(2025年7月21日付掲載)

れいわ新選組は選挙中、北海道から沖縄まで全国を駆けめぐり街宣を展開した。写真は東京・秋葉原での最終街宣の様子(19日)
第27回参議院通常選挙は20日に投開票を迎え、自民・公明の与党が衆議院に続いて参議院でも過半数割れに追い込まれることとなった。参議院の過半数124議席に対して、今回の改選で与党は50議席獲得なるかが注目されたが、自民党39議席、公明党8議席のあわせて47議席にとどまり、今後は一部野党を取り込んで新たに連立を組むか、法案審議ごとに一部野党の合意を取り付けるなどしなければ石破政権は維持できないところへ追い込まれることとなった。90年代末に自民党単独による政権運営がままならなくなったもとで、そこから公明党を取り込んで連立与党を構成し、四半世紀にわたって両者が組んで政権与党のポジションにおさまってきたが、これが行き詰まりを迎え、「与党」「野党」のくくりが意味をなさないほど各種政党が混在した状態となり、政界はぐちゃぐちゃな状態で流動化を余儀なくされている。
用意周到な組織的プロパガンダ
投票率は57・91%で、3年前の前回選挙の52・05%よりも5・86㌽上回った。投開票日が3連休に挟まっていたということもあってか、期日前投票は2618万人(速報値)と参院選では過去最多の投票者数を記録した。しかし、当日の投票率は伸び悩み、全体としては微増にとどまった。引き続き有権者のおよそ4割以上が投票に行かず、選挙にそっぽを向いている状況には変わりがなかった。期間中の巷の空気も含めて「無党派層やこれまで選挙に関心を示さなかった層がごっそり動いて大勢が変化した」といえるような選挙ではなかったことを端的にあらわした。
投票率は上昇したといっても微増。すなわち、若干の層が動いたという特徴はあるものの、基本的にはこれまでと同じように選挙に行く層が選挙に行き、選挙に行かない層はそのまま動かず、積極的に政治参加する動きにはつながらなかった。そのなかで、自民党、公明党が大きく議席を減らした。自民党、公明党に吸収されていたであろう既存の票が石破政権を揺さぶるかのように剥がされ、その他の国民民主党や参政党といった新興政党に流出する動きを見せたことが大きな特徴となった。
選挙は全般として、欧米にならって「右派ポピュリズムを台頭させる選挙」がやられたかのような様相を呈した。自民党を除くすべての政党が、選挙直前になって消費税減税や奨学金免除、社会保険料減税、物価高対策などを叫びはじめ、2019年に山本太郎が立ち上げたれいわ新選組の政策に被せるように全方位で寄せていったことも大きな特徴となった。
このなかで、れいわ新選組は淡々と選挙戦を展開し、改選2議席から3議席へと確実に国会での議席を増やした。これで立ち上げから6年で衆参あわせて15人の国会議員を擁する勢力となった。
選挙では、物価高対策や消費税減税など暮らしをとりまく切実な問題などなかったかのように、メディアでもにわかに外国人労働者問題がクローズアップされ、これにたいして排外主義的な主張をくり返す政党がSNS等で盛んにとりあげられたり、これとアンチとの抗争がおもしろおかしく動画で展開されたり、既存メディアでは触れにくいヘイト等をともなう領域についてはネットやSNSが拡散力を発揮し、炎上商法に一役買ったのも特徴となった。既存政党の存在感が希薄となり尻すぼみになっていく一方で、その界隈では「右派ポピュリズムの台頭」が公然としたテーマだったかのような様相も見せた。「日本人ファースト」「日本人をなめるな!」等々の言説が公然と飛び交い、真偽の不確かな情報も含めて何がなんだかわからなくさせるような混沌とした言論空間が一部に作り出され、プロパガンダの空気をプンプンと臭わせながら、瞬間風速で右側からの「熱狂」が作り上げられたのも今日的な特徴となった。
なかでも特徴的だったのは、3年前の参院選では比例区で177万票を獲得して1議席にとどまっていた参政党が、ネットやSNS戦略を通じて存在感を実力以上にアピールし、一気に14議席を獲得するまで伸張したことだった。選挙期間中はみずからの政党発信だけでなく、周囲の影響力ある媒体も巻き込んで過剰プロモーションともいえる力が働いた。
比例区のみならず全選挙区に候補者を擁立すること自体、新興政党としては膨大な供託金を用意しなくてはならずハードルは極めて高いことに加えて、ポスター貼りの人員確保、全選挙区で選挙実務を担う人材確保など巨額の資金や組織力を擁することが不可欠になるが、これらをそつなくクリアして選挙戦を展開した。泡沫ではあってもこれまで全選挙区に候補者を擁立してきた幸福実現党が今回の選挙では引っ込んで、かわりに参政党が極右代表として看板を掛け替えて出てきたような印象をともなった。
