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非武装中立化に早期停戦の道筋 火を付けて逃げた米国 国際社会がとるべき対応とは ウクライナ問題めぐる記者座談会

 ウクライナへのロシア軍の侵攻が始まってから1週間が経つなかで、テレビ・新聞からネットに至るメディアは四六時中、虚実入り混じるセンセーショナルなニュースを垂れ流し、ロシア非難キャンペーン一色に染まっている。これ以上犠牲者を増やさないためにも一刻も早い停戦合意が待たれるものの、双方の主張から妥協点を見出そうとする冷静な思考は影を潜め、ウクライナ側に武器や援助資金を注ぎ、ロシア側には制裁や攻撃を加えることがあたかも「自由と民主主義を守る」ことであるかのように大々的におこなわれている。それは2001年の9・11テロ事件を契機に米国がイラクやアフガンを爆撃するためにおこなった「テロ撲滅」キャンペーンとも酷似しており、歴史的背景を持ち、複雑に絡み合った問題を正しく冷静に捉え、解決に向かわせることを許さない新しいファシズムとしてあらわれている。この事態をどう捉えるか――本紙は座談会をもって現状を分析した。

 

「自由と人権」掲げるもう一方のファシズム

 

  現在メディアは朝から晩までウクライナ情勢を報じている。「ロシア軍の猛烈な爆撃続く」「ロシア軍が○○○人もの民間人を殺傷」「核兵器使用の可能性もある」「ロシア軍が原発を攻撃」「ロシア兵が性暴力」…など衝撃的なニュースが刻々と伝えられるが、そのどれもがウクライナ当局発表であったり、CNNやBBCなどの欧米メディア発信のもので、ことの真偽も定かでないままにロシアに対する憎しみの感情や敵愾心だけを煽ってくる。

 

ロシアによるウクライナ砲撃を伝える独メディアBildの報道(上)。動画は2015年に起きた中国天津での化学物質倉庫爆発事故のものだった(下)

 SNSに至っては、ウクライナ侵攻によるものとしてバラ撒かれている画像や映像が、よく調べてみるとパレスチナ紛争や中国での工場爆発のものだったり、戦争ゲームのCG動画を組み合わせたフェイク動画だったりする。何がなんだかわからないが、熱狂じみた騒乱で感情を揺さぶり、「どっちに味方するのか」を見るものに迫ってくる。

 

 確かにロシア軍が大規模な武力をもって国境をこえ、ウクライナの無辜(こ)の民に砲撃を加えていることについては許されることではない。実際に100万人といわれるウクライナの人々が難民として周辺国に退避する事態にもなっており、着の身着のままで寒空の下に晒されている人々のことを思えば看過できるものではない。

 

 だが、ウクライナではソ連崩壊後から常に西(欧米側)と東(ロシア側)の分断と対立が続き、歴史的に見ても根深い民族問題を抱えた地域でもある。一つの断片だけを切りとって善か悪かを色分けできるほど単純なものではないし、複雑に入り組んだ矛盾の根源に目を向けなければ解決にはならない。

 

  ロシア国内でも反戦デモの参加者が逮捕されたり、メディアへの情報統制が強まっていると報じられ、グーグルやメタ(フェイスブックなどを運営)など国際的なITネットワーク網を管理する米国のGAFAがロシア当局や放送局のSNSアカウントを停止した。ロシア政府の公式サイトもアクセス不能だ。それもあって西側の国にはロシア側の主張や情報がまったくといっていいほど入ってこない。「戦争の最初の犠牲者は真実」といわれるが、戦争状態になると双方が客観性や中立性といった建前をかなぐり捨てて相手を貶めるプロパガンダ合戦をおこなうわけで、冷静な視点や客観的な判断材料が失われる。

 

  表層は「ロシアvsウクライナ」だが、この熱狂染みたプロパガンダ合戦一つみても、本質的には「ロシアvsNATO(欧米)」の矛盾だ。米国の窓からしか世界を見ない日本国内メディアはNHKも含めてすべて欧米側目線一色で、ちょっとでも「ロシア側の言い分にも耳を……」とでもいおうものなら、「プーチンの侵略を正当化するのか!」「危険な思想だ!」とバッシングの嵐を喰らう勢いだ。うかつにものもいいにくい雰囲気が醸成されているし、それそのものが言論統制じゃないか? と思う。

