。ただでさえ県政や県議会は日常生活から縁遠い存在であり、その動向を気にしながら生活することなどない。1週間後に県知事選が迫っていることも、保守分裂選になっていることも知らない人が多い。この温度差がひどい。
執行権まで握る県議会 歪な「一元代表制」

柳井俊学県議(山口県議会議長)
A 問題はこうしたもとで山口県政が今どうなっているのかだろう。それは県民生活に直結する。県政の現状でいうと、県の仕事を進めるうえでなんでもかんでも県議会にお伺いを立てなければならなくなっている。たとえば県から国に何かしら要望に行く場合でも、小さな案件以外はだいたい県議会が同行するそうだ。県内市町との仕事も同じで、県の各部局が各市町と連携して一定規模の案件を進める場合は先に首長らに話を持っていってはならず、必ず地元県議に話を通しておかなければならないという。地元県議に話を通すということは、県連すなわち柳居に話を通すということだ。県内各地域の団体との県の事業や交渉も同じように報告しなければならないそうで、ここまでくると実質的な執行権を県議会が握っているといわざるをえない。議会で否決されると困るような大きな案件については、昔から執行部と議会が事前交渉するということもあったが、今の「報告」はそういう意味合いではない。県関係者もとにかく柳居はじめ県連が「わしが話を通してやった」という構図を求めると話していた。
C ある県関係者は「今の県庁は職員が自由に県庁の外に出て市民と関係を切り結ぶことを嫌う」といっていた。だから職員も県民よりも常に県議会の顔色を伺い、意向を尊重するしかない。実質的な人事権も県議会にあるといい、各部長人事については柳居が「ダメ」といった人は絶対に部長になれないそうだ。柳居と友田に関しては、部長よりもかなり下の方の人事にまで相当口出ししていると話題になっている。これに対して知事を筆頭に副知事、部長連中など上層部はみなものをいえない状態になっている。関係がひっくり返っているのだ。
B 本来の県政の仕事とは、政策を決定し、予算を編成・執行することだ。それを厳しくチェックするのが県議会の役割だ。それなのに今は予算執行も仕事内容も人事もすべて県議会が実権を握っている。いろいろ話を聞いていると「介入」とかそんなレベルではない。
行政と議会というのは相互の牽制・抑制と均衡によって緊張関係を保ち続ける「二元代表制」が本来の建前だ。下関では市議会議員らが安倍事務所をバックにした市長や執行部の賛成マシーンとして飼い慣らされた「一元代表制」に成り下がってきたが、県政と県議会の関係はこれとまったく逆の一元代表制になっている。ちょっと聞いたことがないし極めて稀なケースかもしれない。県議会が県政を執行するわけで、その県議会をチェックするのは誰もいないというものだ。だからこうしてわたしたちがチェックするほかない。県議会が県政を執行するなら県知事はいらないじゃないか? という話にもなる。村岡が知事として存在しなくても柳居がいれば県政は動いていくというのなら、村岡が知事になることに何の意味があるの? となる。というか、そんなに県政を牛耳っているなら柳居本人が県知事選に出てくるのが筋だろう。告示1週間前だが村岡を引っ込めて本人が出馬したらいいではないか。それで正々堂々と県民からの支持を得なければならない。
A 議会との力関係という意味では、過去の県政を見ても県知事及び副知事を筆頭にした県政側に力があり、「県知事よりも力がある」といわれていた綿屋元副知事なんかは、当時県議会で有力者だった島田明や河野博行らから食事に誘われても絶対に行かなかったという。そのあたりはなれ合わずに一定の線引きをしておいて、厳しく出るときは出るというスタンスをとっていたと県職員が話していた。あんな強面はそういないかもしれないが、現在のようにヘコヘコしていなかったということだ。県職員のなかの縦系列の組織というのがきっちりとあって、こと県政の執行については主導権を握って実行していたのだ。
ところが村岡県政が議会いいなりの関係を続けて来たなかで、県議らが何かいってきたら部長連中も「そうですか」とすんなり話を通すようになったと県職員OBがぼやいていた。だんだんその関係性になれてきているから、職員も職員で勉強しなくなっているといい、県内各地域で生じるさまざまな問題についても、そこに関わる人間関係や今の地域の情勢などを頭に入れたうえで独自に裏をとり、県として判断を下していくことをやらなくなっているといっていた。行政組織としてはそれでは劣化してしまう。
B 取材の過程で県関係者が「本来、行政職員というのは“現場”で鍛えられるもの。誰とでもオープンに付き合い、政治家ともマスコミとも県民ともしっかり関わりながら鍛えられないといい仕事はできない」「本来県ができる仕事はみんなが思っている以上にたくさんあり、そのための執行権があるのに、今はその力を県民のために使えていない」と話していた。そうした閉塞感や鬱積した思いというのは現場職員のなかにかなりあるのだと思う。自民党山口県連の所有物ではなく、県民の公僕なのだ。
C 一連見てきて柳居がいかにも「悪役」みたいに見なされるが、その軍門に降って県政の執行権をみずから放棄しているのはまぎれもなく村岡本人なのだ。県と県議会のバランスが完全に崩れた原因は、はっきりいって知事の怠慢にも大きな原因がある。村岡の評価については「まったく現場に行かない」と県関係者たちは口を揃える。昨年九月に岩国基地で米軍がFCLP(空母艦載機離着陸訓練)をやって問題になり、村岡は現地を視察して「想像よりも大きな音で驚いた」とかいって帰って行ったが、知事12年で米軍基地を視察したのはこれが初めてだったそうだ。
県連への忖度構造が深化 天下りや不正の実態
