いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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解散総選挙 民主解体、自民への「大政奉還」

 野田首相が衆院解散を表明し、各政党が年内総選挙に向け、国民の関心からまったくかけ離れたところで、次の政府の主導権争奪合戦に熱をあげはじめた。民主党・野田首相は党内からも猛反発が出るなかで解散に踏み切り、民主党の解体にみずから手を貸し、自民党への「大政奉還」を誘導。アメリカ大統領選でオバマが再選し、アメリカが経済危機打開に向け、経済ではTPPによる中国包囲網を強め、軍事面では対中国戦争シフトの体制強化に拍車をかけている新局面のなかで、これに照応した体制作りが動き出している。このなかで民主党は「TPPの争点化」をかかげ、自民党は憲法改正や集団自衛権の行使などを軸にした戦争動員体制を露骨に打ち出し、「日本維新の会」や「太陽の党」などの新党が雨後のタケノコのようにあらわれて憲法改定、核武装化、道州制導入などを叫んでいる。みながどう対応していいか考えるひまもないまま、総翼賛の「一極」体制で右傾化の方向へ突き進む既定路線があらわになっている。
 野田首相が衆院解散を表明し、12月4日公示、16日投開票の衆院選日程が固まるなかで、民主党からは離党の動きがあいついだ。解散に反対する山田元農相(衆院長崎3区)などが離党を表明。新党を作ったり「日本維新の会」への入党者が出るなど、首相の解散表明後に離党を表明した衆院議員は九人になった。七月には消費税増税法案強行成立で小沢グループが集団離党しており、衆院の与党会派は事実上過半数割れ。さらに総選挙で落選者が続出するのは必至となっている。衆院解散は自民党への批判世論で登場した民主党の解体であり、民主党による自民党への政府ポスト返上にほかならない。

 公約覆し戦争体制構築 民主党・野田

 民主党は先の総選挙で、自民党が実行し破綻した小泉・新自由主義改革への強烈な批判世論にのって与党になった。しかし選挙公約を鳩山、菅から野田に至る過程ですべて破棄。今や自民党政治の継承者という姿があらわになっている。どんな公約を出そうともメディアがたたき、官僚が締め付け、アメリカが脅しつけて覆す。真っ先に覆した公約は普天間基地問題や米軍再編見直しなど日米同盟対応であり、アメリカのいうことを聞かない首相はクビになる関係である。政治は選挙や国民と別のところで動いており、日本に民主主義はなく、アメリカに主権を握られた専制政治、独裁国家であることを突きつけている。
 もともと民主党は「対等な日米関係」といい、日米地位協定改定、思いやり予算の削減、普天間移設問題など米軍再編計画の見直し、東アジア共同体構想でアジアとの関係を深める、などを公約にした。だが「最低でも県外」といった普天間基地移設は自民党と同じ辺野古への新基地建設計画に回帰。厚木基地艦載機の岩国移転も一切見直さなかった。さらに自民党ですら毎年協定を結んでいた「思いやり予算」は2011年度から5年間の一括協定に署名。「朝鮮のミサイル」騒動で沖縄や九州で日米共同の離島奪還訓練を繰り返してアジアとの関係ぶちこわしに奔走した。
 その後の野田政府はみさかいのない公約全面覆しに着手した。「主要穀物では完全自給化を目指す」「2020年の食料自給率を50%にする」などの公約はTPP参加を急ぐことで逆方向へ突っ走り、米国産牛肉の輸入規制緩和などは米オバマ大統領に日本側がわざわざ提案して実行に移す始末。「労働者派遣法改正」は改正内容である「製造派遣禁止」を財界やアメリカの要求に基づいて破棄。郵政民営化見直しでは外資への株式売却を禁じる関連法を廃止した。そして年金制度充実や医療・介護の再生は一向にすすめず、原発再稼働も福島原発事故が収束してもいないのにアメリカの要求で強行した。
 尖閣諸島問題では石原慎太郎がアメリカで「東京都が購入する」と騒ぐと、野田首相が呼応して「国有化」を強行。「将来の世代に解決をゆだねる」としてきた日中間の従来の対応を、わざわざ対立・緊張関係にエスカレートさせた。そしてこの尖閣諸島をめぐる緊張激化をにらんでオスプレイの日本配備も受け入れ、全土での訓練を開始。あげくの果ては、党内からも「公約違反だ」と集団離党が出たにもかかわらず民・自・公連携で消費税増税を決定した。
 民主党・野田はアメリカにとって、公約をすべて覆し、対中国戦争に向けた体制を構築した大宰相ということになる。4月末にアーミテージ元国務副長官は「歴代首相でだれを評価しているか」と問われ「一に中曽根、二に小泉、その二人に野田は匹敵する」と評価した。小泉純一郎も国民の反対世論を無視してさんざん規制緩和や売国施策を強行したあげく野たれ死にしたが、野田に至るまで野たれ死に内閣の屍が1年ごとに増えている。

