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現場から「インボイス阻止」の声を 6月14日に国会前で全国一揆 業界や党派を超え作戦会議 “困る皆が力合わせるとき”

 インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称「STOP!インボイス」)は18日、新宿ロフトプラスワンで、「史上最大のSTOP!インボイス大作戦……のための作戦会議」と銘打ったトークイベントを開催した(協力・インボイス制度の中止を求める税理士の会)。フリーライター、声優、アニメーター、漫画家、演劇人など、女性たちが立ち上がって活動してきたこれまでの経験を踏まえ、6月14日に決まった「STOP! インボイス全国一揆」に向けて全国で狼煙を上げるためにどうするか、経済ジャーナリストや声優、アニメーター、俳優、国会議員、タレントなどをゲストに迎え議論した。オンラインでの配信も含めおよそ300人が参加・視聴した。

 

満席となったSTOP!インボイスの作戦会議(18日、新宿ロフトプラスワン)

 作戦会議は、インボイス制度を憂慮する声優たちで立ち上げた団体「VOICTION」共同代表の岡本麻弥氏、ライターで「STOP! インボイス」の阿部伸氏の司会で進行した。参加者・視聴者の意見も募り「6・14 STOP! インボイス全国一揆」のロゴも決定。この日に「STOP! インボイス愛知支部」が立ち上がったことの報告もされた。

 

 第一部はタレントのラサール石井氏、経済ジャーナリストの荻原博子氏、政策コンサルタントの室伏謙一氏、ミュージシャンの和(旧・橘いずみ)氏をゲストに、インボイス制度や消費税の問題点を議論した。

 

 経済ジャーナリストの荻原博子氏は、今財務省がインボイス制度を導入しようとしているのは、「一言でいえば増税したいということ」と指摘。社会保険料も上がり、雇用保険料も昨年10月、今年4月の二度にわたって上がり、高齢者の健康保険料を引き上げる議論が進んでいることにふれ、「今、健康保険料と税金で(国民の負担割合は)だいたい48%。五公五民だ。歴代政権はアメリカのまねをしているが、アメリカ合衆国には消費税はない。そこだけアメリカのまねをしない。消費税がもっともいけないのは逆進性が強く、弱い人からとるところ。日本の社会をだめにする」とのべた。

 

 ヨーロッパなどはインボイス制度を導入しているが、日本は消費税導入時に国民の反対が強かったために、消費税を導入したい財務省が免税点制度をつくった経緯にふれ、当初は売上3000万円以下が対象だったのが、1000万円以下になり、今回それをなくそうというのがインボイス制度だと指摘。「インボイス制度の一番いけないところは、複数税率が可能になるので、どんどん税金を上げていけることだ。本当に弱い者いじめだ」と語った。

 

タレント、ジャーナリスト、コンサルタント、ミュージシャンも登壇した第一部(18日)

 政策コンサルタントの室伏謙一氏は、「消費税を“間接税”と呼んでいるが、事業者を対象にした第二法人税だ。財務省はさらに税金をとりたいという発想でやっている。日本の経済状況がいいといえる人がいない状況のなかでそんなことをする。財務省はマクロ経済、実態をわかっていない人たちだ」と、財務省のレベル低下を指摘した。税は国の歳出の前提ではなく、あくまでも増えすぎた通貨を吸収する道具にすぎないことを強調。「今この状況でやらなければいけないことは減税だ」とのべ、財務省のエリートマジックから解き放たれてほしいと語った。

 

 タレントのラサール石井氏は、業界のなかでもインボイス制度を理解している人が非常に少なく、事務所にいわれて登録しないといけないと思っている人が多いことを語った。

 

 「消費税を10%にするとき、公明党が票にならないと思って軽減税率をつくって3年たった。国は全部10%にしたときを考えて、損した分をとり戻そうとしているのではないか。しかも複雑にしてだれもわからないようにして、そっとやろうとしている」と指摘。インボイス制度の導入で見込まれる2480億円という増収分は「ステルス戦闘機を四機ほど買わなければ持ってこれる」と強調した。

 

 また、「エンタメ業界で考えると、廃業していく声優やアニメーターが増えていくと裾野がなくなり、クオリティが下がる。国はクールジャパンといって、おいしいところだけとろうとしているが、芸術やエンタメにまったくお金を使わないから、クオリティが下がっていき、世界で通用するものではなくなってしまう。要するに貧乏人の力を削いで金持ちを優遇しているから国力は下がっていく。みんな余裕ができて子育てもでき、子どもも産めて、それでこその国防だ。どんどん国を滅ぼす方向に行っている」と語った。

