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憲法9条改定めぐる討議を開始 衆議院憲法審査会 危機を煽り「戦争放棄」の覆し図る

 衆議院憲法審査会が12日、憲法9条改定を巡る討議を開始した。審査会ではロシアのウクライナ侵攻に触れながら、憲法9条への自衛隊明記に加え「国防規定」の必要性にも言及。「緊急事態条項の整備と併せて最優先でとりくむべき課題だ」とのべ、今後、論議を本格化させるよう呼びかけた。憲法審査会で9条改定を主要テーマにするのは今国会で初めて。「国防」を掲げて、戦後日本が国是としてきた「戦争放棄」を覆す動きが露骨になっている。

 

衆院憲法審査会の新藤義孝与党筆頭幹事(12日)

 自民党の新藤義孝与党筆頭幹事が憲法審の冒頭、「これまでの討議では憲法に規定のない緊急事態条項について討議を重ねてきた。本日は国を形成するもっとも根幹の問題でありながら憲法に規定のない国防規定について意見をのべる。国の最大の責務は国民の生命と財産、領土や主権を守ることだ。そのもっとも根幹的な国防規定について議論し、憲法に反映させることは、緊急事態条項の整備と合わせ最優先でとりくむべき課題だ。国の防衛は国際平和秩序にのみ頼るのではなく、自分の国は自分で守るという基本をないがしろにしてはならない」とのべ、9条改定の必要性を強調した。

 

 さらに「ロシアによるウクライナ侵略は対岸の火事ではなく、国の防衛体制の充実は喫緊の課題だ。このような変化に対応するため平和安全法制を整備し集団的自衛権の限定行使を可能にした。しかし自衛隊は憲法に位置付けられておらず、国防に関する規定が憲法にないのは不自然だ。これまで一度も行っていない憲法改正を何としても実現させなければならない。憲法9条改正の意義と必要性について述べさせていただいたが、この重要な論点については各党の見解をうかがい今後論議を深めていきたい」と呼びかけた。

 

 これを受けて各政党が9条改定に意欲を見せた。


 日本維新の会の小野泰輔委員はロシアのウクライナ侵攻や中国や北朝鮮の軍備増強の動きにふれ「最新の戦争はハイブリッド戦と言われるように、システムを対象にしたサイバー攻撃など従来とは異なる次元の戦争だ。サイバー攻撃などへの防衛をおこなう際、通信の自由の制限も視野に入れることもあり得る。安全保障の議論は9条にとどまらず、21条(集会の自由・結社の自由・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密について規定)も大きく関わってくる。ぜひ審査会で安全保障に関わる憲法論議を次回以降実施するようお願いする」と発言した。

 

 公明党の中野洋昌委員は「わが国を取り巻く安全保障環境は一段と厳しくなっている。国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義を堅持しながら、日本の安全保障に万全を尽くしていく必要がある。グレーゾーン事態から有事まで隙間のない守りをおこなうために平和安全法制を整備した。日本の防衛力を着実に整備するとともに日米同盟の信頼性を高め、抑止力を発揮していけるようとりくみを強化していくことが重要だ」と発言した。

 

 国民民主の玉木雄一郎委員は「一つ一つのテーマについて意見集約して次のテーマに進んでほしい。緊急事態条項、議員任期の特例延長については具体的な改正案について検討すべきだ」と発言。憲法9条改定については「現実的な対応を取る必要性を正面から認め、憲法9条に最高法規としての規範力を復活させることが必要」と主張した。

 

 有志の会の北神圭朗委員は「緊急事態条項について議論を深めてきたので具体案を取りまとめる時期だ。まだ手を付けていない論点が憲法9条だ。ウクライナ戦争でわが国をとりまく状況は次元が変わった。台湾有事は日本有事だと覚悟すべきだ。これまでの防衛政策で国民を守るのか。中国が核の威嚇をした場合、米国の身動きが取れなくなるかもしれない。これらの問いに真面目に答えることは、論理必然的に憲法9条の議論に及ぶ」とのべた。

 

 自民党元幹事長の石破茂委員は「必要な自衛の措置を妨げず」と規定する自民党の改憲条文イメージについて「自衛のための必要最小限という制約は外れるのか」と問われ「北朝鮮に対して必要最小限度のものがロシアや中国に対しても必要最小限度だとは思わない。最小限という量的な概念を入れること自体おかしなことだ」と発言した。

 

与野党の改憲勢力 参院選後の進展狙う

 

 ちなみに衆院憲法審で改定の論議に着手した現在の憲法9条は「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と規定している。つまり痛ましい戦争の経験に根ざした「戦争放棄」「戦力不保持」「交戦権の否認」が最大の柱だ。

 

 だが自民党が2018年に決定した「条文イメージ」は、この憲法九条の後に「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と追加している。それは追加した条文で、現憲法九条の「戦争放棄」「戦力不保持」「交戦権否認」の規定をかき消し、「国防」と称して「戦力保持」も「武力参戦」も容認してしまう方向である。

 

 自民党は昨年11月、総裁直属の「憲法改正推進本部」を「憲法改正実現本部」に名称変更し、本部長に古屋圭司・元国家公安委員長を据えた。さらに岸田首相は内閣記者会のインタビューで自民党の「改憲4項目」(①自衛隊明記、②緊急事態条項創設、③参院選の合区解消、④教育充実)について「一部が国会の議論の中で進むならば4項目同時の改憲にこだわらない」と強調し、できる項目から着手していくことを明らかにした。そして衆院憲法審査会で3月から「緊急事態条項創設」にむけた論議を本格化させた。

 

 「緊急事態条項創設」に関する自民党の「条文イメージ」は、政府が「緊急事態」と宣言すれば、一部閣僚だけでどんな法律でも制定できる権限を認める内容を盛り込んでいる。こうした論議の進展を受けて今度は憲法の根幹をなす9条改定論議に踏み込んでいる。

 

 憲法審査会での論議と同時進行で自民党、維新、国民民主等、与野党を含めた改憲勢力が、夏の参院選(7月投開票予定)に向けた動きを活発化させている。それは改憲勢力が次期参院選で改憲に必要な議席を確保すれば、首相が衆院を解散しない限り次の参院選(2025年夏)まで「国政選挙のない3年」となるからだ。改憲勢力はこの3年間のあいだに衆参両院での議論を進め、「改憲項目の絞り込み」「憲法改正原案の作成」「国会での憲法改正発議」まで突き進むことを意図している。

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