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資源管理に名を借りた公的資源(海)の私物化 浜の視線から見た漁業法改正・水産政策改革 三重県鳥羽磯部漁協監事・佐藤力生

 さとう・りきお 昭和26年12月、大分県大分郡庄内町(現・由布市)生まれ。昭和49年3月に東京水産大学(現・東京海洋大学)を卒業し、昭和51年4月に水産庁入庁。その後、在モスクワ日本大使館二等・一等書記官をへて、水産庁遠洋課北方底引き班課長補佐、宮崎県漁政課長、内閣官房外政審議室・海洋法制担当室出向。平成8年7月から、水産庁企画課・首席企画官、同管理課・漁業管理推進官、同資源管理推進室長、同水産経営課・指導室長、同境港漁業調整事務所長、同瀬戸内海漁業調整事務所長、同栽培養殖課・漁業資源情報分析官を歴任した。そのかたわら、平成23年12月から24年3月まで、南極海調査捕鯨首席監督官として乗船し、同年3月に水産庁を定年退職した。現在は三重県鳥羽磯部漁業協同組合監事。

 

※図は佐藤氏より提供いただいたものを掲載。写真は本紙が撮影してきた漁業生産の撮影記録を使用。

 

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下関の以東底引き網漁船での網上げ作業

 臨時国会で成立した水産改革法(漁業法と水協法の改正)は、今からさかのぼること11年前の2007年、日本経済調査協議会(財界四団体により設立された組織)の提言「魚食をまもる水産業の戦略的な抜本改革を急げ」を受け、内閣府規制改革会議(当時)が「規制改革推進のための第二次答申」を出し、漁業権の民間開放圧力を強めたことが発端となっている。

 

 それはアメリカ新自由主義のものまね経済政策の一環で、「能力とやる気のある外部企業の自由な参入を可能とするため、既存の漁業者からその漁場と資源を取り上げ、排除された漁業者は自己責任で生きていけ」というものである。

 

 当事者である浜の漁業者を完全に蚊帳の外においてつくられたこの法律は、以下の問題点を指摘することができる。

 

 ①特定区画漁業権(漁協による養殖海面の集団管理)を廃止し、すべて知事による直接的な個別経営者免許としていること。民間企業の参入を促し、その権利の固定化を狙っている。

 

 ②漁業権免許における地元漁業者優先の現行制度を廃止し、漁業者と参入する民間企業を同列に扱うとしていること。現場では両者の対立が生じ、漁場利用秩序を混乱させ、漁業生産の停滞を招かざるをえない。

 

 ③海区漁業調整委員会について、漁業者のなかから選挙で委員を選ぶ現行制度を廃止し、すべて知事の任命制にするとしていること。漁業法第一条に定めた「漁業者を主体とする海区漁業調整委員会等が水面を総合的に利用し、漁業生産力を発展させ、漁業の民主化をはかる」という、戦後70年堅持してきた理念をどぶに捨てるようなものだ。

 

 ここでは、以上の沿岸漁業の漁業権にかかわる問題とともに、法律のもう一つの柱である、沖合・遠洋漁業(許可漁業)をめぐる「新たな資源管理政策」の問題点を詳しく見てみたい。

 

 安倍政権による水産改革の真のねらいは、公共資本である水産資源を分割して私的資本化し、その市場取引で金もうけができるマネーゲーム化することである。これは農業改革において、JA全農や経済連の株式会社化や農林中金の解体を打ち出し、その膨大な資金を市場取引の対象にして金もうけしようとしているのとまったく同じである。

 

 人間に資源が管理できるか

 

 テレビに「気象管理士」という肩書きの人物が登場したら、みなさんは「ふざけるな!」とテレビに物を投げつけるかもしれない。しかし「資源管理士」は存在する。そして、政府は今回の水産改革法で「新たな資源管理政策」を打ち出した。

 

 その概要は、
 ①最大持続生産量(MSY)理論にもとづく資源管理を強化する。
 ②そのMSY理論にもとづく漁獲可能量(TAC)による資源管理の対象魚種を、現行の8魚種(サバ類、アジ、イワシ、サンマ、スケトウダラ、スルメイカ、ズワイガニ、クロマグロ)から、全漁獲量の8割に拡大する。
 ③そのTACをさらに個別割り当て(IQ)へと移行させる。
 というものである。

 

 TACとは、年間に何㌧の魚を獲っても資源的に大丈夫かを毎年、研究者が予測し、それをあらかじめ漁業者に知らせて、TAC規制値に達したところで漁獲を終わらせるしくみのことだ。1977年に200カイリ水域法が決まったとき、欧米諸国はTACを一斉に開始した。だが日本では、それ以後20年間、漁業者はもちろん、行政も研究機関も誰一人「TACを導入しよう」とはいわなかった。「その年によって変動がきわめて大きい資源量を、いったいどうやって予測するのか」とみんな疑問に思っていたからだ。