 

 国会の動きを見ても、れいわ新選組が独自見解を示しているのを除いて、自民党から共産党まで「ロシア非難、制裁」一色の挙国一致体制だ。共産や立憲あたりも「自民党の対応は生ぬるい!もっと強行に!」と叫んでいる始末だ。

 

 ところが危機感を煽り、人道主義を掲げて侵略反対を唱える欧米側は、大騒ぎをする割には一向に停戦交渉や仲裁に乗り出そうとしない。ウクライナの人々の苦難に世界中の人々が胸を痛めて反戦デモをくり広げているが、制裁や軍事支援を求めているわけではない。一刻も早く戦争状態を終わらせろ! これ以上の犠牲者を出すな! というのが圧倒的な世論だ。

 

  欧米側はこれまで背後でさんざんゼレンスキー政権を後ろから焚きつけてロシアを挑発してきたくせに、ロシアの侵攻を察知したとたんに真っ先に大使館を引き払って逃げ出し、矢面に立たされたウクライナに後ろから「オマエら、これで戦え」と武器を送っている。ウクライナとロシアでは軍事力の差は歴然としているし、戦闘状態が長引けば長引くほど犠牲者が出るのは目に見えている。「もっと血を流せ」といっているようなもので、その血の臭いに軍需産業が色めき立っているだけの話だ。ウクライナの人々を心配する人間がやることではない。

 

  メディア報道でいえば、かつての米軍によるアフガンやイラク爆撃で、これほど攻撃される側に同情的な報道がされただろうか…? と思う。あのときはブッシュが9・11同時多発テロの主謀者をアフガニスタンのアルカイダと証拠もないのに決めつけ、「テロリストにつくのか、われわれにつくのか」と迫って反対世論を封じ込め、国連安保理の決議もなく爆撃を開始した。フセインが大量破壊兵器を隠し持っているといってイラクにも侵略した。その結果100万人をこえる無辜の人々が犠牲になったが、大量破壊兵器は見つからなかった。

 

侵略した米軍側からの報道のみだったイラク戦争(2003年)

 あのときは日本を含む西側メディアは米国が流す大ウソのプロパガンダにおおいに加担したし、なんなら米軍戦闘機からのピンポイント爆撃の映像をお茶の間に垂れ流して、「自由と民主主義をもたらすため」などと真顔でやっていたわけだ。「油田を爆破して水鳥を油まみれにした」とか「軍事独裁政権がサリンをバラ撒いた」というのもすべてフェイクであったし、この侵略へのイラク国民の抵抗はすべて「テロ行為」として報じた。今になってプーチンが仕掛けていることが「ハイブリッド戦争」などというが、西側のプロパガンダだって大概だし、ずっと米国がやってきたことじゃないか、と。

 

 かつて日本が中国に戦争を仕掛けたときも満州事変をでっち上げて「暴支膺懲(横暴な支那を懲らしめる)」をスローガンにして突き進んだ。あの戦争から77年たった現在は「自由・人権・民主主義」を掲げた、より大掛かりなプロパガンダで戦争に人心を動員していくということ、日ごろ戦争反対を唱えている革新政党も含めて全部もっていかれるということを一連の経緯は見せつけた。「このようにして戦争に突き進む」という教訓でもある。

 

必要なのは早期停戦  制裁では何も解決せず

 

バイデン米大統領

 B まるで反戦の旗手のように振る舞うバイデン大統領は、一般教書演説で「この攻撃がもたらす死と破壊は、ロシアだけに責任がある。米国と同盟・友好国は団結し、断固とした対応をとる。世界はロシアに責任をとらせる」「独裁者たちに侵略の代償を払わせなければ、さらなる混乱をもたらす」などと息巻いて各国に対応を迫っている。

 

