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「国籍を理由に排除せず」 国際図書館連盟が表明 “戦争中にこそ知識と異文化間の対話を促進する義務がある”

 ウクライナ情勢をめぐって、文化・学術界からロシアの芸術家や研究者を排斥する動きに反対する声が国際的に高まっている。とくに、図書館界では戦争・政局、国家体制、政治・イデオロギーにかかわらず「表現の自由と知る自由を守り、豊かな文化資産を保護する」という公共図書館の使命を貫くうえでも、ロシアの図書館や司書との連携を断ち、さらにはロシア語書籍を排除するよう求める潮流への批判と決別する動きが広がっている。

 

 ウクライナ図書館協会や欧米のいくつかの図書館関係機関はロシア軍のウクライナ侵攻直後から、「ロシアの蛮行糾弾」と合わせてロシアの図書館や図書館関係者とのつながりを断つことを声明し、国際図書館連盟(IFLA)に対してもそのように対応するよう再三にわたって求めてきた。

 

 国際図書館連盟はこれを受けて緊急の理事会を開催し3月21日、「ウクライナの状況に対するIFLAの対応」を発表し、「ウクライナの同僚と連帯し、即時停戦」の呼びかけに参加するとともに、「ロシアの会員をIFLAから除名しない」ことを運営理事会として全会一致で決定したことを明らかにした。

 

 この声明は「国家が武力を行使するとき、犠牲となるのはあらゆる立場の一般市民であり、図書館、文化遺産機関、文学、言語、思想は直接攻撃を受けてきた」ことを確認しつつ、「表現の自由、情報へのアクセス、質の高いサービス、多様性と包摂性の重視などの価値観は世界中の図書館員・情報専門家が共有しているものであり、国籍を理由に図書館や図書館員を排除したり孤立させたりすることはできない」ことを明確にしている。

 

 日本図書館協会は「ウクライナに関する日本図書館協会声明」で、「国際図書館連盟(IFLA)など国際的な図書館界と協調し、すべての暴力行為に反対し、ウクライナの人びとや図書館関係者との連帯を表明」することを明らかにしている。

 

 ちなみに、イタリア図書館協会が発表した「戦争や経済的報復は、人々やその文化的表現に対する差別を正当化するものではない」と題する声明(3月4日)は、こうした事情をわかりやすく伝えている。その全文を紹介する。

 

■イタリア図書館協会の声明(全文)

 

 図書館やその他の文化遺産を扱う施設は、自由な意見交換が行われる歓迎すべき平和な場所であり、図書館員は、とくに戦争中に知識と異文化間の対話を促進する職業的な義務を負っているのです。残念ながら、最近のいくつかの事実は、少なくとも私たち専門家にとっては自明のことと思われるこの原則を、私たちに再度強調することを余儀なくさせています。

 

 たとえば、バルト諸国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の国立図書館、ウクライナ図書館協会、ポーランド図書館協会がロシア図書館協会のIFLA(国際図書館連盟)からの除名を求めたり、ウクライナ書籍協会がロシア語の書籍をボイコットするよう呼びかけるなど、最近流れたいくつかのアピールに対してまったく反対することを表明します。

 

 私たちは、爆撃を受けたウクライナの人々と全面的に連帯することを改めて表明し、私たちの施設を含め難民をもてなし援助するための呼びかけに参加します。しかし、ウクライナの人々との連帯はロシア人に対する差別や、どこかがやりたがっているようなロシアの言語および文化的表現の検閲を通さないことはいうまでもありません。

 

 ロシア人だという理由だけでロシアの図書館員や著者を排除することは、愚かな行為であり、重大な差別です。それはヨーロッパと国際文化を限りなく悲惨なものにし、ウクライナやその他の地域に平和の展望をもたらすどころか、遠ざける不条理な検閲になるでしょう。

 

 図書館協会や図書館機関の歴史における私たち図書館員の強みは、常に世界中で私たちを団結させる普遍的な価値観(表現の自由、情報への普遍的なアクセス、平和と市民の成長のための図書館の役割)です。それは、国家体制、出身国、支配的なイデオロギー、および戦争とは無関係に、ほぼ一世紀にわたって協力することを可能にしてきました。

 

 私たちはこのように、永続的な価値観のために共に働き続けたいと考えています。

 

 イタリア図書館協会代表 ローザ・マイエッロ

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