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右派ポピュリズムの正体とは 参院選で煽られた排外主義 宿主変えた右派カルト教団 石破おろしで安倍派は大暴れ

(2025年7月25日付掲載)

参政党が開いた参院選での集会(7月19日、東京・芝公園)

 第27回参議院通常選挙(20日投開票)で与党の自民党、公明党が過半数割れを喫し、衆参ともに少数与党体制となった。与党は今後、一部野党との大連立体制を組むか、法案ごとに野党の合意を取り付けなければ可決が難しい事態に追い込まれた。公明党に支えられた長らくの自民党一強体制に対して有権者から厳しい審判が下されたとみなせる一方、国民民主党や参政党など、より右寄りの新興政党が躍進する結果にもなった。いわゆる旧リベラル勢力が腰砕けになって力を失い、与野党の対立構図が薄まり「茶番国会」と称される状態が続くなか、減税や給付などの経済政策や「日本人ファースト」などの聞こえの良いフレーズを隠れ蓑にして、あたかも新興政党であるかのように装った宗教右派や干からびた右派勢力が悪目立ちした選挙ともいえる。いわゆる「右派ポピュリズムの台頭」といわれる今回の選挙結果をどう見るか、本紙は記者座談会で論議した。

 

参政党や国民民主党躍進の背景とは

 

  確定投票率は58・51%で、前回(2022年)を6・64㌽上回った。90年代以降で参院選の投票率としては高水準といえるが、依然として4割以上が選挙自体にそっぽを向いている。まずはこの低投票率が前提だ。これまで選挙に関心を示さなかった人や無党派層の多くをごっそり投票行動に駆り立てるほどの選挙戦ではなかったということだ。

 

 ただ、前回からの投票率の上昇分を人数にすると約530万人増えた。選挙前から自民党の敗北が確実視され、「自民以外のどこに入れるか?」が一つの焦点になったことで若干の層が動いたのも事実だ。これには昨今、オールドメディアが影響力を失うなかで、若い世代や無党派層取り込みの主戦場となっているSNSなどネットを駆使したプロモーション合戦の過熱が一定作用したとみられる。

 

 議員任期6年の参議院(全248議席)では、3年ごとに半数ずつ選挙がおこなわれ、今回は125議席が改選となり、自民公明が過半数(125議席)を得るには今回50議席の獲得が必要だった。開票の結果【表参照】は、自民党は選挙前から13議席減らして39、公明党は6議席減らして8となり、非改選議席を含めた新勢力は122議席にとどまった。

 

 与党は昨年10月の衆院選でも、自民党が56議席減、公明党が8議席減と大敗しており、自民党を中心とした政権が衆参両院でともに過半数を割り込むのは1955年の結党以来初めてのことだ。それ自体はなかなか味わい深い。

 

  自民大敗の要因は石破云々の話ではない。とくに安倍晋三が再登板して以降、モリカケ桜に加え、公文書改ざん、選挙買収、裏金等々あらゆる私物化事案が明るみに出ても逮捕も処分もなく、霞ヶ関の官僚だけでなく最高裁の人事権まで握って政界を牛耳ってきた自民党+公明党の政権基盤が行き詰まり、いろんな意味で死に体になりつつあることを物語っている。

 

 一方、議席を増やした党派を見ると、もっとも増えたのが参政党で、前回選挙で得たのが党首・神谷宗幣の1議席だけだったところから、今回一気に14議席も増やした。次に、玉木率いる国民民主党が13議席増の17議席を得て、非改選を含めた新勢力は22議席となり、参院の野党では立憲(38)に次ぐ数となった。

 

 また、政策的な対立軸がほとんどなく、野(や)党というより「ゆ」党といわれて久しい日本維新の会は1議席増にとどまり、立憲民主も現状維持。そして共産は4議席減、社民はラサール石井の知名度もあってか、かつがつ現状の1議席を保った感じだ。

 