 だがNATO側は、国際決済システム「SWIFT」からロシア民間銀行や中央銀行を締め出すなどの経済制裁はするが、ウクライナが求める飛行禁止空域の設定も拒否し、自国が戦争の当事者になることだけは慎重に避け続けている。ロシアはクリミア併合以来ずっと米国の経済制裁を耐え抜いてきたわけで、今回の制裁も効果は不確かなものだ。少なくとも即効性は乏しい。外側で「プーチンは狂っている」「ウクライナ可哀想」と煽っておいて、ウクライナには「自分で戦え」と武器を送って持久戦をやらせているのだから、それはもう人道的でもなんでもない。

 

 俯瞰してみれば、ウクライナに被害が出れば出るほど、米国側は各国に踏み絵を踏ませつつロシア包囲網を強め、自国の優位に進めていける関係であり、ウクライナは生贄なのか? とすら感じる。ウクライナをこれまで背後から焚きつけてロシアを挑発してきたのは、ほかでもない米国自身ではないか、と。

 

 必要なことは、歴史的な経緯を踏まえたうえで、双方の妥協点を引き出して早期停戦をさせることであり、そのためには「戦争犯罪の責任追及」などはとりあえず棚上げしてでも対話を成立させることだ。その仲裁のために「国際社会」が冷静に機能しなければ話にならない。それが当事国ではない外野の役割ではないか。

 

  国連の緊急特別会合でのロシア非難決議(141カ国が賛成)でも、5カ国が反対、中国や日米豪印戦略対話(クアッド)に参加するインド、アラブや南アフリカ諸国など35カ国が棄権に回った。

 

 そのうち棄権した南アフリカの大使は「無辜な市民を犠牲にし続ける暴力の連鎖を一刻も早く止めるために、ウクライナ、ロシア両者の対話の必要性」を説き、「このような非難決議は、対話に必要となる環境を作らない」と訴えている。「国連はその性質上、両者に橋を架け、意見の相違に対処するためのプラットフォームとして使用されるべきだ。緊張を緩和し、敵対的行為の停止にコミットし、お互いの信頼を築きながら、妥協の精神に関与するための勧告と支援が必要だ」と。

 

 米国内でも民主党のサンダース上院議員などが所属する「米国民主社会主義者(DSA)」も、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、即時撤退を求めつつ、この紛争は米国の「帝国主義的な拡張主義」が招いたものであると指摘し、「米国のNATOからの離脱」を求める声明を出している。ロシアの武力行使は許されないが、その根源になっているものをとり除かなければ沈静化も停戦合意もしようがないのだ。

 

NATOの東方拡大 ロシアにとっての脅威

 

  ロシアがウクライナに侵攻した根拠を探れば、プーチンがいうように第一にはNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大だ。1991年に東西ドイツの統一をソ連に認めさせるために当時のベーカー米国務長官やブッシュ米大統領、サッチャー英首相など西側首脳がゴルバチョフとの間で「米国はソ連指導部にNATOの管轄や軍事プレゼンスは東側には1インチも拡大せず、ドイツ統一がNATOの軍事組織の東側への拡散につながらないことを約束」するという密約を交わしていたことが米国公文書で明らかになっている。

 

 NATOはソ連率いる共産主義勢力に対峙するための欧米側の軍事同盟だが、敵対するワルシャワ条約機構が解散した後も、そんな約束などなかったかのように拡大を続けた。加盟国を承認するのは米国だ。ソ連崩壊の1991年には16カ国だったが、第一次、第二次と東方へ向けて拡大し、ベラルーシに接するポーランド、ハンガリー、さらにロシアに接するバルト3国も抱き込み30カ国にまで増えている【地図参照】。

 

 ロシアとの関係では、1997年に「平和のためのパートナーシップ協定」を結び、ロシアが納得できるようにきめ細かい措置をとりながら永続的な平和共存関係をつくるとしてきたが、気がつけばウクライナの西側国境はすべてNATO加盟国と接することになり、当然ロシアは反発を強めた。

 

 ついには2008年4月、ブカレストで開かれたNATO首脳会議で、ウクライナとグルジア(現ジョージア)の将来的なNATO加盟を合意。ドイツやフランスが「時期尚早」「ロシアを刺激しすぎる」と反対姿勢を示すなかで、当時のブッシュ米政権が強引に宣言したものだ。

 

