(2025年11月21日付掲載)

コメが消えたスーパーの棚(2024年8月)
昨夏からの令和の米騒動は2025年産の新米価格が高騰するなど今も収束をみていない。しかし高市政府は増産方針を撤回し、「米価維持のため」に生産調整を継続する方針を表明。価格に焦点を当てた報道が溢れるなかで、危機的な農村・農業を立て直すための政策は打ち出されないままだ。家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)は11月14日、参議院会館でシンポジウム「『令和の米騒動』を問う―日本のコメを次世代につなぐ」を開催し、空前のパニックをもたらした「令和の米騒動」から教訓をどう引き出し、日本の農の未来をどう作り直すのか、生産、流通、消費など多様な視点から考える場を持った。
シンポジウムは、令和の米騒動が「喉元過ぎて暑さを忘れる」方向、「大山鳴動して鼠一匹」(たとえばアメリカ産米の輸入75%増)の方向、「コメへの社会的関心の高まりを永続可能な日本の農の未来に結びつける」方向の三つの結末を迎えようとしているなかで、次の行動へと繋ぐ指針を導き出すために開催された。FFPJ常務理事で近畿大学名誉教授の池上甲一氏が令和の米騒動の背景について解説をしたうえで、新潟県上越市の小規模農家・天明伸浩氏、日本米穀商連合会・相川英一氏、主婦連合会・山根香織氏が登壇し、それぞれの立場から意見をかわした。
生産者・流通・消費者の対立では解決せず

池上氏
池上甲一氏は冒頭、令和の米騒動をめぐって毎週のように米価動向が新聞紙上を賑わせ、「流通業者が隠している」「農家が売り惜しんでいる」などの犯人探しがおこなわれ、報道やSNS上で農家やJA、卸など提供する側と消費者との対立構図が煽られていることに注意を喚起した。騒動を通じてスーパーの店頭に輸入米が並ぶ状況も一般化してきた。「日本人が食の基本にしているコメ、つまり生命を多国籍メジャーに委ねるのかという問いかけをしなければならない。同時に稲作の崩壊は田が荒れ、国土が荒れていくということ。そこを多くの農外企業や外国資本が虎視眈々と狙っている。コメとそれを生み出す田んぼという日本に欠かせないコモンズをいかに確保していくのかという本質的な議論なしに価格だけに収斂(れん)し、対立を煽ることに注意しなければならない」とのべた。
そのうえで、昨春からの米価動向や政府対応を追いながら米騒動の経過を報告した。小麦製品値上げのなかで、家庭向けでコメ人気が高まるなか、2024年2月、コメ需給見通し指数(DI)が72と高水準となった(数値が高いほど需給が逼迫していることを示す)。スポット取引価格は60㌔=5万円近い水準まで急騰したが、政府は「コメはある」「新米が出れば価格は下がる」といい続けた。
しかし、同年5月末の民間在庫量は前年比22%減の145万㌧だった。8月には南海トラフ地震臨時情報や台風7号の関東接近でコメの売上は2倍以上になった。小泉農相が就任して以後は、その発言でさらに混乱を極めた。
石破政府は2025年8月5日、「米の安定供給実現関係閣僚会議」で米騒動の原因について検証した結果を公表し、需要見通しの過小評価と生産量の過大評価が大きな原因であったことを認め、増産に舵を切る方針を表明した。「消えた21万㌧」は初めからなかったのである。池上氏はそのなかで政府があげた①高温障害、②インバウンド需要が想定以上に多かった、③地震/災害不安による家計購入量の増加、④ふるさと納税返礼品での需要増という四つの背景の間違いを指摘。高温障害は今後も継続し、激化する可能性も大きく、インバウンド需要もわずか3万㌧の増、災害不安も同じく「起こりうることを想定していなかったことに問題がある」とのべた。
根本問題は生産量不足

