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デトロイト市の破綻 国家に寄生するGM

 米ゼネラル・モーターズ(GM)が本社をおく自動車産業の中心地、アメリカのミシガン州デトロイト市が財政破綻し、18日に連邦裁判所に破産申し立ての手続をした。負債総額は、歳入の13倍近い180億㌦(約1兆8000億円)超で、米自治体の破産としては過去最大の規模となる。デトロイト市の主であるGMは、リーマンショック後に経営破綻(09年)して以後、オバマ政府から公的資金投入を受けて短期間で復活を遂げてきた。その過程で残酷な搾取を強化して多くのワーキングプア層を生み出すとともに、生産の海外移転によって大量の労働者を街頭に放り出してきた。煽りを受けたデトロイト市では人口流出が進むとともに、市の税収が急速に落ち込み、今回のような全米最大規模の破産へとつながった。デトロイト市の財政破綻は、戦後世界の盟主となったアメリカ資本主義の終焉を象徴するできごとであり、同時に世界的大企業が破産するにあたって、その救済にはおしげもなく国家資金が注ぎ込まれる一方で、資本側は地域経済や雇用、住民生活などに対する社会的責任をみな投げ出して、もっぱら国家に寄生するだけという露骨な姿を見せつけている。強欲な金融資本を規制し、生産を担う労働者が主人公となる社会を求める大運動が爆発することを予測させるものとなっている。
 デトロイト市は世界最大の自動車企業であるGMが本社を置き、その他にフォード・モーターやクライスラーも近郊に本社を置くなど、自動車産業のメッカ(聖地)として知られている。1950年代には「アメリカンドリーム」の象徴といわれた街で、米国資本主義にとってルーツとなる地域だ。全盛期の人口は180万人をこえていた。
 1980年代以降のグローバル競争で、安い労働力を求めて工場が移転していった結果、90年には人口が約100万人にまで減少。さらに08年のリーマン・ショックでGMとクライスラーが経営破綻し、2000年以降の10年間で富裕層を中心に住民の4分の1が郊外や州外に逃げ出したことが明らかになっている。現在の市の人口は約70万人で、残った市民の八割が貧しい黒人とされている。
 この間、GMの経営破綻に対して、オバマ政府は総額800億㌦(約8兆円)にのぼる公的資金を投入すると同時に、税制を優遇して巨額の法人税の支払いを免除した。しかしGMは、そこで得た資金をデトロイトでなく、世界販売台数の半分を占める新興国に投資。また、デトロイトの工場では新規労働者の賃金半減や八時間だった労働時間の上限撤廃、年金の大幅カット、不採算工場の閉鎖などをおこなった。
 こうしてGMは10年には黒字に転化し、経営破綻から1年5カ月という異例の短期で株式市場に再上場し、役員たちは数百万㌦(数億円)のボーナスを手にした。しかし他方で、労働者の賃金は大幅に下がり、大量に生み出されたワーキングプア層がSNAP(低所得層に提供する食料支援プログラム)受給者となり、それがまた州や市の財政を圧迫した。“負”の部分はみな行政や国家に転嫁することで、企業は利益だけを獲得して息を吹き返した。おかげでデトロイト市の失業率は50%にもなり、市内の自動車関連の就業者はピーク時の10分の1に落ち込んだ。そして、工場の移転と失業の増大で市の税収は下がり続け(07年の27億㌦から12年には23億㌦)、借金に借金を重ねたあげく、デトロイト市はついに財政破綻した。
 デトロイト市は、財政破綻による歳出削減で、公共部門の切り捨てを実施。市職員の大量解雇をはじめ、学校や消防署、警察などの業務が次次と凍結された。貧困率や凶悪犯罪発生率がともに全米一位となり、住宅ローンが払えず、仕事もなく、家族をかかえて途方に暮れた人が保険金目当てに自宅に放火する事件が後を絶たないことがとり沙汰されている。市の中心部には、車関連工場や学校、映画館、オフィスビルなどが廃虚となって放置され、無人の住宅は雑草が生えて荒れ果てていることも、現地を取材するライターなどが明らかにしている。
 昨年五月、デトロイト市は市内の街灯を半分に減らす「ゴーストタウン計画」を実施した(多くが壊れたまま、市が修理代を出せないので放置されていた)が、その結果ますます犯罪率は上昇し、まさに「ゴーストタウン化」が進行することとなった。

