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風力の送電線から強い電磁波 秋田県能代市の学校付近で測定 懸念される健康被害 電磁波問題市民研究会の報告から

(2025年10月31日付掲載)

左が能代中学校。左の歩道の下に地元企業の風力発電からの送電線が埋設され、右の電柱に東北電力子会社の風力からの送電線が架かっている(秋田県能代市)

 陸上にも洋上にも風力発電が林立する秋田県能代市で、風車が発電した電気を変電所まで送る送電線が市内のあちこちに張りめぐらされ、そこから強い電磁波が出ていると地元の住民から連絡をもらった。WHO(世界保健機関)の国際EMFプロジェクトが2007年にまとめた「環境保健基準」によると、0・3~0・4μT(マイクロテスラ)の超低周波電磁波に長期間被曝することで小児白血病の発症リスクが有意に高くなる――ということには十分な科学的根拠があるとしている。ところが能代市内の市民が散歩したりジョギングしたりする道や中学校付近の道路では、30~30μT以上といったきわめて強い電磁波が測定された。電磁波問題市民研究会の『電磁波研会報』156号(9月28日付)をもとに、その内容を報告する。

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 連絡をくれたのは、能代市在住の医療関係者・中西秀則氏。京都大学大学院で生体電磁気学を専門とし、ウイルスや遺伝子へのエックス線の影響について研究してきた。また、子ども部屋の磁場が0・4μT以上で小児白血病のリスクが有意に上昇することを示した兜論文(後述)を読み、電磁波による健康影響にも注目するようになった。

 

 出身地である能代市に帰省してからは、すでに稼働していた火力発電所や、新たに設置されていく風力発電所、そこから伸びる送電線からの電磁波についても、調査・研究をおこなってきた。

 

 そして中西氏は、あるきっかけで電磁波問題市民研究会の網代太郎氏と知り合い、網代氏が中西氏の案内で能代市内の電磁波を測定することになった。電磁波問題市民研究会は、1996年に設立された電磁波問題にとりくむNGOで、電磁波過敏症など電磁波で悩む全国の人々の相談に乗ったり、市民・研究者・行政のとりくみなど国内外の情報を紹介している。能代市での測定は9月21日におこなわれた。

 

散歩道の値 何と36μT

 

 能代市の陸上では現在、出力600㌔㍗以上の風力発電が70基稼働している。それに加えて2022年12月から、能代港の港湾区域で「能代港洋上風力発電所」(4200㌔㍗×20基)が稼働し始めた。

 

 そのうち能代市の西端には、海岸沿いの陸地に約30基と、加えて港湾区域で20基の風車が稼働している。そこで発電した電気は送電線によって、能代の市街地を突っ切って東に向かい、内陸の変電所まで送られ、変電所から大都市圏の仙台方面へ送られている。

 

 網代氏は、会報にこう記している。

 

 「中西さんの車でまず向かったのは、能代港にある“はまなす展望台”。展望台のすぐ脇の風車は、独特の風切り音を響かせながら勢いよく羽根を回転させていました。展望台の100段の階段を登ると、海岸沿いの陸地と、日本海の洋上に林立する風車を一望できました。その数の多さには、やはり驚かされました。中西さんは、ご自身がこれまで測定したなかで、とくに磁場が高かった地点へ案内してくださいました。そこへ向かう途中、展望台から見えていた風車の近くを通り過ぎました。風車の大きさはさまざまですが、特に大きいものは羽根の先端まで含めると高さ120㍍、高さは40階建てのビルに相当するそうです。圧倒されます」

 

 調査当日は、幸運にも、風車がほとんど発電していないときと、勢いよく風車が回って発電しているときの両方を測定することができ、両方の送電線からの磁場を比較することができたという。午前中は、展望台脇の風車などは回転していたが、多くの風車が止まっているか、かなりゆっくりと回転していた。この日は強めの風が吹いていたのに、そういう状態だったということは、「電気の需要量を供給量が上回ったため、出力制御をおこなっていたのかもしれない」とも考えたが、実際のところはわからない。一方、午後は一転して風車が勢いよく回っていた。

