(2026年1月16日付掲載)

ベネズエラの首都カラカスで、輸送業界によるニコラス・マドゥロ大統領の解放を求める大規模デモ(14日)
米トランプ政府によるベネズエラへの軍事攻撃と同国大統領の拘束について、日本国内では米国発情報を元にした報道や解説が流れる一方、被害を受けたベネズエラ側の主張がとりあげられる機会は極めて少ない状況にある。日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会(日本AALA)は10日、ベネズエラ情勢に関する緊急ウェブセミナーを開催した。セミナーでは、ベネズエラの首都カラカスとオンラインで結び、現地からベネズエラ政府コムーナ省元副大臣でコムーナ大学教授のエルナン・バルガス氏が国内の状況を報告した。同氏はベネズエラ攻撃におけるトランプ米政府の略奪的意図を伝えるとともに、他国の主権を武力で蹂躙するアメリカの暴挙に対して国際的な抗議の声を広げることを呼びかけた。現地からの報告と質疑応答の和訳要旨を紹介する。
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エルナン・バルガス氏
カラカスは今日、アメリカ帝国主義による攻撃から1週間を迎えた。
まず最初に申し上げたいのは、ベネズエラはアメリカによる非常に残忍な攻撃の被害者であり、それは一部のニュースやSNSで伝えられているような軽い攻撃ではなかったということだ。
攻撃は広範囲におよび多くの人たちが殺害された。アメリカは軍事技術の優位性を利用して、磁気攻撃や電子攻撃、さらに爆弾を使った攻撃でベネズエラの防御システムを無力化しようとした。さらに軍事施設だけでなく、民間人がいる場所も攻撃の標的となった。今日までに確認されただけでも100人が殺害されたことが判明している。そして、選挙で国民に選ばれたマドゥロ大統領が夫人とともに誘拐されたことは周知の通りだ。
二つ目に強調したいことは、今回の軍事作戦で大統領は捕虜として人質に取られ、アメリカに連行され、麻薬取締局(DEA)の刑務所に収監され、ニューヨークの裁判所に提出されたことだ。大統領は当初「麻薬テロ」の容疑で起訴されたが、裁判初日にこの容疑は取り消された。ご存じの通り、ベネズエラへの一連の攻撃は、麻薬テロの撲滅という旗印の下におこなわれ、アメリカはマドゥロ大統領が麻薬組織「カルテル・デ・ロス・ソレス(太陽のカルテル)」の首領であると主張していた。だが、数週間に及ぶ攻撃の後、彼らは「太陽のカルテル」なる麻薬密売組織は存在しないことを認めて訴えを取り下げ、司法省は提訴事実を変更した。
つまり、マドゥロ大統領は麻薬問題などではなく、政治的意図で捕らえられたということだ。正当な国家元首であるにもかかわらず、ボリバル主義者、社会主義者であり、アメリカ帝国主義に反対しているというだけの理由で連れ去られたのだ。
私たちは今、偽りのニュースが飛び交う世界にいる。だから事実を明らかにすることが重要だ。
三つめの問題は、攻撃翌日に、トランプ米大統領がマルコ・ルビオ(米国務長官)、ピート・ヘグセス(米国防長官)とともに記者会見をおこない、包み隠さずアメリカの真の目的をのべ、そこで「再植民地化」という言葉を使ったことだ。
彼らは、「われわれ(アメリカ)が直接ベネズエラを運営する。それは今後何年も続く」とのべた。
そして「それはアメリカに石油をもたらす。多国籍石油企業をベネズエラに進出させ、ベネズエラの石油事業を営む」と明言した。彼は「実は今日、これらの石油企業と会談する」とのべたが、その後、それらの企業は今後ベネズエラ側とではなく、アメリカ政府と話し合ってこれからの進め方を決めていくということで合意したという。
さらにトランプ大統領は、「ベネズエラによって盗まれたお金をすべて取り戻す」といっている。彼によれば、ベネズエラが主権にもとづき自分たちで石油をコントロールするようになってから得たすべての利益は、ベネズエラが盗んだものであり、本来アメリカのものなのだという。これは非常に重要なポイントだ。
これはベネズエラだけでなく、ラテンアメリカ全域、さらに西半球のすべての地域への警告だと考えて良い。自分たちの利益に沿わない人々には軍事力を行使し、新たな「モンロー主義」のもとで、西半球全体でアメリカが支配権を取り戻すという宣言だからだ。
つまり、この数日間のベネズエラへの攻撃は、その再植民地化計画にもとづく最初の軍事行動であったということだ。ご存じの通り、彼は「次はコロンビアに攻め込む」といい、メキシコにも同じ脅しをかけている。さらにはグリーンランド(デンマーク領)の取得のためにも「何かやらなければならない」とのべている。これはすべてあからさまにおこなわれていることだ。