 山本太郎率いるれいわ新選組は1議席増の3議席を獲得し、参院での勢力は6議席となった。6年前に山本が1人で結党して以来、「消費税廃止」を突破口に、失われた30年の不況から脱却する大胆な経済政策を前面に打ち出しながら着実に議席を増やし、衆参で15議席を有する勢力となった。今回の選挙では、これまで消費税など口にしていなかった政党も含めて自民党以外のすべての政党が消費税減税や廃止を公約に入れ、「積極財政」「失われた30年を取り戻す」「子育て世帯への給付」「国内農業や産業保護」などのれいわの政策をコピペして大合唱するという、完全なれいわシフトを敷いた。参政党なども明らかにれいわを意識して政策を被せに行った。

 

 まるで存在をかき消すかのような逆風を全方位から受けながらも議席を増やした意味は大きい。得票数を見ても、2022年の前回参院選から3年で新たに156万票余りを積み上げており、年間を通じた全国ツアーでの有権者との直接対話をはじめ、各地のボランティアを含めた議会内外での活動が着実に実を結んでいることは確信を持って良いと思う。その意味では右側からの「れいわ潰し」は失敗に終わった。

 

れいわ新選組の参院選全国ツアー(7月11日、大阪・京橋駅)

参政党を取り巻く組織 核は右派宗教団体か

 

 C そんな選挙で話題をさらったのは参政党で、選挙後もメディアが「新たなポピュリズム政党」「躍進した新興勢力」としてやんやととりあげている。まるで無党派層の代表のような扱いだ。「日本人ファースト」や外国人への憎悪をかき立てる煽動的プロモーション、SNS等のネットを駆使した戦略で急速に支持を伸ばしたという印象が振りまかれているが、たしかにその要素もあるが、果たしてそれだけなのか? という疑問がある。

 

 参政党が国政政党になった3年前の参院選での比例得票は170万票程度で1議席だけだったが、今回にわかに565万票増の742万5000票を得て議席を15倍に伸ばした。昨年の衆院選でも95人の候補者を擁立して驚かせたが、今回も全45選挙区すべてに候補者を立て、比例に10人擁立した。

 

 単純に考えて、供託金(出場料)だけで選挙区で1人300万円、比例では1人600万円だ。その他、事務所経費や宣伝物などを含めれば1人当り1000万円近くかかる場合もあり、そんな金がどこから集まったのかだ。

 

 A 山本太郎が2019年にれいわを結党するために1人で半年間、全国を駆けずり回って集めた寄付額は3万3000人以上から4億円余り。それでも比例に10人立てるのが精一杯だった。

 

 参政党の収支報告書(2022年)を見ると、党本部と支部の収入は約16億円。2023年は20億円になり、そのうち5億5000万円が「事業収入」で、立憲(1億6000万円)や国民(1億1000万円)をはるかに上回る。年2回の首都圏での大規模な政治資金パーティーで1万人余りから2億4000万円を集め、グッズの販売やタウンミーティングなど勉強会の参加費などで数億円ある。党費(政策立案の投票権がある運営党員)は月額で4000円(自民党費の年額と同じ)と高く、これで4億5000万円を得ている。党員も元教員とか医者、企業家など金持ちが多いようだが、とにかく潤沢な資金源を持っているのが特徴だ。

 

  カネだけあっても素人集団では選挙はできない。選挙経験者なら誰でもわかる。事務所運営、選管への届け出、政治資金の管理や記録などの実務から、公選ビラ配布やポスター貼り、電話がけ、街宣の回しや宣伝カーの手配等々……選挙には膨大な実務がともなう。個人の集まりでこなすにはてんやわんやだ。これらをそつなくこなすためには、各選挙区ごとに一定数の運動員を確保しなければならないし、なかでも公職選挙法を熟知した経験者を配置する必要がある。要するにかなりの数のベテランが組織的にかかわっている。

 