これは世論を反映して台頭したというよりは、事前に周到な準備体制が敷かれていたこと、全国区で多数の人間を統率するほどの組織力を擁していることを物語った。政党としては2022年の参院選で初の国政デビューを飾り、そのさいに代表の神谷宗幣がかつがつ1議席を獲得してからの本格スタートであったが、わずか3年の期間で地盤を築き上げたというよりは、むしろ今回の選挙を通じて議席15倍になるほど参政党を押し上げる外側からの援護射撃が一気に加わったことを伺わせた。SNS戦略だけでなく公選法に則った選挙手続きの実務など、選挙をそつなく回していくプロ集団(経験者)の力が加わっていることや、組織力を有する集団の存在を浮き彫りにし、金銭的なバックボーンなしにはあり得ない選挙のこなし方を見せた。
右派乱立選で争点外し 「保守もどき」を培養
日本の政界をめぐっては、長期にわたった安倍政権は統一教会や日本会議といった「コアな支持層」といわれる宗教右派の諸勢力に至るまでを糾合して、既存の自民党支持者にプラスアルファすることで政権与党の立場を築いてきた。ところが、この何年かにわたって統一教会による政界汚染、清和会を中心とする裏金問題が発覚するなかで、自民党内では清和会が解散に追い込まれ、最大派閥としての存在感が薄まるばかりか政界での影響力も削がれるといった局面にあった。
そのなかで、いわゆる右派勢力が今回の選挙戦では各種の看板を掲げて選挙戦に殴り込みをかけ、「右派乱立選」ともいえる異様な様相となった。このなかで、もっとも受け皿の本命として光を当てられたのが参政党だったのか、その他の既成政党がたいして増減も見せないか退潮局面のなか、新興の国民民主党と共に自公が失った議席を拾うかのように議席を獲得していく動きとなった。
この選挙における自公惨敗は、直接的には自民党内で清和会を中心とする勢力から権力を奪取した石破政権を揺さぶる意味合いを持ち、今後石破政権は連立与党を再構成するか、少数与党体制のもとでの国会運営、政権運営を余儀なくされることになる。そして、看板を掛け替えて巻き返しをはかった右派勢力が、その他の第二自民党と目される自民党と大差ない補完勢力等々とつながりながら、無視できない力を加えていく存在として配置されるに至った。
戦後80年におよぶ対米従属構造のもとで、近年は南西諸島において台湾有事が叫ばれ、米中覇権争いのなかで九州地方や西日本一帯ではミサイル配備がやられ、アメリカの鉄砲玉として日本を軍事的にも駆り出していく動きが強まってきた。政界で取り立てられてきたのは安倍晋三及び清和会を中心とする売国勢力で、極右やタカ派の衣をまとった親米勢力が「右傾化」なるものを牽引し、「美しい国」「この国を守る」などと叫びながら、その実、アメリカ本土防衛の盾として日本列島を対中国の最前線基地として、その軍事的緊張の渦に放り込んでいく動きを強めてきた。かくしてアジアの近隣諸国との友好平和ではなく、逆にミサイルを向け合って軍事的緊張を高め、「台湾有事は日本の有事」などといって武力参戦すらいとわないような発言をする政治家が取り立てられ、多少の私物化をしようが権力を与えられ、逮捕投獄されることもなく政界に配置されてきた。
ますます激化する米中の緊張関係のなかで、緩衝国家たる日本がどのような針路を選択するのか、対米従属一辺倒ではなくアジアとの友好平和で進むのか、それとも逆にウクライナのように代理戦争の矢面に立たされてミサイル攻撃の標的として戦場にされるのか、他人事ではない情勢のなかに日本社会はある。今回の選挙において、安倍晋三亡き後の右派の残りカスたちが散り散りバラバラになって雲散霧消するのではなく、今度は自民党の外側に姿形をかえて配置され、排外主義を叫んだりしつつ対中国の強硬派として政界に一定のポジションを与えられたというのは、それを必要とする側、煽って米中覇権における軍事衝突の鉄砲玉として利用したい背後勢力にとってはなくてはならない火付け役であり、温存する策に出たと見なせるものとなった。
気味悪い「外国人ヘイト」とともに右のアンカー(錨)が力ずくで打ち込まれた。ただ、外国人ヘイトをやって「外国人から日本が乗っとられる!」「この国を守る!」と脅威を煽っているものの、誰もが知っているように日本社会は戦後80年にわたって米国から植民地として乗っとられ続け、経済的にも軍事的にも文化的にも全面的に支配され、従属させられている国である。対米従属の隷属的関係には目をつむって、もっぱら中国やアジア近隣諸国にたいして毒づく「保守もどき」が培養され、その他の争点など吹き飛んで宗教右派の存在が目をひく選挙となったことは疑いない。