A この12年で県庁内の自民党山口県連への忖度構造は強いものになってきた。もともと保守大国で忖度しまくりではあるが、より強烈になった。代表的な事例は、2022年の衆議院選で山口3区で林芳正を当選させるために、当時の小松一彦副知事が幹部職員らに後援会の勧誘をさせた公職選挙法違反事件だろう。県の調査では、アンケートに回答した部課長級305人のうち、選挙リーフの配布や後援会入会の協力依頼を受けたのは195人(63・9%)にのぼった。だがこのとき処分された小松副知事は、現在県が管理する宇部空港の宇部空港ビル株式会社(社長・山根信之、元県農林水産部長)の関連会社社長ポストをあてがわれている。きっちり世話されている。
また、山口県が約2000万円のトヨタの最高級車「センチュリー」を公用車として購入し、実質県議会議長である柳居俊学の公用車として運用していることをめぐり、議会や報道に対して最後まで「皇室接遇用」としらを切り続けて柳居の盾となった当時の松岡正憲総務部長は、退職後に県の天下り先では最高ポストとされる県の信用保証協会の会長に就任している。
松岡の前任は、前副知事の弘中勝久だった。小松副知事のときに公選法違反が問題になったが、県職員に後援会活動をやらせるというのも元々は弘中が進めてきたという。だからそういう人間にはきっちりポストがあてがわれている。ちなみに弘中は信用保証協会会長を退いた後、自民党県連内で指示役をやっている。弘中と並んで自民党内部で指示役を担っているのが、これまた県職OBの岡村達也元県議会事務局長という。とにかく自分に忖度する者は「功績」を認めて天下りポストを与えたり、取り込んで重用するというのも特徴的な手法だといわれている。
B 今回の知事選をめぐっても、県庁内では普通では考えられないことが続いている。例えば村岡の出馬にあたり、県議の守田宗治(下松)が県庁内のある部局に対して村岡にぴったりなキャッチコピーを職員一人一つずつ考えるよう指示を出し、そのことが「守田県議からの依頼」ということで職員らに通達されている。これが本当なら公職選挙法違反に問われる事案だし、以前の小松副知事による職員への後援会勧誘事件から何も変わっていない。
他にも選挙活動で村岡が県内各地を回るときに、それぞれの地域にあった演説内容となるよう各部長らに知事みずから情報提供を求めているという話もある。選挙に関わることについて、こういうグレー(法律に抵触する可能性がある)な仕事はたいてい副知事の役回りだし、仮に自分でやるにしても個人的に依頼するものだが、本人が緊張感なく堂々とやっているようだ。関係者の間でも「まったく悪気なくやっているようだが、知事は大丈夫か?」といわれている。ただ実際のところ、県庁内に自分を傍で支えてくれる信頼がおけるブレーンがいないともいわれている。職員からしても、議会が執行権を握っているなかにあって知事である村岡に仕える必要がないのだ。
情けない他の県議たち 県政の実態知る選挙に
C 県議会では昨年5月に議長選があり、柳居の続投(5期連続7回目)が決まった。47人の県議のうち野党票も取り込み、41票の得票だった。この議長選をめぐっては直前に小さな「謀反」が起きたとかで、島田教明(防府)、中本喜弘(美祢)、平岡望(下関)、笹村直也(萩)、笠本俊也(長門)、河野亨(光)ら6人の県議らが会合を持ち、柳居はもう長いので別の候補を出そうという動きを見せたそうだ。議長になりたかったのは島田と河野で、2人の話し合いの結果候補は島田になった。この動きを知った西本健次郎(下関)が仲間に加わろうとしたが、西本の世代・同期は柳居から「柳居を応援する」という血判状を書かされているとかで、後々大変なことになるということで「立場が悪くなるから入るな」と蹴ったらしい。それでも西本は「島田さんを応援したいから入れてくれ」と頼み込んで加わり、6人組の一連の企ては西本から岩国の畑原勇太を通じてみな柳居に筒抜けとなって潰されたという。

平岡望県議
A 謀反組のなかでも厳しく処分されたのが平岡だ。県議会議長選直後に下関市のみもすそ川別館で平岡望県議を囲む会のようなものが開かれ、そこに下関市長の前田晋太郎を筆頭に市幹部職員が総勢15名も呼ばれて会食。その場で平岡は柳居俊学のセンチュリー問題について「“周防大島の坊主”(柳居)のわがまま」なのだとか、上京したさいにもセンチュリーを頼んでいるとか、柳居含め同僚県議らの悪口をいいふらしていたという。
そのことは本紙でも昨年5月末に報道したが、これが柳居の耳に入ったのか平岡は6月16日付で「党の規律を乱す行為」と「党員たる品位を汚す行為」を理由に、2年間の党員資格停止処分を食らった。柳居の反乱分子としてまるで見せしめのように切り捨てられたことで、謀反を起こしかけた他の県議連中も縮み上がってその後はおとなしく飼い慣らされている印象だ。謀反組の残りの県議らは今回の県知事選で挽回しようと必死なのかもしれない。同じく県議だった有近が真っ向から挑んでいるなかで、どうも男どもが情けなく見えてしまう。
B 山口県政を巡っては岩国基地問題、上関原発問題、近年では中間貯蔵施設問題など国政とも関わって重要な案件をたくさん抱えており、県民にとっては県政が何を志向し、どう進んでいくのかは無関係では済まない。産業の育成や地域の発展に県政が果たすべき役割も大きく、これが自民党山口県連なり柳居俊学に牛耳られているというのは健全な状態とはいえない。選挙は基本的に冷め切っているが、この期間を通じて県政の実態を知る機会にするべきだし、おおいに県民が関心を寄せる選挙になることが望まれる。自民党の内輪喧嘩に収斂(しゅうれん)させてはならない。





















