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火事場泥棒極まる国民投票法の採決(衆院憲法審査会) エスコートした立憲民主党の欺瞞

 コロナ禍の苦境に乗じて菅政府が6日の衆院憲法審査会(細田博之会長)で、改定国民投票法案の採決に踏み切った。これまで改定国民投票法案成立に反対する装いをとってきた立憲民主党が、国民投票法実施にはほとんど影響しないCM規制などを盛り込んだ修正案を提示し「自民党が修正案を受け入れれば採決に応じる」と持ちかけたことが最大の決め手となり、自民、公明、立民、国民民主、維新等、与野党が結託し、火事場泥棒の可決を強行した。6月16日までの会期と参院での審議日数を踏まえ、今国会での成立を狙う計算ずくの日程で、自民党は今月11日にも衆院を通過させる方針を明らかにしている。

 

 衆院憲法審査会は6日の午前10時に開会予定だったが、開会時間が来ても始まらず、国会のネット中継でも「始まり次第放送します」との映像が長時間続いた。その途中に「11時開催に変更」という情報も流れたが、バタバタした空気の下で開会したのは11時14分頃だった。

 

 開会にあたってなぜ1時間以上も開会が遅れたのかという説明もなく、いきなり質疑に入った。そして冒頭発言に立った自民の新藤義孝筆頭幹事が「本日はこの後に質疑終局、その後に採決することが幹事会で合意された。大変喜ばしいことだ。ここに至るまでの与野党幹事会の努力と辛抱には敬意を表したい。今後は憲法の本体議論を粛々と進めていくべきだ」と表明した。

 

 続いて発言した立民の今井雅人委員は「CM規制などについては憲法審査会で一定の結論を得ていく必要がある」「憲法審査会ですでに課題だと共通認識をもっているものを解決しない限り、次に国民投票を実施するというのはやるべきではない」とのべ、最大焦点であるはずの改定国民投票法案の採決については言及を避けた。

 

 公明は「質疑は十分な時間が割かれており、速やかな採決を望む」(大口善徳委員)、「国民投票法改正案は十分に審議されてきたのでぜひ本日採決させて頂きたい」(北側一雄幹事)と主張した。

 

 そのほか討論の場で維新の足立康史委員は「国民投票法改正案の原案は私たちも提出者であり、ただちに採決し速やかに成立を図るべきだ。他方、立憲民主の修正案には反対」とのべた。国民民主の山尾志桜里委員は立民提出の修正案にも原案にも賛成の立場を表明したが、「修正案が成立することによって憲法審査会における憲法本体の議論の機会がなんら狭まるものでもないし、政治的な効果を持つものでもない」「修正案を全面的に受け入れたわけではない」とのべ「正直、政局に利用したり、支援者向けのパフォーマンスに利用するのはうんざりしている。憲法審査会でなんとか左右の差を埋めるためにぐっと我慢してお付き合いしているのは私どもの党だけではない」と主張した。

 

 そしてわずか40分前後で質疑や討論を終了。その後、立民の委員が修正案について説明し、改定国民投票法案と修正案を賛成多数の起立で強行可決した。

 

 改定国民投票法案は、「改憲案」の賛否を問う投票行動の規定を定めるものだ。それは従来の国民投票法を2016年の改定公職選挙法(18歳以上の選挙権を認めた)に見合うように変えるもので、主な変更点は7項目(①「選挙人名簿の閲覧制度」への一本化、②「出国時申請制度」の創設、③「共通投票所制度」の創設、④「期日前投票」の事由追加・弾力化、⑤「洋上投票」の対象拡大、⑥「繰延投票」の期日の告示期限見直し、⑦投票所へ入場可能な子どもの範囲拡大)である。

 

改憲のための準備 戦後の平和主義を覆す

 

 したがってそれ自体は直接、改憲内容を規定する法案ではない。しかし国民投票法を成立させる行為自体が、今後、改憲発議や国民投票の実施を進めるうえで不可欠な準備となる。そのため自民党政府は2018年の法案提出以後、何度も成立させようとしてきた。しかし改憲、とりわけ憲法九条の覆しを懸念する戦争体験者や遺族を中心にした全国民的な批判世論のなかで審議を進めることはできず、改定国民投票法案の成立自体も頓挫してきた経緯がある。

 

 ところが菅政府発足後の2020年臨時国会から成立に向けた動きが活発化した。そして同年年末になると法案の採決や成立は見送ったものの、自民党の二階俊博幹事長と立憲民主党の福山哲郎幹事長が「次期国会で何らかの結論を得る」と確約していた。この与野党の合意に基づき、先月15日に衆院憲法審査会を開き、今国会で初となる審議を開始した。

 

 そこでは自民・公明が「審議は尽くされた」と主張し、即採決することを求めた。維新も国民民主もその意見に同調した。しかしこのときは採決を見送る動きとなった。

 

 本来、改憲を認めない側から見れば、野党が憲法審査会の開催に応じること自体が改憲勢力への妥協であり後退である。だが立民等の野党は、会議の席で滔々と反対論を展開し、野党委員の反対によって採決することができなかったことを印象づけた。

 

 ところが4月28日には改定国民投票法案の採決をめぐって、衆院憲法審査会の与野党筆頭幹事が国会内で会談していた。与党は大型連休明けの5月6日採決を求めた。対する野党側はCM規制等について「法律の施行後3年以内に検討し、必要な措置を講ずる」と付則に明記する修正案を示した。同時にこのとき立民の山花郁夫・野党筆頭幹事は、立民提出の修正案が受け入れられれば法案の採決に応じ、改定国民投票法案に賛成する方針も示した。そして6日午前、再度、福山幹事長(立民)と二階幹事長(自民)が国会内で会談し、立民側の呼びかけに応じたのが自民党だった。したがって、今回の強行採決劇最大の立役者は立民だったといっても過言ではない。

 

 そして、改定国民投票法を成立させた後に自民党が国会発議を狙っている改憲原案は、①九条改正、②緊急事態条項導入、③合区解消、④教育の充実、が「優先四項目」(自民党が2018年に決定した「条文イメージ」)である。ここには憲法の三原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)を骨抜きにする内容を盛り込んでいる。

 

 「九条改正」の条文イメージでは「戦力不保持」と「交戦権の否認」など九条の条文は残すが、その後に「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と追加する内容だ。自衛のためなら戦力保持も交戦権も認めるようにするのが最大の狙いである。

 

 さらに「緊急事態条項導入」では、緊急時は内閣が緊急政令(法律と同等)を制定することを「立憲主義にもかなう」と明記した。それは「緊急事態」と見なせば、一部閣僚だけでどんな法律でもつくれるようにする内容である。

 

 与野党はこうした戦後日本の国是をまるごと覆す「改憲」を実現するために、「時代にあわなくなった部分は変えなければならない」と主張し、改定国民投票法案の成立をめざしている。ただ衆院憲法審査会で可決してもまだ成立には至らない。会期末までに衆院本会議、参院憲法審査会、参院本会議での採決が必要で、今後の審議が重要な焦点になる。

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