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「中東の泥沼化に拍車かける愚行」 海外メディアの見解にみる中東情勢 

全アラブの反米世論に火付けた宣戦布告

 

 米国政府がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した問題を巡って、海外メディアやジャーナリストが「米国によるイランへの宣戦布告」「中東全域を戦火に巻き込む攻撃」と強い警告を込めて報じている。国内メディアの報道からは何ら事態の意味合いなどが伝わってこないなかで、海外メディアやジャーナリストの評価や見解の要旨を見てみた。

 

ソレイマニ司令官の棺を見送る数万人の群衆(テヘラン)

「国際法違反の侵略犯罪」 N・タイムズ元支局長

 

 イランなど中東地域の報道に7年間携わった経歴を持つ『ニューヨーク・タイムズ』元中東支局長のクリス・ヘッジス氏はネット上で次のように発信した。


 米国によるソレイマニ司令官暗殺は、イラクの過半数を占めるシーア派のアメリカを標的にする広範な報復攻撃を引き起こすだろう。レバノンとシリア、中東全域でイランが支援する民兵と反乱軍を活性化させ、20年にわたる米国の過失の結果である同地域の暴力や戦争がより危険な大火になるだろう。米国はイラクで包囲され、おそらく国外に追い出される。イラクにはわずか5200人の米軍しかいない。イラクの米国民は即出国するよういわれ、大使館と領事業務は閉鎖された。この状況はわれわれをイランとの直接戦争に引き込む可能性がある。アメリカ帝国は音を立てて崩壊するように見える。


 無人機による攻撃でイラク民兵軍司令官代理ムハンディスや、他のイラク・シーア派民兵指導者の生命も奪った。攻撃は窮地に立たされた二人の暗殺計画者ドナルド・トランプとイスラエルのネタニヤフ首相の政治的生命を一時的に延命するかもしれないが、それは米国の自殺行為だ。肯定的結果はあり得ない。


 石油価格は2倍、3倍になり世界経済を破壊するだろう。イランによる、イスラエルに対する報復攻撃、イラクのアメリカ軍施設への攻撃は数千人もの死者を出すだろう。サウジアラビアからパキスタンにまで至る地域のシーア派は、イランへの攻撃をシーア派に対する宗教戦争と見なすだろう。200万人に及ぶサウジアラビアのシーア派信徒は石油が豊富な東部の州、イラクのシーア派の大半、バーレーン、パキスタン、トルコのシーア派コミュニティに集中しており、アメリカと同盟国を攻撃するだろう。ペルシャ湾での石油生産の妨害が起き、レバノン南部のヒズボラはイスラエル北部への攻撃を再開するだろう。イランとの戦争は地域紛争を引き起こし、アメリカ帝国を終焉させる。


 2003年のアメリカによる侵略と占領後、統一国家としてのイラクは破壊された。かつての近代的インフラは荒廃し、電気や水道の供給も不安定だ。失業率は高くなり、政府の腐敗が横行した結果が反政府デモにもつながった。アフガニスタンでの戦争も『ワシントン・ポスト』が公表したアフガニスタン・ペーパーの通り敗北している。リビアもイエメンもシリアも大変な事態にある。


 するとなぜイランと戦争をするのか? なぜイランが違反していない核合意から離脱するのか?なぜ極めて激しやすい地域を一層不安定にするのか?


 これらの戦争を開始した将官や政治家は、自分がつくり出した泥沼に対する責任をとろうとしていない。彼らには身代わりとなる生け贄が必要なのだ。それがイランだ。


 対イラン戦争は地域全体でシーア派に対する戦争と見なされるだろう。だが2006年のイスラエルによるレバノンへの爆撃は、人口400万人のレバノンを制圧できず、逆にレバノン人を結束させた。それなのに領土がフランスの3倍、人口8000万人の国(イラン)を米国が攻撃し始めたらなにが起きるだろうか?