 ウクライナはかつてロシアとともに旧ソ連を構成した「兄弟国」であり、NATOに組み込まれることはロシアにとっては喉元にミサイルを突きつけられることを意味する。さらに親欧米派のポロシェンコ大統領は、将来的なNATO加盟を明記する憲法改正案を成立させ、後継のゼレンスキーもNATO寄りの姿勢を一層強めていった。

 

プーチン露大統領

 NATO不拡大の約束について「口約束だから無効」という見方や、ウクライナがどの軍事同盟を選択するかはウクライナの主権だという見方もあるが、いずれにしてもロシアにとって軍事的脅威が増すわけで、「大西洋地域の平和と安定」を建前にするNATO自身がそれをどう受け止めるのかにかかっている。だからロシアは、NATOの親玉である米国に対して「条約によってウクライナとジョージアをNATOに加盟させないよう約束を」とくり返し文書で提案したが、昨年12月、今年1月、2月と立て続けにバイデンは提案をはね付けた。

 

 C かつて米ソ冷戦期の1962年、「米国の裏庭」といわれる中米カリブ海で、自国を射程圏内におさめるキューバにソ連の核が持ち込まれたとき、「第三次世界大戦も辞さない」と米国が大騒ぎをしたのが「キューバ危機」だった。ロシアにとってもウクライナは玄関口にあたり、国境からモスクワまでわずか500㌔程度で目と鼻の先だ。それがどれだけロシアにとって脅威となるかを十分認識しながらNATO拡大を進めたのが米国だった。

 

  プーチンは電話会談したマクロン仏大統領に、停戦の条件はウクライナの非武装中立化(NATO非加盟)と「非ナチ化」だと明かしている。つまり、ウクライナをフィンランドやスウェーデンのようにいずれの軍事同盟にも属さない緩衝国家(中立国)とすることを望んでいる。ロシアとウクライナは親戚同士みたいなもので、ロシアにもウクライナ人がたくさんいるし、ウクライナにもロシア人は多い。親戚同士の戦争を長引かせることはプーチンにとってメリットはなにもない。ウクライナにとっても隣国ロシアと敵対し続けることは国益にはならない。

 

 「ウクライナの非武装中立化でウクライナとロシアが合意し、NATOと米国がそれを保障することで決着する」というのが外交や紛争処理にかかわってきた人たちの大方の見方だ。「それはロシアへの譲歩だ!」といっても、NATOが見放している以上、ウクライナの犠牲をこれ以上増やさないためには落としどころを見つける以外にない。いずれにしてもソ連崩壊から30年を経て、欧州地域における安全保障体制の再編成は避けられない事態になっていたことを今回のウクライナ危機は示している。

 

度重なる米国の介入 「カラー革命」の背景

 

  地政学的に大国に挟まれた緩衝国家であるウクライナは、地域によって歴史的背景、言語・宗教事情、経済水準、産業構造が大きく異なり、独立後の国論は常に親欧米派と親ロシア派の間で揺れ動いてきた。ポーランドなど欧州側に接する西部地域は、歴史的経緯から民族主義が強く、「民族浄化」を唱える極右政党も本拠地にしている。かつてはナチスドイツに合流してソ連赤軍とたたかった歴史も存在し、親欧米派が多い。経済的には有力な産業がなく、農村主体の地域だ。地理的に欧州に近い西部が貧しいというのがウクライナの特徴といわれる。

 

 一方、今回プーチンが国家承認したドネツクやルガンスクを含む東部地域は、旧ソ連全体を代表する一大重工業地帯であり、石炭・鉄鋼・化学・機械などの重厚長大産業を抱えている。オデッサやクリミア半島(2014年にロシアに編入)を含む南部は黒海に面した海上交通の要衝で、ロシア黒海艦隊の基地もある。東南部の経済圏はロシアで、言語もロシア語が大半であり、親ロシア派が多いという特徴がある。

 

 冷戦崩壊後、米国はNATOの東方拡大だけでなく、このような地域的、民族的な違いや対立を利用し、「民主化グループ」を支援するという形でウクライナへの内政介入を繰り返してきた。このことは西側メディアはほとんど報じない。

 