最終街宣で演説するれいわ新選組の山本太郎代表(19日、東京)
逆風の中でも議席増やす 貧困と戦争に抗う
れいわ新選組が独自開票特番
参院選に24人(選挙区12、比例12)の公認候補者を擁立したれいわ新選組(山本太郎代表)は比例で3議席を獲得し、参院の議席を5(非改選3を含む)から6へと増やした。比例特定枠で擁立した伊勢崎賢治(東京外国語大学名誉教授、元アフガニスタン武装解除日本政府特別代表)をはじめ、木村英子(党副代表・重度障害当事者)、奥田芙美代(元ピアノ講師)の各氏が当選を果たした。今選挙の比例獲得議席については、三年で議員が入れ替わる「れいわローテーション」を導入しているため、今後六年間のうちに次点以下の候補者も含めて6人が国会議員となる予定だ。
投開票日の午後8時から、れいわ新選組はオンライン中継で独自の開票特番をおこなった。
山本代表は「マスコミ各局はいつも投票箱のふたが閉まってから選挙談義を盛り上げようとするが、本来は選挙が始まる前や途中で党首討論を何度もおこなうなどして情報を共有することが有権者にとって有益であるはずだ。だが、残念ながら選挙中の党首討論は各局1回のみでそれも短時間。そして投票が終わってから盛大に盛り上げようとする。このような意味不明なテレビによる選挙のコンテンツ化には付き合わないことにした」と、今回からテレビの開票特番出演を取りやめた理由をのべた。
そのうえで「今回の選挙はマスコミの争点の逸らし方がとくにひどかった。この選挙で何が問われるべきかというときに、“外国人ガー”というもので席巻された。あまりにもおかしい争点化だ。先進国で唯一、30年も不況が続くなかでコロナが襲い、そこから立ち直る前に物価高になり、中小零細がバタバタと潰れている状況だ。最も問われるべきは、国民生活であり、この国の経済だ。それが待ったなしの状況にあるにもかかわらず、外国人問題に話題を意図的にシフトさせていった」と指摘。
「たとえば、マスコミ各局がインタビュー取材に現場にやってくるが、こぞって外国人政策について質問する。さんざん質問したあげく、番組タイトルが“各党こぞって外国人政策…なぜ?”“外国人に対する重点政策は?”みたいになっている。なぜ? もクソもない。自分たちが、まるでそれが一番の問題で、真っ先にとりくむべきことであり、各政党もそれに声を上げているというような空気作りをやった。これは、国が停滞した30年の経済政策でさんざん旨みを得てきた者たちが一番おいしい思いをすることでもある。庶民への富の分配を嫌がる大資本、株主資本主義をより強化していくためのスピン(目くらまし)であったと私たちは捉えている。消費税廃止を含む経済課題を覆い隠すためのさまざまな仕掛けが働いた選挙だった」とのべた。
そして「そんな争点隠しに酷暑も加わるなか、手を上げてくれた候補者をはじめ、一票一票積み上げるために汗を流してくださったボランティアの皆さんに心より感謝したい」と謝辞をのべた。
また、れいわ新選組として最初に当選確実となった伊勢崎賢治氏(比例特定枠)について、「国会における幼稚園レベルの安全保障議論に本物を投入することになる。まず、頭でっかちになってマンガのようになっているタカ派議員たちの頭を武装解除していく仕事からやっていただくことになる」とのべた。

れいわ新選組から参院選に出馬し比例特定枠で当選した伊勢崎賢治氏(左)と山本代表(16日、山形市での街宣にて)
ゲスト出演した伊勢崎氏は、「明日からすぐに働くつもりだ。これまでの僕は同僚や部下を亡くすような危険な現場で与えられた(停戦や武装解除の)ミッションにとりくんできたが、政治家が僕の人生最後のミッションだと思っている。いただいた任期でそれをやり遂げたい」とのべた。
具体的には「まず日米地位協定改定を超党派で実現させるため、自民党から共産党まで一致点を探りながら動かしていく。それと付随して、韓国の政治家と繋がりを持ち、日米地位協定の異常さを規定している朝鮮国連軍地位協定を撤廃する。在韓米軍を頭とする“冷戦の遺物”である朝鮮国連軍が開戦に踏み切れば、日本は開戦にかかわる意志決定なしに自動的に交戦国になる仕組みになっているのだ。日本の政治家はこのことを知らない。主権意識を持つ韓国社会と繋がって、朝鮮国連軍を任期中に解体したい」とのべた。