 米国はイスラエル同様、国際法をズタズタに切り裂き、違反して孤立している。米国の先制攻撃開始は国際法の下では、でっち上げの証拠に基づく「侵略犯罪」と定義される。われわれは国民として米国政府にこの犯罪の責任をとらせなければならない。そうしなければわれわれも共犯者になる。

 

    

「米国に居座る権利なし」 経済学者やジャーナリストら

 

 経済学者のピーター・ケーニッヒ氏(元世界銀行職員)は「イラン対アメリカ ガセム・ソレイマニ少将殺害」と題し、オンライン誌で次のように発信した。


 「ソレイマニ少将は単にイランで最も人気が高い司令官だっただけでなく、影響力もあり中東中で尊敬されていた。米国とNATOが「少なくとも3年はかかる」と想定したISISとの戦闘を1年未満で打ち負かしたイラク軍を訓練した代表も務めた。シリアでもISISなどを打ち破るためシリア軍の訓練に尽力した。このソレイマニ司令官殺害はイランに対する明確な宣戦布告だ。


 トランプは国民の拍手喝采を期待していた。大統領選が2020年であり、彼は人気の高まりと支持率が必要なのだ。再選されるために、彼以前の大統領と同様に殺人を犯したり、何百万人も殺す戦争を始めたりするのを尻込みしないのだ。それはオバマがしたことでもある。彼は米国との2つの戦争(アフガニスタンとイラク)が進行しているなかで大統領の座についた。彼が大統領の座を去ったとき、米国は7つの戦争(アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、スーダン、ソマリア、パキスタン)の途上だった。


 それに加えてアメリカが訓練し、資金供給し、武装させたテロリストなどによる無数の代理紛争もある。
 ほとんどの米国大統領は、計画中あるいは進行中の侵略によって、世界中での殺人をどれほどいとわないかということと、彼らがアメリカ軍需産業の権益とイスラエルのAIPAC(米・イスラエル公共問題委員会)をどれほど良く代弁するかを基準に選ばれる。


 12月31日のバグダッドの米国大使館に対する非武装イラク人の抗議や攻撃は、12月29日にイラク民兵軍を25人殺害し、50人以上負傷させた米軍の攻撃に対する報復だった。アメリカがイラクに居座る権利はまったくない。シリアでも中東の他のどこでも、アメリカ国境外では同じだ。だから世界、国連、国連安全保障理事会はそれに応じて行動すべきだ。米国の際限ない侵略は止めさせなければならない。世界がそれに慣れ、異常が通常になっている。それは反転させなければならない。


 イラン政府は報復を警告したが、もっともなことだ。だが、それはワシントンと国防総省が望んでいるものだ。これで彼らは全力攻撃したり、イスラエルにアメリカを支持して全力攻撃するよう要求したりできるからだ。


 中東と世界が対処しているのは死にかけた獣だ。アメリカ帝国はそうなったのだ。獣が死ぬ間際に周囲へ激しく襲いかかっている。団結だけがこの怪物を打ちすえることが可能なのだ」。


 BBC(英国放送協会)防衛外交担当編集委員のジョナサン・マーカス氏は、「イランのソレイマニ司令官殺害 なぜ今でこれからどうなるのか」と題し次のように解説している。


 「ソレイマニ司令官をアメリカが殺害したことによって、これまで低強度で推移してきた両国の対立は劇的に悪化した。その余波はきわめて深刻なものになり得る。


 報復が予想される。攻撃と反撃の連鎖で、両国は直接対決に近づく可能性がある。イラクにおけるアメリカ政府の将来にも疑問符がつくようになる」。


 オバマ前政権でホワイトハウスの中東・ペルシャ湾政策を調整していたフィリップ・ゴードンは、ソレイマニ殺害はアメリカからイランへの「宣戦布告」のようなものだとのべている。


 「コッズ部隊は、革命防衛隊の海外作戦を担当する。レバノン、イラク、シリアと場所を問わず、攻撃を計画したり現地の親イラン派を後押しし、イランの影響力を拡大した。その中心に長年いたのがソレイマニだった。


 米政府からすれば、ソレイマニは大勢のアメリカ人を死なせてきた張本人だが、イランでは人気があった。米国による制裁や圧力に対抗するイランの反撃を主導してきた存在だった。


 ソレイマニ殺害の決定にあたり、米国防総省は過去の行動を強調するだけでなく、今回の空爆による殺害は抑止的行動だったと力説した。同司令官が“イラクと中東全域で、米外交官や軍関係者への攻撃計画を積極的に策定していた”と。