  代表的なのが、2004年の「オレンジ革命」と、2014年の「マイダン革命」だ。いずれも親ロシア派のヤヌコヴィッチ大統領を弾劾する政権転覆運動(クーデター)で、西側に拠点を置く極右政党や訓練された「ネオナチ」グループが扇動して大規模デモを組織し、多数の死者や負傷者を出す事態となった。

 

2014年2月、親米武装グループも入り乱れる騒乱(マイダン革命)で廃墟となったキエフ中心部。このクーデターにより親ロシア派のヤヌコヴィッチ政権が転覆された。

 2004年の「オレンジ革命」では、大統領選でヤヌコヴィッチ大統領が選出されたことに、EU加盟を推進する親米派のユーシチェンコ陣営が「不正選挙」のクレームをつけて大規模デモをおこない、欧米側も後押しした再選挙で親米政権が生まれた。

 

 ユーシチェンコ政権は、主力産業である鉄鋼企業20社あまりを民営化し、欧米の多国籍企業に売却。また、インフレ率が急上昇し、失業者があふれ、豚肉などの生活必需品が高騰して国民生活に打撃を加えた。また、ロシアからは安く供給されていた天然ガス価格を市場価格へと引き上げたことで産業は低迷し、経済活動が20%も縮小した。

 

 そのため2010年の大統領選ではオレンジ革命で標的となったヤヌコヴィッチ大統領が選出されたが、2013年11月にEUとの連合協定の調印を延期したことを契機にして、再び親欧米派の野党やネオナチ集団が暴動を起こし、クーデターに発展(マイダン革命)。西側メディアは「民主化デモ」と肯定的に報じたが、デモ隊には武装した民兵団も入り込み、ライフルを使って市民を狙撃し、それを「ヤヌコヴィッチ政権の犯行」とすることで憎悪キャンペーンを煽った。あえて反政府側の市民に犠牲者を出して騒乱を作り出す「偽旗作戦」と呼ばれるものだ。

 

親ロシア派勢力の掃討を目的とする極右ネオナチ系の武装組織(現在はウクライナ内務省管轄の準軍事組織となっている)

 このときクーデターを指揮した野党勢力であるNGO3団体がすべて米国に本拠を置く全米民主主義基金(NED)などの融資機関から資金援助を受けており、各国の「カラー革命」に資金を提供してきた米投資家ジョージ・ソロスらの関与が明らかになっている。また米国内のネオコン派として知られるヌーランド米国務次官補(当時)は、ウクライナをEUにとり込むため50億㌦の投資をおこなったと公言していた。

 

 この騒乱によってヤヌコヴィッチ大統領はロシアに亡命し、クーデターによって再び親米政権が誕生するが、これに激怒したのが親ロシア圏の東南部地方の人々で、南部の都市オデッサではクーデター政権を批判する市民のデモ隊が頻発。だが、これにも政府与党の支援を受けるネオナチ集団が襲いかかり、デモ隊を建物内に誘導して200人もの市民を焼死させ、逃げる市民を撃ち殺すという事件も起きている(オデッサの悲劇)。クリミアではその後、ロシアへの編入の是非を問う住民投票がおこなわれ、投票率83%で、ロシアへの編入賛成が実に96・7%を占めた。これを西側は「不正選挙」と攻撃したが、その根拠は乏しい。

 

親米クーデター政権に抗議する市民のデモを、政権支持派のネオナチ組織が襲撃して焼死させた事件「オデッサの悲劇」(2014年5月2日)※画像をクリックすると当時の映像(YOUTUBE)に繋がります。

 また、ネオナチ政権からの分離独立を求める東部のドネツクやルガンスクでも、親米ネオナチ系の武装民兵団が派遣され、地元の親ロシア派住民組織と内戦状態となり、昨年までに1万4000人の死者を出す事態となっていた。つまり、クリミアのロシア編入や東部ドンバス2州の独立要求もそれぞれに理由があり、「ロシアの力による一方的な現状変更」とはいえない内因を含んでいる。

 

 これら一連のウクライナにおける騒乱や政変を後ろから支援してきたのが、当時のオバマ米政権であり、副大統領のバイデンだった。この時期、バイデンの息子はウクライナの民間石油ガス会社の取締役に就任しており、新興財閥(オリガルヒ)の一員でもある。

