(2026年5月18日付掲載)

熊本市で開催された住民主催の「住民説明会」(15日)
陸上自衛隊健軍駐屯地に長射程ミサイルが配備された熊本市で15日、「住民の住民による住民のための説明会」(主催/ストップ!長射程ミサイル・県民の会)が健軍文化ホールで開かれ、250人の市民が参加した。1200人をこえる反対集会が2度も開かれるなど、地元から反対世論と不安の声が巻き起こっているにもかかわらず、国はこれまで一度も住民説明会を開催していない。これに対し住民みずからが、「国がやらないのなら自分たちでやろう!」と、これまで防衛省との直接交渉や行政文書開示請求などで得た情報を市民らに伝えた。
「ストップ!長射程ミサイル・県民の会」の山下雅彦会長は、「私たちは長射程ミサイルについて“何のためのどういう目的で配備されるのか説明して欲しい”と訴えてきたが、国は拒否し続けている。配備も夜中に突然強行された。国がしないのなら自分たちでやろうというのが今日の説明会だ。国の説明の代わりにはならないが、私たちの知っていることや問題点をみなで共有したいと思う。会場のみなさんからも率直な思いや不安、意見を出してもらい、それを繋ぎ合わせてみんなで考えていきたい」と会場に呼びかけた。
パネリストとして4人が登壇し、「健軍駐屯地の現状」「ミサイルと弾薬庫による『抑止力』とは?」「子どもたちが平和に生きる権利」「熊本県・熊本市への避難計画開示請求について」をそれぞれ語った。

説明をおこなうパネリストの住民たち
最初に平和を求め軍拡を許さない女たちの会・熊本の海北由希子氏が健軍駐屯地についてのべた。
陸上自衛隊には5つの方面隊があり、そのなかで九州・沖縄は西部方面隊になる。西部方面総監部という西部方面隊の司令部が健軍駐屯地のなかにある。近年、台湾有事のさいに司令部になるのが西部方面総監部だとして注目を集めており、沖縄南西諸島も全て西部方面総監部が指揮している。現在この司令部の地下化が進められており、さらに弾薬庫まで建設されようとしている。何が建設されているのか、どれほどの弾薬が置かれるのかなど、何の説明もないままに進められている現状に対して海北氏は、「駐屯地内の建設工事に熊本県内の建設会社が入っているように、私たち熊本県民の生活と健軍自衛隊は密接にかかわっている。だから私たちはこれまでずっと信頼を置いたうえで、質問もせずに自衛隊にまかせておけばいいと思ってきた。私もそうだが、みんな身内に自衛隊員がいたりもする。自衛隊を身近に感じているからこそ、今まで信頼を置いて何も質問はしてこなかった。けれど実際は、私たちの生活にとって危険だということがわかってきた」と指摘した。
健軍駐屯地のなかでも注目されているものが電子戦部隊、弾薬庫の建設、司令部の地下化だという。地下化の予算は2025年だけで355億円が費やされている。海北氏は、弾薬庫が東町小学校まで約430㍍、車が通過している公道まで190㍍しか離れていない場所にあることを指摘したうえで「現在、司令部を地下化していることは本当に大きな問題で、地上が危なくなっても戦争を継続できるように地下化するわけだ。なぜ地上が危なくなるのかということを私たちは考えないといけない」と訴えた。
次に「平和が一番!東区の会」の安達安人氏がミサイルの問題と憲法九条の関係について話した。
健軍に配備されているのは地上から艦船を撃つことを目的とした地対艦ミサイルだ。これまでは12式の能力向上型と呼ばれていたが、昨年つくられたことから25式地対艦ミサイルと名付けられた。
健軍駐屯地には98年に88式の地対艦ミサイルが配備され、2012年には12式が配備された。射程はいずれも200㌔程度で、武力攻撃を受けたときに専守防衛の範囲内で日本の近海に迫る相手国の艦船を攻撃するというものだった。
しかし、25式は射程が1000㌔あり、健軍から撃った場合、上海にも届くうえ中国の重要な東海海軍・船山基地までは約870㌔なのでそこにも届く。移動式であることから、鹿児島の先端から撃てば台湾海峡で米中の紛争があった場合にもそこまで届く。