そして「米騒動の基本的な原因は生産量が需要を下回っていること【表1】。とにかく米価を下げたくないとコメ余りを警戒し、かつ食管赤字のトラウマに囚われた農水省が生産を抑制してきた結果だ」と指摘した。
石破政府は検証のあとに、増産に転換することや生産性向上、輸出の抜本的拡大などをうち出したが、鈴木農相に交代して増産方針は撤回し、節水型乾田直播や輸出市場の開拓をうち出している。池上氏は、鈴木農相の下で出された最新の米需給予測が、供給量が増大して民間在庫が増え、「適正」な在庫水準を大きく上回る見込みを示したことについて、「生産調整維持への地ならしだったといえる」とのべ、そもそも自然相手の農業で需給を均衡させることは不可能だと指摘した。
また、強調しておきたいこととしてコメの商品特性と市場特性の現状を見誤ったことをあげた。コメは非常に小さな市場になっているため価格弾力性が低く、わずかな需要の増減で価格が急騰/暴落するようになっている。しかし、コメは市民生活に不可欠で、今なお「賃金財」的性格を持っており、小麦製品の値上げ時と社会的反応が異なる。「コメへの思いを見誤った需要の過小評価が備蓄米放出の遅れにつながった」と話した。
守るべきは中小農家
食管法を廃止し、コメ流通は2004年に完全自由化したが、「市場に任せる」といいながら野菜の卸売市場のような明確な市場はなく、米価を統一的に決める仕組みがないのが現状だという。「JAが価格決定の出発点」というイメージからJA悪者論が広がったが、現実には全農が卸と交渉のうえで相対取引価格を決めて概算金を提示する流れになっており、価格決定の起点は小売り側にあるという。また近年では、家庭用と業務用の消費が同等規模になっている。大手は年間契約で確保するが、中小規模の食堂や料亭、弁当屋なども随時購入しており、コメ確保が死活問題になる業態の動きが価格上昇の引き金になった可能性もあるという。
一方で基本的に1年に1回しか収穫できないコメは、不足してもすぐに増産できない特性を持つ。タネの問題までさかのぼると、増産には少なくとも4年かかる。不足分を新米で補うのは次年度分を先食いするだけで、「新米が出回れば米価が落ち着く」というのは論理的に無理な話だと指摘した。
稲作農家は急速に減少しており、離農者の水田を請け負うのも限界を迎えている。池上氏は「大規模農家が販売されるコメのかなりの部分を生み出しているのは確かだが、村を維持する核となっているのは中小規模農家であり、それがいなければ農業用水、水路、道路、山なども管理できなくなる。彼らの『ただの仕事』が地域を守っている。ここを無視してコメはできない」と指摘した。

最後に、これまでの低米価は農家の犠牲の下に続いてきたことにふれ【グラフ1】、問題はむしろ「実質賃金が上がっていない」ことだと指摘。10億円以上の大企業では労働分配率が50%以下に下がり【グラフ2】、企業は内部留保をため込んでいるとのべ、「賃金をもっと上げろと主張する運動を起こすことが大事だ」と話した。