 

  よくニュースに出てくる「ミンスク合意」というのが、この内戦状態を終わらせるための停戦合意(ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツの4者合意)で、そこにはドンバス2州(ドネツク州、ルガンスク州)の「特別自治権」を認め、それをウクライナ憲法に明記することが約束されていた。だが、その約束は果たされず、逆に外国人部隊を含む極右ネオナチ武装組織などによる住民弾圧や虐殺行為が続いた。2015年からのドンバスの戦闘で、国連は3400人の民間人が死亡したと報告している。ロシア側からすれば、助けを求める親ロシア派住民を見殺しにできないという事情もある。だが親欧米派のポロシェンコ大統領の後を引き継いだゼレンスキー大統領は「2州の代表はテロリストだ」として面会さえ拒否。ミンスク合意は水泡に帰した。これらのことは西側メディアではまったくといっていいほど報道されおらず、米国が絡んでいるから国連も動かない。なすがままに放置され続けた。

 

 米バイデン政権の後押しを受けてNATO入りに前のめりになるゼレンスキー大統領は昨年、ロシアからのクリミア奪還に向けた国家戦略を採択し、バイデン政権はそれを鼓舞するように3月に米ウクライナ共同洋上演習「シーブリーズ2021」として、NATO、イギリス、ジョージア、トルコなど32カ国の艦艇・航空機・部隊を、ロシア国境に面する黒海上に結集させ、大規模な軍事演習を実施。ここには日本からも自衛隊がオブザーバー参加している。

 

米ウクライナ共同洋上演習「シーブリーズ2021」(2021年3月、黒海)

 さらに8月には首都キエフで、ロシアからのクリミア奪還を戦略目標とする「クリミア・プラットフォーム」なる首脳会議を開催。ロシアは猛反発して参加国には対抗措置をとると事前に警告したが、米国を筆頭にNATO加盟国など46カ国・機関が参加して「ウクライナは(クリミアの)脱占領・再統合に向けた戦略を準備した!」(ゼレンスキー)と気炎を上げた。奪還するには戦争しかないことははっきりしており、アメリカは10月にはウクライナ国内に180基ものミサイルを配備した。ところがNATOも米国も自分たちが対ロシアの矢面に立って血を流すつもりなどさらさらなかったことは、その後の推移からも明らかだ。

 

 そして10月には、ミンスク合意を棚上げにしたゼレンスキー政権が、東部ドンバス地方で初めてトルコ製攻撃無人機(ドローン)を投入し、自国の親ロシア派国民を相手に新兵器の実験をするような暴挙にまで出ていた。

 

 これを牽制する形で、ロシアはウクライナ国境で軍事演習を実施し、プーチンが「レッドラインをこえるな」と警告したが、12月にバイデンは300人の軍事顧問団をウクライナに派遣して軍事訓練を開始させ、ゼレンスキーは外国人部隊の国内駐留を認め、市民権まで与えることを議会に承認させ、大量の軍をドンバス地域に送り込んだ。

 

 プーチンはくりかえし米国に「NATO不拡大」を求めるも決裂し、国境付近でロシアとベラルーシによる大規模な軍事演習を開始。一触即発の緊張が高まるなか、慌ててマクロン仏大統領やショルツ独首相らが仲介外交に乗り出したが、もはやプーチンにとって、ゼレンスキーもバイデンも対話の相手ではなくなっていたことは容易に想像できる。

 

ゼレンスキー

  バイデンが「ロシア軍が近々ウクライナに侵攻する」と情報発信しながら、さっさと大使館を撤収して逃げ出し、はては「兵を送らない」とハシゴを外して泡を食ったのが、その後ろ盾で踊っていたゼレンスキーだろう。ロシア侵攻後は「逃げずに戦う英雄」「支持率90%」と無責任に根拠のない世論調査を垂れ流す欧米メディアから英雄のごとく祭り上げられているが、即日市民(非戦闘員)に無差別に武器を配って「戦え」と呼びかけ、全成人男性の国外退避を禁じたことには驚かされるし、正規軍の統率すらとれているのか疑わしいものがある。米国を忖度して中国を刺激し続ける安倍晋三あたりと重なるものがある。

