野党各党がガソリン暫定税率の11月1日廃止を目指す方向で合意したと各紙が報道した。物価高騰に加えて円安、中東情勢の不安定化などの影響もあってレギュラーガソリンの価格はいまや1㍑=160~170円台が定着している。とりわけ車やバイクなしには暮らしがままならない地方の住民にとっては、「少しでも安く」は切実な要求である。スタンドに行って給油する度にため息が出そうなほどの金額が飛んでいくのに加えて、コメは高い、食料もなにもかも高い、そのうえに消費税10%が上乗せされて剥ぎとられ、財布の中身はあっという間にすっからかんである。
今回の野党合意は、参院選で政策としてガソリン減税を訴えていた政党もいたなかで、少しくらいは得点稼ぎに動いたというか、政策実現に向けて動き出したかのような印象を与えている。ところがどうも事情は異なるようで、8月の臨時国会に野党共同で提出だけはして採決はしないという茶番が動いているようなのである。れいわ新選組の幾人かの国会議員たちが暴露しているところによると、れいわ新選組としては9月1日廃止、遅くとも10月1日廃止を主張しており、今回の野党合意については合意していないという。そして、6月に野党7党で出した「7月1日施行」の法案はなんだったのかと疑問を呈し、法案の施行日「7月」の文言を修正するだけの簡単な改正であるにもかかわらず、8月の臨時国会では「法案を野党で共同提出だけして採決しない」茶番がやられようとしているというのである。いかにも実現に向けて頑張っているような素振りだけして、肩すかししようというのである。
国会では会期末までに議決がなされない場合、いくら法案審議をしていても成立せず、すべて廃案になる仕組みがある。会期延長をして議決までしない限りは原則としてすべて廃案であり、再度一から提出して法案審議を経て、衆参で議決までやらなければ成立しない。ガソリンの暫定税率の廃案については、それこそ参院選前の国会で会期末直前になってチョロっと審議したものの、結局採決までにはいたらず流れた経緯がある。「やる気はあるんですよ」「頑張ったんだけど会期末を迎えて時間がなかった…」等々を理由に逃げ道だけは用意し、パフォーマンスだけして世間をたぶらかすという“永田町仕草”ともいえるようなインチキな芸当である。このまま8月臨時国会に提出されたとしても、「採決せず」が事前の暗黙の了解であるなら、これほど有権者や国民を愚弄した話はない。こうした茶番を与野党が徒党を組んでやろうというのなら、たいした度胸の持ち主たちといわなければならない。
ガソリンにかかる税率は1㍑につき本則税率28・7円、暫定税率25・1円、石油税2・8円に加えて消費税が10%加わり、仮に1㍑170円としてガソリン本体の価格は98円であるのにたいして、税金が72円(4割)もとられる仕組みになっている。そして「暫定税率」などというのは名前だけ「暫定」(一時的な取り決めの意)を標榜しながら半世紀以上にわたって払わせ続けている代物で、それは既に暫定でもなにもない。複雑でわかりにくい仕組みにしておいて、誰も何もいわないのをいいことに延々と消費者に負担を強いてきたにほかならないのだ。
この円安と物価高で、石油元売りには1㍑につき35・9円もの補助金が国庫から与えられている。一方で消費者への直接的な補助や減税などはなしのつぶてである。そしてガソリン暫定税率と同じように、各種税金については小賢しい複雑な構造で幾重にも巻き上げていくシステムが出来上がっており、国民負担率は46・2%にまで高まっている有り様である。30年にもわたる不況で国民の暮らしは窮乏化が著しいものになってきたが、低賃金を強いているのに加えて巻き上げすぎていることが貧困化の最大の要因である。
選挙では消費税の減税や廃止などを叫んでいた政党がいくつもあった。街頭で声高に叫ぶだけならタダである。いかにも本気で闘うのだといわんばかりに力を込め、拳を振り上げていても、いざ国会に行って蓋を開けてみると、そんな連中が馴れ合いながら仲良く茶番をやっているのである。ガソリン暫定税率の廃止が鼻先ニンジンのたぶらかしなのか否か、8月臨時国会の成り行きを見ておけば答えは出てくる。
吉田充春