 

 【地図】を見てほしい。地図左の、丸紅系事業者(秋田洋上風力発電株式会社のこと。丸紅〈筆頭株主〉、大林組、東北電力、コスモエコパワーなど13社が株主となってつくったもので、能代港20基、秋田港13基の洋上風力発電の建設・運転をおこなっている)の昇圧変電所東側の道路脇の地面に、電磁波の測定器を置いて測定した(地点A)。

 

 すると、午前中(風力発電の発電量少)には0・38μT程度だった値が、午後(発電量多)は31・8μT程度に跳ね上がった【表参照】。μT(マイクロテスラ)とは、電磁波の強さをあらわす単位だ。

 

 この地点は、丸紅系事業者の「能代港洋上風力発電所」(4200㌔㍗×20基)、風の松原自然エネルギー株式会社(筆頭株主・大森建設)の「風の松原風力発電所」(2300㌔㍗×17基)、東北自然エネルギー株式会社(東北電力の100%子会社)の「新能代風力発電所」(2300㌔㍗×7基)の送電線が集中している場所だ。丸紅系と地元企業(大森建設など)の送電線は、地面の下に埋設されており、東西に走る道路の南側を通っているものと測定値から推定されるという。東北電力子会社の送電線は、道路北側の電柱に架(か)かっていた。

 

 さらに、3事業者の送電線が集中している地点Aから地点Bにかけて、複数箇所で測定した。すると、午後は31~36μT以上という高い数値が出た。A・B両地点を通る道路は、能代市沿岸の景勝地「風の松原」につながっていて、市民が朝夕の散歩やジョギングなどを楽しんでいるそうだ。

 

 そうした日常生活に直結する場所で、風力発電が勢いよく発電しているときに、私たちの生活環境ではほとんど観測されることのない異常に高い磁場が測定されたわけだ。

 

能代南中の裏は21μT

 

 網代氏と中西氏は、次には能代南中学校の校門のすぐ前の道路(地点C)に測定器を置いてみた。この道路の下に地元企業(大森建設など)による風力発電の送電線が埋設されていることが、測定値から推測されるという。

 

 測定結果は、午前中(風力発電の発電量小)は0・3μT程度だったが、午後(発電量多)は2・1μTという高い数値が計測された。この中学校の生徒や教職員はここを歩いて登下校していると思われるが、網代氏は「もしも電磁波過敏症の生徒がいたら、この歩道を歩くと症状が出て、登校できなくなる可能性もある」とのべている。

 

 また、能代南中前の道路の反対側(北側)には、東北電力子会社の送電線が架かっている。その下で測定したところ、午後は1・6μTと、やはり高い数値が出た。

 

 一方、同校の南側にも、丸紅系事業者の送電線が通っている。農道のような未舗装の道路に埋設されているようだった。そこで、その道路(地点D)に測定器を置いて測定したところ、午前中(発電量小)は0・15μT程度だったが、午後(発電量多)には21・1μTと、校門前の約10倍という高い数値が出た。

 

 網代氏は、「実際に測定して、かなり高い値が出たのには驚いた。電磁波問題市民研究会で、全国の市民からの依頼に応じて電磁波の測定をおこなっている担当者は、“30μTという値はこれまでの測定で経験したことがない。変電所近くでも4μTをこえたことはない”といっていた。この道からは、能代南中の校庭がすぐ近くに見える。生徒が日常的に通行するような道ではないかもしれないが、もし私が同校の職員や生徒の親だったら、“校庭のすぐ裏は安全でないかもしれないので、長時間滞在しないように”と生徒たちに注意喚起したい」とのべている。

 

 一方、中西氏は、2020年11月にも、能代南中の校門前と校庭裏で電磁波の測定をおこなっており、その結果を学校側と能代市教育委員会に伝えている。そのさい、学校から「この強さの磁場は生徒たちにどう影響するか?」と聞かれ、次のように答えたという。

 