 れいわを意識してか「バックに宗教も企業もない」を売りにしているが、それだけ見ても単純に世論を反映して台頭したというよりは、事前に周到な準備体制が敷かれていたこと、全国区で多数の人間を統率するほどの組織力を擁していたと見るのが自然だ。結党からわずか3年で全国に100人近い地方議員を持ち、200を越える支部を持つに至っている。有志個人が集まったと見るにはあまりにも不自然だ。

 

  以前、毎回の国政選挙で泡沫でありながらも全選挙区に候補者を擁立してきた幸福実現党が、参政党と入れ違いに姿を見せなくなった。2022年、その幸福実現党やサンクチュアリ教会(米国に本部を置く統一教会の一派で文鮮明の7男が主導)が合同で参政党応援の街宣をする写真が出回ったが、彼らの考え方と参政党の政策はピタリと一致する。確かに幸福実現党は、なんとなく容姿端麗な女性候補のポスターをあちこちに貼り回していたが、参政党の地方議員や候補者も顔つきや雰囲気がよく似てると感じるのは気のせいだろうか。

 

  サンクチュアリ教会といえば、トランプ落選時にホワイトハウスを襲撃したことで知られるが、幸福の科学はその一支部ともいわれている。

 

 B なるほど日本ではいわゆる守護霊との対話で知られる幸福実現党(宗教団体・幸福の科学)は、全国47都道府県すべてに支部や拠点を持ち、『「大和の心」を取り戻すとき』を掲げて、「中国の悪事から日本と世界を守る」「憲法九条を改正し、国防軍を創設」「勤勉革命」「原発再稼働推進」「コロナ戦争に打ち勝つ(コロナは中国の生物兵器)」「ワクチン反対」「LGBTQ(性的マイノリティー)は釜ゆでにする」などと訴えている。神谷宗幣が声高に叫ぶ「大和魂に火を付けろ」とか「日本人ファースト」の中身もこれとだいたい同じだ。

 

 幸福の科学は海外にも支部を持ち、2021年にトランプが演説した米国の保守合同イベント「保守政治活動協議会(CPAC)」に幸福実現党の党首が参加して演説したことから、トランプのコアな支持組織だった陰謀論団体「Qアノン」や米国でトランプ第1期目の大統領選で選対責任者だったスティーブン・バノン(投資家)との関係が海外メディアでもとりあげられた。

 

 日本国内では幸福実現党の初代党首が右派政治団体「日本保守連合(JCU)」の会長となり、百田尚樹(今回は保守党から出馬して当選)、田母神俊雄(参政党顧問)などが参加する日本保守政治行動会議(J-CPAC)の開催を主導するなど、統一教会と同じくいわゆる国際反共連合の一翼を担ってきた。霊界から死者を呼び出すとかいってインチキな「言霊」を世に放ってきた幸福の科学総裁の大川隆法は2023年に66歳で逝去しており、あくまで推論だが、その後釜として神谷宗幣が抜擢されたとの一説もある。ちなみにJ-CPACは2017年から始まり、初回はスティーブン・バノンが来日して講演。その後毎年開催されており、参政党の神谷ら幹部、国民民主の玉木、自民党・ヒゲの佐藤などの「保守もどき」の面々が勢揃いして「核武装」等を云々している。

 

 幸福実現党は日本国内では一つの県に5000票ずつ抱えているといわれ、全国で200万票くらいの票を持つとさえいわれる。それが参政党の前回参院選での比例得票(179万票)、昨年10月衆院選での比例得票(187万票)と符合する。これに反ワクチン、オーガニック信奉などの意識高い系の人々を糾合して肥大化し、さらには参政党が何をしようとしているのかよくわからないけれど、YouTubeやTikTokで怒濤のように流れてくる扇動的な演説や「日本を舐めるな!」「日本人ファースト」「積極財政と減税」などのフレーズに感化された人々が吸い寄せられた格好だろう。

 

