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日本郵政・アフラック連携拡大 外資の販売窓口と化す郵便局

 日本郵政が米保険大手アメリカンファミリー生命保険(アフラック)との提携を拡大することを発表した。アフラックのがん保険を全国にある約2万カ所の郵便局が販売するのが柱。安倍政府がTPP交渉を本格化させ、アメリカがかんぽ生命保険のがん保険参入を「認めない」と規制するなか、全国に網羅された郵便局網を日本側から米外資の販売窓口としてそっくり差し出す動きとなっている。国民のための公的機関として信頼され役割を果たすべき郵便局が、アメリカの執拗な圧力と、それに唯唯諾諾と従う歴代売国政府による「郵政民営化」で無惨に破壊され、いまや「アメリカ資本のためのもうけの道具」として奪いとられていく事態が進行している。
 
 TPP参加とも密接に連動

 日本郵政はすでに約1000局でアフラックのがん保険を販売しているが、とり扱いを簡易郵便局以外の全郵便局(約2万局)に広げ、かんぽ生命の79直営店にも広げる方向を打ち出した。アフラックは郵便局の販売網に既存代理店の販売網も加わるため、日本の代理店は約4万店に増加。年寄りの多い僻地などもふくめ、最終的には郵便局をもしのぐ圧倒的な販売網を手中に収めることになる。


 提携について記者会見した日本郵政の西室泰三社長は早期株式上場をにらんで「がん保険市場で一番実績のあるアフラックとの協力関係の発展で企業価値の向上が図れる」と発言。山間部や過疎地の郵便局は販売網として残し、都市部の局を減らしていく方向性も示している。アフラック側は「販売網をさらに拡大できる」(エイモス会長)としつつ「対等な競争条件に関する論争がこの提携で終わるとは思わない」(レイク日本代表、在日米国商工会議所名誉会頭、元米通商代表部日本部長)と強調。アフラック側の態度は、郵便局の販売網乗っとりは序章にすぎず、さらなる日本の国民資産強奪を企む米国財界の意図を浮き彫りにしている。


 郵便局関係者の一人は「もともとは日本生命といっしょにがん保険を共同開発することになっていた。それをアメリカが“民間企業との対等な競争条件ではなく不公正だ”と圧力をかけると、自民党が“かんぽ生命が新商品を申請しても認可しない”とひっくり返した。なぜ日本国内の保険にアメリカが介入してくるのかと思う。そして参院選が終わったらさっそくTPP参加交渉を開始して、日本の全郵便局でアメリカの保険を扱えといい出した。自分たちはもともと公務員だ。国民のために働くということで郵便局員になった。それが民営化以後はノルマばかり上から押しつけられるようになり、ゆうパックや保険や文房具品などを“売れ!”といわれる。そして今度はアフラックの保険の販売。いったいなにを考えているのかと思う。郵便局は民間企業の営利や、アフラックのためにあるわけではない。国民のために仕事をするのが郵便局員ではないのか」とうっ積する思いを吐露した。

 トラブルが多い外資系 「第3分野」を独占

 すでに1000局の郵便局でとり扱いが始まっているアフラックのがん保険は、30代なら毎月4000~5000円程度の保険料(年齢によって違う)を収めれば、がんになったとき治療費や入院費などが規定に基づく額ほど給付される仕組みになっている。がん保険の資料にはよく出てくるアヒルのイラストとともに「生きるためのがん保険Days(デイズ)」と銘打って「総合保障プラン、治療重点プラン、二つのプランをご用意しました」「入院はもちろん3大治療(手術、放射線、抗がん剤)による通院も保障は日数無制限!」「健康保険制度が適用されない先進医療にも対応!」など、さまざま宣伝している。ただ解約払い戻し金や死亡の保障はないのが特徴。こうした入院や手術のときに保険金が出る医療保険やがん保険、介護保険などが「第3分野」と呼ばれ、アフラックやアリコなど外資系が独占的なシェアを持っている。


 とくにがん保険は、アフラックと米メットライフアリコの2社だけで市場全体の8割を握っている。しかもアフラックはすべての利益の8割を日本でたたき出しており、日本が最大のもうけ場所となっている。昨年九月に日本郵政傘下のかんぽ生命保険が新しい学資保険の発売認可を金融庁と総務省に申請したとき、米生命保険協会が「日本郵政株を政府が保有しているから民業圧迫だ」と圧力をかけたが、それは「米生保会社が日本でボロもうけすることを妨害するな」という「日本企業圧迫」が実態だった。