 「日本を含む各国の疫学調査では、子ども部屋の磁場が0・4μT以上で小児白血病のリスクが有意に上昇することがわかっている。生徒たちは校門前や校庭裏の道路に、子ども部屋のように何時間も滞在しないだろうから、すぐに生徒たちの健康に影響が出るとはいえない。しかし、能代南中の数値は0・4μTよりもかなり高い。したがって、影響がないともいいきれない。能代市では不登校の生徒が増えているというが、その中には電磁波による健康影響を受けた生徒がいるかもしれない」。

 

 秋田県は2000年代以降、風力発電の誘致を積極的に進めてきた。秋田県の風力発電量は2024年12月時点で、北海道、青森県に次ぎ、全国第3位。今年3月26日時点で、陸上では307基(総出力75万6889㌔㍗)、港湾区域の洋上では33基(総出力13万8600㌔㍗)が稼働している。

 

 これに加えて、国が洋上風力の促進区域に指定している一般海域が秋田県沖に四海域ある。そのうち由利本荘市沖と能代市・三種町・男鹿市沖は三菱商事を中心とするコンソーシアムが公募入札で落札したが、今年8月に撤退を表明している。

 

 こうして陸でも海でも風力発電があいついで稼働するなか、風車が回転するたびに発する低周波音による健康被害を訴える人があいつぎ、被害者を支援する「風力だめーじサポートの会」が結成された。そして今、風力発電の送電線に関わる電磁波の問題が新たに注目されている。

 

電磁波の健康影響とは

 

秋田県能代市沿岸の風車

 電磁波による健康影響とはなにか。

 

 わたしたちの身の回りにある送電線、変電所、携帯電話(4G、5Gなど)の端末(スマホ)や中継基地局、無線LAN(Wi-Fi)、スマートメーターから放射される電磁波が、がんをはじめとするさまざまな健康影響と関係がありそうだという研究が、国内外で数多く報告されている。たとえ「弱い」電磁波でも、長期間くり返し被曝することによって、私たちの健康に影響する可能性があると考えられている。

 

 世界保健機構(WHO)に属する国際がん研究機関(IARC)も、携帯電話から出る高周波の電磁波とともに、送電線や家電製品から出る超低周波の電磁波についても、「発がん性の可能性あり」と評価している。

 

 また、身の回りの「弱い」電磁波に反応してさまざまな症状の出る、アレルギーに似た電磁波過敏症に苦しむ人々もいる。 

 

 電磁波過敏症になると、頭痛、不眠、集中力・記憶力・思考力の低下、腹痛や腹部・胸部への圧迫感、のどの炎症やかわき、不整脈、めまい、耳鳴りなど、さまざまな症状があらわれる。スウェーデンとドイツでは人口の9%、イギリスでは11%、オーストリアでは13・3%が電磁波過敏症を発症しているとする調査がある。

 

 ところが、政府や電力事業者、通信事業者などは、生活環境中の電磁波による健康影響を認めておらず、日本のマスメディアもこの問題をほとんど報道しない。一方、海外では、生活環境中の電磁波が健康影響を引き起こす可能性は否定できないとして、多くの国や自治体が対策を講じている。

 

 WHOは1996年から国際EMFプロジェクトをスタートさせ、電磁波の健康影響に関する論文の検証や、正式なリスク評価をおこない、国際的に許容できる電磁波の基準をつくることをめざしてきた。茨城県つくば市にある国立環境研究所の上級主席研究員だった故・兜真徳(かぶと・みちのり)氏は、この国際EMFプロジェクトの発足当時から、同プロジェクトの日本代表を務めてきた。

 

 兜氏の最大の功績は、1999~2001年までの3年間をかけた、日本初の電磁波全国疫学調査だ。正式名を「生活環境中電磁界による小児の健康リスクに関する研究」といい、文科省が7億2000万円以上の研究費を出した。この研究は、WHOから「日本とイタリアで大規模な極低周波の疫学調査をしてもらいたい」との要請を受けて実施されたもので、国立環境研究所、国立がんセンター研究所、東京女子医大、自治医科大、国立小児病院、鹿児島大、富山薬科大、産業医科大、徳島大の九機関が協力しておこなった。

 

