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やりすぎて長門市民ドン引き よそ者が掻き回して自爆した長門市長選 傲慢さ裏目に出た自民山口県連【記者座談会】

 自民党山口県連が乗り出して展開した長門市長ポストの奪取作戦は、持てる権力をすべて動員した末に、南野6889票、江原9974票と、約3000票差で自民党県連のテコ入れした候補が惨敗する結果となった。安倍晋三が絶大な権力をもち、衆議院選挙では毎回、真っ先にゼロ打ちという状況が続いてきた山口4区だが、トップに君臨してきた代議士が突如として射殺される事態のもとで後継争いを巡って安倍派と林派のバトルがたけなわとなり、今回の長門市長選もまた、その延長線上のねじれた状況を反映したものとなった。結果を受けて、一部報道で「安倍派の勝利」を謳うものもあるものの、果たしてそうなのか? 露骨に現職(安倍派)潰しを画策した自民党県連なり選挙区の掌握を試みた林芳正がみずから支持層を蹴散らして終わった自爆選挙ではなかったのか? について、取材にあたった記者たちで論議してみた。

 

南野陣営の出陣式(12日)では、林芳正、吉田真次をはじめ自民党県連や公明党議員が揃い踏みで威勢を上げたが、結果は惨敗に終わった。

南野陣営の出陣式で、林芳正参議院議員㊥、自民党県連幹事長の友田有県議㊨、大西前長門市長㊧(12日)

自民・公明・連合山口が束になって大惨敗

 

  選挙が終わって一般市民の意見を聞いてみると、「今回はすごかった」「長門の市長選ではないみたいだった」「異様な雰囲気だった」などの話題で持ちきりだった。普段、選挙など話題にしない高齢の女性たちまで、お茶を飲みに集まればわいわい話題になるそうだ。「自民党の、それも偉い人たちの争い」という冷めた目線は市民のなかでかなりあったようだ。一地方の首長選挙に代議士本人をはじめとした「偉い人」がたくさん乗り込んできたのだから無理もない。日頃は東京暮らしを謳歌している連中が、こういうときだけ下界に降りてきて、代議士でございをやるわけだ。「ちばけたこと(ふざけたこと)しよるな」と、選挙期間中から話題は広がっていた。

 

  狭い町で自民党が二分して争いをくり広げたから、終わった今も「商売をしているから選挙のことは口にできない」という人もたくさんいる。後に残った亀裂なり禍根は深いものがあるし、そのなかで生きている地域住民はやりにくいと思う。ともあれ、自民・公明の与党に連合山口まで相乗りして組織戦をくり広げ、大惨敗したというのが現実だ。「もう少し接戦になるんじゃないかな」と眺めていた無関係の市民も少なくなかったが、蓋を開けてみれば3000票差。「組織あげて江原をつぶしにかかったように見えたが、こんなものだったの?」と若い人たちも話題にしていた。

 

 自民党、公明党、野党のはずの連合までが徒党を組んで南野陣営の応援をして、大差で完敗したのだからザマはない。いわゆる与野党相乗りがなんの力も持っていないことを証明したようなものだ。県政界を牛耳っているこれらの連中が、真面目に組織選挙をとりくんでこれだったというのなら、ちょっとみずからの実力について省みた方がよいのではないか? 少なくとも長門市には足場がないことをあらわした。

 

 C 「自民党の推薦候補決定からの無理がたたって票が逃げた」。地元関係者は、今回の選挙をそんな風に語っていた。今回の選挙が政策を問う選挙ではないということは、両陣営もだし、市役所関係者などもほぼ一致していた。人口減少、少子高齢化が深刻ななかで、子育て支援や福祉の充実、産業振興など、掲げた政策の大枠に違いはない。背後勢力の存在がバレずに純粋に政策なり、市政のあり方をめぐって論戦をくり広げてたたかったなら、南野が勝つ可能性もあったかもしれない。しかし、いかんせん「南野を擁立したのが大西前市長と笠本県議」というのがみなに知れわたってしまったし、そっちに自民党県連や公明、連合など、権力という権力がすべて支援に回ったものだから、傍目に見ると江原いじめにしか見えず、「大西・笠本・自民党山口県連・林芳正vs.長門のジモティー」みたいな構図になっていった。

 

 実際のところは自民党vs.自民党、安倍派vs.安倍派からの林派転身組みたいな感じなのだが、やり過ぎたせいで選挙期間中から、「なんだこれは?」という違和感が市民に広がっていった印象だ。それで、自民党山口県連と組んだ大西・笠本に加えて林芳正まで乗り込んでかき混ぜるものだから、よそ者が手を突っ込んできやがった! という印象が広がるだけだった。やりすぎて自爆していったようにしか見えないのだ。

 

  やり過ぎといえば、選挙直前の10月27日に江原の目玉事業でもあったキャトルステーションの開所式が油谷地区であったのだが、来賓として複数人参加を予定していた県の長門農林事務所が、前日になってほかの用事があるからとキャンセルし、一人も来なかったという話もあった。キャトルステーションは、肉用牛の繁殖農家(子牛を生産する農家)で生まれた生後4カ月程度の子牛を、市場に出荷するまでの約半年間預かって飼養管理・育成する施設だ。県内では初めての設置ということもあって、長門農林事務所も一緒に準備してきた事業だったはずだ。

