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関工健児を騙るオレオレ詐欺

 下関市内に住んでいる知り合いのご夫人Aさんが、出会うなり「オレオレ詐欺の電話がかかってきたのよ」と驚いた表情で話してきた。まさか我が身に降りかかろうとは思っていなかったようで、一部始終を臨場感たっぷりに話すのだった。40代の息子は下関工業高校(中央工業高校と合併して現在は下関工科高校)を卒業して、福岡の企業で働いている。そんな息子を名乗る男から夜分遅く、携帯ではなく自宅に電話がかかってきたのだ。こんな時間に誰だろう…と思いながら受話器をとってみると、「あっ、母さん、一宏(息子の名前)だけど…」と男は切り出した。

 

 「いや…、仕事で近くに来たものだから、明日の午前中でも寄ろうかなと思って…」という自称一宏に向かって、Aさんは「明日来られても、私には仕事があるじゃないか」と返しつつ、どうも声質が違うなと違和感を抱いた。「あんた、なんだか声が変じゃない?」と聞くと、「いや…、あっちから風邪をうつされて…」という。あっち? なぜ嫁の名前を言わない? と不審に思ったAさんは、「あっちって、誰よ」と聞いてみた。すると、しばらくの沈黙の後、電話口の向こうにいる自称一宏は口ごもりながら「…。レイコ…?」といった。レイコ? 誰? 嫁の名前でも孫の名前でもないレイコが登場した時点でAさんは確信した。これはオレオレ詐欺だ。「あんた誰よ!」と問うと、電話はガチャンと切られた。

 

 気味が悪くなり、警察署に電話すると刑事が複数人やってきた。そして「最近は関工が狙い撃ちになっているみたいで、同じようなオレオレ詐欺の電話が関工の親御さんに集中している」と教えられたのだった。翌日会社に出社して事の顛末を話したところ、別の元関工健児の男親が「うちにもかかってきたぞ」と反応してきた。学年も異なることから、どうもアルバムではなく、同窓会名簿に記載された住所と電話番号を頼りにオレオレ詐欺を働いているのだと推察した。

 

 下関市内では以前から、下関西高校、豊浦高校の卒業生の自宅に、同窓会名簿を頼りにしたであろうオレオレ詐欺の電話がかかっていることが話題になっていた。地元就職の多い中央工業高校や下関商業高校ではなく、大学に進学してそのまま県外で就職するケースが多い進学校や、県外企業への就職が多い下関工業高校を選定しているのが特徴で、親元を離れて働いている比率が高い高校を意識的に狙い撃ちしている風でもある。どれも旧男子校ばかりだ。同窓生をつなぐための名簿がこのような形で悪用されるのだから、たまらない時代になったものだ。

 

 下関工業高校こと関工(セキコウ)といえば昔から男子高校として知られ、愛校精神に満ちた卒業生が多いように思う。「セッコウ」などと呼ぼうものなら、「違う、セキコウだ!」と謝りを訂正してくるような熱い人を何人も知っている。今夏は金足農業の球児たちが甲子園で背を反らせて校歌を叫んでいるのが話題になったが、関工健児たちの熱き「校歌斉唱」を見たことがある者からすると、なにか物足りないような気もした。校歌が大好きなのか、彼らは運動会でも卒業式でも、ここぞとばかりに手を後ろに回して背をのけ反らせ、イナバウアーのように思いっきり上体をひっくり返しながら、「人寰(じんかん)遠く! 海近く!」「オッス!」などと合いの手を入れながら校歌や応援歌を叫び挙げ、鳥肌が立つほどメロディーそっちのけなのである。

 

 そんな伝統を誇っていた関工もいまや合併で校名も校歌も変わって、同窓会名簿を頼りにしたオレオレ詐欺だけが後を追っかけている。元関工健児の親御さんたちには、「一宏だけど…」のように実名ピンポイントで懐に潜り込んでくる怪しい息子からの電話には気をつけてもらいたい。吉田充春

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