 この研究は、発生した初発の小児白血病患者1439例をリストアップし、訪問面接調査や子ども部屋の1週間連続測定をおこない、最終的には症例312例、対照603例を集めた大規模なもので、その数は英国NRPB(英国放射線防護局)の全国調査、米国NCI(米国立がん研究所)の調査に次ぐ、世界で3番目の規模の調査だとされている。その結果、小児急性リンパ性白血病が0・4μTで4・73倍、小児脳腫瘍が同10・6倍で有意と出た。

 

 この兜論文を含めた各国の疫学調査にもとづいて、WHOは2007年6月、超低周波電磁波(送電線や家電製品などから発生する周波数300ヘルツ以下の電磁波)について「環境保健基準」をまとめた。それによると、0・3~0・4μTの超低周波電磁波に長期間被曝することで、小児白血病の発症率が高くなることについては、懸念を抱くだけの十分な科学的証拠があるという。

 

 そして「超低周波電磁波の有害な影響から守るために、被曝制限を実行することは絶対に必要だ」とし、各国に予防原則にもとづいて対策をとるよう勧告している。

 

 ところが日本では、文科省が2003年、兜論文の評価を最低である「オールC」とし、今後同様の研究には金を出さないことを決めた。兜論文の研究成果を葬り去ったわけだ。

 

異常に緩い日本の規制

 

 では、日本では電磁波の規制基準はあるのか。調べてみると、経産省が2011年3月に省令を改正し、送電線などの電力設備から発生する超低周波電磁波について、電線路や変電所などの付近の規制値を「200μT」としている。この規制値は今も生きているが、それにしても異常に高い。

 

 網代氏に聞くと、「200μTというのは、日本だけではなく、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が定めている国際ガイドラインでもある。電磁波については研究者のなかでも見解が分かれていて、非熱効果(微弱な電磁波によって引き起こされる遺伝子の損傷やホルモン分泌への影響など)による健康影響を認めない研究者が、ICNIRPや各国の政策立案に関与している傾向がある。それはほとんどの国が資本主義国であり、政権としては経済産業の利益を重視したいからだろう。ただ市民のなかで人権や環境への意識が強い国では、市民運動の力によって国際ガイドラインよりも厳しい対策をとらせている」と答えた。

 

 たとえばオランダやベルギーは、規制値を0・4μTとしている。オランダは「子どもが電力線から長時間曝露される場合、新設される線/新築の住宅に対し、合理的に可能であれば0・4μTを適用」するとしている。ベルギーは「この要件を満たせない場合、すべての手段が技術的または経済的に実施不可能であることを示す義務があり、その場合には10μTを適用」するとしている。

 

 スイスやルクセンブルクは、住宅、病院、学校などの規制値を1μTとしている。イタリアは、住宅、学校、遊び場近くの既存施設は10μT、新設施設は3μTとしている。米フロリダ州やニューヨーク州は20μTとしている。

 

 EU諸国の中には、子どもが多い場所では被曝量が少なくなるよう規制をかけたり、携帯電話基地局を設置するさいは市民、行政、事業者が円卓会議を開いて決めるよう定めている国や自治体もある。

 

 網代氏は、日本の規制基準が緩いことについて、「日本ではマスメディアの問題も大きいと思う。諸外国と違い、マスメディアが電磁波問題をほとんど報道しないことから、市民の間に認識が広がりにくい」とのべている。

 

 また、中西氏もこう語った。「経産省の規制値は、強い電磁波に短期間被曝した場合の急性障害だけを考慮するもので、長期的な曝露によって起こる40~50年後の慢性障害を防ぐためのものではない。40~50年後にがんをはじめとした慢性障害が出ていることについては、医学生理学論文がたくさん出ているが、日本ではすべてその論文に反対論文を掲載して無視している。一方、ある研究者は、低周波電磁波について出されている400以上の論文を読み、その七割が“人体に影響あり”と評価しているとのべている」。

 

 風力発電の低周波音・超低周波音による風車病と同様に、今回とりあげた電磁波の問題についても、専門家は「人間の健康や生命よりも大企業のもうけを優先することから起こる問題」として警鐘を鳴らしている。

 

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