 

 「直前のキャンセルなんて解せない」と話題にされていたし、「柳居俊学あたりの指令じゃないのか」「子どもっぽい嫌がらせ」と受け止めた関係者もいた。ちょうど南野陣営が「江原は県とのパイプがない」と訴えていたところだったし、それを可視化したかったのだろうかという受け止めもある。「ほかに用事ができた」という理由の真偽は知りようがないが、県行政に政治の世界の気に食う気に食わないが持ち込まれたとすればどうかと思うし、気に食わない江原が当選したからといって長門市が冷遇されるというのもまた違う。

 

 選挙以前から、なにかと江原市政が県政を飛びこえて安倍晋三直通で物事を決めたり、県政とそりが合わないという舞台裏はあったようなのだが、だからといって「県政とのパイプ」をちょん切るような扱いをするのは違うだろう。長門市民も山口県民なのだから。

 

失敗したポスター作戦 ド派手な選挙敗れる

 

不評を買った二連ポスター

  自民党内で見ると事前の推薦問題から互いにヒートアップしていたが、選挙のなかでやっぱり大きかったのは、最初から話題になっていた林芳正との二連ポスターの影響だったようだ。12月10日に時局講演会をするという告知ポスターは、ノルマもあって選挙前に町中に張り巡らされていた。だが、国会議員を招いての講演会なのに、開催場所は小さな南野事務所になっているなど、「偽のポスター」はかなり心証が悪かったようだ。下関では自民党がよくやる手法ではあるが、長門の人は初めてだったのだろう。安倍晋三が急逝してまだ1年そこらで無神経に林が乗り込んだことで、安倍派の怒りに火をつける効果にもなって、とくに女性たちが必死になって江原支援をくり広げる動きになった。

 

 A このポスターが林芳正の支援者からも別の意味で不評を買っていて、「なんで林先生が下なのか」「林先生が座布団になっている」などとも語られていた。街頭のゴミ箱などに貼られて、下の方で林芳正がぐちゃぐちゃになっていたりもしたそうだ。南野にとっては新3区の代議士になる予定の林芳正の後ろ盾をアピールしつつ、知名度を上げるための重要なポスターだったはずがいろいろと裏目に出た形だ。選挙期間中に入ると、別のものに貼り替えられたのだが、南野をかたどった顔なしのピンク色のイラストに「女性市長誕生で市政再起動」と書かれていて、「今度は幽霊みたいなポスターに変わった」とまた話題になっていた。このようなポスターの貼り替え等々も含めて、長門市長選では経験がないし、相当にカネがかかった選挙だったことは疑いない。

 

選挙中貼り替えられたポスター

 C みんなが「異様な雰囲気だった」という内容を聞いてみると、選挙期間中にがたいのいい男たちが「女性市長誕生…」のポスターを黙々と貼り替えていたり、街頭で演説する南野の周囲を男たちが固めていて、全然女性らしくない雰囲気だったともっぱらだった。代議士連中がわんさかとり囲んでやっていたのも、「男たちの操り人形」みたいな印象にしかならないことが恐らくわからないのだろう。選対本部長がアホなのか、「偉い人」たちが出しゃばったのかはわからないが、そのような選挙でもっとも肝心なはずの気配り、心配りが至らない。「本人の演説は弁も立つし、内容も悪くはなかったが、とにかく物々しかった」と、演説を聞いた市民が話題にしていた。

 

 南野の方は選挙カーに先導車、伴走車がついて計3台で練り歩いていて、本体とは別に「女性市長を!」と南野への支持を訴えて回っていた車がもう1台いた。途中で「女性市長誕生ですべての市民に寄り添う市政を実現する会」という得体の知れない団体がチラシを全戸配布したり、ありとあらゆる手段を使って選挙戦を展開したようだ。チラシの印刷・配布一つとっても相当なカネと労力が費やされているし、あのがたいのいい男たちはどこの組織の誰なのか? 等々、様子を見ている有権者からするとつい想像してしまうものだ。

 

 貼り替えポスターやチラシなどからして、コンサルでも雇ったのだろうか? といわれるほどの手際とタイミングの良さで、電通が乗り込む名護市長選や沖縄県知事選などとも手口としては酷似している。しかし、選挙全体のプロモーションで大失敗をしているのだ。木を見て森を見ずというのだろうか? 先程からいっているように、「よそ者がひっかき回す選挙」について肝心な長門市民がどん引きしてしまって、異様さすら感じてしまって、それが選挙終盤の空気を作っていった。だから“自爆選挙”というのだ。過ぎたるは及ばざるが如し――に尽きる。江原憎しでムキになればなるほど逆効果なのに、それを力技で押し通そうとした。南野陣営を指揮していたのが誰なのかは知らないが、恐らく“押してダメなら引いてみな”ができないタイプなのだろう。