 

 ミュージシャンの和氏は、音楽業界は大手の会社から独立し、自分たちで会社を立ち上げる人も増えている状況もあり、自分の身に降りかかると思っている人は少ないとのべた。しかし印税については、インボイス登録していない限り消費税分が引かれるという通知が来ていると話した。

 

働き手潰し供給力毀損 存在せぬ “益税”

 

 インボイス制度を考えるうえで常に立ちはだかるのが、振りまかれている「益税論」だ。

 

 ラサール石井氏は「インボイス登録しないと脱税だというフェイクを流し、払うべき消費税を払わないのは不公平だというが、全然不公平ではない。どう考えても中小企業の方がつらい」とのべた。

 

 室伏氏は「消費する側が払うのが消費税ではなく、あくまで価格の一部を形成するもの。“消費税を払わないから抜く”というのはたんなる減額だ。非課税事業者だから消費税をお前には払わないというのはおかしな話」と断じた。益税ではないことを知りながら煽る人がいること、財務省は納税義務者は消費者ではないことを知っているから、「消費者が負担する」という表現でごまかしてプロパガンダを展開していることに注意を喚起した。

 

 演劇など文化・芸術分野は俳優やタレントはもちろん事務所もコロナ禍で痛手を受けているところにインボイス制度が迫っている。「文化=ビジネスではなく、みんなで育てるもの」「芸術を大事にしないのは日本だけ。クールジャパンやサブカルチャーといって上澄みだけすくっていく」「芸大も独立行政法人になり、建物が壊れそうなのに修理するお金がない状態になっている。国立大学法人制度も大失敗だがそれも認めない。国立大学法人に入れるお金も毎年削り、あとは自分で稼いで来いという。国を滅ぼすこと、棄民政策しかしていない」など、芸術・文化に対する国のあり方への意見もあいついだ。

 

 インボイスを止めるためにどうするか。室伏氏は「まず実態を知ること、多くの人に実態を知ってもらうことで正しい知識を得てどんどん声を上げていくこと。そうすると政治家たちも無視できない」とのべた。国税庁は「インボイス」というカタカナを使い、制度を複雑怪奇にして実態を隠している。登壇者から「インボイスって何?」「内なる声?」「請求書でしょ? なんで反対するの?」といった反応も多いという声も上がり、実態を知らせていくうえで、わかりやすい言葉がないかといったことも議論された。

 

 最後に、ラサール石井氏は改めて、軍事費を今後5年間で45兆円にまで膨張させる一方で、小規模事業者に増税することにふれ、「軍事費にそれだけのカネを使ってアメリカから兵器を買わされるだけ。トマホークで敵地を攻撃できる防衛能力なんて意味がわからない。しかも、F35ステルスも当初90億円だったのが140億円などになり、しかも経費がかかり、整備もアメリカから呼ばなければならない。そんなのを含めると一機が300億円くらいになっていく。しかも言い値だ。4機分ほどでインボイスは中止できる」とのべ、「予算、税金の使い方のバランスがあまりにも悪い」と語った。

 

 室伏氏は、自民党のなかにも「少なくとも延期すべき」という議員は多数いることにふれ、それぞれが地元の国会議員に訴え、まずは10月導入の延期を勝ちとることも重要だとのべた。さらに消費税そのものが悪税で、廃止すべきものだと指摘。インボイスは働く者をつぶして供給能力をつぶすものであり、国内需要を縮小させるとのべ、「どんどんこの国の経済は小さくなって、みなさんは貧しくなっていく。そうすれば財務省が大好きな税収も減る。それを考えると今なにをすべきかわかるはずだ。そのなかで消費税は国民を貧困化させるのに一番頑張っている税。インボイスは消費税の問題だから、消費税廃止も頭に入れながらインボイス反対をしていきたい」とのべた。

 

まるで地獄行きチケット 税理士らが指摘

 

 第二部は、立憲民主党の落合貴之衆議院議員、日本共産党の山添拓参議院議員、れいわ新選組のたがや亮衆議院議員、安藤裕元自民党衆議院議員の4人が登壇し、税制の問題点や国会内の動きも含めて議論した。