さらに「世界ではヘイトスピーチが高じてヘイトクライム(暴力)になり、人間を人種や国籍などの属性で抹殺するジェノサイド(大量虐殺)が起きている。実は日本はジェノサイド条約にも加盟していない。大量虐殺は普通の殺人事件とは違い、政治的意思でおこなわれる。だから国際法では虐殺の実行犯よりも、それを煽った上官(政治家)を重く裁く。この法体系が日本にはまったくない。だから日本はヘイト政治家の天国だ。自衛隊法でも、誤った命令をした上官ではなく、その命令に従った末端の自衛官だけが裁かれる状態だ。この異常事態を変える必要がある」とのべた。
そして「次世代のために、北東アジアにおける日本の安全保障のビジョンを示したい。れいわ新選組は、安全保障=軍事強化とは考えていないことが僕の考えと一致する。海の向こうの大国や軍事頼みで緊張を煽るのではなく、近隣諸国との安全保障体制を確立するための考え方を示したい。たとえ議員任期が終わっても、それを確立していくために役に立ちたい」と抱負をのべた。
山本代表は「今後、大連立の政権になるかどうかはわからないが、大企業や原発企業から支援を受ける国民民主党や維新に、好戦的姿勢を持つ参政党も加われば、改憲や軍拡はより進みやすくなり、国政は一層きな臭くなっていく。そこで伊勢崎さんの存在は非常に重要になる」とのべた。
選挙の度に確実に前進
特番では、山本代表と各候補者を電話で繋ぎ、選挙戦の感想と今後の抱負を聞いた。
初めての選挙に挑んだ農家の塩崎稔候補(比例)は「農家を守ることは消費者を守ることだと訴えてきた。ボランティアさんの支えで選挙をここまでやってこれた。議員になったら、農家が農業を続けていけるような政策を実現させたい」とのべた。
同じく漫画家の池沢理美候補(比例)は、「初めての選挙だったが、ボランティアに支えられて乗り越えてこれた。選挙中の街宣では、インボイス制度をめぐり、フリーランスや自営業者の皆さんから“廃止してほしい”という切実な声をたくさん聞いた。障害をもつ要介護者の方からも“他党は口先だけであしらわれるが、れいわ新選組だけが具体的な政策として介護事業者の処遇改善をあげている。応援している”という声をいただいた。そのような当事者の声を必ず国会に届けたい」とのべた。
声優の岡本麻弥候補(比例)は、「ずっとインボイス反対運動をしてきたが、声優業界から選挙に出馬することに対してどんな反応があるか心配だった。業界からは裏で“応援しているよ”という声をたくさんいただき安心した。消費税にかかわるインボイス制度は、2割特例と8割控除が来年9月末に終了する。インボイスによって多くの事業者が取引排除にあい、事務負担や税負担が増えているなかで、それがさらに加速する。なんとかしなければならない。インボイス制度の廃止、消費税の廃止により、みんなが豊かにならなければポップカルチャーの未来もない。農業や林業を守るための活動もしていきたい」と抱負をのべた。
唯一現職で選挙に挑んだ重度障害当事者の木村英子候補(比例)は「選挙の過程では、障害当事者をはじめ社会から取り残された人たちの声を聞くことができた。2019年にれいわ新選組が立ち上げられて特定枠で国会に行ったが、重度訪問介護制度では就労就学、政治活動への参加が認められていない。この制限を取り払い、障害者が介護者をつけてより広く社会参加ができるようにとりくんでいきたい」とのべた。
大きな企業団体などの支援を受けないれいわ新選組は、今回も草の根のボランティア選挙を展開した。新宿に設置したボランティアセンターでは30日間で累計約250四人が参加し、証紙貼りやチラシ折り、発送作業、電話がけ等を担った。全国各選挙区での実務も多くのボランティアが支えた。
寄付は7月1~20日までに全国6063件から総額1億819万8047円が寄せられた。
また、全国での電話による投票依頼は実通話数で10万739件。比例ポスターは1万5000枚、確認団体チラシは344万5000枚がボランティアや支援者個人によって配られた。
最後に山本代表は「選挙前になって新興政党を含めた各党が消費税減税を叫び出し、マスコミや各政党の大合唱で争点逸らしも仕掛けられ、これまでで一番逆風の強い選挙だった。その中でも前回より議席を増やした。間違いない勝利だ。これは皆さんがもたらした勝利だ。あなたが動いて広げてくれたから今回も前に進むことができた。30年も国を食い潰し、今後も富を独占していこうとする者たちに私たちは徹底的に抗っていく。多大なご支援をいただいた皆さんに御礼を申し上げたい」と謝辞をのべた。

秋葉原での最終街宣には多くの支援者が詰めかけた(19日)





















