(2026年2月16日付掲載)

米軍が駐留するカタールのアル・ウデイド空軍基地
米トランプ政府は、1月の南米ベネズエラに対する国際法違反の軍事作戦後、中東イランで反政府運動が高まったことを好機とみて、イランに対する軍事的圧力を強め、トランプが一方的に合意破棄したイラン核協議の再開だけでなく、「体制転換が最善策」とまで主張している。先月末に米空母打撃群を中東海域に派遣し、カリブ海に配備していた最新鋭原子力潜水艦「ジェラルド・フォード」を増派し、軍事恫喝を強めている。そのなかでイラン対岸のサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)は1月末、イラン攻撃のためには領土、領空、領海を使わせないとの声明をあいついで表明した。
米国のイランへの軍事作戦に対して湾岸諸国は非難を強めており、昨年6月に米国によるイラン核施設への攻撃が予測された時期には、サウジアラビア、UAE、バーレーン、カタール、クウェート、オマーンの君主制アラブ6カ国でつくる地域協力機構「湾岸協力会議(GCC)」が、国内の米軍基地をイラン攻撃のためには使わせないとする声明を発した。米国がそれらの国々にある米軍基地を出撃拠点にしてイランを攻撃した場合、それらの国々が報復攻撃の標的になるためだ。
そのため米国はB2ステルス爆撃機を米本土から飛ばしてイランを攻撃し、イランは報復としてカタールとイラクにある米空軍基地を弾道ミサイルで攻撃したが、カタール側に事前通告をおこなうなど避難を促したうえでの「抑制的報復」にとどまった。カタールは自国のLNG施設やイランとの共同ガス田の脆弱性から、米国に対してインフラ防護や地域の緊張回避のため「攻撃出撃拠点にするな」と強い要請と圧力をかけている。
アラブ地域で米軍は、イラク、ヨルダン、クウェート、サウジアラビア、カタール、バーレーン、UAE、オマーン、トルコ、さらにインド洋のディエゴガルシア島(英国領)に基地を置いている。年頭から段階を画したイランへの軍事的圧力は、これらアラブ諸国間の緊張を一層激化させている。
ペルシャ湾を挟んでイラン対岸に位置するUAE政府は1月26日、同国の領空・領土・領海を「イランに対するいかなる軍事行動にも使用させない」と公式声明を出し、中立性と地域安定への関与を改めて強調した。「軍事作戦に直結する地理的条件を提供しない」と明言したUAE外務省の声明は、イラン周辺国の空港や港湾の使用や上空通過を禁じることが米国の作戦遂行に与える影響を踏まえたうえで、米軍の軍事行動を牽制したものだ。
また同省は、このような作戦に関して「いかなる後方支援もおこなわない」とも強調。戦闘に参加しなくても、補給、整備、輸送、拠点提供などの兵站支援は戦争への政治的関与とみなされるためだ。加えて、対立の解決手段として対話、緊張緩和、国際法の順守、主権尊重をあげ、外交による紛争解決を基本方針としてうち出した。
先月、米軍が空母「エイブラハム・リンカーン」を含む海上部隊を展開したことにより湾岸諸国は緊迫度を深め、米国が軍事攻撃に出れば、イランだけでなく、イラクやイエメンの親イラン勢力も一斉に報復攻撃に出るとの発信を強めている。この地域では限定的な衝突であっても影響が全域に波及するため、国としての立場の明確化はリスク管理の基本とされる。
UAEが領域の不使用と支援拒否を同時に発表したことは、米国とイランの戦争に「巻き込まれる」ことだけでなく、「巻き込まれたと疑われる」ことさえも避ける狙いがあるとみられ、「湾岸の交通・物流の要衝として、火種の拡大を抑える政治的な防波堤を先に築いた」(同国メディア)と評されている。
中立の宣言は、外交回路を残すことでもあり、自国のみならず戦争のエスカレーションを防ぐための地域的な防衛措置ともなる。
UAEの発表を受けて、隣国サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は1月27日、イランのペゼシュキアン大統領と電話会談をおこない、「米国を含む第三国による対イラン作戦において、サウジアラビアの領空、領土、道路、基地も使わせない」との方針を表明した。会談での合意内容を国営サウジ通信が報じ、そのなかでムハンマド皇太子は、地域の安全と安定を強化するために「対話を通じて相違を解決するあらゆる努力」を支持すると確認している。
米国がイランに深刻な攻撃をおこなった場合、湾岸諸国にある米軍基地への報復攻撃は避けられず、地域内のパワーバランスは崩れ、インフラは壊滅的被害を受けかねない。昨年六月の米国によるイラン核施設への攻撃後、GCC諸国は「国連憲章や国際法の根幹を破壊するもの」とイスラエルや米国を非難したイランの主張に理解を示し、GCC諸国も加盟するアラブ連盟とイスラム協力会議は、名指しを避けながらもイランへの軍事行動は主権侵害だとの声明をそれぞれ出している。
2022年5月からは「アラブ・イラン対話会議」が毎年開催され、地域的課題について協議が続いており、25年4月にはサウジアラビアのハリド国防相が、26年ぶりにイランを訪問して国王からの書簡を渡すなど、関係改善への努力が進んでいる。
米国がベネズエラ攻撃と同じようにイラン攻撃に踏み切った場合、米国は中東地域における足場を失うことになりかねず、国連安保理が機能不全に陥っている今、同盟国の結束した態度表明が米国の横暴を食い止める役割を果たしているともいえる。
アラブ諸国が大国間の紛争から自衛するため、基地だけでなく領域の使用も認めないと主権を行使する一方で、米軍の国内自由使用を認めるだけでなく、米国にかわって長距離ミサイル配備をし、硬直した思考で隣国との軍事的緊張を高める日本政府の隷属的態度が一層浮き彫りになっている。



