 

 南野陣営が派手な選挙をくり広げるのに対して、江原の方は、選挙カー1台に事務所は電話1台、FAXくらいだったそうで、「地味な選挙とド派手な選挙で、地味な方に軍配が上がった」と評されていた。「田舎の人はコツコツ真面目に生きる性分だから、ド派手なやり方は合わない」という市民もいた。そういうところまで含めて見られているし、やり過ぎがたたったというほかない。

 

 B 自民党山口県連とはすなわち県政のドン・柳居俊学(県議会議長)であり、安倍亡き後に県連レベルで林派の力がますます増すなかで、笠本ラインで長門をまとめられると判断してかかったのだろう。ところが二連ポスター問題に始まり、聞けば聞くほど林芳正がドジを踏んだ印象だ。選挙区としての長門市掌握に欲を出して前のめりになりすぎて、「蓮田あるいは泥田にはまって、ずぶずぶになって最後まで足が抜けなくなってしまった…」などと語られる始末だ。これまでは参議院で「絹のハンカチでも振っておけばよかった」ところから、選挙区と向き合わなければならない立場になるのだが、江原陣営を支援した安倍派界隈からは総スカンを食らっている。地元の喧騒とは距離を置きつつ、すべてを包含していくのが代議士としてはベストだろうが、出しゃばりすぎて恨まれた。これは新3区の長門票には随分と影響するだろう。

 

市政は市民のもの 安倍派勝利ともいえぬ結果

 

当選した江原市長(左)と南野佳子

  安倍後継の吉田真次(山口4区)も、選挙選最終日の18日に南野の選挙カーと一緒に日置・油谷に来たり、応援の動画メッセージを出したりしていた。18日は当初は南野と一緒に徒歩遊説をするということでチラシまでできていたが、一旦中止になっていたそうだ。それを笠本に直々に頼まれて自分の判断で応援に入ったとかで、安倍派は「安倍さんの支持者の顔に泥を塗った」と気分を害していて、「こんなことしたら比例区の投票で“自民党”と書いても吉田さんの名前は書けない」といわれている。林芳正と吉田真次が矢面に立った感じにも見えて、むしろ「そこまでできる柳居俊学の権力ってなんなんだ?」という疑問を口にする人も少なくない。

 

 B だから何度もいうように、いまや山口県政のドンであり、「白馬に乗る殿様ならぬセンチュリーに乗る柳居俊学様」なんだって。というか、県政を牛耳りたいのなら、県議会議長ではなく県知事選に本人が出てくればよいではないか。村岡で二人羽織するんじゃない。

 

 C いくら保守が強い地域だからといって、市長は自民党山口県連が決めるものではなく、市民が決めるものだ。柳居俊学や林芳正あたりが「私が決める」といわんばかりに乗り出したものの、長門市民に「けっこうです」と熨斗(のし)を付けて断られたのが選挙結果だ。

 

 南野陣営で主要な役割を果たしていたのは県議の笠本といわれている。今春の県議選で、江原に近い企業などが推した対抗馬に約3000票差で勝ったから、市長選も行けると踏んでいたのだろうといわれているが、選挙期間中に雲行きが怪しいことがわかってきて、事務所内でかなりカリカリしていたようだ。名刺の出し方が悪いとか、握手の仕方が悪いとかで南野を叱り飛ばしているところを見た市民もいて、そういうのもまた、「男たちに操られる操り人形」のような印象で広まっていくのが選挙だ。終盤はとにかく事務所の空気が暗かったそうだが、次にこの市長選の火の粉を浴びるのは誰か? は考えた方が良いのではないか。「ノーサイド」などといって綺麗事では済まないし、これだけで終わるわけがないのだ。

 

  市民の方は、人口減少や第一次産業の衰退をすごく危惧している。沿岸漁業も油代が高く、魚を追って冒険することができなくなって水揚げ量が減っているうえ、県一漁協になって独立採算を求められるから、毎年組合員から賦課金を徴収せざるを得ない状況があり、組合員の減少は激しいのだという。後継ぎがいなくて養殖をやめるという事業者がいることなども話題になっていた。水産業の街として栄えてきたし、基幹産業の衰退が住民生活に直結する。空き家の数もすごい。

 

  今回の市長選挙はそのように安倍派の勝利とか江原市政の評価というより、自民党県連が首を突っ込み過ぎて市民の反発を買った結果であり、江原の方も2期目の今後はこうした長門市の現状にいかに向き合うか、その姿勢が問われることになる。はっきりいって江原が勝った! といえるものでもないし、林芳正界隈の自爆選挙だったというだけだ。安倍派は安倍派で、もはや残党でしかないという事実は変わらないし、大将首をとられた派閥は溶け出してどうしようもない。そこからの転向組が長門で仕掛けたものの、あまりにも品のない現職潰しをやるものだからひんしゅくを買い、はねつけられたというだけだ。従って安倍派が「勝った、勝った」とはしゃぐのもまた違う。絶妙な結果ということだろう。

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