パネルディスカッションではまず、米騒動のなかで考えてきたことを生産者、流通業者、消費者の立場から3人が語った。
村無くしてコメ無し 競争から共生へ

天明氏
天明伸浩氏(56)は、「米は命 村無くして米無し―競争から共生の米政策へ」をテーマに話した。天明氏は1995年に新潟県上越市の山間地に移り住み、コメ作りを中心とした生活をスタート。現在は水田4㌶のほか、ブルーベリー栽培や平飼い養鶏などを営んでいる。「これまでコメは安く手に入る食材と思われていて、人に贈っても喜ばれなかったが、今プレゼントすると喜ばれる。同じ物なのに相手の表情が変わる体験をしている」という。
天明氏は山間部で人口の減少が農業の土台を侵食し始め、ここ2、3年で荒廃した田んぼが急速に増加していると語った。農業の中心的な担い手の大半が80歳以上という村も多く、「これから五年ほどのあいだに消失していく村が相当数出てくると思う。平野部もあと10年すると大変なことになる」とのべた。地区の小学校も30年前のおよそ60人が現在7人になっているという。圧倒的ボリュームを占めている団塊の世代がいなくなったとき、機械の大型化などで農業はカバーできたとしても、生活が成り立たなければ暮らしていくことはできない。地域の土台が崩壊しかねない状況だという。
天明氏は、40年前からわかっていたのに有効な対策をせず、農民が低米価・低農産物価格、新自由主義による安い農産物と無秩序にたたかわされてきた結果だと指摘。「コメ作りは100年先を考えて農地を整備し、生産を維持していく必要があるが、この30年間、新自由主義で儲かりさえすればいい、そのときさえよければいいというのが続き、将来を見据えた投資ができない状況が続いてきたからだ。東京など大都市に住んでいるとその恐怖感はわからないかもしれないが、足下が土壌流失していくような強烈な不安がある」と語った。
農村でも大規模農家と小規模農家の格差が広がり、都市部では億ションに住む人がいる一方で日々の生活が大変な人がいることに言及。「富裕層はふるさと納税を利用して税金を付け替えると、ただでコメが手に入る。米価が上がってもなんの痛みも感じない。私はこれを“合法的脱税”と呼んでいる。同じ世界で生きているとは思えないくらい社会の分断が進んでおり、解決は難しくなっている」とのべた。
デジタル化推進の落とし穴
そして、令和の米騒動を利用してショック・ドクトリンによる農業の改悪が進んでいることに警鐘を鳴らした。政府は乾田直播(かんでん・ちょくは)を突破口に、遺伝子組み換え種子をはじめとした新技術を導入しようとしている。その担い手として想定されているのは大規模稲作農家だ。
天明氏は「小規模農家がこれまで長い間育ててきたものとは異なる技術だと思う。農民が持っている技術がデジタル技術として集積されていくと、技術が企業に吸収されていき、農家自身が物事を考えなくなるのではないか。機械化するたびに農家の手取りが減り、メーカーに金が流れる仕組みになったが、それがより進んでいくのではないか」とのべた。
有機農業も「みどり戦略」の下で規模拡大やデジタル化で企業化した有機農業が中心になる可能性もある。こうした状況が進行すると「主体的に土や自然、人と向き合っていた農民が、派遣社員と同じように部品になっていくのではないか。今その大きな分かれ道に来ているのではないか」と投げかけた。
また、温暖化がクローズアップされているが、収量が壊滅的に減少するのは冷夏であることを指摘した。冷夏には田んぼに深水を張るなど、小さな農家が培ってきた技術があるという。「日本の場合はやませが吹き、太平洋側の稲作地帯が壊滅的になることを30年前に経験しているが、“そんなことはもう起きないだろう”という前提で世の中が動いている」と危険性を指摘。「さまざまな場所で、さまざまな形態の農業を残していくことが必要だ」と強調した。
最後に、日本人が食べる短粒種は、中国、韓国、朝鮮、台湾など限られた地域で食べられているコメであることにふれ、気候変動の時代にこうした国々の農民と交流をしつつ、「相手の農村を壊すような輸入・輸出ではなく、不作になったときも互いの村を守りつつ、食べ物を融通し合うような関係を築いていくことが大事ではないか」と提起した。それは、戦前のような「日本ファースト」ではなく、互いに尊重し合うような関係だ。
生産現場も野菜や果樹など手のかかる農業のベースを外国人労働者が支えている。そのなかには日本で暮らしていきたいと思っている人たちもいるという。「過去の日本も縄文人が住んでいたところに朝鮮半島から来た弥生人が稲作文化を持ち込み、その人たちが新しく日本に暮らしていった。そのように、排斥ではなくさまざまな人たちと手を結びながら共生して農業をつくっていくことが大事だと思う」とのべた。
需要増えているのに減産した農政の問題