安達氏は「イランやウクライナ戦争のように健軍が軍事目標となり攻撃されるのではないかという心配があるが、西部方面隊の司令部は確実に狙われる。今国は継戦能力の向上を進めているが、その第一が西部方面隊司令部の地下化だ。周辺にミサイル攻撃を受けて住民に被害が出ても司令部は地下で安全に作戦を指揮するということだ」と説明した。そして長射程ミサイルの配備と同時に現在問題視されているのが弾薬庫の建設だ。健軍駐屯地内に、25式ミサイルの弾薬庫を2棟建設する動きが進んでいる。安達氏は「健軍駐屯地は当然攻撃目標になるのでミサイルが爆発するとどうなるのかという心配と同時に、この前大分で起きた戦車の暴発事故のようにミサイルの暴発事故も心配だ。なぜ健軍駐屯地という住宅地の真ん中にミサイルの弾薬庫をあえてつくるのか。私たちはミサイル配備と同時に弾薬庫建設の説明会を求める」とのべた。
そして「日本は戦後80年間一度も戦争をしてこなかった。他国との直接の戦争はせず、自衛隊員が戦死もせず、他国民も殺していない。朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク・アフガン戦争にも参戦していない。これは大事なことだ。私たちは、住民も自衛隊員もその家族も犠牲にしたくない。相手国の兵士も住民も犠牲にしたくない。誰も殺さず、誰も殺したくない。主権者である私たちが住民の声を大きくして絶対に国に説明会を開かせよう」と訴えた。
子供達のため平和外交を 自治協議会会長

説明会には250人の住民たちが参加して熱気にあふれた(15日)
健軍校区自治協議会会長で、毎日登下校中の子どもたちの見守りをしているという城戸健次氏は、子どもたちのためにも平和外交に徹することの重要性を訴えた。
城戸氏は「10年間旗振りおじさんをやっているが、本当に子どもたちは可愛い。こんな可愛い子どもたちがニュースで見るウクライナやガザのような悲惨な目にあう状況のことを考えるとたまらない気持ちになる。何とか戦争をしないでいいようにできないものか、と考え今日はここに立っている。戦争で親を亡くした子どもたちの姿を見ると本当に涙が出る。これを絶対に阻止したい」とのべた。
そして「とにかく平和外交をしてほしい。そのためにはミサイルは必要ない。ミサイルなんて時代遅れだ。1000㌔飛ぶから抑止力があるというが、1000㌔飛んだところで中国は4000㌔とか飛ぶやつを持っているのだ。かなうわけがない。だからこそ平和外交に徹するべきだ。健軍校区は楽しい街なのだ。熊本地震のときに今までの生活が崩れ、今まで通りの普通の生活がいかに大事かということを痛感した。子どもたちのためにもこの普通の生活を守りたい」と訴え、大きな拍手が起こった。
次に住民避難計画について、嘉島町の命とみらいを守る会代表の石本貴子氏が説明をおこなった。石本氏は熊本県や市に対し行政文書開示請求をおこない、長射程ミサイルが配備されたことによる住民避難計画について調べたという。
昨年、熊本県に対して「今年度中に健軍自衛隊に配備される12式長射程ミサイルにもしもの事が起こった場合(例えば暴発や化学物質の漏洩など)、住民避難計画は作成されているか?」と開示請求したところ、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律は、避難実施要領は市町村で作成するため、県では作成または取得をしておらず存在しない」として、行政文書の不存在による不開示決定がされた。
そこで熊本市に対して、
・過去5年間の健軍駐屯地内に保管されている火薬量に関する文書
・健軍駐屯地内弾薬庫の建設許可書
・健軍駐屯地内地下化工事の建設許可書
・健軍駐屯地に保管された弾薬庫及びミサイルが暴発した際の住民避難計画
・健軍駐屯地が他国から攻撃された場合の被害想定と住民避難計画
・住民避難に関するシミュレーション
・熊本市国民保護計画に基づく避難実施要領
・近隣諸国との開戦の可能性が生じた場合の健軍駐屯地周辺住民に対しての告知方法と避難措置
以上を開示請求したが文書の不存在によって開示されなかったという。
住宅街のど真ん中にミサイルや弾薬庫を配備するにもかかわらず、住民避難計画はつくられていないのだ。ジュネーブ条約追加議定書五八条bでは、軍事目標の置き方によって文民を危険にさらさないことを定めており、軍事目標を文民や民用物の近くに意図的に配置して盾にする行為は条文の趣旨に反しているとされることもある。