  SNSなどのネットの活用はいまや空気を作るうえで必須のツールだ。以前、ネトウヨ系インフルエンサー「Dappi」(旧ツイッターアカウント)に自民党が資金を与えて情報拡散させていたことが明るみに出たが、これはすでに業務委託化されており、ネット界隈の発信は個人なのか業者なのかわからない。ここでも組織力のある宗教ネットワークは威力を発揮する。嘘でも何でも情報を洪水のようにSNS上に垂れ流すことによって一定の世論を動かせるのは、最近では都知事選での石丸旋風、大荒れに荒れた兵庫県知事選でも実証済みだ。参政党は、一定の影響力をもつ政治系インフルエンサーを取り込むとともに、炎上商法も織り交ぜてSNSのアルゴリズムを駆使した。だがまぁ、それはオマケみたいなもので、核となる得票母体は用意周到に準備されたものと考えるのが妥当だ。

 

自民党右派からも流入 新たな代理人として

 

  もう一つの要素は、自民党支持基盤からの票の横流しだ。それもなければこれほどの大量得票にはならない。得票数の増減【表参照】を見ると興味深い。自民党は前回から550万票程度減らしたが、だいたい同じ数だけ参政党が増やしている。

 

 安倍晋三が一強体制を維持するために、統一教会や日本会議といったカルトや宗教右派との繋がりを密接にしていったことはすでによく知られている。地方議員から国会議員にいたるまで、これらカルト教団を糾合することで信者の固定票を得るだけでなく、秘書から選挙実務をこなすスタッフまで多数派遣されていた実態が暴露された。

 

 だが、日本の信者から身ぐるみを剥がすように献金させてきたカルト集団の生態やそれによる政界汚染が知られてしまうと、自民党は解散命令を出さざるを得なくなり、教団側としても利用価値がなくなった。安倍晋三の死後、閉じていた壺の蓋が開いてしまったのだ。

 

 さらに、その支援を受けて我が世の春を謳歌してきた旧安倍派たる清和会は、裏金問題をへて解散に追い込まれた。党内権力も削がれ、首相ポストも岸田派(旧宏池会)にとられた。落ち武者というか、手負いのクマ状態となった安倍派残党による石破おろしは選挙前からすごかったが、選挙後、示し合わせたように落選議員、惨敗した地方の県連に至るまで石破退陣を要求し、主要メディアもフライング気味に「石破政権、退陣へ」の号外まで出して退陣熱を煽っている。自民党の旧安倍派界隈としては、石破政権を揺さぶる意味合いをもった選挙だったということだ。

 

 C 党内奪権を目指す旧安倍派の大暴れだ。票の流れ方にもそれが表れている。右も左もわからないような参政党の素人候補が、その実力にも見合わない不自然な大量得票で当選する一方、自民党の比例票がごっそり減り、憲法改正を声高に訴えてきた山東昭子元参院議長(旧麻生派)、軍拡主張の急先鋒だった「ヒゲの隊長」こと佐藤正久幹事長代理(旧茂木派)、裏金議員の杉田水脈(旧安倍派)などが落選。保守系グループ「保守団結の会」代表世話人の赤池誠章(旧安倍派)、和田政宗(旧菅G)、長尾敬(旧安倍派)、核武装賛成の中田宏らなどの右巻き人士が落選した。いずれも極右として分類され、統一教会との関係が取り沙汰された者たちでもあるが、これらが当てにしていた組織票が別のところにごっそり動いたことをうかがわせる。

 

 裏金やら統一教会との癒着やらでさんざん悪事を働いてきたこれらの旧安倍派やら壺議員たちが、敗戦後にまるで鬼の首をとったかのように石破に敗戦の責任を押しつけて退陣の大合唱をしているのもわかりやすい。「この機を逃してなるものか」の勢いだが、端から見ると「それお前がいう?」とドン引きするものがある。だが、その補完勢力の側は、すでに弱体化した自民党にかわる右のアンカー(錨)を力ずくで打ち込んだ。参政や国民民主がその役回りで光が当てられたということだろう。

 