 大企業へ更に利権開放 「財政立直し」と称し

 今年3月1日ミシガン州知事リック・スナイダーがデトロイト市に財政非常事態宣言を発令し、クライスラーの再建にかかわった弁護士のケビン・オアを緊急財務管理者に任命した際、ウォール街は沸き立ったといわれている。自治体の財政破綻すら、投資家たちにとってはよだれの出るビジネスチャンスだからである。ギリシャが破綻すれば、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)といわれる保険証券でもうけ、スペインやポルトガルと国家破綻の危機が広がれば広がるほどもうかる仕組みと同じで、「他人の不幸は蜜の味」で金融資本がマネーゲームを開始するのだ。
 11年6月にミシガン州議会が成立させた「非常事態管理法」では、州知事が任命した「危機管理人」に市財政立て直しの指揮権を与え、危機管理人は債務を減らすために、自治体の資産売却、公務員の解雇、公共サービスの民営化などを、一切民意を聞くことなく実行する権限が与えられた。危機管理人には、銀行や大企業がバックについた顧問弁護士がなることが多いとされ、議会や住民の反発などお構いなしに「なんでもできる」権力者となり、その背後勢力、すなわち大企業や民営化利権を喉から手が出るほど欲しがっている独占資本に、もっけの幸いで開放していくシカケとなっている。
 そこでは公教育が真っ先にターゲットになっている。同じ11年、デトロイト市では、低所得層の子弟の教育を担ってきた公立学校を閉鎖し、教員5466人を解雇した。そこに、ブッシュ政府の「落ちこぼれゼロ法」以後、急成長してきた多国籍企業モザイカ・エデュケーションが乗り込んで、「七年で元がとれる」といわれるチャーター・スクールを経営しはじめた。市の教育予算はすべて多国籍企業に持っていかれ、子どもの教育は犠牲にされる。こうして切り売りされた公共サービスは、請け負った企業が値段を上げることもあれば、採算があわなければ撤退することもあるなど「自由」となる。「出ていきたければ出ていけ」の人口政策によって、当然ながら人口流出が起き、税金を納める企業も住民もいなくなって、都市そのものが破綻するという経過を辿った。
 さらに破綻した自治体に対する銀行のかかわり方も、累積債務国に対するIMFのやり方と酷似していることを見ないわけにはいかない。それは労働者や市民を増税や福祉・教育切り捨てなどで徹底してしぼりとったうえに、短期間にできるだけ収益をあげる冷酷さに貫かれている。
 デトロイト市の財政破綻は、今後全米で同じような事態が起こることを予想させるだけではない。夕張市の財政破綻は06年だったが、対米従属下の日本の自治体もまた例外ではないことを示している。MCSの撤退をはじめ製造企業が縮小し、働く場がなくなり、税収が減っているにもかかわらず、市の予算を新市庁舎建設、消防署移転、駅前開発、新博物館建設などのハコモノにつぎ込んでいる下関市政をはじめ、「アベノミクス」「国土強靱化」で浮かれる全国の自治体も決して他人事ではない。
 アメリカでは、貧困人口が過去最高であると同時に、企業の収益率もまた史上最高になっている。このなかで、グローバル企業はもうけのために国や地域を廃虚にしてはばからないことをデトロイトの事例が示している。デトロイトは自動車資本主義のメッカとして歴史的に発展を遂げてきた。GMが世界的企業にまでなったのは労働者が働き、世界に自動車を販売してきたからにほかならない。人人の労働に寄生することで莫大な原資を築き上げて多国籍化を遂げ、いまやグローバル企業が恐慌突入前夜で世界的な競争をくり広げているなかで、都市丸ごと捨てていこうとしている。
 国民全体の暮らしや雇用に責任を負うべき国や地方自治体は大企業に奉仕することを仕事にし、住民の生命や財産、最低限の生活を守る責任を放棄する。米国では今後五年以内に、自治体の九割が破産する可能性があるともいわれているが、強欲な資本家や投資家たちの反社会性を示しており、自分たちのもうけのためなら工場を置く自治体も国そのものもどうなろうが知ったことかという正体を暴露している。
 生産活動は集団的社会的にやられているのに、生産手段や生産された商品は私的に占有され、個別企業の都合によって消費購買力はなくなり、不況が深刻化する。さらに産業資本の上には金融資本が君臨して、国民生活はますます貧困化が進む。そして、国家というものが金融資本や独占資本など一握りの権力者が思うがままに操作する道具となり、金融破綻の尻拭い係のようになっている。貧困大国・米国の姿は、第二、第三の貧困大国である日本社会にとっても無関係ではなく、現実にいくつもの企業城下町で大企業撤退や工場閉鎖による地域破壊が、深刻な社会問題になっていることと重ねて見ないわけにはいかない。
 市場原理主義が社会を食い物にし、破壊することによってしか成り立たないこと、社会発展の障害物になっている姿を暴露している。

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