いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

これからどうなる?インボイス――6年後の増税負担と資金繰りシミュレーション 税理士・神田知宜

 インボイス制度の激変緩和措置(受注者側)や経過措置(発注者側)は時限的で、負担はこの先増えていく。免税事業者がインボイス登録をして課税事業者になった場合、激変緩和措置として2026年まで「2割特例」があり、元請の方には免税事業者に発注した場合の経過措置として2029年まで「80%控除」「50%控除」がある。それが終わるとどんどん消費税負担が増えていく【図①】。

 

神田知宜氏

 年収440万円のフリーランスをイメージする。先月の確定申告での消費税額は2万円だった。これは10~12月の3カ月分の税額だ。来年は12カ月分になるので4倍の8万円になる。個人事業主はあと3回の確定申告で2割特例が終わることになっている。では、特例がなくなった2027年以降はどうなるか。フリーランスは簡易課税を適用する方が多くなると想定している。そこで50%のみなし仕入率で計算すると納税額は20万円になり、先月の確定申告の10倍程度の納税額が毎年発生するようになる。

 

 元請業者はどうか。12月決算法人で、売上が3億3000万円、仕入れが2億2000万円と仮定して考えてみる。

 

 まず、支払いのすべてが免税事業者という極端な例で見てみる。インボイス導入前は1000万円の納税額が、今年の確定申告では1100万円に増える。来年は12カ月分なので1400万円になり、2026年は80%控除と50%控除がまざるので納税額が若干増える。2027年は50%控除で2000万円になり、軽減措置のなくなる2030年には3000万円まで増える。

 

 次に、支払いの半分が免税事業者だった場合を見ると、2023年が1050万円、80%控除の期間が1200万円、50%控除になる2027年は1500万円になり、特例措置がなくなる2030年には2000万円の負担になる。

 

 一番きついところは2027年以降だと思う。ここでぐっと負担が上がるので、遅くとも2026年までにインボイスを廃止しなければ大変なことになると思う。負担が上がれば上がるほど、課税事業者と免税事業者の消費税負担の押し付け合いが強くなっていくのが目に見えている。課税事業者が免税事業者に対して「課税事業者になれ」とか値下げしたりといった圧力が強くなると下請の廃業・倒産が増え、課税事業者も発注先・仕入先がなくなっていって共倒れが起きてしまう。2027年がポイントになると思う。

 

本当の敵は政府・財務省

 

 私は、どんぶり勘定事務所で資金繰り予測のコンサルティングをしている。損益ではなくキャッシュの動きで見ると、インボイス制度と消費税率のアップが中小企業の資金繰りにダイレクトに影響を及ぼすことがよくわかる。実際のクライアントの中小企業の数字で見てみたい【図②】

 

 この会社は「入り」の範囲内に「出」が収まっているので、まだ良い方だ。税金のなかには法人税と消費税(約1300万円)を入れている【ビフォー】。消費税の本当の姿は事業者のコストであり、第二法人税ともいわれている。そのため、消費税と法人税を同じグループに入れ、会社の数字を見ている。

 

 この会社がインボイスで消費税額が1000万円増えると、「出」が大きくなる【アフター1】。すでに「入り」より「出」が多い会社は非常に多いので、そうした会社はよけい赤字が大きくなるということだ。消費税が15%になると、赤字がさらに増えて2000万円になる【アフター2】

 

 値上げができるかというと、中小企業はできない。今、賃上げが話題になっているが、もしも五%の賃上げをすると、インボイス制度が導入されない状態で、わりとうまくいっている会社でも赤字になる。決算書では黒字でも、返済があるので資金で見ると赤字というケースはよくある。利益が出ているはずなのにカネがないのは、だいたいこのパターンだ。インボイスでも増税でも「出」が大きくなり、賃上げでも「出」が大きくなってしまう。

 

 どうすればいいのか。もし仮に社会保険料を4分の1まで減額し、消費税を廃止し、ゼロゼロ融資の返済を据え置きにすると「出」が減り、「入り」と「出」のバランスが整ってくる。こういう中小企業は多いと思う。この会社で見ると「入り」が3600万円大きくなり、無理なく賃上げができるようになる。これをやらない限り、中小企業は無理だと思う。

 

 インボイス制度で負担が増えていくと、圧力が強くなって免税事業者が先につぶれるか、負担をかぶった課税事業者が先につぶれるかというだけで、結局は共倒れになる。免税事業者が多いような業界はインボイス制度が導入された時点で、かなり厳しい状態だ。免税事業者に圧をかければかけるほど、自分のクビを絞めることになる。元請の敵は免税事業者ではない。矛先を免税事業者に向けるのではなく、本当の敵である政府・財務省に向けることが大事だ。気づいていない課税事業者も多いような気がする。「うちは全部、税理士に任せているから…」というところはすごく多く、これは大変だとなったら免税事業者に圧力をかけるような形になっているので、やはり政府・財務省に矛先を向け、声を上げることが大事だ。2026年までに廃止しなければ大変なことになるので、一緒に声を上げ続けたい。

 

(4月25日、インボイス制度の中止を求める税理士の会・院内集会での発言より)

 

(5月1日付)

関連する記事

この記事へのコメント

  1. マルキヨ says:

    大手企業の賃上げは、株価アップや円安などの影響もあるが、基本は下請け業者の努力がある。その下請業者の繁栄はさらに下の零細企業や個人事業者のお陰だが、インボイスのお陰で個人事業者は増税・減益になっているから、賃上げなんてない。
    物価上昇もあってまさに死に体に近づいている。
    そんなこともわかってない、行政や政府には辟易。何が労働者の「賃上げを広げる」だ。ちゃんちゃら笑える

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。