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インボイス導入反対署名50万筆へ 25日に官邸前アクション 日本社会の首絞める消費増税 税理士と漫画家の会が屋外勉強会

 東京・新宿駅西口地下で19日、税理士の安藤裕氏(元自民党国会議員)や神田知宜氏(神田どんぶり勘定事務所)などがつくる団体「赤字黒字」と漫画家でつくる「インボイス制度を考えるフリー編集【者】と漫画家の会」が、青空インボイス勉強会を開催した。導入反対のオンライン署名を呼びかけるフリーランスの団体「STOP!インボイス」が25日に総理官邸前で岸田総理に声を届けるアクションを計画しており、署名50万筆達成に向けて協力を呼びかけている。青空勉強会ではさまざまな立場の人がマイクを握り、道行く人たちに消費税の問題や、インボイス制度がすべての国民にかかわる大きな問題であることを訴えた。同時に漫画家がライブドローイングをおこない、多彩なイラストでインボイス反対を道行く人々に訴えた。

 

インボイス制度について説明する税理士の安藤氏(右端、19日、新宿駅)

 冒頭、安藤裕氏は、「消費税は間接税である」という前提が嘘であり、消費税は事業者に課される直接税であること、赤字でも課税される過酷な税であることを、その仕組みとともに話した。

 

 税理士でもある安藤氏は、財務省が裁判などでは消費税法に則って「消費者が負担するものではない」と主張しながら、国民に対してはいまだに「買い物するたびに国民が負担している」と宣伝している事実を指摘し、「消費税は政府がついている最大の嘘だといってもいい。ぜひ気がついてほしい」と訴えた。また、閉店間際のスーパーで総菜が半額になっている事例をあげ、「そこに消費税が上乗せされているだろうか? 売れ残って捨てるよりは安売りして少しでも現金にして回収しようとしている。財務省は“コストとして販売価格に織り込まれ、最終的に消費者が負担すると予定している”というが、それは予定であって実現されていない。これが消費税の恐ろしいところだ」と語った。

 

 「適正な経費・原価+利益」で売価が設定され、消費税10%が上乗せされて販売価格が設定されている――というイメージは幻想であることを強調。「この取引が本当におこなわれていたら日本社会に赤字企業も低賃金労働者も存在しない。しかし、今日本では赤字企業が6割といわれている。低賃金労働者、年収200万円にいかない人が本当に増えた。だが、みんななんとなく適正な売価の上に消費税が乗せられて取引されていると思っている。だから、免税事業者が10%を税務署に納めないでポッケに入れるのは汚いとなる。だが、そもそもこんなのが成り立っていないのが今の日本の現実だ」とのべた。

 

 消費税は事業者が赤字になっても課税される仕組みであり、インボイス制度が始まると免税事業者との取引が課税対象になり、納税額が増加する。「利益が出ていなければ法人税はかからないが、消費税はかかる。赤字でも課税されるとんでもない税金というのが本質だ。だから税目のなかでもっとも滞納が多く、消費税によってつぶれていく中小企業が多い。インボイス制度で強制的に課税事業者にさせられるのは免税事業者だ。免税事業者はただでさえ利益が薄いのに、過酷な税が課せられようとしている。また、課税事業者も経費が増えるので、売値を上げて消費者から回収しようとする。つまり、インボイス制度が入ると、電気代も野菜も、さまざまな物の値段が上がり、みんなの暮らしを直撃する」とのべた。

 

 「ただでさえ17カ月連続で実質賃金はマイナス。倒産企業は15カ月連続で増えている。8月の倒産件数は去年に比べ54%増だ。理由は物価高倒産、人手不足倒産だ。こんなときにさらに値上げを強制するようなインボイス制度をやるのかということだ。みなさんぜひ理解していただき、反対の声を上げていただきたい」と訴えた。

 

導入によって生まれる企業の潰し合い

 

 政治団体「赤字黒字」の副代表を務める神田知宜氏(神田どんぶり勘定事務所・税理士)も、インボイス制度が導入されると、免税事業者から受けとった領収書・請求書が仕入として売上から差し引くことができなくなり、課税事業者の課税対象の部分が増えることを図解し、「そこで、今“登録しろ! 課税事業者になれ! おれが損するじゃん!”というのがはやっている。インボイス・ゾンビと呼んでいるが、首筋を噛まれた人が課税事業者になってしまうと、今度はその人が免税事業者を探して“おれが損するじゃないか! お前登録しろ! 課税事業者になれ!”と首筋を噛む。そうやってインボイス・ゾンビが増殖するということが巷でおこなわれている。だが、それをこのままやっていくとどうなるかイメージしてほしい」とのべ、要旨次のように話した。