 

 第二部に先だって、「インボイス制度の中止を求める税理士の会」の湖東京至氏から、「インボイス延期法案」の提出に関する要望の現状について報告がおこなわれた。衆議院では自民党のインボイス制度の延期を求める声明を出したグループに要望したが、「財務省から圧力がかかりできない」とのことだった。立憲民主党も16日に「出せない」という判断を示し、衆議院で法案提出することは実現しなかった。現在、参議院の方で延期法案が出せないか検討がなされているという。

 

 国会では超党派で「インボイス問題検討議連」が立ち上がっている。議員の議論のなかでは、金子財務大臣政務官が「消費税は預かり金ではない」と答弁したものの、認めたのはそこまでで、「預かり金的性格を有する」とする見解を譲っておらず、国会内だけを見ると延期や中止の空気はまったくないことが明らかにされた。また、鈴木財務大臣は15日の決算行政監視委員会での質問で、消費税について立場の弱い事業者が一緒になって価格交渉することを独占禁止法の違反に問わないようにする特措法も否定しており、今後インボイス議連でこの問題もとりあげていくという。

 

 「自民党議員のなかにも問題だと思っている議員は多い」という意見も出たが、元自民党衆議院議員の安藤氏は、「わかっているのに動かないということは、わかっているふりをしているだけ。そもそも消費税の実態をわかっている人は少ない」と指摘。与党議員を動かせるのは世論であり、選挙に負けるかもしれないという危機感だと強調した。

 

 免税事業者およそ800万人のうち8人に1人、100万人が立ち上がれば与党にとって驚異になること、そのうえで安藤氏は、インボイス問題にとどめず、社会保険料も上がり、電気代は上がり、年金は下がるということに対する国民の幅広い怒りをぶつけることができるような場にすることを提案した。

 

 作戦会議を一緒に開催した税理士からも発言がなされた。

 

 どんぶり勘定事務所の神田知宜氏は、インボイスとかかわって顧問税理士から年間30万円だった顧問料を60万円に値上げするといわれるケースが出ていることを明らかにし、「インボイスの登録をすすめて地獄へのチケットを顧問先に渡し、顧問料を2倍にして、手間がかかる顧問先を切るという思惑だと思う。そういうことが実際に起きており、インボイス難民が増えるのではないかと思う。そうなると滞納問題にも発展し、耐えきれなくなって自殺者が増えることも心配している」とのべた。

 

 ボイコット大作戦と登録取り下げを呼びかけ、「6月14日の全国一揆を盛り上げていきたい」と話した。

 

 「インボイス制度の中止を求める税理士の会」の菊池純税理士は、「9割の税理士は消費税を預かり金だと思っている。30年間『仮受け消費税』『仮払い消費税』という仕分けを切ってきた者として、間違った知識が国民のみなさんと同じくらいすりこまれている」と、税理士の認識を変えていくことの必要性を語り、「私たちも勉強して伝える方法を考えるが、みなさんもおかしなことをいう税理士には指摘してほしい」と話した。

 

声上げねば潰れるだけ 横につながる“思い”

 

ライター、編集者、声優、アニメーター、俳優などさまざまな業種の当事者も発言(18日)

 第三部は、ライターの小泉なつみ氏(「STOP! インボイス」発起人)、漫画家の由高れおん氏(インボイス制度について考えるフリー編集【者】と漫画家の会)、声優の甲斐田裕子氏(VOICTION共同代表)、アニメーターの西位輝実氏(アニメ業界の未来を考える会世話人)、俳優のひろせあや氏(インボイス制度を考える演劇人の会)の5人が登壇し、運動の軌跡をふり返りつつ、この運動を全国に広げる方法について語りあった。

 

 運動の始まりは、小泉氏が税理士事務所で課税事業者になったときの納税額を聞き、腰を抜かしたところからだったという。「本当に立てないかというくらい腰を抜かし、こんなことが零細な私にあっていいのかと思った」という小泉氏。ツイッターで発信すると多くの反響が寄せられた。自分の悩みがみんなの悩みとつながり、税理士の力を借りて2021年12月に署名を立ち上げた。そこに次々、エンタメ業界などの女性たちがつながっていった。

 