相川氏
日本米穀商連合会・専務理事の相川英一氏は流通の立場から令和の米騒動をふり返った。
米穀店から「コメがない。大変なことになる」と話が持ち込まれたのが、昨年2月だった。愛知県や福岡県から2、3件があったものの、当初は一部地域の話だと考えていた。しかし、3月に出張先の北海道でも同じ話を聞き、「これは大変なことになる」と認識して、翌4月1日に農水省に出向いた。そのとき農水省にいわれたのが、「計算上170万㌧以上在庫がある」「令和5年産米は作況指数101だから大丈夫」「量販店にコメは充分ある」「相対取引価格は10%しか上がっていない。価格が上がっているのはスポット市場だけで、長期契約していない君たち業者が悪い」というものだった。さらに「価格が上がるのはむしろいいことだ。足りないというなら具体的な数字を持ってこい」といわれたという。
「悔しくて仕方がなかった」ため国会議員に働きかけ、4月の国会でとりあげられたが政府が動くことはなかった。そこでアンケートをとって新聞で公表することにしたという。アンケート調査では「コメが足りない」という回答が9割にのぼった。公表はパニックが起こる寸前の昨年5月。「公表したらパニックを手助けしたことになるかもしれない」というと、記事にしなかった新聞社もあったという。相川氏は「昨年4月の段階で対策を打っていれば、もっと小さな被害で済んでいたはずで、忸怩たる思いだった」と話し、国会質疑で問題を知りつつも放置した与野党国会議員の責任にも言及した。
備蓄米はなぜ滞ったか
備蓄米の流通が滞った問題について、「この30年間、小売業者もコメを卸から買っていてはもうからないため、生産者と直でつながる、仲間内で融通しあうことが常態化し、卸と小売りの関係が切れてしまった。全農と中小の卸も同じような状況で、要するにサプライチェーンが切れていた」と指摘。戦争や大惨事が発生すれば「コメがあってもだれも食べられない」状況が生まれた可能性があるとのべ、この問題も考えるべきテーマだと語った。
最後に、コメ屋の実感として20年前に比べてコメを食べる人が増えていることを紹介した。連合会ではこの20年、小学校で出前授業をおこなっているという。名古屋の米穀店の話では、20年前は朝食を食べている子が40人のうち10人ほどで、ご飯を食べている子は3人ほどにすぎなかったが、最近は6~7割が朝食を食べており、ご飯を食べている子も増えているといい、「われわれの小さな消費拡大運動がここに来て実を結んだと思っている」と語った。
コメ消費が増加しているもう一つの要因として「日本人の手取りが増えていない」ことをあげた。収入があるときはおかずを一品増やし、コメの消費が減るが、給料が上がらずコメが値上がりすると、おかずが買えないのでコメを若干増やす可能性がある――という分析を紹介。「農水省も資料のなかで2人以上世帯の家計でコメ消費が少し伸びたといっている。やはり貧しくなっていることも原因にあるのではないかと思う」と語った。いずれにしても「消費減少」ばかりではないことを強調し、「昨年くらいの価格であれば、もっと消費が伸びたのではないか」とのべた。
安定的な生産者支援こそ消費者の食料安全保障

山根氏
消費者の立場から参加した主婦連合会の山根香織氏は、「改めて消費者も生産者ももっと怒らなければいけないと思った。コメが店頭に並ぶようになったが、それでよかったとは思えないし、お米券の配布で落ち着くことでもないと思っている」とのべた。
主婦連合会は戦後の混乱期の1948年に「台所の声を政治に」と主婦たちが結成した団体で、暮らしの苦情を社会化し問題提起してきた歴史を持ち、かつてはしゃもじを手に割烹着姿で「お米よこせ」「値上げ反対」などとデモで訴えてきた。
同連合会は3月、「主食であるコメの需給及び価格の安定確保を求める」という声明を提出。コメは日本人の主食であり、食料安全保障の要であって価格の暴騰で買えない状況などあってよいはずがないと訴えた。直近では11月7日に「食料、農業政策に関する要望~消費者と生産者を守り持続可能な農業政策を求めます」を提出した。新政権が路線を180度転換して「生産調整、価格維持」に舵を切ることを表明したことを受けて、「今求められているのは、おおいに生産し、自給率を向上させることだ。農家の所得面での懸念には、生産調整による価格の維持ではなく、所得補償の形で支援する方策を整備すべきだ」と訴え、価格維持のための生産調整(減産)ではなく、農家への価格保障や所得補償によるゆとりある安定供給の形を実現すること、輸入依存の食料政策を改めること、食料を貿易交渉の取引材料にしないこと、物価高で国民を支える食料支援の制度整備など六点の要望を掲げた。
山根氏は「今回の騒動で良かった点は、何気なく食べてきたコメ、農業・農政に対する国民の関心が高まったことだ。価格を下げてほしいという声は多いが、一方で、“農家の苦労を知らなかった”“これまで考えてこなかった”という声もある。コメをはじめとする農畜産物の生産や流通、価格が注目されている今こそ、中途半端な収束ではなく未来に向けた日本の食や農のあり方をしっかり考え、みんなでつくっていくときだ」とのべた。
生産者と消費者をともに支える政策を

