(2025年12月19日付掲載)

陸上自衛隊大分分屯地への長射程ミサイル搬入に反対しておこなわれたデモ行進。敷戸団地の住民からの声援に応えて手を振る参加者(14日、大分市)
大分市敷戸団地に隣接する陸上自衛隊大分分屯地に長射程ミサイルの弾薬庫建設が強行されている問題をめぐり、同市の敷戸公園で14日、「ミサイル搬入反対!12・14現地集会」(主催/大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会)が開催され、100人をこえる人々が「弾薬庫建設反対」の声を上げた。弾薬庫建設が進められている陸上自衛隊大分分屯地は、巨大な集合住宅地のすぐ側に位置し、周辺には5つの小学校とその校区に4万人の市民が暮らしている。弾薬庫の建設は敷戸地域が危険に晒されるだけでなく、日本全国で進められている軍事化の一端であるとして、参加者たちは二度と戦争をくり返してはならないとの思いを訴えた。
敷戸団地は県営住宅なども建ち並ぶ住宅地であり、大分分屯地のフェンスからわずか3㍍ほどの狭い道路を挟んで向かい側に保育所や幼稚園がある。周辺には分屯地に隣接する鴛野小、敷戸小をはじめ、中学校や幼稚園、保育園、また大分大学もあり、病院、介護施設、商業施設など多くの市民が日常生活を営む地域コミュニティの中に長射程ミサイルを格納する大型弾薬庫の建設がおこなわれているのだ。大分駅、県庁、市役所までもわずか6㌔程度しか離れていない。
弾薬庫建設計画が明らかになって以後、住民たちが何度も説明会の開催を求めてきたが、開催されたのは「工事に関する説明会」のみで、弾薬庫については何も知らされないまま工事が強行されている。
集会では、最初に市民の会の池田年宏氏から、大分分屯地や敷戸弾薬庫などの現状報告がおこなわれた。
攻撃型長射程ミサイルの大型弾薬庫2棟の建設が2023年2月に発表されたことを受けて結成された「大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会」は、これまでに何度も学習会を重ねながら反対運動をおこなってきた。池田氏は「弾薬庫というのはどういうものなのか、ミサイルというのはどういうものなのか。なぜそれが今必要なのか。どうしてここ敷戸なのか。学習を重ねていくうちに、これは大分敷戸だけの問題ではないということが私たちのなかで共有された。日本全国に軍備増強の流れが押し寄せており、そのなかの一つにこの大分敷戸弾薬庫問題もある」とのべた。
同年12月には、住民説明会の後に当初の2棟に7棟を加えて、合計9棟もの大型弾薬庫が敷戸に建設されることが明らかになった。
池田氏は「本当は早くにわかっていたはずなのに、防衛省は明かさず騙し討ちのような形でここ敷戸に9棟もの大型弾薬庫の建設が始まることになった。保育所と弾薬庫の境目がわずか数㍍の道路しかないような、住宅地がすぐそこにあるような、あるいは小学校と隣接するような場所に大型弾薬庫をつくり、戦争のためのミサイルを保管するという計画を続けている」と批判した。
本来は、集会翌日の12月15日に1棟目の工期が終了する予定だったが、防衛省は工期を来年3月31日まで延長している。池田氏は、「工期終了が延長になったことの一つは、私たちが弾薬庫の危険性や保安距離を出すのに弾薬量も明かさないことや、抑止力といいながら避難計画をつくる矛盾など、今の国や防衛省が進めている軍備増強、戦争態勢作りの矛盾を一つ一つ暴いて、集会などで意志表示を積み重ねてきた成果だと思う」とのべた。
そして現在、全国で同じような反戦集会やピースウォークがとりくまれていることを話し、「私たちは決して孤立などしないし、全国と一緒になって戦争反対の思いを繋げて頑張っていきたい」と訴えた。
陸上自衛隊駐屯地のある湯布院から参加した男性は、「湯布院は温泉、癒やしの里で有名だが、裏は軍事拠点だ。日出生台演習場があり、街中には陸自の駐屯地がある。そのなかで一昨年の2月に敷戸に長射程ミサイルを格納する大型弾薬庫が建設されると聞いた。一体そのミサイルはどこで運用するのかと思っていると、その年の9月に湯布院駐屯地に第八地対艦ミサイル連隊が配備され、その長射程ミサイルを運用するという発表があって驚いた」と語った。
翌年の1月に市民グループを立ち上げて反対運動をおこない、住民説明会を開催するよう政府・防衛省、由布市など自治体を通じて要求してきたものの、それに応じようという姿勢はなく、有権者を蔑ろにしながら戦争準備が進められていくことへの危機感を語った。
湯布院駐屯地、日出生台演習場、そして敷戸弾薬庫は直線距離にすると30数㌔であり、高速道路で結ばれているため小1時間もあれば敷戸弾薬庫からミサイルを運んで湯布院駐屯地や日出生台から発射できる関係にあるという。
現に日出生台演習場で実弾演習がおこなわれるときには敷戸弾薬庫からそのための弾薬が運ばれている。