 

 ここにあげたグラフ(図1)は、アメリカ・カリフォルニア湾の海底地層のマイワシ(上のグラフ)とカタクチイワシ(下のグラフ)のウロコの堆積状況から推定した、紀元300年から2000年まで1700年間の資源量の変化を示すものである。

 

 この水域で漁業が開始されたのは、長く見ても最後の200年間だろう。それ以前の1500年間は、漁業が存在しない初期資源の状態にあったことになる。にもかかわらずその間も資源量は大変動し、マイワシはたびたび絶滅寸前にまで減少している。人間にできる究極の資源管理は「獲らない」ことだが、1500年間禁漁を続けても絶滅寸前までの資源減少を防止できなかったということだ。つまり、資源は人間以外の環境要因で変動しており、人間が環境要因をコントロールできない以上、資源を管理することはできない。また他方、資源はその絶滅寸前状態から回復する力をみずからもっている。

 

 ところが水産改革法では、以上の事実に反して「資源は環境ではなく漁獲によって変動する」「資源の減少はすべて漁業者による乱獲が原因」と決めつけ、過去何度も回復してきたのに「今のままでは資源は絶滅する」と誤った不安をかきたてて、MSY理論にもとづくTACを拡大しようとしている。人の不幸につけ込む詐欺商法のたぐいである。

 

 現実にあわないMSY理論

 

 MSY理論にもとづく資源管理とは、「どの程度の親を残せば、翌年どの程度の子が加入してきて、毎年どのくらいの魚が漁獲できるか」という親と子の再生産関係を決めるものであり、漁獲できる魚を持続的に最大にするよう親の量を維持・回復することを目標に資源を管理するといっている。そのモデルの一つが図2である。

 

 ところが、今問題になっている太平洋クロマグロの親子関係を見てみると(図3)、親が多くても子が少なかったり、その逆があったりと、親と子の相関関係は見られない。にもかかわらず、太平洋クロマグロにMSY理論にもとづくTACを導入したために、資源管理の大混乱が起こった。つまり、過去最低のレベルの親からでも環境要因によって子が3年連続で大量に加入してきて、資源が急増した。それにもかかわらず、「より多くの親を確保しなければ子は増えない」と机上の理論にしがみついてTAC規制値の増加を認めなかったので、増加したクロマグロが大量に定置網にかかり、そのために他の漁業者が操業できなくなって、国などを相手に訴訟を起こすに至ったのである。

 

 MSY理論にもとづく再生産モデルについては、東京海洋大学名誉教授の桜本和美氏が「60年以上にわたって使われてきたが、当てはまるものがほとんどなく、観測値との乖離(かいり)がとてつもなく大きい」と指摘している。また外国の2人の研究者が、当てはまったのは128資源のうち3資源のみ(1995年)という報告と、224資源のうち36資源(18%)のみ(2015年)という報告を上げている。

 

 それは先に見たように、資源の変動には環境要因が圧倒的に大きく作用しているからだ。MSY理論は、人間が親の数をコントロールする漁獲要因によって資源を管理できるという虚構で成り立っている。では、なぜ水産改革法はこの虚構にもとづく資源管理を強化するのか。この虚構にもとづかなければ、資源をマネーゲーム化できないからである。

 

IQは百害あって一利なし

 

 水産改革法は、このTAC管理を、漁業者や漁船ごとに漁獲量を個別に割り当てるIQ(個別漁獲割当制)として導入することを打ち出している。

 

 IQは、日本の漁業にとってはまったく必要のない制度であり、漁業者がその制度の導入を必要としたことは一度もない。そもそもIQとは、先獲り競争の防止という観点から、欧米諸国の一部で導入されているものだ。たとえば10隻の船があり、100㌧のTACが設定されたとする。計算上は1隻平均10㌧の漁獲量となるが、個人主義が強い外国では他の漁船よりも一尾でも多く魚を獲ろうとして、1カ月間の漁期があるのに、わずか1週間でそれを獲り尽くし、水揚げの集中による魚価低迷と、加工処理能力が追いつかないための鮮度劣化まで引き起こすという馬鹿げた結果になってしまった。だからそれを防止するために、1隻に10㌧ずつ個別に割り当てたのである。

 

 しかし、日本の漁業は歴史的に自主的集団的管理体制のもとにあることから、まず漁期中のおおよその出漁日数を決め、その日の天候を見て出漁日を最終決定し、さらにその日における出港時間と入港時間を決めることによる集団操業で、漁船間の無駄な競争を防止しTACがもっとも効率的に利用されるように調整している。

 

 にもかかわらず、なぜ水産改革法はIQを強制するのか。それは、IQに私的所有権を設定し、市場において取引の対象にする「譲渡性個別割り当て(ITQ)制度」というマネーゲームへ移行させるための前段階として、絶対に不可欠な制度であるからだ。