  自民党内でうごめいていた寄生虫が宿主を見限って乗り換えたというだけの話ではないか。前述したように、宗教右派は単なる変わり者の集まりではない。国際ネットワークを持ち、それによって膨大なカネが動くビジネスでもあり、選挙は政治を操るうえで重要な主戦場だ。その勝敗がカネの集まり方にも響いてくる。その宿主が彼らにとって利用価値があり有益であれば、それが自民党であるかどうかなど関係ない。

 

  国民民主党の躍進も、連合の組合票や大企業票の操作がうかがい知れる。連合もいまや経団連の関連団体みたいなものだ。民主党への政権交代時にも企業票の操作がおこなわれた面があるが、経団連も政権に圧力を掛けるためにはそれくらい平気でやる。投票率50%台の低調選挙では、まだまだ企業票や宗教等の組織票のコントロールが機能するということだ。

 

 B そういえば、統一教会の支援を受けていると公言していたNHK党も得票を半減させて政党要件を失い、兵庫選挙区に出た立花孝志も泡沫レベルだった。兵庫県知事選ではまるでトランプよろしく派手に振る舞っていたがこれも用済みとなったようだ。昨年6月の都知事選で時代の寵児のようにもてはやされた石丸の新党「再生の道」も去年の熱狂はなんだったのか? と思う異常な凋落ぶりだ。参院選中に新宿で演説しているのを見かけたが、聞いているのは10人そこそこで目を疑った。

 

 都知事選で165万票を得たところから、都議選では40万票で42人全員落選、参院選(東京選挙区)では12万票程度と一気に凋落した。背後関係はよくわからないが、「○○旋風」とか「○○現象」とかは一定のカネと組織力をバックにして作られるということだ。なまじ人口の多い東京界隈では、それを簡単に偽装できるし、一定それにつられる空気が醸成される。だから一頃のタピオカ屋のような顛末を見せている。本人も訳がわからないだろうが、あれが本来の実力なのだろう。

 

  SNSでの切り抜き動画などで、神谷宗幣が「外国人に国を売り渡している!」「日本人が日本人ファーストで何が悪い!」と自民党や野党の批判をしたり、マスコミや街宣で「差別反対」のヤジ勢との丁々発止をやっている姿を見て、参政党に入れた人も一定数いるようだ。彼らは批判やヤジも含めて素材として編集し、ネット上に拡散して劇場化する手法を駆使した。そんな炎上商法も手伝って勢いや空気を醸成し、自民党右派の「石破おろし」票にプラスして無党派の「反自民票」を取り込んだ形だ。主要野党が腰砕けしている間に、人々の現状に対する怨嗟を右側に惹きつける受け皿を力ずくで作ったわけだ。

 

極右カルトの改憲論者 統一教会との関係も

 

参政党の神谷宗幣(左)と候補者たち(19日、東京)

  では果たして「右派ポピュリズム」の旗振りのようにして出てきた参政党や国民民主党が、その求心力なり賞味期限をどれだけ維持できるかだ。選挙演説とか国会の外では威勢が良く、SNSでは実力の何倍ものイメージを醸成したが、国会内でその真偽が否応なく問われることになる。

 

 あれだけ「外国人流入反対!」と国会の外で叫ぶ神谷宗幣とその仲間たちだが、その移民労働拡大の入管法改正案採決時にたった一人で国会で牛歩して抗議した山本太郎に比べると、この間、神谷宗幣は国会ではなんの存在感もなかった。躍起になって「日本が乗っとられる!」「大和魂を燃やせ!」という割には、この戦後80年間、経済的にも軍事的にも文化的にも全面的に日本を支配している対米従属関係には目をつむり、もっぱら中国やアジア近隣諸国に毒づくのが彼らのいう「愛国心」であり、基本的に自民党右派と同じものなのだ。

 