再植民地化に抗う人々
では、ベネズエラの国民はこの状況にどのように反応しているか。さまざまなレベルでの反応がある。

コムーナの住民代表らと握手するデルシー・ロドリゲス暫定大統領(7日、カラカス)
まず政府(国家指導者)の動きでは、これまでのところ憲法上の手続きが開始されている。外国軍によるベネズエラへの攻撃が起きたために非常事態宣言が発令された。この法令は憲法に基づき、最高裁判所および国家非常事態最高裁判所によって許可された措置だ。
この法令に基づき、大統領代行の選出プロセスが開始された。ニコラス・マドゥロ大統領はアメリカによって拉致されている状態であるが、依然として大統領の地位にある。大統領代行の任命は、あくまでこの状況に応じた暫定的措置だ。
また政府は、わが国の法律にもとづき国全体を安定化させた。もちろん私たち全員、この種の爆撃が日常的におこなわれる可能性を恐れているが、現在のところそれはおこなわれていない。これまでラテンアメリカ諸国は、いかなる国からの爆撃も経験したことがない。だから多くの人たちは今回の状況を受けて非常に恐怖を抱いたし、今も恐怖している。同時にベネズエラの人々の反応がある。ベネズエラには強力な草の根組織がある。彼らによってアメリカ帝国主義に反対し、軍事攻撃に反対するデモが連日展開されている。そこでは第一に大統領の自由(解放)を求めている。私たちは戦争ではなく、平和を望んでおり、私たちの主権を尊重してほしいと願っている。マドゥロは私たちが選挙で選んだ大統領であり、私たちは自分たちの政府を持つ権利がある。
だから大統領の解放は今最も重要なことなのだ。27年前にウゴ・チャベス大統領が始めた「ボリバル主義」の改革はマドゥロ大統領に引き継がれ、人々はその改革のリーダーシップがこれからのベネズエラにとって必要だと思っている。
昨年9月からアメリカによる攻撃が始まったが、その状況でマドゥロ政権は、あらゆる事態を想定して計画を策定していた。大統領拉致という非常事態における政府の対応は、そのシナリオに沿って進んでいる。たとえばデルシー・ロドリゲス副大統領が大統領代行に任命されたのも、マドゥロ大統領の下であらかじめ決まっていたことだ。つまり、政府は団結しており、その体制は維持されていることを強調しておきたい。
全世界に仕掛けられた攻撃
そして、最後に申し上げたいのは、この軍事攻撃の後、ベネズエラに限らず、全世界の地域や人々は、国際的な「いじめ」の脅威に晒されながら暮らしているということだ。私たちはアメリカまたはドナルド・トランプから毎日のように軍事的脅しを受けているが、これはベネズエラだけに対するものではないと考える。この攻撃は全ラテンアメリカ地域、そして全世界に対するものだ。
今週も毎日のように威嚇や恫喝的発言がおこなわれているが、重要なことは、これに抗して全世界の国や人々が一つに連帯することだ。そしてこの脅威に反対する声を上げていくことだ。この脅威は戦争という手段を使って、全世界に植民地的な支配権を取り戻そうと企んでおり、ラテンアメリカ・カリブ地域をその実験場にしている。
これによって利益を得る少数、つまり人口のわずか1%に過ぎないエリート層がその他すべてを支配するシナリオに私たちは反対する。全世界の人たちが、この帝国主義に反対する共通の旗を掲げて団結することが重要だと考える。
軍事侵略全体を批判することが重要だが、そのためにもまずベネズエラに対するアメリカの攻撃を批判する必要がある。そして、ベネズエラの大統領の解放を求めなければならない。彼は戦争捕虜として拘束され、アメリカの政治的意図によって裁判にかけられている。この解放を求め、ベネズエラの主権を尊重する国際的な声を上げていただきたい。外国による統治支配など決して許してはならないのだ。
ベネズエラの人たちは、今さまざまな形で抵抗しようとしているが、それはとても困難な道程だ。一部メディアが報じるように、お祝いをすることなどできる状況ではない。多くの人々がこの軍事的な脅威を恐れ、そして怒っている。アメリカの行為は、私たちの国に武力で政治的変化を押しつけようとする試みだ。ベネズエラ国民はこれと闘うが、それには国際的な支援が必要である。それは全世界共通の脅威、つまり世界を再植民地化しようとする戦争の脅威に対する連帯だ。

アメリカの軍事攻撃と大統領拉致に抗議する労働者たちのデモ (15日、ベネズエラ・カラカス)
■質疑応答から
質問 人々の生活はどうなっているのか? 子どもたちの音楽活動は続いているか? 学校は開かれているのだろうか?
