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米国のPR会社や弁護士らが演出に関与 ゼレンスキー演説やウクライナ報道の裏側

 ウクライナのゼレンスキー大統領が欧米や日本の議会にオンライン演説を要請し、各国の実情に即した語りで議員たちのスタンディングオベーションを誘い、ウクライナへの軍事支援やロシアへの制裁を引き出している。この手法をめぐって、アメリカのPR会社の演出がとりざたされている。


 ゼレンスキーとアメリカのPR戦略の関係については、ゼレンスキーが3年前に大統領に就任した直後からワシントンのロビー会社が契約を結び、海外向けPR戦略を一手にひき受けていることが報じられてきた。この会社にはオバマ元大統領やバイデン大統領のスピーチライターが所属している。


 最近、アメリカの政界専門メディア『ポリティコ』(3月17日)がゼレンスキーのアメリカ議会での演説を受けて「ウクライナのPRマシンの背後にあるインフルエンサー」の見出しの記事を掲載した。記事は、ウクライナ政府がアメリカ国内で雇ったロビイストやPR会社、元政府高官と結びつき「メディア報道や政策立案の糸口となる強力なメッセージマシンを構築している」ことを明らかにしている。


 それによれば、ゼレンスキーの顧問を務めているのはウクライナの法律事務所でワシントンオフィスを構える弁護士のアンドリュー・マックである。同事務所はウクライナで「年間最優秀法律事務所」に選ばれ、昨年春にアメリカ国内でロシアがウクライナにとっていかに脅威であるかとの認識を広めるよう依頼を受けていた。


 マックはワシントン周辺のジャーナリストと定期的に連絡をとりあい、ABCやNHBCニュースにゼレンスキーへのインタビューもプロモーションしている。彼は議会前のゼレンスキーに演説について意見をのべる関係にあるという。


 他にも、オバマ政府の対ロ政策顧問やロシア大使を歴任した政治学者のマイケル・マクフォール(現スタンフォード大学教授)があがっている。彼は米3大ネットワークの一つ、NBCの解説者も務めており、ウクライナ政府側と番組プロデューサーとの関係構築を支援していることを認めている。


 『ポリティコ』はまた、アメリカのロビイング会社ヨークタウン・ソリュージョンズとPR会社KARVコミュニケーションズが事実上、ウクライナの石油・ガス業界団体を代表するエージェントとなっていることを明らかにしている。これらの企業の仕事は、ドイツとロシアを結ぶ天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム2」の運営会社への制裁や、ロシアから米国への石油、ガス、エネルギーの全面的な禁止を実現することであった。


 先のマイケル・マクフォールは、「ウクライナ政府とゼレンスキー自身、彼の周囲の人々はかなり洗練されている。彼らは長い間、アメリカのエリートやアメリカのメディアと交流してきたのだ」と発言している。


 これがメディアが持ち上げる「ウクライナ側の情報戦の優位性」「ゼレンスキーの巧みな演説」を支える構図だといえる。


 ウクライナの戦局をめぐってテレビがくり返し流す「非人道的な攻撃」による被害現場の映像もこうした情報戦の重要な一環であり、その真相については次第に明らかとなっていくだろう。そのうえで近年、アメリカ政府と一体化したPR会社がアメリカ国内にとどまらず、世界を戦争に巻き込むうえで重要な役割を果たしてきたことを思い起こす必要があるだろう。


 アメリカ政府・メディア・PR会社が合作してセンセーショナルに煽った典型的なフェイク映像として人々の記憶に焼き付いているのが、1991年の湾岸戦争の引き金となった一人の少女の涙ながらの訴え、いわゆる「ナイラ証言」であった。「イラク軍兵士がクウェートで保育器に入った新生児をとり出して放置し死に至らしめた」という見てきたようなウソは後に、クウェート大使の娘がアメリカのPR会社が創作したシナリオにそって演じたものであったことが判明した。


 このPR会社はニューヨークを本拠とするヒル・アンド・ノウルトン社であった。同社はクウェート大使館から1200万㌦(約13億円)の資金を受けて架空の市民団体「自由クウェートのための市民運動」を偽装し、イラクへの反感をあおるよう委託を受けて、この大がかりなキャンペーンを周到なリハーサルを経て実行に移したこともこれまでに暴露されている。


 湾岸戦争ではもう一つ、ペルシャ湾に流失した原油にまみれて苦しむような水鳥の映像が「フセインの残忍さ」を印象づけ、アメリカのイラク民衆殺りくへの批判をかわすうえで、大きな効果をもたらした。この原油流失はアメリカがイラクの石油精製施設にミサイルを撃ち込んだことがもたらしたものであった。しかし、アメリカは「イラクの原油放出による環境テロだ」といいくるめ、イラク攻撃への支援を得るために利用したのである。


 PR会社・マスコミはこれを認めても、反省するどころか正当化してきた。そしてその後のアフガニスタン、シリア、ボスニア・ヘルツェゴビナなど、アメリカ・NATO軍が関わった戦争でも「女性や子どもが被害を受けた」「病院が攻撃された」という証言への同情、また戦災現場の被害者の証言にウソはないという素朴な感情をターゲットに、それ以上の残忍な行動を覆い隠すやり方を常套手段にしてきたのである。

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この記事へのコメント

  1. 小林佳久 says:

    アメリカの力がなければ、それぞれの国にぴったり合ったあんな演説ができるはずがないことくらい子供でも分かりそうなものなのに、感情で動く人たちは何も感じず、わかっている人たちは同調圧力のもと何も発言しない。
    そうやって世界が動いていることはどうしようもないのかもしれませんが、それでも感情的にならず淡々と合理的な発信を続け、思いのある人に声を届ける事が大切なのだと思います。いつか山が動くと信じて。
    ますますのご活躍をご祈念申し上げます。

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