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ドキュメンタリー『ドンバス 2016』  監督 アンヌ=ロール・ボネル

 フランスの女性ジャーナリスト、アンヌ=ロール・ボネルが監督するドキュメンタリー映画『ドンバス 2016』(54分、日本語字幕付)がYouTubeで公開されている。2015年、ウクライナ東部ドンバス地方を訪れた撮影チームによる記録だが、当時からドンバス各地の都市がウクライナ政府によるミサイル攻撃で廃虚と化し、住民が地下室に閉じこもる生活を強いられていたことを、名も無い老若男女の証言を交えて映し出している。

 

 ロシアによる今回のウクライナへの軍事侵攻がなぜ、どのような状況のもとで起こったのか。欧米メディアはこのことについて注意深くふれないでいる。とくに2014年以来続いてきたウクライナ東部の内戦――一方的ともいえる政府軍、ネオナチのアゾフ大隊による迫害――の実態を意図的に覆い隠し、「プーチンの意味不明の暴挙」などといっている。国連発表でもドンバスでの戦争によって、この7年間1万4000人の死亡を確認しているというのに。

 

 ボネル監督は政治的に中立の立場を表明し、ナレーションを入れず、現地の実情を現地民の声で淡々と伝え訴える手法をとっている。

 

 撮影チームがドンバスを訪れる直接のきっかけとなったのは、アメリカのネオコン(新保守主義者)が直接関わった2014年のクーデター(マイダン革命)の後、ウクライナ大統領についたポロシェンコがおこなった耳を疑うような演説であった。ポロシェンコはそこでロシア語を使う東部の住民に対して、「彼らが仕事にありつけなくし、年金を受けられなくし、子どもが毎日学校や保育園に通えなくし、洞窟で暮らすようにさせる」と、一国の為政者として信じられない発言をしていた。

 

 最初の撮影地ドネツクで見た光景は、住民が居住するアパートがミサイルで破壊され、砲声が響く通りには白煙が立ち込め、瓦礫や不発弾が散乱し人の姿はない。まさにゴーストタウンであった。そして、ルガンスクを含めて取材に訪れたどの町でも学校や保育園、病院までもが破壊され、廃虚と化した風景が広がっている。

 

 働き手の男性は仕事を求めて地元から離れるか、反政府レジスタンスに参加しているようだ。肉親を奪われ、空爆や砲撃を避けるために地下のシェルターに潜んで生活を続ける若い母親、老人、子どもたちの疲れ切った表情が映し出される。

 

 インタビューでは乳児を殺された母親や、夫を失った老婦人らがウクライナ軍とネオナチ民兵の残虐な兵器を使った殺りくと、ロシア語を使う者へのサディスティックな仕打ちをつぎつぎに訴える。政府軍は反政府勢力の司令部や志願兵がいる建物・拠点は攻撃せず、無抵抗の民衆を無差別に攻撃するという。住民たちは、これが彼らの戦争目的だと苦々しくつぶやくのだ。

 

 ウクライナ軍が住民を大量殺りくの対象にしていることは、多連装ロケットミサイルや重多連装ロケット砲、白リン弾などの可燃性の武器を使っていることが証明している。映画はふれていないが、これらの兵器はアメリカが提供したものであり、アメリカの軍事顧問団の訓練を受けたウクライナ兵が住民をターゲットにして実戦を積んできたことは公然の秘密だ。

 

 映像はロシアの人道支援の車列もとらえている。そのもとで住民同士でスープや食事を提供したり、子どもたちにお菓子を配り、文化活動もおこなっている様子もうかがえる。

 

 ソビエト時代から最大の地下資源を有し、良質の石炭を産出してきたドンバス。荒れ果てた炭鉱では、労働者街の婦人たちが郷土が誇る重要産業が根こそぎ破壊され、仕事を失った労働者が職を求めてロシアに出て行き、40年間鉱山で働いたが年金もなく食べるものがないという。「ソビエトのときは今と比べればよっぽど良い生活をしていた」という言葉が真実味を増して迫ってくる。

 

 「ロシア軍が介入している」という当時の西側の宣伝に対して、「それは大きな間違いだ。同じスラブ人なんだから。もしもロシア人がここに来て戦っていてくれたら、一週間もすれば平和になってたよ」などと突き放すように話していた。「私たちだって同じウクライナ人だ。ロシア人もウクライナ人も、同じスラブ人だ」と訴え、「兄弟同士が憎しみあって殺し合う」状況をつくり出した者を射抜くような眼差しは、今のウクライナ民衆に共通するものだ。

 

 監督は3月初め、ロシア軍のウクライナ侵攻直後のドンバスを訪れ、仏テレビの報道番組でウクライナ軍が住民を攻撃しているとレポートしたことで、衝撃を与えた。彼女は「現地住民は、今になってヨーロッパがドンバスの状況について知るようになったことに驚いている」と報告している。

 

リンク:「ドンバス2016」(日本語字幕付き・YouTube) ※日本語字幕の表示はYouTube画面下(スマホアプリでは右上端)の「設定」より選択

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