さらに石本氏は弾薬の問題について、「人口密集地や学校、保育園、病院が存する地域においては弾薬量を制限したり、相応の保安距離をとらなければならないとされているが、熊本市は火薬量を把握できていない」と指摘した。そして地対艦誘導弾に火災があった場合、2分以内に1㌔以上の距離、または遮蔽物などの影に避難すること、弾薬庫が火災を起こした場合、消火活動は原則禁止されていることから「消防隊員はおろか自衛隊員でも600㍍以内に近づくことはできないとされており、弾薬に対する消火は事実上不可能だ」と危険性を明らかにした。
また、健軍駐屯地周辺の緊急避難施設について「緊急一時避難施設のうち、避難可能な地下フロアがある施設は熊本市内には12施設あり、健軍自衛隊から最も近い場所にあるのが上下水道局本館だ。しかしここまでの距離は約2㌔で、歩いて30分ほどかかる。さらにこの地下施設の収容人数はわずか65名。県庁行政棟本館地下の収容可能人数は1370名で、県庁行政棟新館地下の収容可能人数は1244名だが、どちらにしてもミサイルに火が付いた場合、安全な建物に避難できることは不可能ではないか」と説明した。
次々質問や意見の挙手 自衛隊員が暮らす街で
これらの説明に対し、会場からは次々に質問の手が挙がった。
神水町に住んでいるという男性は「さきほどジュネーブ条約の話が出たが、以前イランがイスラエルの病院を誤爆したことがあった。そのときに本来の目的だった軍事施設と病院がどれくらい離れているのだろうかと調べると、約2㌔だった。2㌔離れていても誤爆するのなら、私の住む神水も誤爆の範囲内だなと不安に思っている」と話した。そして健軍駐屯地へのミサイル配備について「あそこに置いたらどれくらい反対運動が起こるのだろうか、とわれわれは値踏みされているのではないか。われわれの反対運動がどこまで大きくなるのかということを見られているような気がしている。だからこの反対運動を絶対に止めてはいけないと思っている」とのべた。
これに対して海北氏は「以前イージスアショアの問題があったとき、秋田ではみんなが反対して30回くらい住民説明会をしている。その結果イージスアショアは白紙になった。だから絶対に同じようにしてはいけないと上からいわれているということは小耳に挟んでいる。そしてなぜ熊本に長射程ミサイルが配備されたのかというと、熊本では反対運動は起きないと思われていたのだ。熊本は住民と自衛隊の距離がすごく近い。だから自衛隊の人たちに対する理解もすごくある。共に暮らしてきたという感じがあるのでまさか反対運動が起きるとは思っていなかったと思う」とのべた。
次に質問した女性は「今までは専守防衛といって短い距離のミサイルしかなかった。今度は1000㌔も飛んで相手の国をやっつけることができるミサイルだが、その1000㌔飛ぶミサイルというのは防衛にも役立つのか?」と素朴な疑問をのべた。

安達氏は「日本に攻撃を仕掛けてくることを抑止するという面はあるのかもしれないが、1000㌔飛ぶということは相手国の基地を攻撃できるということなので、抑止力ではなく攻撃力だ。ミサイルも空母も無人機も山ほど持っている国に対し、日本からミサイルを向けるのではなく外交の努力をすることが大事だと思う」とのべた。
城戸氏も「私も1000㌔飛ぶからといって日本が守れるとは全然考えていない。まず国力が全然違う。国力が違いすぎるから、1000㌔飛ぶから防衛力があるんだというのは私は間違いだろうと思う」と語った。
米軍に務めている友人がいるという男性は、「友人は、米軍に勤めているからこそ戦争になってほしくないという思いを人一倍持っているという。米軍のなかには、国を守るためには働くが、攻撃はしないという良心的兵役拒否がある。それと同じように自衛隊のなかにもそういう人がいるのではないだろうか。1000㌔の長射程ミサイルを健軍駐屯地に配備することを自衛隊で働いている人たちはどう思っているのか」と疑問をのべた。