 

 実は、IQには必然的にITQに移行せざるをえない側面がある。行政が強制する過去の平均値をもとにしたIQでは、その年々の資源や漁海況の変動、濃密魚群のいる漁場への当たりはずれなどによって漁船間での消化率が異なる結果、IQの過不足が生じる。したがって漁船間でやったりもらったりの頻繁なIQの付け替え作業が必要になるが、それを行政を通じてやっていたのではたびたび操業中断に追い込まれ、漁業経営に深刻な影響が出る。よって、よりスムーズに過不足調整が可能となるIQの市場取引が必要になってくる。

 

 水産改革法ではあえて表に出していないが、その最終目的はIQの取引を可能にするITQである。それは、TACの対象魚種の拡大と、それに対する強制IQ適用がセットで打ち出されたことから明白だ。

 

 実際にアメリカで起きたことだが、「キャッチ・シェア」と称するITQが導入されたことで、ウォール街が海を買いあさり、漁業者がITQ保有者である働かざる金持ちの小作人となって貧乏をきわめているという。また、富裕層による沿岸域のプライベートビーチ化も進んでいる。オーストラリアでは総漁獲量の4割、ニュージーランドでは6割、アイスランドではほとんどすべての漁獲量(98%)が証券化され、経済危機のさいに外資に買い上げられた。

 

 日本にこの制度が導入されれば、戦前の網元制度の復活となることは必至だ。戦前には漁業権は借金の担保として売買されており、金持ちの地主が漁業権を買い占め、地元漁業者は低賃金の借金奴隷となった。それを禁止したのが70年前の漁業法である。今後、入管法改正により、外資が参入してきて安価な外国人労働者を大量に雇い入れる事態が起こるかもしれない。

 

 また、企業が洋上風力発電を建設するために海を買い占めることも可能になるし、福島原発事故による放射能汚染水を海に放出するために、企業が漁業者から海を取り上げてそれに反対する権利を奪うことも可能になる。ITQとは、資源管理に名を借りた公的資源の私物化であり、海の一層の汚染や資源の枯渇すら引き起こしかねないものである。

 

漁業権を守るために中国電力の上陸を阻止する上関町祝島の島民や漁師たち(2010年)

 対置すべきは漁業者の知恵

 

 先般、神奈川県にある相模湾水産振興事業団からシンポジウム案内が届いて、そこに「海・川をきれいにしよう」「小さな魚は海に返しましょう」のスローガンが書かれていて驚いた。というのは、これとまったく同じ二つのスローガンの下で、私の住む答志島の小学校鼓笛隊による「稚魚・稚貝愛護パレード」が、毎年アマ漁の解禁にあわせておこなわれているからだ。

 

 漁業者が長い年月をかけて生み出した「浜の資源管理」は、どこの地域でもまず第一に「海の環境保全」を掲げる。漁業者は自然さえ大切にしておけば、資源は必ず復活することを知っている。そこに打撃を与えたのが、戦後のあくなき経済成長主義による「魚のゆりかご」の浅海域の埋め立てであり、工場排水などによる汚染である。伊勢湾では、何㍍もたまったヘドロが原因と思われる夏期の貧酸素水塊が年々拡大し、魚介類を死滅させている。

 

 「浜の資源管理」の二番目は「稚魚・稚貝の保護」だが、これはTAC制度では対応できず、漁網の目合い規制や小型魚の再放流などの漁獲努力量手法によらなければ実行できない。

 

 漁業者を間近に見ていると、漁が良いときには悪かったときを忘れずに、悪いときには昔もこのようなことがあったと将来に期待する、というように、月の満ち欠けと同じく資源の増減も避けられないと受け止めたうえで、その都度話し合いをしながら操業日数を決めたり、利用する資源(漁業)を変更している。このような努力をしながら、漁業収入を維持しつつ、資源を保護するために漁獲圧力の軽減をおこなうというのが、漁業者の知恵が生み出した資源利用学である。MSY理論という「裸の王様」をあがめる自称・科学的資源管理より、はるかに科学的なものであるといわざるをえない。

 

 また、日本の漁業権制度は、国の所有でも私企業の所有でもない、共有資源に利害関係を持つ当事者による自主的な管理であり、世界に誇るべき制度である。それは、資本主義終焉後にくる未来を先取りする社会システムといっても過言ではない。

 

 国会で水産改革法が可決されたとはいえ、それは終わりではなくたたかいの始まりである。何年かかってもこの改悪を浜から追い出すまで、徹底的に抵抗し続けなければならない。

 

宇田郷定置網の水揚げ。早朝の港は選別作業で活気づく(8月26日)

トラックの水槽にハモを移す漁協職員(宇部岬、7月)

底引き網を投入する漁師(宇部岬)

 

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