男性は「敷戸から湯布院の間というのは、まさに弾薬街道だ。弾薬庫のある敷戸も危険だが、第8地対艦ミサイル部隊があり、今後長射程ミサイルが配備されるであろう湯布院駐屯地や日出生台演習場も危険だ。そして、その間を結ぶ道路の円周上も非常に危険な場所になるということを認識しておかなければならない。こういった形で私たちは戦争への道にどんどん向かわされている。そしてこの動きを止めない限り、私たちの平和で安心できる生活はありえないと思う」と訴えた。
敷戸での新たな弾薬庫が増設にとどまらず、熊本の健軍駐屯地でも第五地対艦ミサイル部隊が発足し、長射程ミサイルが導入されようとしていることから、「このあとには必ず湯布院でも長射程ミサイルが配備されることになる。こんなことを絶対に許さないために私たちも現地で不十分ながらではあるが、たたかっていきたいと思う。みなさん全国の仲間とともに手を結んで戦争への道を止めていこうではないか」と決意をのべた。
その後、大分だけでなく、各地からの連帯の挨拶がおこなわれた。
全国で住民意志示す時 各地から連帯の挨拶

ミサイルの実物大(9m)を示す横断幕も披露された(14日、大分市)
熊本の健軍駐屯地への長射程ミサイル配備反対の運動をおこなっている女性は、先月24日に熊本市でおこなわれた「戦争だけはしちゃならん!熊本大行動」で、全国各地で軍拡の動きとたたかっている市民と直接顔を合わせることができた喜びを語り、「各地の状況がより身近に感じ、改めて私たちの活動の重要さが認識され、身が引き締まる思いがした」とのべた。
今月12日に、陸上自衛隊健軍駐屯地への長射程ミサイル配備と弾薬庫新設に関する住民説明会・公聴会開催の請願を熊本県議会に提出したものの、総務常任委員会にて不採択となったことを明かし、「“説明会を開いて”と要望する当たり前の権利さえ、県議会から侵害される状況が続いている」と憤りを語った。
そして「熊本大行動以降も私たちはそれぞれ動き出しており、国会議員やメディアへの働きかけもおこなっている。なかなか目に見えるような成果がなく、焦りもあるが国会の安全保障委員会などで少しずつ動き始めているとの情報もあった。カメの歩みでも力強く前進していけるように頑張っていく」と話し、来年には健軍駐屯地を人間の鎖で繋ぐ、ミサイル配備反対集会をおこなう計画が立ち上がっているとのべた。
女性は「私たちの思いは日本全国どこも戦場にさせないというものだ。健軍に長射程ミサイルを置くことは、この国が戦時体制を整えてしまった証になってしまうと思う。熊本で止められたら日本中すべてのミサイル配備が止まると信じている。どこの空にもミサイルを飛ばすな、どこも戦場にするなの思いを確実に実現させ、私たちの手で世界に誇れる平和国家を勝ちとろう」と訴え、大きな拍手がおこった。
広島から参加した弁護士の男性は「今日はみなさんと連帯したいという思いで来た」と話し、広島の呉市でも軍拡の波が押し寄せている現状を訴えた。
「呉は戦前、横須賀、佐世保、舞鶴と並ぶ軍港都市であり、戦艦大和を造った海軍工廠もある大変な基地だった。それゆえに大空襲や爆撃を受け破壊されている。戦後、平和産業へと変わっていったが、日鉄が撤退をしたあとの大きな敷地を買い上げるよう呉市長が自衛隊に要請し、巨大な基地をつくろうという動きができている」とのべた。安保法制の制定から10年が経過するなかで全国で軍備が拡大されており、「呉でもこのまま放っておけば戦前の広島が最大の侵略の補給地になったように、呉が沖縄や南西諸島、九州各地に向けての最大の補給拠点になってしまう危険性がある。私たちはこれをみなさんと連帯して止めたいと思っている」と訴えた。
敷戸団地に住む母親は、「このフェンスの向こうが弾薬庫のある大分分屯地の敷地になる。ここに引っ越してきて思ったのは、お祭りなど地域の行事や活動も盛んで子どもの見守りなど横の繋がりが強い、あたたかい地域だ」と話した。
「弾薬庫増設の話を初めて聞いたとき、本当に驚いたのを覚えている。それまで自衛隊の分屯地が近くにあることは知っていたが、弾薬庫があることを知らなかった私は、当時のウクライナの光景を思い起こさずにはいられなかった。市民の会の集会に参加するようになり、増設後には攻撃能力を持つミサイルが保管されることや、敷戸からそれが運ばれていくことを知り、本当に怖いことだと思うようになった。住民説明会にも参加したが、工事の説明に終始して、住民の不安や思いなどは置き去りにされていると感じた」と活動に参加するなかで抱いた思いをのべた。
そして、高市発言について「旅行客のキャンセルがあいついだり、輸出入に影響をもたらしたり、すでに経済活動に影響が及んでいる。一国の首相のたった一言でこんなにも国際情勢が変わるのかと、このことが戦争の始まりにならなければいいがと、ニュースを見ながら心配でたまらなくなるときがある」と話し、「私は毎朝ベランダから娘の登校を見送っている。元気に手を振りながら学校へ向かう彼女らの平凡だけれども幸せな日常を守っていきたいと強く願っている。そのために私たち大人たちが何をできるのかを考えている。戦争へ向かおうとする危険性を多くの人に知らせて、同じ思いで声を上げてくれる人たちを増やしていきたい。一人の力は弱いかもしれないが、これからもみなさんと同じ思いで平和な暮らしを守っていけるように微力ながら頑張っていきたい」と母親としての切実な思いを訴えた。