 西位氏は、若手のアニメーターが先に小泉氏とつながっており、「困っているから一緒に話してくれないか」と声がかかったのが最初だったと話した。自身も数年前から税理士に「アニメ業界は大変なことになる」といわれており、さすがに調整が入るのではないかと考えていたが、そのまま導入されそうな状況に動き始めたという。

 

 甲斐田氏は、コロナ禍で自宅にいる時間が増えて国会中継のアーカイブなども見るようになり、さまざまなことに疑問を抱くようになった経緯を話した。インボイスについても「私も課税事業者になったとき苦労したのに、若手の声優の子たちに最初からは無理だとずっと思っていたので、国会答弁の記録をさかのぼり、なぜこれが成立したのか、インボイスが出てきたのかを調べ始めると、やはりおかしいというところにたどり着いた」と話した。

 

 声優業界はキャラクターのイメージなどもあり、「政治的な発言をするのはNG」が常識だという。最初は名前を出さず一緒に陳情に行くなどし始めたが、2021年の衆議院選挙で結果が出なかった。声優の多くがインボイスを知らない状況もあるなかで、「まずはだれか一人が立ち上がって、知っている先輩が声を上げると注目してくれるかなと思い、これはやらないといけないと思った」という。「STOP! インボイス」の賛同者に名前を連ねていた岡本麻弥氏たち先輩二人と「VOICTION」を立ち上げ、活動を開始した。

 

 ひろせ氏も、コロナで多くの舞台がなくなり、出演作がほぼなくなったタイミングで出産、子育てに専念しているあいだに在宅時間が圧倒的に多くなったという。「今まで家にいる時間がすごく短く、ばたばたバイトして演劇をしているような感じで、税制や政治について調べる時間はほぼなく、とにかく目の前のことをやり続けている人生だった。いろんなことに目を向けるタイミングができ、これまで無視してきたことを改めて考えようと思った一つがインボイスの問題だった」と話した。

 

 当初は文字起こしの手伝いから入ったが、さまざまな業界から声が上がるといいという話から、現役の演劇人にも声をかけ演劇人の会を立ち上げたという。

 

 由高氏は、昨年、連載立ち上げ当初で忙しく、インボイスを知ったものの調べている暇がなかった。そのうち漫画家協会が声明を出し、自力で調べ「アシスタントさんがつぶれる」と直感したという。すぐに地元の国会議員のところへアポイントなしで訪問し、断られた経験をもってツイッターで呼びかけ、同人編集者と一緒に国会議員を訪問し、インボイスの中止を要望するなど動き始めたという。

 

 だれもがこのような活動は初めてだ。それぞれ業界で名前の知られたメンバーで、表だって政治的な発言をすることによるリスクは小さくない。だが、岡本氏は「声を上げずにこのまま行くと、自分も含めて若い世代も倒れていく。なにもしないで倒れるのだったら、声を上げて何かいわれても、私たちはだれかをおとしめようと思っているのではなく、未来を考えてやっているので何も恥じることはない」「当初はエンタメ業界のことと思っていたが、勉強すると国民全員にかかわることだと知ったから、エンタメがスピーカーのような役割で、楽しく伝えていきたい」と、確信を持って話した。

 

全国一揆の告知ロゴ

 国会議員への陳情という初めての経験で、議員会館を見て感じたことや、議員と直接対面して感じたことなどもまじえながら、現在も6月14日に向けて連日遅くまで会議をしたり、お手紙大作戦(意見書の出ていない1600の地方議会に陳情書を送付)の対応など、本業に支障を来すほど追われ限界状態にあることも語りつつ、「ここが正念場」と意気込みが語りあわれた。

 

 6月14日の「全国一揆」をどうするか。基本的に手弁当で活動をしていて、全国にネットワークなどはない。大手メディアがインボイス制度の問題点をほとんど報じない状況のなかで、「私たちだけでは止まらない」と強調し、「地元の議員に一人一人が声を届けることは無駄に見えるが、私たちの小さな声を一つずつ積み上げていくことが一番の一揆」と、全国で地方議員や地元国会議員などにメールでも陳情でも、行動を起こすことを呼びかけた。

 

 「STOP! インボイス」発起人の小泉氏は、以前から消費税を問題視していた人たち、組合や税理士など、動いてきた人たちの礎があって今の活動があることを強調。「人のために怒れる人がいることに衝撃を受けた」と語り、そうした人々に対する感謝の気持ちを伝えた。

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