 

 あげくは女、子どもにまで火炎瓶の作り方をレクチャーして、素手でロシアの戦車に立ち向かえというのだから、なぜウクライナの人々がここまで「欧米vsロシア」の矛盾の犠牲者にならなければならないのか、と怒りを覚える。どうみても政治素人にしか見えないゼレンスキーに責任を丸投げし、焚きつけてきた欧米側は、制裁をしたり、安全地帯からせっせと武器やミサイルを送り、その報復攻撃を受けるのはウクライナ国民なのだ。ロシアに軍事侵攻の停止を求めるのは当然だが、この事態に至るまで無責任に背後から煽ってきた米国及びNATOが他人事を決め込んでいることは極めて犯罪的だ。

 

  米国内でもキッシンジャーなどは「ウクライナは中立化してロシアを抱き込め」と主張していたし、トランプはその線に沿って欧州の矛盾から手を引き、プーチンと蜜月関係を築いていたが、オバマ時代からのウクライナ利権にしがみついてきたバイデンが、時代遅れのネオコン派と一緒に飛び跳ねたという関係ではないか。ロシアもロシアで、中国の台頭や欧州諸国と米国の微妙な矛盾、そのあたりの力関係の変化を見て仕掛けている。さんざん煽ってきた米国側に仲裁能力がなく、出口戦略が見えないままでは国際的な信用低下は免れないだろう。

 

 事態の推移はいまだ流動的ではあるが、対米追従一辺倒でやってきた日本としては、ロシアや中国と向かい合った独自の外交能力が問われている。動き方一つによっては政治・経済の両面でアジアでの立ち位置を失ってしまうことにもなりかねない状態にあり、米国にぶらさがって「アジアの火薬庫」になる道ではなく、めまぐるしく変化発展する「アジアの世紀」に対応した近隣諸国との平和互恵関係を主体的に築いていく努力が求められていることは確かだ。

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この記事へのコメント

  1. 現在の情熱が良く解りました。ありがとうございます。

  2. 世界に平和を says:

    ウクライナ問題で、普通の人々は「コロナが世界中で蔓延している時に戦争なんてやっている場合じゃないだろう」「もう戦争なんて時代じゃないのに何やっているんだ」という声がある。
    そんな中で、アメリカは正義づらして一方的に「ロシアが悪い」と制裁ばかり打ち出して、戦争を調停するのでなく焚きつけているのは事実と思う。
    マスコミも、れいわ新選組を除く政党にも幻滅してしまう。
    世界中の庶民の本当の声をもっと聴きたい!

  3. 「戦争は別の(すなわち暴力的な)手段による政治の継続である。」という格言があります。この見地にたてば、今次の戦争は、複雑な要素はあるものの、大括りでは米国による旧東側陣営併呑・ロシア封殺とそれに対するロシアの勢力圏維持という政治の継続であり、ロシアにとっても片方の陰の主役である米国にとっても何の正義もない戦争だと思います。
     同時に、どちらが先に軍事攻撃したかということは、戦争の性質を考える上ではそれほど重要な要素ではないと考えます。(ウクライナ政府軍のドンバス攻撃によってすでに今次の戦争が始まっていたという見方もできるのでは?)
     
     ロシア国民が自国軍の侵攻を止めさせることはもとより、ウクライナ政府が国土を米国やNATOの盾にする愚策を止め、米露間での中立とNATO軍の非配置、ミンスク合意の履行を宣言して、他国の仕組んだ戦争から国民を救い出すことを願っています。

  4. とても参考になりました。ほとんど私の考えと同じです。最近のマスコミの片寄った反ロシア報道には怒りよりも呆れ果てるだけ!一般的の人達はニュース報道しか情報が得られないから鵜呑みするでしょう。バイデンの口からよくも図々しくも又恥じもなくプーチンを批判できるもんだ!あきれ返って笑いしかない!

  5. kazz okamoto says:

    ありがとうございます。今まで読んだどの記事よりも包括的に、現在の状況に至るまでの説明していただいています。

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