いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『東京五輪の大罪』 著・本間龍

 安倍首相の「アンダーコントロール」発言から始まった東京五輪は、多くの医療関係者が危惧を表明するなかで開催を強行し、大会期間中はコロナ感染者が1日5000人をこえて、重症患者が入院したくてもできない医療崩壊に陥った。

 

 本書は東京五輪を長年追及してきたライターが、その総決算として、IOC五輪貴族やテレビ放映権を握る米NBC、スポンサー企業、開催国の日本政府や五輪スポンサーとなった『朝日』『読売』『毎日』などメディア――のそれぞれの問題を明らかにし、ウソと借金まみれのその実態を明らかにしようとしたものだ。大会にかかった金額は最終的にいくらなのかの決算はこれからで、赤字は国民の税金でまかなおうとしているのだから、過去のことではなく今後の国民生活にかかわっている。

 

贈収賄、茶番劇 稼ぐため何でも一社独占で巨利

 

 本書の中から、ここでは「電通の、電通による、電通のための東京五輪」といわれた、電通にかかわる問題を見てみたい。

 

 電通は、海外を含めて売上高5兆円という世界一の広告代理店で、巨額の広告費に依存する大手メディアにとっては生殺与奪の権を握られた存在である。電通はあらゆる国際スポーツイベント(世界陸上・世界水泳、ラグビーW杯、サッカーW杯など)の放映権や開催権を手中に収め、東京五輪については招致活動をはじめとして、ロゴ選定、スポンサー獲得、広報・広告、聖火リレー、パブリックビューイングはじめ全国の五輪関連行事、そしてオリパラの開閉会式と全日程の管理進行という、すべてをとり仕切った。

 

 電通社長の石井直(当時)は、東京五輪の招致決定直後、「電通はこの五輪で1兆円を稼ぐ」と社員にメールを送った。

 

 そして電通はIOCに働きかけて従来の1業種1社制を葬り、何社でもスポンサーになれるようにした。結果、これまで五輪スポンサー(国内)は全部で10~15社程度だったのが、67社にふくれあがった。東京五輪組織委員会はスポンサー協賛金を合計3400億円(ロンドン五輪の約3倍)と発表しているから、管理料だけで九一四億円が電通のとり分になったと著者は見ている。

 

 しかも67社のすべてが電通の1社独占契約なので、67社が使う五輪マークのついたCMや関連グッズにはすべて電通が介在し、その利益が還流した。

 

 また、電通は東京五輪招致をめぐる贈収賄事件の当事者だ。英紙『ガーディアン』は2016年5月、東京五輪招致委員会が五輪招致のために、開催都市の投票権を持っていた元国際陸連会長のラミン・ディアクの息子が関係する「ブラック・タイディングス社」の口座に2億2300万円を送金した疑いがあり、フランス検察が捜査中だと報道した。それがワイロなのは自明のことで、これでアフリカ諸国を中心にした20票が動き、東京五輪が決定したと見られている。

 

 そして、JOC会長の竹田恆和(当時)は同月の衆院予算委員会で「送金口座は電通の推薦で決めた」と証言した。JOCや組織委の大半は東京都や各省庁からの寄せ集めで、実務は電通からの出向者がとり仕切っている。

 

 2018年にパリ大審院が予審手続きをとったため、身柄拘束の可能性が生じた竹田は海外の会議に出席できなくなり、会長を辞任した。フランス検察は現在も捜査を続行している。

 

 次に、エンブレム盗作事件にも電通が関与していた。これは2015年、東京五輪のエンブレムに決まっていた佐野研二郎のデザインが盗用だとして、ベルギー・リエージュ劇場が使用差し止めを求め、組織委が使用を撤回した事件だ。その後、招待作家八人の存在が審査委員にも他の九六人の応募者にも隠されていたことがわかり、最初から電通が仕組んだ出来レースだったことが明るみに出た。

 

膨張経費は国民の税金投入  巨大な負の遺産

 

 そして、膨張を続けた開催経費が電通の巨大利権になっていることだ。

 

 政府は招致段階で「約7400億円で開催できる、史上もっともコンパクトな大会」といっていた。ところが今年10月現在、組織委が発表している東京五輪の経費総額は1兆6440億円で、そのうち組織委が用意したのが約7000億円で、残りの約9000億円は国と東京都からで原資は税金だ。さらに国は別途1兆600億円を五輪目的に使ったと会計検査院に指摘されており、東京都も別途約8000億円の予算を施設・道路整備管理費などに拠出している。合計3兆5000億円は夏季大会史上、最高額だ。

 

 しかも無観客開催によって発生したチケット代900億円の返金や、追加のコロナ対策などで、今後数千億円の赤字が見込まれるというが、すでに組織委には余力はなく、国や都の税金投入は避けられない。五輪は国民の税金を徹底的に吸い上げるシステムなのだ。 それだけでなく、大会終了後も新たな負担が発生し続けている。建設費1569億円を投じて建て替えられた新国立競技場は、大会後の運営委託先のメドがなく、年間の維持費約24億円は国の負担、つまり国民の税金にかぶせられる。東京都も6つの競技会場を新設したが、今後も黒字が見込めるのは「有明アリーナ」だけで、水泳会場の「東京アクアティクスセンター」は年間6億円以上の赤字になると見込まれている。

 

 ここで問題は組織委が、カネの流れを第三者に検証させない、つまりコスト監視のできないシステムをつくりあげていることだ。組織委は、国から公益性を認定された税制優遇のある公益財団法人でありながら、民間法人としての形もとっている。五輪競技会場などの運営は企業が担うため、そこにかかる経費は「民民契約」となり、国会などでの情報開示請求に応える義務はない。そして組織委の出す費用概算はすべて総額で、積算根拠は示されていない。

 

 著者は、組織委の計上した大会運営費が突如として1000億円増えた問題や、組織委役員の月額報酬の最高額が200万円になっていたことも報告しているが、要するにいくらでも中抜きできるシステムになっているわけだ。

 

 こうして今、巨大な負のレガシー(遺産)が国民に突きつけられている。今度の事態を厳しく監視し、責任者に責任をとらせなければならない。あまりにも国民の負担が重いことから、すでに世界では多くの都市が住民投票によって開催を拒否している。

 

 (ちくま新書、238ページ、定価820円+税)

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