 集団自衛権行使を公言 自民党・安倍

 民主党解体がすすむなかで色めき立っているのが、首相放り投げをやった安倍元首相や「戦争オタク」と称される石破幹事長などが率いる自民党である。民主党が国民に見放されたのは、自民党と同じになったからだが、自民党と同じとみなされてつぶれるのを元祖の自民党が喜ぶ光景となっている。
 自民党は総選挙に向けて「マニフェストというカタカナは使わず政権公約とする」とし、キャッチコピーは「日本を、取り戻す」にすると明らかにした。政策面では「教育改革」「憲法改正」「慰安婦問題をはじめとする歴史認識分野」を重視しているのが特徴。安倍は「憲法改正は大きく戦後体制を変えていく道だ。強い国をつくる」と主張。米軍が攻撃されたとき自衛隊が自動参戦する集団的自衛権について、今は憲法解釈上、行使しないとなっているが「自民党が政権をとれば、かつての有識者懇談会での議論をもう一度、スタートして結論を得たい。基本的には憲法解釈を変更すべきだ」と発言している。尖閣問題についても「挑戦を跳ね返すのは純粋に軍事力。本気でこの島を守る意思を示すべきだ」と表明。海上保安庁の増強、防衛費の強化を公約とし、尖閣諸島に公務員を置くことの検討なども公言している。
 さらに自民党が与党になれば、歴史認識に関する過去の3談話について「すべて見直す」とも主張。それは教科書で周辺諸国への配慮を約束した宮沢談話、慰安所の設置・管理や慰安婦の移送に旧日本軍が関与したことを認め謝罪した河野談話、植民地支配と侵略戦争について謝罪した村山談話に盛り込まれた歴代政府の評価を公然と覆し、改憲とセットで「戦争ができる国」にするというものである。これは自民党全体の一貫した方向であり、同党はすでに天皇を国家元首、自衛隊を国防軍とする憲法改正案をまとめている。

 自民・民主より右傾化 「維新の会」や「太陽」

 このなかでメディアが盛んに橋下徹率いる「日本維新の会」や石原慎太郎の「太陽の党」などの新党を「第三極」としてもてはやしている。だがこれは自民・民主以上に右傾化をすすめる主張を掲げたのが特徴である。
 「日本維新の会」は総選挙の公約「維新八策」にもとづき候補を募集。「維新八策」は旧来の日本型国家運営モデルはもはや機能しない、として統治機構の作り替えを主張。首相の公選制、道州制導入、公務員の身分保障廃止などを盛りこんだ。教育改革は教育委員会制度廃止論をふくむ抜本改革、大学もふくめた教育バウチャー(クーポン)制度導入、公立学校教員の非公務員化などが内容。経済面ではイノベーション(新機軸)促進のための徹底した規制改革、TPP参加、FTA拡大などをあげた。
 露骨なのが外交・防衛である。「日本の主権と領土を自力で守る防衛力と政策の整備」「日米同盟を基軸とし、自由と民主主義を守る国国との連携強化」「日本の生存に必要な資源を国際協調のもとに確保」などを「大きな枠組み」と位置づけ、アメリカと連携して中国を封じ込める意図を示している。
 政策例では「日本全体で沖縄負担の軽減を図るさらなるロードマップの作成」「国連PKOなどの国際平和活動への参加を強化」をあげ、これを実現するため「憲法九条を変えるか否かの国民投票実施」を掲げている。
 アジア諸国との関係でも「強制連行(従軍慰安婦)を直接示すような資料はない」「河野談話は証拠に基づかない談話で最悪だ」「日本を拠点とする(米海軍)第七艦隊が核兵器を持っていないのは話にならない」とのべ挑発姿勢を隠さない。「維新の会」は自民党や民主党などと違うとのイメージを振りまいてきたが、取り巻きは小泉改革の首謀者である竹中平蔵などで、政策の中身は小泉改革の二番煎じである。
 自民党出身の「たちあがれ日本」を軸に立ち上げた「太陽の党」は集団的自衛権の公使を可能にする憲法改正を目指している。綱領は「自主憲法制定」や「防衛力倍増」。石原は中国との対応をめぐり「日本の外務省は腰抜け」「(尖閣諸島に)最低、灯台はつくる。船だまりを造ったらどうか」と息巻いている。ここに「減税日本」が合流。「減税日本」代表の河村たかし(名古屋市長)も南京市の訪問団に「南京大虐殺はなかった」と発言しており、戦争勢力の集合体となっている。
 民主党がさんざん公約を覆して掃き清め、猛反発を受けている戦争国家への道を、安倍、橋下、石原などの親米諸勢力が総翼賛の「オール一極」体制でおしすすめ、さらに右傾化に拍車をかけさせるものにほかならない。

 対中国戦争シフト強化 新体制動く米国

 こうした動きはアメリカ大統領選でオバマが再選し、アメリカ自体が経済危機打開のため、TPPによる中国包囲網を強め、対中国戦争体制の布陣を強めていることと連動している。オバマはロムニーとの討論会で「中国の軍事力が将来強大になるからこそ、アジア太平洋に軸足を移したのだ」と明言。昨年11月にアジア太平洋最重視戦略を打ち出したことについても、「中国の軍事的脅威に対抗するためだ」と公言している。スタインバーグ前国務副長官は2期目のオバマ政府の課題について「中国にも国益はあるが、国際法を守り他国の権益を脅かしてはならない」とのべ、日米同盟とともに「(アメリカが)東南アジアやインドと新たな連携強化を図る必要がある」と指摘した。これは対中国シフトを強めるという意味である。
 すでに米海兵隊をグアムやハワイに置き、ローテーションでオーストラリア・ダーウィンに分散展開する体制が進行しているが、財政悪化で議会から国防費の削減圧力を受けているオバマ政府は、早急に日本やオーストラリアなど同盟国を動員する体制をつくることが至上命令となっている。アメリカが構築を狙う新体制は、この軍事費負担や兵員派遣要求に応えさせる体制である。次なる与党に実行させようとしているのは、アジアを重視する「新軍事戦略」にもとづき、日本国民が反対しようが、米兵の事件や事故が起ころうがまったく動じず、対中国代理戦争のために日本を駆り立て、米本土防衛の盾にすることである。
 こうして国民世論から浮き上がったところで、親米・売国政治家が色めき立って総翼賛体制で戦争政治と右傾化に拍車をかけている。日本社会で真に力を持っているのは売国政治家ではなく、社会をささえている国民である。こうした国民が全国的に結びつき戦争へと向かう総翼賛政治を打倒する運動を下から大結集する情勢にきている。

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