 

インボイス制度について説明する税理士の神田氏(19日、東京新宿駅)

 「課税事業者になれ!」とやると、まず免税事業者が死に、次に課税事業者が死ぬ。なぜかというと、下請が課税事業者になると消費税負担が増え、事務負担も増え、事務コストも増えて耐えきれなくなって廃業する。すると、今後は元請の課税事業者の方も仕事の発注先がなくなって事業が成り立たなくなる。

 

 「免税事業者のままでいいよ!」とやると、課税事業者の方が消費税負担が大きくなって耐えきれなくなり、まず課税事業者が死ぬ。元請がなくなれば、下請は仕事がなくなり、次に免税事業者が死ぬ。だから、「課税事業者になれ」といっても、「免税事業者のままでいいよ」といっても、どちらを選択してもお互いが死ぬことになる。業種にもよるが、これがインボイス制度だ。

 

 課税事業者は大企業と中小合わせて300万事業者、免税事業者は1000万以上いるのではないかといわれており、免税事業者の方が圧倒的に多い。「課税事業者になれ」とやっていくと免税事業者がいなくなり、ピラミッドが下から崩れていく。呑気にしている中間の課税事業者もかなりつぶれるのではないかと心配している。

 

 免税事業者は現場で働いている人が多い。農家は9割が免税事業者であり、軽貨物のドライバー、建設業の一人親方、漫画家、声優、ゲームのクリエーターなど、免税事業者が多い業種はとくにピラミッドが下から崩れていきやすい。それは社会が変わるくらいのインパクトがある。荷物が届かなくなる、直売所やスーパーに行っても野菜がない、高いなどとなる。一人親方がいなくなれば家も建たなくなる。ピラミッドが下から崩壊していくイメージを持っていただけたらと思う。

 

 さらに、インボイス制度は消費税率を上げていくための地ならしの制度だともいわれている。インボイス制度の扉を開けると上りのエスカレーターしかなく、そこに乗る選択肢しかない。扉を開けてしまえば15%、20%、25%、30%と簡単に上がっていく。

 

 今、倒産が増加している。物価高倒産、人手不足倒産、ゼロゼロ融資倒産、社保倒産も増えている。実質賃金は16カ月連続マイナスだ。2024年問題も迫っており、働き方改革が本格適用になる建設業や運送業は、残業しにくくなる分、人材を集めなければならないが、すでに人材不足。インボイスで、さらに現場が止まることが懸念されている。このタイミングで本当に導入するのか? インボイス制度は増税だ。2500億円の増税分をピラミッドの一番上からとるなら問題ないが、下からとろうとしているので死活問題だ。人権侵害という問題にもなっている。現場がめちゃくちゃになり、価格競争が少なくなると物価も上がる。「免税事業者、弱い者いじめだ」と報道されがちだが、みんなが影響を受ける制度だ。

 

 「登録しないと取引先に迷惑がかかるから…」という社長がたくさんいる。これは税務署やシステム会社などのセミナーに行くと絶対にいわれることだ。それを聞いている税理士も社長にいう。すると社長は「取引先は大事だから…」と登録してしまう。そして、みんなが登録すると導入の可能性が高くなる。

 

 そうのべたうえで神田氏は、導入されれば手間や税金コスト、税率アップ、簡易課税の廃止の可能性、倒産・廃業の増加と景気の悪化などデメリットしかないことを強調。導入されなければデメリットはないばかりか、消費税廃止の道筋が見えてくると語った。「税理士として中小企業の数字を見ていると、消費税がある限り日本の経済はよくならないと思う。インボイス制度が導入されると消費税廃止の道筋もなくなってしまう。決まったことは仕方がないというのは諦めさせるためのデマであり、延期・中止は可能だ」とのべ、「インボイス制度ボイコット大作戦!」の具体的な方法を説明し、参加を呼びかけた。

 

漫画家や作家も「日本の文化を潰す制度」

 

漫画家たちもライブドローイングで参加した(19日、新宿駅)

