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インボイス制度は社会を壊す税制 軽減措置終わる3年以内に中止を 待ち構える消費税増税 税理士の会が院内集会 

 インボイス制度の中止を求める税理士の会は4月25日、衆議院議員会館でインボイス制度開始後初となる第5回の国会決起集会を開催した。同会は「税制が社会を壊そうとするとき、税の専門家が声を上げなければならない」との思いから税理士有志によって設立され、2022年5月からこれまでに4回の国会集会、2回の勉強会を開催するなど活動を展開してきた。インボイス制度導入から約半年、初めての確定申告を終えた段階で、どのような影響が出ているのかが各地の税理士から報告され、2027年に激変緩和措置が終了する前にインボイス制度を廃止させるため、活動を強めていくことが確認された。

 

菊池純氏

 挨拶に立った菊池純会長は、「消費税は世界で164カ国が採用しているが、帳簿方式をとっているのは日本だけだ。帳簿方式のメリットは、免税事業者が排除されない、帳簿や伝票の保存がインボイス方式に比べて格段に楽だということだ。インボイス方式の欠点の真逆の制度であり、これが帳簿方式を続ける理由だ。過去に売上税が国会で提案されて廃案になったが、それはインボイス方式をとっていたからだった。インボイス方式は国民から駄目だと突きつけられて消費税が導入された経緯がある」とのべた。

 

 今回のインボイス制度は「インボイス方式と帳簿方式の併用方式」といいながら、帳簿方式のメリットをかき消すものであり、免税事業者を残したうえで事業者に課税・免税を判断させる「姑息な制度」をとっていると指摘。「政府は“相互牽制作用”といい、10%の税額転嫁が楽になるといっているが、断じてそのようなことはない。インボイス制度は税率を変えない消費税の増税制度だ。その消費税をだれが負担するかの押し付け合いになり、結局、弱い免税事業者が負担したり、値引きに応じなければならない、廃業に追い込まれるといった形になっている。“相互牽制”などといって密告制度のようなものを導入し、消費税を払わせることは断じてしてはならない」と強い口調で訴えた。制度が導入されていっそう廃止しなければならないとの思いを強くしたと語り、「税制にまったくそぐわないインボイス制度は税理士が中心になって廃止に追い込まなければならない」と呼びかけた。

 

 集会では、日本大学法学部教授で税理士の阿部徳幸氏が「消費税そしてインボイスを改めて考える」と題し、消費税やインボイス制度の問題点とともに、韓国を例に、今後国・財務省がどのような方向に進もうとしているのかを講演したほか、株式会社神田どんぶり勘定事務所の神田知宜氏が「これからどうなる? インボイス」と題して、具体的なフリーランスや企業の事例をもとに、どのように負担が増えていくのかを明らかにした【要旨を下に別掲】。

 

 インボイス制度を考えるフリーランスの会(STOP!インボイス)の小泉なつみ氏が7000人から回答を得た実態調査の報告をおこなった【既報】のち、参加した税理士からは免税事業者の取引排除や、確定申告での膨大な作業に忙殺されている実態、今回の確定申告でインボイス登録事業者の未申告者が相当数にのぼり、制度としてすでに破綻している問題も明らかにされた。

 

 税理士の1人は、インボイス制度の中止を求める理由として「公平性の観点」「事務負担の観点」の2点をあげた。担当していた漫画家が制度開始後に取引先から卸値を下げられて収入が減ったため、別の職業を探した方がいいか悩んでいたこと、「インボイス制度は不公平で弱い者いじめの制度だ」と話していたことにふれ、こうした取引排除や卸値の引き下げが起きていることを話した。また、事務負担の面では、受けとった領収書がインボイスの要件を満たしているかどうか、1枚1枚確認する手間がかかり、さらにその番号が国税庁の公表サイトで登録済みとしてヒットするかどうかといった作業が入り、煩雑になっていると話した。ソフトを導入した中小企業もあるが、「お金がかかった」「操作方法を覚えるのも大変だし、サポートセンターの電話はつながらない」という実態を語り、「税の三原則である公平・中立・簡素のうち、とくに消費税は簡素でなくて、複雑な制度になっている」と、改めて制度の中止を求めた。

 

消費税の押しつけ合い 取引排除や値引きも

 

インボイスの中止を求める税理士たちの院内集会(4月25日、東京)

 新宿区の税理士は、「3月決算法人は比較的中堅の会社が多いが、インボイス、電帳法も含めてかなり事務の手間がかかり、システムを導入した会社は何百万円というお金がかかるなど、大変な負担になっている」と話した。小規模事業者と取引の多いある企業では、インボイス制度開始前に予測していた消費税の増加分と、3月決算で出てきた金額を比較すると、思いのほか消費税額が少なかった。取引先の免税事業者が予測以上にインボイス登録し、そこに負担が回っていることが考えられるという。

 

 また、これまで白色申告で自分で対応してきたような人たちが、「国税庁のホームページでやったが、消費税のところはどこに何を入力していいかわからない」と、事務所に依頼に来るケースも多かったといい、こうした小規模事業者が、消費税負担に加えて税理士費用の負担も増加していることを指摘した。

