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コロナ禍に乗じ改憲手続き開始 翼賛体制下で憲法審を開催 審議に応じる野党

 新型コロナ感染拡大の混乱に乗じて衆院憲法審査会(憲法審)が10日、今国会初の自由討議を実施した。これまで次年度予算案の審議中は開催しないのが慣例だったが、今回は与野党の合意のもとで開催し、今後も審査会を定例化していく道筋をつけた。審査会の論議はコロナ禍を「緊急事態」とみなし「オンライン国会の是非」から検討に着手した。この論議の過程で、なし崩し的に緊急事態条項の具体化へなだれ込んでいくことが狙いである。政府・与党は今年夏の参院選で改憲に必要な国会議員数を確保し、問答無用で「改憲発議」「国民投票」まで突き進んでいく危険な動きを見せている。

 

 憲法審は「改憲」発議の内容を決める機関であり、開催すること自体が「改憲」に向けた手続きを一歩進める意味合いを持つ。そのため野党側はこれまで憲法審の開催を拒否するポーズをとってきた。今回の衆院憲法審も自民、公明、維新、国民民主は1月27日の開催を目指したが、立憲民主が「2022年度予算案の審議を優先すべきだ」と開催を拒み開けなかった。自民や維新が野党との合意が無いまま審査会を開けば、「民主主義」を否定する本性をさらけ出すことになるため、あまりにも強引な手法はとれない。つまり野党側が開催を拒み続ければ憲法審は開催できない関係だった。

 

 ところが立憲民主は「予算委の最中に憲法審を開くのはやり過ぎだが、“審議拒否をしている”とレッテルをはられてしまうことはよくない」(泉代表)と憲法審開催容認に転じた。共産に至っては「憲法審は憲法改正の発議内容を決める機関で、開くべきではない」(穀田国対委員長)と主張しながら「開かれる場合は出席して議論する」という態度をとった。こうした与野党の結託で改憲発議に向けた論議が動き出している。

 

 憲法審の自由討議では自民党の新藤義孝・与党筆頭幹事が全体の論議を主導した。新藤幹事は「憲法改正をめぐる議論は国会議員に課せられた重大な責務。憲法改正をいよいよ項目ごとに具体的、かつ本格的に深めていく時期にきた」とのべ「緊急事態対応」の論議を急ぐべきだと強調した。具体的には新型コロナ感染が拡大するなか「オンライン国会」の是非に言及。憲法五六条で衆参両院の本会議を開く要件を「総議員の三分の一以上の出席」と規定していることにふれ、「議場にいなければならないのか、リモート参加できるのか検討が必要」とのべ、改憲を含めた論議を促した。これについては公明、維新、国民民主が「オンライン審議は憲法の解釈で可能」との見方を示し、立憲民主も「解釈によりすぐにでもできるようにすべきだ」と賛意を示した。

 

 さらに今後の憲法審の進め方をめぐっては自民、維新、国民民主が週一回の定例日に開催することを要求した。他方、立憲民主は「議論を急ぐものは積極的に進めていく」(奥野総一郎・野党筆頭幹事)という対応。共産は「審査会は動かすべきではない」と主張しながら憲法審には出席し、そこで改憲論議が進んでいくことを事実上容認する姿勢をとっている。

 

 ただ今回の憲法審で自民党が真っ先に「オンライン国会」の審議を提起したのは別の意図を含んでいる。それは憲法審で自民党の新藤・与党筆頭幹事が、国会議員のコロナ感染や自宅待機急増にふれつつ「定足数を満たす議員が集まれない事態が想定される」「現行憲法に規定がない緊急事態について早急な議論が必要」と主張したことにもあらわれている。

 

 憲法五六条は「総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」と定め、オンラインでの出席や採決自体を認めていない。この規定を覆す論議を活発化させながら、しだいに「緊急事態条項創設」の論議につなげることができるからだ。自民党は「オンライン国会の審議」を入口にして、緊急事態条項創設を含む「改憲四項目」の具体化に踏み込もうとしている。

 

今夏の参院選の争点に 躍起になる岸田政府

 

 こうした改憲準備と同時進行で自民党は夏の参院選に向けた動きを活発化させている。それは与党が夏の参院選で改憲に必要な議席を確保すれば、首相が衆院を解散しない限り次の参院選(2025年夏)まで「国政選挙のない3年」となり、政府が問答無用で重要施策をおし進めることができるからだ。

 

 自民党内ではこの3年間を「黄金の3年」と呼び、この「黄金の3年」のあいだに衆参両院での議論を進め、「改憲項目の絞り込み」「憲法改正原案の作成」「国会での憲法改正発議」まで突き進むことを目指している。

 

 自民党は昨年11月、総裁直属の「憲法改正推進本部」を「憲法改正実現本部」に名称変更し、本部長に古屋圭司・元国家公安委員長を据えた。

 

 さらに岸田首相は内閣記者会のインタビューで自民党の「改憲四項目」(①自衛隊明記、②緊急事態条項創設、③参院選の合区解消、④教育充実)について「一部が国会の議論の中で進むならば四項目同時の改憲にこだわらない」と強調し、できる項目から着手していくことに意欲を見せた。また2022年夏の参議院選では改憲を選挙公約に掲げ、選挙争点の一つとして宣伝する意向も示した。

 

 そして今月1日には改憲実現にむけた憲法集会を全国展開する運動を始動させた。自民党役員などを集めた会議で自民党改憲実現本部の古屋本部長が、5月の連休までに全都道府県連で少なくとも一回は各都道府県が国民との対話集会を開く方針を伝達。対話集会の講師は安倍元総理や麻生副総裁、石破元幹事長など約30人が務めることも明らかにした。

 

 しかしまだ地方レベルで「改憲」の機運が盛り上がっている状況とはいえない。今月6日には古屋本部長の地元・岐阜県で初の地方集会を開催したが、参加者は地方議員ら約40人だけだった。

 

 こうしたなか古屋本部長は「まず私がキックオフした。全国で同時多発的に憲法の正しい理解を増進するための会合を開いてほしい」「衆参両院の憲法審査会でしっかり審査しなければいけない環境を全国で作り上げ、世論を盛り上げていきたい」と主張している。

 

自民党の条文イメージ 大原則を骨抜きに

 

 岸田政府が部分的にでも早期実現を目指す「改憲四項目」は自民党の「憲法改正推進本部」が2018(平成30)年3月に決定した「条文イメージ」だ。だがその本丸は「緊急事態条項創設」と「自衛隊明記」である。コロナ禍を追い風にして具体化している「緊急事態条項創設」は、憲法の三大原則である国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を骨抜きにする内容だ。

 

 「緊急事態条項創設」に関する自民党の「条文イメージ」は、政府が「緊急事態」を宣言すれば、一部閣僚だけで法律を制定する権限を認める内容を盛り込んでいる。憲法は国家権力の暴走を規制し、国民の権利を保障することが基本原則だ。それを「緊急事態」を掲げて、国家権力が国会審議もせずあらゆる法律を制定可能にしようとしている。

 

 「自衛隊明記」は憲法九条の精神を覆し「戦争できる国」に変貌させることが狙いである。

 

 現在の憲法九条は「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と規定している。だが自民党の「条文イメージ」はこの条文に「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と追加する内容だ。それは追加した条文を上塗りして「戦争放棄」や「戦力不保持」の規定をかき消し、「自衛」と称して「戦力保持」も「武力参戦」も容認する方向となっている。

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