 この次どうなるのかが大問題だ。トランプ大統領は劇的な一手でイランをしり込みさせ、米国に疑心暗鬼を募らせるイスラエルやサウジアラビアなど中東の同盟諸国に米国の抑止力はまだ効くことを証明して見せたと、一石二鳥を期待しているだろう。しかしイランが強力な反撃に打って出ないとは考えられない」。

 

「後悔するのは米国」 ムーン・オブ・アラバマ

 

 また海外メディアの『ムーン・オブ・アラバマ』は「アメリカはソレイマニ暗殺を後悔することになる」という記事をネット配信した。そこでは「アメリカは、イランとイラクに、宣戦布告した。アメリカが手に入れるのは戦争だ」とし、次のように続けている。


 「コッズ部隊はイランのイスラム革命防衛隊の海外部隊だ。ソレイマニはイランの外でイランと政治的、戦闘的運動に全責任を負っていた。メッカ巡礼をしたイスラム教徒のソレイマニは、対イスラエル2006年戦争時はレバノンのヒズボラに助言し、イラクとシリアでは『イスラム国』打倒に貢献した。イエメンのフーシ派、レバノンのヒズボラ、パレスチナのイスラム聖戦、シリア、イラクの民兵などはすべてソレイマニの助言と支援を得ていた。かれら全員が復讐行動をするはずだ。


 イラクで何百万という支持者を指揮するシーア派聖職者ムクタダ・サドルは彼の軍事部門『マフディー軍』を再び活性化させる命令を出した。2004年から2010年までマフディー部隊はアメリカのイラク占領とたたかった。かれらは再びそうするだろう。


 ソレイマニほどの高位指揮官のあからさまな暗殺は、イラン側による同規模の反撃が避けられない。中東や他のどこかを旅行しているすべてのアメリカ将官や高位政治家は警戒しなければならず、どこにも安全な所はない。


 トランプは敵を殺害した後が大変だということを思い知るだろう。
 2018年にソレイマニはイランを脅迫するトランプのツイッターへ公的に返答した。それは『あなたはわれわれが非対称戦争でどれだけ強力かご存じだ。かかって来い。あなたは戦争を始められるかも知れないが、終わりを決めるのはわれわれだ』という内容だった。


 米国はこの攻撃で何も勝ちとっておらず、今後何十年にもわたり、その結果を思い知らされることになる」。


 ニュージーランドのジャーナリスト・ケイトリン・ジョンストン氏は「世界大戦に火をつける可能性がある米国によるイラン軍最高司令官暗殺」と題し、さまざまな人人の見解を発信している。その主な内容は次の通り。


 「非常に情報に詳しいある人に、ソレイマニ暗殺に対するイランの対応が何だろうかについて話した。これはイランによるペトレイアスやマティス暗殺に匹敵するだろうと私は主張した。だがその知人は“いいえ、これはそれより遥かに重大だ”と答えた」(米ワシントンのシンクタンク・クインシー研究所代表=トリタ・パルシ氏)


 「ソレイマニは、イラン外のイラクとシリア両国で作戦をおこなうイラン革命防衛隊の司令官だ。両国でアルカイダとISISとの闘いで功績が認められている。これは非常に重大だ。アメリカは、最も尊敬されている軍人をイラク国内で暗殺することで、本質的にイランに宣戦布告した。人民動員隊のトップを殺害することで、アメリカはイラクにも更に多くの敵を作った。地域の報復があるだろう。それを防ぐことはできそうにない」(ジャーナリスト=ラニア・ハレク氏)


 「これが本当なら全中東を変え得る可能性があるといっても過言ではない」(ライジング=サーガー・エンジェティ氏)


 「これが事実であれば、アメリカは実質的に軍事的にロシアと中国の結びつきを確立したイランへの宣戦布告だ。これが第三次世界大戦を引き起こすといっても誇張ではない」(グレイゾン=ダン・コーエン氏)


 この記事のなかではイギリスの元海軍大将ロード・ウエスト氏が昨年、デイリースター・オンラインで「イランとの戦争に勝利するには、アメリカは、百万人以上か世界中の現役米軍人員のほぼ全員が必要だろう。たとえこれが第三次世界大戦にならないにせよ、ベトナムとイラクを足したより酷いだろう」と警告したことにも触れている。

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この記事へのコメント

  1. 貴重な情報をありがとうございます。海外メディアがどう報じているのかが良く分かりました。

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