 B あまり知られていないが、神谷宗幣という人物についてみると、もとは大阪の吹田市議で「日の丸・君が代」を徹底する会派を作り、2010年に超党派の地方議員による「龍馬プロジェクト」を立ち上げて、神道や古事記の紙芝居を全国の神社に奉納する活動などをしていた。ここで当時、西宮市職員だった杉田水脈や南出賢一(泉大津市長)、中山義隆(前石垣市長、幸福実現党の推薦)ら右翼系人士と交流を深めたようだ。杉田水脈はいまもこの団体の参与だ。

 

 彼らは2015年に靖国神社で総会を開き、「新しい憲法を制定」「国防軍の創設」「努力したものが報われる社会保障制度の確立」「独立自尊の精神を育む国民教育」などの「国是十則」を発表しているが、これが参政党の政策の柱にもなっている。

 

 吹田市議を2期目途中で辞職し、安倍晋三の支援を受けて自民党公認で大阪13区から出馬するも落選。その後に参政党の母体となるYouTubeチャンネル「政党DIY」を保守系ユーチューバーや、統一教会系メディア「ワシントン・タイムズ」の日本ディレクターらと一緒に立ち上げている。

 

安倍晋三の応援で自民党から衆院選に出馬した神谷宗幣(2012年)

 ちなみに2015年には、「安倍晋三記念小学校」と称して安倍昭恵が名誉校長となっていた学校建設で話題になった森友学園系列の社会福祉法人「肇國舎」の監事になっている。その縁で彼をよく知る同学園の籠池諄子氏(服役中)は2023年1月に「神谷さんは統一教会です」とSNSで告白している。

 

 また、神谷氏はヤマト・ユダヤ友好協会の理事にも名を連ねており、この団体の母体は戦後の日本で発足したキリスト教系宗教「キリストの幕屋」が母体になっている。イスラエルとの親交が深く、イスラエルの聖地巡礼のため『聖書に学ぶやまとこころの旅』に出向いて感銘を受けて理事に就任したことを記している。そのためか、現在のガザ虐殺においても彼はイスラエル批判を絶対にしない。むしろ「幕屋」はイスラエル大使館でイスラエル支持の集会を開き、イスラエルの旗と日の丸を持って行進していたくらいだ。さらに、参政党立ち上げメンバーの松田学(今回比例で当選)は、次世代の党の衆議院議員だった2015年に統一教会が幕張メッセで開いた名称変更式典に教祖一族とともに来賓として出席していたことも明らかになっている。

 

 A 一般有権者の多くは知らないと思うが、参政党が2年間かけて作成したという「新日本憲法(構想案)」は、前文で「国民も天皇を敬慕し、国全体が家族のように助け合って暮らす」などと記し、「これが今も続く日本の國體(こくたい)」と定めている。「憲法を一から創り直す」と主張しているが、その中身は、天皇を「国家元首」と位置づけて国家の統治権を認める、戦争放棄や戦力不保持の原則は捨てて自衛軍を創設、「表現の自由」や「法の下の平等」といった基本的人権の規定は削除し、「愛国心」を国民要件の基準にするなど、自民党の改憲草案のさらに右を行っている。統一教会、幸福の科学などといった宗教右派と通じるものがにじみ出ている。

 

 こういった右派観念論者が、コロナ禍でワクチン問題や国際的な陰謀論の氾濫の中で肥大化し、反ワクチン運動や財務省解体デモなどで旭日旗を掲げて怒鳴り声を上げ、一般人がちょっと近づきがたい、得も知れぬ空気を醸し出してきたのも事実だ。

 

新しい戦前に抗う力を 有権者の役割も重大

 

 C コロナ禍にネットの世界で氾濫していたカルト集団がにわかにリアルに飛び出してきたという印象だが、自分たちの不遇や閉塞感を社会的弱者や他民族への怒りに転嫁する排外主義が、現状に不満を持つ人たちの心を一定揺さぶっていくという現象は、世界的に起きていることでもある。

 

