いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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ただ飯食べて切迫感ない男

 令和のコメ騒動で誰もが高騰する米価に頭を悩ませ、地域によっては店頭での入手すら困難になっているというのに、あろうことか食料政策を司る農林水産大臣がウケ狙いで「コメは買ったことがない」「正直、支援者の方々がたくさんコメをくださるんで」「まさに売るほどあります。私の家の食品庫には」などと国民感情を逆なでするような発言をしてひんしゅくを買っている。身内の自民党関係者を集めたセミナーでの一言とはいえ、このご時世にさすがに看過できない発言として受け止められ、首相の石破茂からも厳重注意を受け、顔面蒼白で発言の修正をするに至った。

 

 しかし既に後の祭りである。苦労知らずの世襲議員が調子に乗っているのかなんなのか、歴代農政のツケにほかならない昨今のコメ不足、米価高騰について深刻さや当事者としての真剣さがまるで乏しいことだけを自己暴露したのだ。国民全体の胃袋、食料を心配しなければいけない大臣が、自分はコメなど買ったことがなく、売るほど支援者からもらったコメが家の食品庫にあるのだという主張が、このタイミングで誰にどうウケると思ったのかはまるで意味不明である。

 

 「あんなのが農林水産大臣をやって、この国は大丈夫なの?」と巷で話題にされるのも当然で、「あんなの」を「バカ」に置き換えてもしっくりくるくらいである。世間の怒りは食料政策の舵取りを任されている行政トップの大臣が、主食のコメがないという緊急事態に緊張感もなくへらへらと薄ら笑いを浮かべて対応に終始してきたところに今回の問題発言というわけで、MAXへと高まった。引き続き大臣職にとどまって、あの顔がへらへらしてニュースに出てくる度にイライラ度は増すことになり、7月の参院選での自民党惨敗に江藤拓は大きく貢献するのだろう。「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である」とはよくいったものである。コメ不足への農水省の対応は、備蓄米の放出も含めて無能そのものであり、現実になにか一つでも状況が改善したとかの実績がないのである。

 

 中山間地ではトラクターが稼働して田んぼには水がはられ、いよいよ今年も田植えの時期を迎えた。先祖伝来の田んぼを丁寧に守り続けてきた農家にとって、1年に1回きりのコメ作りである。産地によって、あるいは地形や土の成分、水質、水温によって、同じ地域や品種でも場所によってコメの味は千差万別で、「○○さんの田んぼのコメ」と話題にされるほど同質のものなどない。「大規模化してスマート農業へ」がまるで理想のように持て囃されるものの、国内のほとんどの中山間地、生産者は零細であり、平野のない山間では小さな棚田等をこまめに管理し、水を引き、そのために水路を維持してみながコメ作りに励んできた。こうした生産者の労力のおかげで主食のコメはあたりまえのようにまかなわれてきたのだ。「時給10円」ともいわれる見合わぬ農家の低収入のもとで――。子どもの頃、ご飯茶碗に一粒でも米粒を残したら、婆ちゃんから「目がつぶれるよ!」と叱られていたのは、コメを作ってくれた農家の皆さんに感謝しなさい! あたりまえじゃないんだよ!の教えであり、「いただきます」「ごちそうさまでした」と唱和するのもそのためである。令和のコメ騒動に遭遇して改めて「あたりまえじゃないんだよ!」「生産者あっての消費者なんだよ!」と突きつけられているような気すらする。

 

 さて、話は元に戻って江藤拓である。だいたい、自分で作ってもいないコメについて「売るほどある」とは何様なのだろうか? というのが素朴な疑問である。苦労して作ってもいない者が、人様からもらったコメを売るという発想自体がまず驚きである。みんながコメが手に入らず困っている折に、コメを買ったことがない農林水産大臣がへらへらと薄笑いを浮かべて、自分だけは「もらったコメが売るほどある」と自慢し、要するに「私はなんにも困っていない」と下級国民との違いを披瀝しただけである。農林水産大臣の任務が国民全体の食料の心配をすることにあるのなら、即刻更迭すべき男といえる。もらったコメ=ただ飯を食っている人物には令和のコメ不足への切迫感はないのだろうし、農林水産大臣のポストはふさわしくない。

 

 吉田充春                

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