(2025年9月24日付掲載)

熊本一規氏
9月18日、山口地裁岩国支部において上関原発裁判の被告(祝島島民の会)側証人への尋問が行なわれ、祝島漁民の岡本正昭氏、祝島島民の会の木村力代表とともに筆者もまた証人となって尋問を受けた。以下、筆者への尋問の概要を報告する。
1、尋問での説明事項及び指摘事項
尋問を受けて筆者は(1)の基礎知識を説明した後、(2)及び(3)の事項を指摘した。
(1)公共用物及びその使用に関する基礎知識
海は、公共用物(直接に公共の福祉の維持増進を目的として一般公衆の共同使用に供せられる物[例は道路・公園・港湾・海・河川等]であり、また「公共用物」中の水面にあたるので「公共用水面」である。公共用物と公用物(国等の行政主体自身の使用に供される物[例は官公署の土地・建物等])とを併せて「公物」という。
「公物の管理」とは、公物の管理者が、公物の存立を維持し、これを公用又は公共の用に供し、公物本来の機能を発揮させるためにする一切の作用をいう。
「公共用物の使用」には、自由使用、許可使用、特別使用の3種がある。
「自由使用」は、一般公衆による自由な使用で、例は、道路の通行、海での海水浴・釣り等である。
「許可使用」は、他人の共同使用を妨げるため一般的には禁止されているが、特定の場合に一定の出願に基づいて一般的禁止を解除されて一時的に許容される使用で、例は、道路工事、屋台、デモ等である。
「特別使用」は、公共用物に一定の施設を設けて、それを継続的に占用する特別な権利を特定人に設定することによる使用で、例は、電柱や水道管の存置(そのまま置いておくこと)、定置網や養殖いかだの存置等である。ちなみに、電柱等の設置は許可使用だが、設置された電柱等の存置は特別使用にあたる。
自由使用は許可その他の行為を何ら必要としないが、許可使用には「使用許可」が、特別使用には「占用許可」が必要である。公共用水面の使用許可及び占用許可は、いずれも公物管理法(個々の公共用物に即して、それぞれの管理に関し河川法、港湾法等が制定されており、それらを総称して「公物管理法」という)に基づいてなされる。
(2)埋立工事は許可使用であり、自由使用を排除できない
埋立は、護岸の設置→護岸の存置→土砂の投入→土地の存置→竣功認可という手続きによって遂行される。竣功認可により公共用物は廃止されて私有地になり、埋立事業者が土地所有権を取得する。
したがって、埋立工事は護岸の設置から始まるが、護岸の設置は電柱の設置と同じく許可使用であり、許可使用は一般的禁止を解除されて初めて自由使用と同じ立場に立つにすぎないから、自由使用を排除できない。本件に即して言えば、埋立工事により、祝島漁民の一本釣り等の自由漁業(自由使用にあたる)を排除できない。
(3)公有水面埋立法は公物管理法ではない
埋立の手続きを定めた公有水面埋立法は公物管理法ではない。その根拠としては次の①~③が挙げられる。
①公物管理法に必ず含まれる「使用許可」や「占用許可」の規定が公有水面埋立法にはない。
②公物管理法は、自由使用から成る私法秩序に公共が「使用許可」や「占用許可」で介入する法律であるため、「公共目的」を謳わなければならないが、公有水面埋立法には「公共目的」が謳われていない。
③公物管理には「公物の存立維持」が必須要件であるから、埋立で公物を潰す公有水面埋立法が公物管理法であるはずがない。
公物管理法は、公物に関する法的効力を持つが、埋立地(私有地)に関する法的効力を持たない。反対に公有水面埋立法は公物に関する法的効力は持たないが、埋立地に関する法的効力を持つ。公有水面埋立法の埋立地に関する法的効力は、「埋立免許」により埋立地の所有権者を予め確定しておくこと、及び「竣功認可」により埋立事業者が埋立地の所有権を取得することである。
したがって、埋立事業には、公有水面埋立法に拠る効力及び公物管理法に拠る効力の両方が必要であり、公有水面埋立法に拠る埋立免許→公物管理法に拠る使用許可(工作物の新築等)→公物管理法に拠る占用許可(水域の占用等)→公有水面埋立法に拠る竣功認可・土地所有権の取得という手続きを経て埋立事業者が埋立地の所有権を取得する。ただし、公物管理法に埋立免許に基づく事業への使用許可・占用許可の適用除外規定がある場合には、埋立免許に伴って使用許可・占用許可が出されたものとみなされる(公物管理法のうち適用除外規定があるのは港湾法、漁港漁場整備法、適用除外規定がないのは河川法である)。
2、中電の犯している二つの自己矛盾
1を踏まえた結論として、筆者は、本件訴訟において中電の犯している二つの自己矛盾を指摘した。
(1)「排他的埋立」の主張は「竣功認可も埋立地所有権取得も必要ない」と言うに等しい
一つ目の自己矛盾は、「埋立免許により埋立事業者は他の水面使用を排除して埋立工事を実施できる」という中電の「排他的埋立」の主張、言い換えれば、埋立免許により埋立施行区域が「公共用水面」から「排他的水面(他の水面使用を排除し得る水面)」に変わったという主張である。
公有水面埋立法は、1条(本法において公有水面と称するは公共用水面にして国の所有に属するものをいい、埋立と称するは公有水面の埋立をいう)に示されるように、公共用水面にのみ適用し得る法律である。
したがって、もしも埋立免許により埋立施行区域が「公共用水面」から「排他的水面」に変わったとすれば、埋立免許以降、公有水面埋立法を適用できなくなり、竣功認可も埋立地の所有権取得も不可能になったことになる。
要するに、「排他的埋立」の主張は「竣功認可も埋立地所有権取得も必要ない」と言うに等しく、したがって、原発を立地させるために埋立地造成を企図している中電が「排他的埋立」を主張するのは自己矛盾なのである。
(2)一般海域占用許可の申請も自己矛盾
二つ目の自己矛盾は、2008年10月に埋立免許を得た後、2019年から2021年にかけて、毎年、ボーリング調査を実施すべく、山口県「一般海域の利用に関する条例」に基づき、占用許可申請を出したことである。
中電の得た埋立免許は、その後期限が切れかけても伸長を繰り返して現在にまで続いている。したがって、中電の主張に基づけば、2008年10月埋立免許取得以降現在に至るまで、埋立施行区域は排他的水面であり続けていることになる。
ところが、山口県「一般海域占用許可基準」に「一般海域は公共用物」と明記されていることが示すように、山口県「一般海域の利用に関する条例」もまた公共用水面にのみ適用し得る条例であり、したがって、占用許可申請は公共用水面でしか行なえない。
したがって、中電の主張に基づけば公共用水面でなくなったはずの埋立施行区域で、公共用水面でしか申請し得ない占用許可の申請を出したことになり、これもまた自己矛盾を犯していることになる。
「1(2)埋立工事は許可使用であり、自由使用を排除できない」こと及び中電の犯している二つの自己矛盾を踏まえれば、中電の「排他的埋立」の主張が誤りであることは明らかである。

腕を組んで中電のボーリング調査を阻止する祝島の婦人(2011年、上関町田ノ浦)





















