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海を営利企業に明け渡す漁業権民間開放 東京大学・鈴木宣弘教授が警鐘

震災後の水産特区指定によって民間開放した宮城県石巻市桃浦のかき業者

 安倍政府の規制改革推進会議が新たな検討課題に「漁業権の民間企業への開放」を上げ、根拠となる漁業法の70年ぶりの改定も視野に論議を始めていることに、漁業者や研究者が批判の声を上げている。

 2011年の東日本大震災による漁民の窮状につけこんで、宮城県で漁業権開放のための水産特区が設けられたが、政府はその全国展開をおこなおうというのである。研究者らは、これまで各浜の地先で長年漁業を営んできた漁民の集合体としての漁協に優先的に免許されてきた漁業権を規制緩和して、外資を含む民間企業の参入を可能にし、最終的には漁業権を入札で譲渡可能にせよとの論議に対し、それがとりかえしのつかない事態を招く亡国・売国の政策であると強く批判し、警鐘を鳴らしている。


 東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏は1日、全国沿岸漁民連絡協議会(JCFU)沿岸漁業フォーラム「規制改革会議と漁業権を考える」(JCFCとNPO法人21世紀の水産を考える会の共催)で、「亡国漁業権開放論-資源・地域・国土の崩壊」と題して講演した。


 講演のなかで鈴木氏は、「区画・定置・共同漁業権は、海を協調して立体的・複層的に利用している。漁業は企業間の競争、対立ではなく、協調の精神、共同体的な論理で成り立ち、貴重な資源を上手に利用している。その根幹が漁協による漁業権管理である」とのべた。これに対して漁業権開放の論議が「国家戦略特区のように特定の企業、事業体への便宜供与を全国展開しようとするもの」と指摘した。


 また、「“規制撤廃により個々が自己利益を追求すれば、社会全体の利益が最大化される”という論理のコモンズ(漁場や共有牧場など共有資源)への適用は論外。漁協と別の主体に漁業権が免許され、自己の目先の利益の最大化を追求したら、資源は枯渇する」「日本の沿岸漁業は多くの中小漁家で構成されており、漁業権が買い取られれば浜の人人の生活と地域コミュニティが崩壊する」「外国資本が日本の沿岸と水産資源を買い占めることもありうる」とのべ、漁業権開放の流れは容認しがたいと強く訴えた。


 鈴木氏は『農業協同組合新聞(電子版)』8月29日付でも、次のようにのべている。


 「その地に長く暮らしてきた多数の家族経営漁家の集合体が漁協であるから、漁協が本来の姿である限りは、漁協と営利企業は同列ではない。漁業権は多数の漁家の集合体に付与されている。まず、そこで暮らしてきた漁民の生活と地域コミュニティが優先されるのは当然である。企業が参入したいのであれば、地域のルールに従って、漁協の組合員になるべきであり、それは可能なのである」


 「それなのに、これからは突如、漁業権の免許が漁協から企業に変更された(あるいは企業にも付与した)ので、君らの一部は企業が雇ってあげるが、基本的にはみんな浜から出て行け、という理不尽きわまりない事態を全国展開しろという論議になっている。かつ、漁業権がいくつかの組織に割り当てられたとしても、割り当てられた漁業権を入札によって譲渡可能にするのがベストだというが、そうなれば資金力のある企業が地域の漁業権を根こそぎ買い占めるかもしれない。むしろ、それが狙いなのである」


 「漁業権を国際入札の対象にするという方向性は、TPPでも打ち出されていた。トランプ政権はTPPを離脱したが、日本は批准を終え、“TPPゾンビ”を追求している。TPP型の協定ではネガティブ・リスト(例外)に列挙しない限り、基本的に投資やサービスを外国に開放することになっている。“漁業への投資・サービス”はネガティブ・リストに入っているが、漁業そのものは例外になっていないという解釈もある。つまり、国内的な漁業権の開放の論議は国際的な自由化交渉とも呼応している」


 こう指摘する鈴木氏は、日本の水産資源も地域社会も主権も実質的に奪われてしまう漁業権開放の論議に終止符をうつべきであると強調する。同時に漁業権の管理を託されている漁協が、資源を守り、地域を守り、国土を守る漁業経営者の民主的集合体としての本来的な役割を果たしているかどうかが問われているとクギを刺している。


 米軍・自衛隊基地拡張や原発建設、風力発電建設などに反対し、平和で安心した暮らしを求める全国各地の住民運動のなかで、漁師たちが漁業権を売り渡さず住民とともに立ち上がっていくことが大きな力になり、政府や大企業にとって目の上のたんこぶとなっている。


 農業や漁業という第一次産業の振興なくして「地方創生」などありえず、日本の将来を左右する漁業権の民間開放を国民的な世論と運動で阻止することが喫緊の課題となっている。

 

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