 トランプを再登板させた米国大統領選がそうであるし、ドイツにおける「AfD(ドイツのための選択肢)」、イタリア与党の「イタリアの同胞(FDI)」、フランスにおける「国民連合」など、欧米の西側先進国でいわゆる「右派ポピュリズム」が台頭していることとも関係している。イスラエルなどは極右連立内閣で戦争になだれ込んだ。

 

 ウクライナ戦争やイスラエルによるガザ戦争などを通じて旧リベラル勢力がこぞってウクライナやイスラエルの戦争支援を唱え、国内ではグローバル化による新自由主義政策を遂行するなかで、「保守」「革新」とか「右」「左」の区別がもはや意味をなさなくなり、大政翼賛体制ができあがる。日本もまったく同じだ。米国民主党を見ても共和党以上の戦争狂いとなり、そのリベラルエリートの政策によって格差が拡大し、痛めつけられた国民の不満を極右勢力が拾い上げていくという構図だ。

 

 その一方で、最近ではニューヨーク市長選民主党予備選で「インティファーダ(パレスチナにおける民衆蜂起)をグローバル化せよ!」を合言葉にして大企業や富裕層への課税強化を唱える33歳のイスラム教徒の若者が勝利するなど、単発的ではあるが民衆の側からの新しい反撃も始まっている。

 

 A 右派ポピュリズムは、資本主義経済が行き詰まり、きな臭くなると古今東西どこでも起きる現象だという。とくにネット空間を通じて、まるで宗教のように、根拠のない情報を鵜呑みにして独特の世界観を構築した勢力は、どこでも批判を受ければ受けるほど、それを肥やしにしたエコチェンバー(自分と似た意見を持つ人同士で交流を深めて自分たちの意見を肯定し、増幅・強化する)現象で内に閉じこもり、結束を固めていく。これは右でも左でも等しく起きる現象でもある。

 

 そして、「日本人ファースト」「外国人排斥」「国防軍をつくれ」「日本を舐めるな」と声高に唱えているが、外国人だけでなく、自分たちの主張に異を唱える人々を「敵の手先」「反日」「スパイ」「非国民」などといって排斥していく道だ。まさに戦前に「チョン」「チャンコロ」といって朝鮮人や中国人を集団リンチし、虐殺した歴史を彷彿とさせる道だし、そのうち「軍拡に反対するような者は日本人にあらず」とかいい出すのだろう。戦後80年とかいいながら、いまだにこのような空気に流されて、ふわっと乗っていくというのでは話にならない。そこに深刻な問題がある。

 

  れいわ新選組から出馬した伊勢崎賢治氏(元アフガニスタン武装解除日本政府特別代表)がいっていた「新しい戦前」の空気にどう抗っていくかが焦点となる。このようなポピュリズムの相互作用は、世界中のどこでも起きることだが、日本の場合、その「右」「左」の攻防が、すべてアメリカのてのひらの上で展開されるというところに問題があるといっていた。その通りだ。地べたを這うようにして有権者と直接つながりながら、その空気に孤軍奮闘で抗って議席を増やし続けているれいわ新選組が今回も着実に議席を増やしたこと、そして、日本がアメリカの対中戦争の最前線として動員されようとしているこの情勢下で、世界の紛争地帯で戦争の表も裏も体感してきた伊勢崎氏が国会に送り込まれる意味は極めて大きい。たいへんだと思うが、まず幼稚園レベルのマンガのような安全保障論議をくり広げる、頭の沸いたタカ派議員どもの武装解除からやってもらいたいと思う。

 

  その他の党の動向も要チェックだ。「消費税は廃止。減税と社会保険料削減で国民負担率を上限35%に抑える」「農作物を国が買い取り、食料自給率100%を目指す」「子ども1人につき月10万円」(参政党)、「所得税減税」「ガソリン税減税」「消費税5%」「農林水産業への所得保障」(国民民主党)、「食料品の消費税を2年間ゼロに」「現役世代の社会保険料年間6万円以上引き下げ」「所得制限なしで未就学児の教育・保育料の完全無償化」(維新)、「食料品の消費税1年間ゼロ」「大学・給食の無償化」「中小零細企業に公的助成をして最賃1500円を実現」「非正規雇用の正規化」(立憲)、「食料品の消費税ゼロ」「再エネ賦課金廃止」「失われた30年を取り戻す」(保守党)等々……選挙前になってれいわ新選組の政策にかぶせるような経済政策を叫んでいたわけで、これが「選挙用のニンジンでした」なら、支持者は責任をもって尻を引っ叩かなければならない。