団地内から激励の声も 地域の思いを行動に

長射程ミサイル搬入に反対する地元住民の要望書を分屯地担当者に手渡した(14日)
集会後には、敷戸団地内をデモ行進して大分分屯地まで行き、九州補給処大分弾薬支処長に宛てた要望書【下別掲】を読み上げて手渡した。
弾薬庫問題を考える市民の会の池田氏は「私たちは子どもを含めみんなの命を守りたいと思っている。それはあなた方自衛隊の命もだ。そのためには戦争をしないことが一番だ。戦争を止めるということを一緒に追求していきたい」と訴えた。
「弾薬庫建設反対!」「戦の火種を振りまくな!」「ミサイル弾薬庫持ち込むな!」「台湾有事は台湾有事。日本の有事じゃありません」と声を上げながら団地内を行進するデモ隊に、団地のベランダから身を乗り出して手を振る住民や店から出てきて激励する商店主など、地域住民からも声援が送られた。
デモに参加した敷戸団地に住む高齢の男性は、「今日弾薬庫反対の集会をしているのを知って参加した。敷戸に住む住民も知らないうちに勝手に弾薬庫の建設が決まっていて、反対の意見をいう場もなかったのにどんどん計画や工事は進められている。敷戸団地には多くの市民が住んでおり、駐屯地のフェンスを挟んで保育園などもある。弾薬庫でもし何か起きたときにはとんでもない被害が出ることになる。なぜこんな危険な場所に弾薬庫を建設するのか。最近は、夜中の2時、3時に目を覚ますと自衛隊車両が行き来しているのが見える。こうやって見えないところで少しずつ戦争の準備が進められているのだろうという空気を感じており、反対の意志を示さないといけないと思った」と語っていた。
◇ ◇
■大分分屯地へのミサイル搬入中止を求める要望書
2023年2月、長射程ミサイル用の大型弾薬庫をこの地に建設するとの報に接して以来、私たちは地域社会の存立に関わる重大な危機に直面しています。国および防衛省は、「厳しさを増す安全保障環境」や「自衛隊の強靱化」を理由に軍備拡大を推し進めていますが、それが地域住民に及ぼす具体的な影響やリスクについては、今日に至るまで納得のいく説明がなされていません。住民の安全は守られるのか、この地が戦争への足がかりとなるのではないか――。周辺住民のみならず、大分県民全体の恐怖と不安は日増しに高まっています。
特に、以下の点において安全管理および法的根拠の欠落は明白であり、到底看過できるものではありません。
1、安全対策の不透明さと物理的な危険性
①保安距離の根拠不明貯蔵される弾薬量が公表されていないため、火薬類取締法等に基づく適切な保安距離が確保されているのか検証できません。
②避難計画の非現実性弾薬庫火災等を想定した避難対象距離内には、すでに多数の民間住宅が存在しており、実効性のある安全確保が不可能です。
③搬入・事故時の安全確保の認識と補償欠如ミサイルや弾薬庫の搬入経路における危険性や安全対策の説明が皆無です。さらに万一の事故発生時における補償を定めた法律や条例も未整備であり、国側の「紛争が終わってから考える」という姿勢は、人命軽視かつ無責任の極みと言わざるを得ません。自治体においても「防衛は国の専管事項」として、住民の生命財産を守る義務を放棄しています。
2、国際人道法(ジュネーブ条約)との矛盾
ジュネーブ諸条約第一追加議定書(1977年)は、軍事目標と民用物を区別する「軍民分離の原則」を明記し、文民の犠牲を最小限にすることを義務付けています。国側は「軍事目標になるか否かは有事にならなければ分からない」としていますが、弾薬庫が第一級の軍事目標となることは自明の理です。紛争勃発後の弾薬庫移動が不可能である以上、平時から住宅地や病院・学校近隣に軍事施設を設置することは、住民を人間の盾にするに等しく、国際法の精神に逆行しています。
近々、その工期が終了する一部大型弾薬庫は、後に続く棟と同様、紛れもなく「戦争遂行のため」の施設です。国権の発動たる戦争と武力による威嚇を永久に放棄した日本国憲法、特に前文および第9条に反します。
長射程ミサイルという攻撃的兵器を配備し、訓練を行うことで得られる「抑止力」とは、他国への「威嚇」そのものに他なりません。私たちは、戦争の加害者になることも、被害者になることも拒絶します。市民として、戦争準備に加担することは断じてできません。
つきましては、大型弾薬庫の完成にあたっても長射程ミサイルの搬入を決して行わないよう強く要望いたします。
大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会
戦争はイヤだ!大分連続行動 12・14現地集会 参加者一同





