海北氏は「健軍駐屯地の中にある義烈空挺隊の慰霊碑を見学に行ったときに自衛隊の人が案内をしてくれ、“戦争とか絶対ない方がいいですよね”という話になった。誰も戦争など望んでいない。自衛官だからこそだ。高市さんが総理になったとき、私の知っている自衛官の人たちは、訓練の名のもとで死んでしまう可能性があることを心配していた。アメリカに住んでいたこともあるのだが、近くにPTSDの人たちの病院があり、そこにいる人たちは本当に苦しんでいた。そういう所を見ていると、戦争による勝者は誰もいないということを実感する。今回イランのホルムズ海峡に向かった米軍艦船では、乗っている米兵たちが何とかして現地にたどり着かないようにしようと、トイレにいろんな物を流したり、服を詰めたりして艦船を中から壊していた。最終的にその艦はイタリアに1回寄らないといけなくなったが、このように中でも戦争をしたくない人たちはたたかっている。きっと私たちはその人たちと繋がることができると思う」と確信を語った。
7月に健軍駐屯地のすぐ隣にある県営東町団地に入居するという女性は、母親が学徒動員で健軍駐屯地内で働いていたことを話し、「絶対に戦争には反対だ。そのためには市民運動が盛り上がらないといけない」と訴えた。
別の女性は「地元に住んでいて今年に入ってから自衛隊の飛行機がうるさすぎる。うるさいということだけでみんながまとまるのではないかと思うほどにうるさい。うるさくて引っ越したい。あまりのうるささに本当に怒っているのだが、こういうときにどうしたらいいのか。しかも市民に対して何の通達もないのは、私たちが人として見なされていないことの証明ではないか。ミサイルも嫌なのだが、このうるささに対してどう反対の意志を示したらいいのだろうか」とのべた。
最近熊本市内では、毎日のようにヘリや戦闘機が上空を飛んでいるという。海北氏は「3日前にF2戦闘機が3機飛び、今日は3回チヌーク(ヘリ)を見た。戦闘機が当たり前のように空を飛ぶということに私たちは絶対に反対しないといけない。それに慣らされてはいけない」と語り、戦闘機やヘリが飛んださいには県の危機管理防災課に連絡を入れようとのべた。
安達氏は、自衛隊や米軍の飛行機が頻繁に上空を飛ぶのは熊本に高遊原分屯地があるからだとのべた。高遊原分屯地で日常的に訓練がおこなわれているうえに、佐賀県にオスプレイが配備されて以降、高頻度で飛来しているという。また熊本の演習場で日米共同訓練がおこなわれていることで、熊本空港が米軍機の飛来が全国で一番多い空港だと指摘した。
南西諸島で有事のさいに住民が九州に避難してくる国民保護計画についても質問は及んだ。熊本県には南西諸島有事のさいに1万2800人もの住民が避難してくることになっている。
石本氏はこれについても行政文書開示請求などで調べた内容を報告した。避難所の収容できる人数をどのように算出しているのか尋ねると、ある町は建物の階段やトイレなど避難場所として使えないような場所まで含めた延べ床面積を1人当り3・5平米で割って算出していたという。「熊本市では、地下避難施設のなかで収容人数が一番多いのが五福小学校の地下だった。あまりにも収容人数が多いので算出方法を聞くと、1人当り0・825平米だという。自分の家でやってみると体育座りができる程度だ。熊本県民すら安全に避難できる場所がないのに南西諸島の人たちが1万2800人も避難してくる。およそ現実的ではない。だから何をしないといけないのかというと、戦争をしない、させないことだ」と訴えた。
健軍地区で自治会長をしているという男性も質問をおこなった。3月17日に長射程ミサイルの展示会に自治会長として駐屯地に入ったという。しかし、一方的な説明のみで質問の時間もなかったと話し「みんながいるところで質問をすると問題点が浮き彫りになるから避けたのだと思う。住民が説明会をしろといっているのに県も市もまったくアクションを起こさない。多くの犠牲者を出した熊本地震から10年が経った。自然災害は避けようがないが、ミサイルというのはわざわざリスクを呼び込んでいるようなものだ。ミサイルにお金を使うよりもいつ起こるかわからない防災を充実させてほしい。私の町内にも自衛隊の人がたくさんいるが、そういう人たちも含めて問題意識を高めていくにはどうしたらいいだろうか」と切実な思いをのべた。
これに対し城戸氏は「私も立場上反対していいのか、賛成していいのか判断に困っていた。住民のなかには賛成も反対もいる。表だっていいにくい。しかしそろそろ自分自身はどうなのかはっきりした態度をとるべきだと思う」と語った。





