 

 維新や国民は昨年の衆院選でも同じようなことをいっていたが、予算期の質疑で減税に関する質問はそれぞれ1回ずつだった。ガソリン税減税も審議時間のない国会閉会直前に法案を出して、アリバイのように取り繕っただけだった。

 
 C メディアもあくどい。参政党が話題になり始めた選挙戦後半から、選挙後も選挙の争点がまるで「外国人問題」や「差別問題」であるかのような印象操作をやり、暮らしの問題や経済政策など吹っ飛んでいる。

 

  いずれにせよ、今後ますます激化する米中の緊張関係のなかで、緩衝国家たる日本がどのような選択をするのか、対米従属一辺倒ではなくアジアとの友好平和で進むのか、それとも逆にウクライナのように代理戦争の矢面に立たされてミサイル攻撃の標的として戦場にされるのか、他人事ではない情勢のなかに日本社会はある。参政党ブームもそのなかで持ち込まれており、国政は今後さらにきな臭さを増すだろう。

 

 口先では何か「反グローバリズム」のような装いをしているが、怒りや排斥の矛先は常に中国をはじめとするアジア近隣国や途上国に向いているのが特徴だ。だから彼らのいう「日本人ファースト」は、単純に「アメリカ・ファースト」とか「イタリア・ファースト」などとは同列ではない。これまで以上にアメリカ様の一番の番犬になるという意味での「First」だ。その正体は今後おのずと明らかになるだろう。

 

  今回キーワードになった「日本人ファースト」の由来は、トランプ側近の米国防次官エルブリッジ・コルビーが謳った「アジア・ファースト」(文春新書で書籍化)の焼き直しらしく、今後ヨーロッパや中東(アラブ世界)の紛争から手を引いてアジアにシフトし、中国との激突を想定するアメリカの軍事戦略において「アジア人がお先(First)にどうぞ、アメリカは後ろから応援する」という意味らしい。それをみずから進んで声高に叫びながら、尖兵となって中国にぶつかっていくという話だ。まさに、あらゆる政策がそのようになっている。

 

 長らく政権にあぐらをかいてきた自民・公明与党が弱体化し、「革新」を名乗る勢力も希薄になり、硬直していた政界が流動化していくなかで、有権者一人一人の政治への向き合い方が問われているということでもある。魑魅魍魎はびこる政局を冷静な目で見ながら、主権者としての意識を高め、国のあり方について論議を深めていく必要がある。

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この記事へのコメント

  1. 記者座談、他のどんな媒体よりも鋭く、真理を究めた内容となっているようにかんじました。
    れいわが、真のレフト(公平、自由、反戦、反体制に忠実)にならない限りは、この国の政治は劣化するどころか、苛政を極めるだけ?
    もちろん、レフトにはイデオロギーは必要ない。
    しかし、れいわにも一抹の不安があります。
    消費税廃止です。なにより必要なのは、公正を旨とする税制だと思います。つまり、ありとあらゆる所得と資産を漏らさず把握(レフトかが政権にあることを前提)し、一切の例外なく(政治資金、パーティー券など含め)総合課税化し(資産、金融所得、含み益にも)応能負担にしてから、消費税のことは考えてほしい。
    まずは、大企業、富裕層、資産家への容赦ない課税を!
    庶民の懐を温めるのは、消費税廃止や社会保険料削減ではなく、儲けから適切に労働者に賃金として、強制的にでも分配すること。そのためのレフトの伸長が必要。共産や国民民主ではなく、それをれいわに期待!

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