 「インボイス制度について考えるフリー編集【者】と漫画家の会」代表の一人である由高れおん氏は、「免税事業者だけが反対の声を上げているように思われるが、それは間違いだ。メッセージを寄せて下さった方にも課税事業者の方がたくさんいる。とくに今回メッセージを寄せて下さった黒丸先生は、クロサギの作画をされている方。クロサギは有名な作品だ。そんな人がインボイス制度に反対している」とのべた。

 

 漫画業界は免税事業者であるアシスタントに支えられており、アシスタントの平均年収は300万円以下という現状にあるという。

 

 「1カ月分の収入の消費税を払うことになったら、みんないなくなってしまい、漫画業界は成り立たなくなる」とのべ、その危機感から反対活動をしていると語り、協力を訴えた。漫画家の会では21日にも札幌で街宣を予定している。

 

 作家の鈴木傾城氏は、街宣前に出版社や印刷会社の知人と会ったことに言及した。出版業界は名前が知られている大手ばかりではなく、個性あるニッチな分野を攻めている出版社が無数にあり、そうした出版社は社長とアシスタント数人ほどの小規模な会社だ。流通の会社からインボイス登録を求められ、対応せざるを得ない状況に陥っているという。鈴木氏は、「出版社はインボイスを拒否すると自分たちの本が流通できなくなる。仕方ないから登録すると売上の10%を国にとられてしまう。10%値上げすればいいが、それができない。今まで本はじりじり値段が上がってきた。彼らはこれ以上上げたら本が売れないというところで抑えている。インボイスで10%とられる分、値上げすると本が売れなくなるが、これ以上コスト削減もできないという状況にたくさんの出版社が陥っていると思う」とのべた。

 

 インボイス導入まで残り2週間になるなかで、こうした中小の個性豊かな社長たちが「会社をやめようか」と話しているという。「無数にある個性豊かな出版社、たとえば電車の話しか出版しないとか、東南アジアの少数民族に特化した出版社など、普通の人は興味ないが、求めている人もたくさんいるような、ニッチを攻めている出版社の社長がやめようかといっている。出版文化は日本の文化だ。日本の文化を支えてきた中小の個性豊かな出版社が気づいたらどんどんなくなっていくというフェーズに入ってくる。今、これだけ景気が悪いのに、なぜこの時期にインボイスなのかということだ。これは国による中小企業つぶし、ひいては文化つぶしではないかと思う。インボイスはステルス増税だといわれているが、日本の文化を破壊するものだという意識も必要ではないかと思う。最後まで諦めず、インボイスの増税反対を訴えていきたい」とのべた。

 

 声優の岡本麻弥氏も、「今関係ないと思っている皆さんにも関係ある制度だ。日本の漫画、アニメ、ゲームなどポップカルチャーは世界に誇れるものだと思っている。私たちの業界が大変だと思って運動を始めたが、勉強していくうちにそんなレベルではないことに気づいた。さまざまな職種の方たちにかかわってくるし、日本の経済の根幹に絡まっていて、とても大きな問題だ。インボイス制度はとても煩雑で、消費税の問題にまで立ち入っていかないと理解できない。伝える方も聞く方もハードルが高い。だから、できれば楽しいアプローチで興味を持っていただきたいと思い、声優や漫画家が前線に立っている。難しいという時点で、税の三原則である『簡素』から外れている」とのべた。

 

 マスコミがなかなか報道しないことに忸怩(じくじ)たる思いを語りながら、「本当のことを知ればみんなが反対する制度だと思っている。ぜひ知って、署名してほしい。眠っていた何十年間から目を覚まし、これからの未来のために、文化も、多様性のある世界もつぶしてはいけないと思う。岸田首相やメディアを動かすのは私たち庶民一人一人。右でも左でもなく、党派も関係ない。どうか一人でも広めてほしい」と訴えた。

 

輸出大企業には消費税還付金 

 

 街宣を聞きに来た男性は、大企業の輸出戻し税にふれ、「外国からは消費税を払ってもらえないからというのが理由だと思うが、その分を正規の値段に含めればいいだけだ。一方、国内でその分負担しているかどうかも怪しい。輸出大企業には、トータルで6兆円や7兆円ほどの消費税の輸出戻し税があり、インボイスの2500億円よりはるかに大きい。その辺をもう少し説明していただけないか」と質問した。

 