 こうしたなか日本の生命保険会社は死亡時に保険金が出る生命保険(第1分野)や自動車事故や災害時の損害を補償する損害保険(第2分野)が多い。それと比べ掛け金が低く加入しやすい印象がある「第3分野」にはほとんど参入できずにきている。


 国内生保関係者の一人は「日本の生保会社は貯蓄して還元していく形が多いからかけ金は高く、1カ月数万円という場合もあるが、掛け捨てではないケースが多いから治療費は手厚く出る。亡くなっても給付する生命保険の場合は治療して治してもらったほうがいいという対応になる。でも最近は少子高齢化や就職難で新規加入が減ってきて厳しくなっている。外資系は日本の保険と感覚がだいぶ違う」と指摘した。


 生命保険利用者の一人は「外資系は見てくれはアヒルやアイドルが宣伝して親近感を持たせているけど、案外トラブルが多い」と話す。「掛け捨ての保険となると、できるだけ治療費を使わずコロッと亡くなった方が保険会社の利益は増える。治療費を一切使わせずに死亡すると保険会社は丸もうけだ。だからよく申込用紙のうらや隅っこに小さな字でわからないようにいろいろ条件を書いている。知り合いにも“小さい字を見落としていて給付をお願いしても出なかった”という人がいた」といった。2008年には支払いトラブルをめぐって生保10社に業務改善命令が出されたが、アフラックのトラブルが突出していた。2011年の契約者のクレームは合計381件のうちアフラック=223件、アリコ=42件、第一生命=27件、日本生命=26件となっている。


 歴史的にみても日本の保険市場は、古くからアメリカの思惑通りに操られてきた経緯がある。1970年代には外資系に「第3分野」の保険商品を解禁。アフラックは1974年に日本支社を置き、日本初のがん保険の発売を開始した。しかし日米保険協議で日本の生損保が強い分野の規制緩和を執拗に迫る一方で、「第3分野」では国内大手の参入を制限。結局国内大手生保は2001年まで参入することができていない。外資系が国内保険市場を独占的にさんざん食い荒らしたあとで参入を解禁したためいまだにがん保険はアフラックの独占状態が継続している。


 こうした保険を今度は郵便局の全窓口を使って「郵便局の扱うがん保険」と宣伝していくことに僻地の郵便局員は抑えがたい思いをぶつける。「全国一律のユニバーサルサービスを維持するというから事態はいい方向へ向いているのかと思ったら、アメリカのがん保険を売りつけるためだった。僻地は都会の局とは違って高齢者が多い。それに郵便局と関係が深いから、“郵便局の保険なら頼もう”“郵便局員さんがいうなら日ごろお世話になっているからお願いする”という人もいる。経営陣はそのネームバリューを使って保険加入者を増やせというだろうけど、地域住民の利益にならないことはできない。でもこんなことになったのも結局、郵政民営化からだ」と話した。

 米大手の道具ではない 「民営化が根」と怒り

 もともと小泉改革の「郵政民営化」は総資産300兆円にのぼるゆうちょ銀行とかんぽ生命の2社だけをアメリカが買収するため、株を売却できるようにすることが最大眼目だった。すでに幹事証券としてゴールドマンサックスを内定していたが、自民党政府が国民の強い批判世論で崩壊し、民主党政府が登場する過程で「株式売却凍結法」が成立する動きとなった。このためアメリカが「民間との公平な競争条件が満たされていない」「(TPP参加の条件として)日本郵政グループと海外企業の競争条件を同じにすること」と猛烈な圧力をかけて凍結法を廃案にさせた。このとき66・6%の郵政株売却を認めさせ、完全売却への道筋をつけていた。


 そして低得票率で自民党が衆院も参院も議席を独占すると、東芝会長や日米財界人会議議長の経験を持ち米国通と評される西室泰三を日本郵政社長に配置。2015年秋に予定していた株式上場を15年春の前倒しをめざすと公言する動きになっている。だがいったん国民に叩きつぶされた自民党が再び、亡霊のように出てきてまったく同じ郵便局つぶし、日本の国民資産売り飛ばしを加速することに郵便局現場の憤りは充満している。「郵便局は日本の国民のためのもので外資のもうけ道具ではない。自民党の懲りない面々はもう一度足腰が立たないまで痛い目にあわせないといけない」「郵便局を国民の手にとり戻さないといけない」と語られ、郵政民営化を撤回させ、TPP参加阻止をめざす行動機運が高揚している。

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