シンポジウム「令和の米騒動を問う」のパネラー各氏(11月14日、東京)
後半は報告を受けて議論を深めた。まず政府が進めようとしているコメ対策について。
天明氏は「コロコロ変わるコメ政策に対応して右往左往するといいことはない」とのべたうえで、デジタル化、スマート農業、乾田直播などが進行すれば「これまでの農業とはかなり違う世界が広がるのではないか。農民や農村が置き去りにされ、企業中心の形で政策が動き始めていることが気になる。地方の疲弊は農村の疲弊が大きな要因の一つだ。30年、40年先も農村で人が暮らしていける農業政策の議論を長い時間をかけてしてほしい」と語った。
相川氏も「スマート農業、大規模化は違うのではないか。“農村”は小さな農家がたくさんいて元気になる。商店街も同じだ。実家はイトーヨーカドーが出て来て商店街が潰れ、撤退すると父母は買い物難民になった。スーパーは自身の利益だけで動くからだ。商店や小さな農家は利益だけでなく、地域の支えや安定供給などが大きなテーマになる」と語った。また、輸出について、昨年インドのコメ専門家から、インドでは中東の富裕層が食べたい物をつくって輸出しており、インドの人々は食べないという話を聞いたことを紹介。「余ったら輸出するという甘い考え方ではない」と指摘した。
輸出に関しては天明氏も、日本国内で満足に食べられない人がいる現実のなかで、「高く買ってくれるから海外に売る」という発想に疑問を呈し、「飢餓は食べ物が足りなくて起こるのではなく、安いところから高いところへ動くために起こる。これだけ豊かな日本で食べることができない状況が起きていることは、もっと深刻に考えるべきだ」とのべた。コロナ禍では全国の農家仲間に声をかけ、収入が途絶えた人たちにコメを送る運動をしたという。その問題が未解決のまま令和の米騒動が発生したことを指摘し、なお輸出拡大を目指す方向について、「人間としてまともではない感覚だ」とのべた。
山根氏は「なんとかもう少し安くというのが本音ではあるが、輸入米に手を出す人が増えたことは残念だ。“安ければいい”が消費者の主張ではない」とのべ、マスコミで煽られる生産者vs.消費者の構図を否定した。異常気象や戦争の時代に輸入農産物に頼る状況に終止符を打つこと、「大量に効率よく」ではなく自然や環境、景観、文化を踏まえて有機農業や減農薬のとりくみを進めることを希望した。
池上氏は「高い生産性を実現して輸出する」という議論には、棚田などの農地が抜け落ちていることを指摘した。棚田の場合60㌔当りの生産費は3万2000~3万6000円以上になり、このたび跳ね上がった概算金でもカバーできていない。それらを「生産の基盤と考えるのか、大事なコモンズ、生態系を維持する空間として守っていくと考えるのか、つまり国土をどうデザインするかということとも関わっている」とのべた。高い生産費分を消費者負担で賄うとなると、消費者は買うことができない。「差額の所得補償をすることが必要だ。消費者団体や生産者団体が国にいうだけでは動かないので、地方自治体に働きかけていくことが大事ではないかと思う」と語った。
「今後の農業・食料政策にどのようなものが必要なのか」という議論のなかでは、消費者である国民の貧困化についても議論になった。
山根氏は、「『国産の物を買って日本の農業を応援したい、食べ盛りの子どもにおいしくて安心安全な日本のお米を』といっても、これだけ多くの物が値上がりし、国産と輸入品との価格差があるなかで現実は難しいところがある。私も3人の子どもに毎日8合以上のコメを炊いていた時期だったら仕方なく輸入米を買っていたかもしれない」と話した。そのうえで「困っている人、とくに弱い立場の人に寄り添い、打開策を練って実行するのが政治の役目だ。充分にご飯を食べられない事情を抱える子どもには、民間ボランティアに任せるのではなく、国が本腰を入れるべきだし、農家が資材高騰や気候変動などで大変なのであれば、なんとかすべきだ。応えてこなかった国に失望する気持ちが大きいが、みんなの声を届けて道筋をつくっていけたらと思う」と語った。
池上氏は、昨年成立した「食料・農業・農村基本法」が一人一人の食料安全保障を掲げていることにふれ、「その理念を実現することがまず大事だ」とのべた。昨年、農水省予算に初めて子ども食堂やフードバンクの立ち上げ支援の予算がつき、今年の概算要求にも盛り込まれているという。今後、就職氷河期世代が60代、70代を迎えると低年金問題が表面化すること、また「働き方改革」でギグワーカーのような不安定雇用を強いられている人々の問題もあることをあげ、「いつ切られてもおかしくない単年度予算ではなく、アメリカのSNAP(食料支援制度)のような堅牢な制度にすることが大事ではないか」と提起。そのうえでも崩壊している日本の統計を整備し、農家や消費者の実態をとらえることが重要だとのべた。





