 輸出戻し税の仕組みを簡単に説明した安藤裕氏は、「事業者はあくまでも1100円で物を売っているだけであり、1100円で買ってくれる人がいれば売る。それは海外に対しても同じだ。しかし、国内で1100円で販売すると納税額が出て、海外に1100円で売ると還付される。その仕組みになんとなく納得するのは、適正な経費・原価と利益のうえに売価が設定され、それに消費税が上乗せされているという幻想があるからだ」とのべた。

 

 さらに、もともと付加価値税はフランスで発明されたといわれており、1960年代の自由貿易の枠組みGATT(関税および貿易に関する一般協定)のもとで、「自国企業だけに補助金を出してはならない」という制度の抜け道を探し、なんとか輸出企業に補助金を出すことはできないかを模索して編み出されたものだと説明した。「それを日本に持ってきたから、輸出企業への還付金は3%のときはまだ少ないが、5%、8%、10%となるとその比率に応じて増えていく。消費税が5%のころに比べ、輸出企業の還付金は倍になる。実態は輸出企業に対する補助金だ」とのべ、経団連のような大企業が消費税増税を主張する根拠を明らかにした。

 

 そして「お得だから今、輸出企業、輸出する個人事業主も増えている。結局、税率が上がり、物価が上がるので、しわ寄せは消費者に行く。インボイスでもわかるが、増税の押し付け合いになるので、中小企業や力の弱い人のところにしわ寄せが行き、利益を得るのは輸出する企業だけだ」と、その歪(いびつ)さを指摘した。

 

「STOP!インボイス」官邸前アクションの告知

 フリーランスの男性は「インボイス反対で署名もさせてもらっている。だが現実的にもし止まらなかったらどうすればいいのか。フリーランスで活動していると、取引のある業者から通知が来ていると思う。①インボイスの登録番号をとっている、②登録するつもりはない、③今は登録していないが、そのうち登録するつもりはある、に印をするようになっている。『この回答によって今後の取引に影響があるということはない』と連絡が来ているが、インボイスが通ってしまった場合、『取引に影響はない』ということを信じるかという話だ。僕らはどうすればいいのか」と切実な思いを訴えた。

 

 そのほか「インボイスは重大な影響があると思うが、テレビや新聞、ヤフーニュースなどを見ても報道はおとなしいと思う。野党もれいわ新選組以外はおとなしい。なぜなのか」「どうやったらわかりやすく伝わるだろうか」「インターネットを見ると消費者と個人事業主の分断が起きているように見えるが、本当は大企業と消費者の対立のはず。益税と政府がいっているのに引っかかって個人事業主を叩いている裏で、大企業がもうけている印象を受ける」といった質問や意見も出された。

 

 30年間税理士をしているという男性は、インボイス制度は「消費税を払っている企業が、払っていない企業に支払いをした場合、消費税が2%増税になる制度」だとのべた。免税事業者に課税業者になるよう求めれば、免税事業者に対する増税であり、「増税ではない」という岸田首相の嘘を指摘した。また免税事業者との取引で増税分を値引きするケースも散見されるなか、これはGDPを引き下げるものであり、「異次元の少子化対策のためにGDPを増やす」という言葉も嘘だとのべ、「しかし現状、インボイス制度を延期・中止できるのは岸田さんだけ。25日の首相官邸前が最後のチャンスだ」と力を込めて署名50万筆の達成を呼びかけた。

 

 「STOP!インボイス」の阿部伸氏は、「活動を始めたとき、消費税の話はあえて触れないようにしていた。難しかったり、野党議員も“廃止”や“5%”などでまとまらなかったからだ。預かり金ではないという話をするのも難しかったが、このところ著名人が“預かり金なのか”といったコメントに対して“違うよ”というなどいろんな人たちの反対の声が聞こえるようになってきた」と、世論が広がってきたことへの手応えを語った。

 

 同会は25日までにオンライン署名50万筆を目指している。「1年半前くらいに、ある国会議員に“3万筆ある”というと鼻で笑われた。その次に10万筆集まって、ある自民党の国会議員に持って行くと“足りない”と受取拒否された。そのときに30万筆持って来いといわれたので、36万筆集めて記者会見もした。だが、鈴木財務大臣に面会を要請したが結局会えず、会えるはずだった副大臣も当日病欠になった。いったいどうすれば署名を受けとってくれるのかということで今50万筆を目指している」と語り、署名への協力を訴えた。

 

「STOP!インボイス」オンライン署名サイトはこちら

 

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