 

 「決して強要したわけではないが、免税事業者が意外と課税事業者を選ぶこともあったし、9月30日を過ぎてからやはりインボイス登録したいという事業者もあった。相手先が消費者なので登録する必要がないのに、まわりに勧められて登録する方もいた。負担は増えるし、制度がまだ行き渡っていないことが大きいと思う。3年後を見据えて滞納問題も大きくなると思うので、もっと国民に制度を知ってもらい、今後大変なことになることを知ってもらうためにも、税理士の会はとても必要だと思う」と語った。

 

 同じく新宿区の税理士は、帝国データバンクや東京商工リサーチの調査で、税理士の廃業の増加率がもっとも大きかったことにふれ、「事務負担の増大やコストを顧客に転嫁できない経営悪化が原因なのか、フリーランスと同じく免税の税理士が得意先から切られることもあるのではないかと思っている」と話した。実際にこの事務所でも、「インボイスに対応していない」という理由でこれまでの税理士を辞めて来たケースがあり、「お客さんが増えたのだが、非常に複雑な気持ちだった」と語った。「うちの顧客でも免税のフリーランスが得意先に圧力をかけられて登録せざるを得ない状況になり、死活問題になっている。激変緩和措置にだまされてはいけない。2026年までに中止しなければ大変なことになってしまうという話があったが、会の一員としてみんなに伝え、輪を広げていきたい」と話した。

 

 税経新人会インボイス制度特別委員会の岡澤利昭氏は、すでに破綻したインボイス制度の実態を報告した。

 

 問題の第1点目は、登録状況が免税事業者のわずか1割台であることだ。シルバー人材センターの高齢者やフリーランスのごく小額な収入しかない人々、教員や会社員が出版社から得ている報酬などまで含めると、分母は1000万者をこえると予想されるが、実際の登録は150万者で15%程度となっている。その裏では、免税のままでいる事業者に対し、税抜き価格で消費税相当額が値引きされるなど、物価高のなかで値引きの嵐が広範囲に広がっているという。

 

 さらに問題なのは、未申告の問題だ。同氏が所属する税理士会船橋支部で税務署より「今年度の消費税の申告状況」について報告を受けたところ、新規登録者の未申告件数は1800件、43%にのぼっていたという(速報値)。

 

 「つまり、過半数強しか申告していないということだ。3月末の直前になって“助けてくれ”という声がたくさん来ると思っていたが、まったくこなかった。なぜかと思っていたら43%が未申告ということだった。顧問先に保険代理をしている方がいるが、所属している保険代理店は業界トップ2でおよそ1000人の個人が所属している。その会社では、今回登録した方のうち申告していないと思われる方がそこそこいるから、申告を忘れないようにとのお達しがあったという。会社の判断ではなく、税務署か国税庁が未申告者が多いことから、新たに免税から課税に登録した企業に対して指示したのではないかと思う」とのべた。

 

 「今回新たに登録した方々は非常に零細であり、転廃業の割合が非常に高い。廃業したときに取消届けを出さないことも考えられる。税務当局も明らかに所在不明でなければ一方的な取り消しはできないので、登録件数のうち申告件数がどんどん下がり、2、3年後には未申告割合が5割をこえるのではないか。まさにインボイス制度が破綻しているととらえる必要がある」と指摘し、「非常にけしからない制度だし大変な問題だが、同時に制度としてすでに破綻していることを踏まえながら今後の反対運動をしていく必要がある。経過措置中の3年間が勝負だ。おそらく政府の方も3年間のうちに大改正せざるを得ないだろうし、運動によっては中止の可能性もあると思う。非常に大事なところに来ている」と強調した。

 

 最後に挨拶した湖東京至税理士は「インボイス制度が廃止されなければ、まず税率はすぐ15%になるだろう。その後20%、25%と引き上げられる。ヨーロッパがそのような高い数字だからだ。一方、法人税以外の税金はそれほど下がらない。もしこのまま税率が上がると、上がる都度、軽減税率の枠が広がり、強い業界が与党に癒着して“うちの業界だけ税率を下げてくれ”という競争が起こる。これもヨーロッパでさんざんやられてきたことだ。軽減税率の運動は消費者の運動ではなく、業界の納税額の運動なので、業界の強いところは勝ちとるようになる」と話した。

 

 そして重要なこととして簡易課税の廃止が早い時期に出てくる可能性に言及した。そうなると大増税になる業界が出てくること、同時に税率の引き上げがおこなわれて消費税が基幹税どころか中心的な税金となる可能性があるとのべ、「ここでつぶさない限りそういう時代が来る。インボイス制度は消費税の大増税につながるということは、中小企業や実務家だけの問題ではなく、国民全部の問題だということだ。なんとしても3年以内につぶすということで運動を強めていかなければならない」と訴えた。

 

 最後に「消費税の大増税になるインボイス制度を中止せよ!」のシュプレヒコールで締めくくった。

 

(5月1日付)

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