バルガス ベネズエラは現在、ホリデーシーズン中だ。ベネズエラでクリスマスは一年で最も大切なホリデーシーズンで、学校や大学は4週間の休暇に入っており、まだ始まっていない。次の月曜日から子どもたちが登校してくるはずだ。
人々は変わらず静かな休暇を過ごしている状況だが、当然ながら(軍事攻撃に)ショックを受けている。初めて外国軍からの爆撃を受けたのだから。当初は多少の動揺が起きたが、現在では政府が安定させたこともあり、国全体が平穏な日常を取り戻している。
同時に街頭では連日大規模なデモがおこなわれている。女性たちのデモ、コムーナ(地域共同体組織)のデモ、若者たちのデモ、社会運動家のデモ、教育者のデモなど、毎日種類の異なるデモが計画的におこなわれている。
質問 物不足で買い占めが起きたりなどの社会的混乱は生まれていないということだろうか?
バルガス 商品や生活必需品の不足などの問題は現時点では起きていない。襲撃を受けた後の2日間は、大半の人々は自宅待機状態が続いた。その後、必要な物資を扱う店が部分的に営業を再開し、そのような店に列ができる状況があった。だがその後、政府がガイドラインを発表し、すべての商業活動や機関が通常に戻ったため、現在は供給ラインにはまったく問題は起きていない。11年におよぶアメリカによる経済制裁(貿易封鎖)の下で、私たちは生産能力を拡大してきたため、現在は必要物資の90%を国内で生産供給することができており、供給不足に陥る可能性は極めて低い。
質問 国内では新聞やテレビなどのメディアは通常通りに発行・放送されているのか? 現政権に批判的なマスコミへの統制などはおこなわれているのだろうか?
バルガス 基本的にベネズエラのメディア状況には特殊な事情がある。なぜなら多くのメディアは、アメリカ側と共通の利害を持つ民間所有者によって運営されているからだ。どの局も同じ放送網を使っているので、一つが止まるとすべて止まるという状況もある。だから襲撃直後の数日間、どのメディアも音楽や映画しか流さず、まるで何も起きていないかのように振る舞った。政治的影響力を持つメディアはこの軍事圧力に妥協したのだ。政権が打倒されることを期待したのかもしれない。現在では通常の状況に戻りつつある。
そして、もう一つの深刻な問題は、ソーシャルネットワーク(SNS)だ。これらはすべて世界のエリート層(ビッグ・テック)が運営しているので、今回だけでなく27週間前から心理的な戦争がSNS上でくり返されてきた。私たちが目撃したのは、単に過去最悪の事態(外国軍による襲撃)だけではなく、これらの情報攻撃によって人々が恐怖に駆られ、嘘を飲み込み、あらゆる場所でそれが拡散されるという現実だ。
例えば最近広まった最も重大な嘘の一つは、アメリカが軍事的に大統領を拉致したのではなく、ベネズエラ側が積極的に彼をアメリカ側に引き渡したという情報だ。つまり、米軍になんら抵抗もせず、大統領を差し出したというものだ。これはまったくのフェイクニュースだ。100人もの人々が殺害された事実は「抵抗がなかった」という言説が嘘であることを裏付けている。殺人、テロ、ジェノサイドを国家としてやってきたのがアメリカだ。これはアメリカがベネズエラで権力を掌握するためにおこなった虐殺だ。
この7日間、私たちは殺害された人々を追悼するために喪に服しつつ、この人々を称える式典をおこなっている。これは非常にデリケートな問題だった。私たちベネズエラ国民は、真実の情報を拡散しようと努めてきたが、SNSはエリート層によって統制されているため拡散できない状況になっている。
そのため海外で流れている情報の多くは偽情報にもとづくものが多く、フェイクニュースが氾濫する状況を生み出している。おそらく日本で流れているニュースも同じ状況だろう。SNS上では操作された偽情報が蔓延している。これが私たちが今日直面している問題だ。
民主主義壊すのは誰か?

ベネズエラでは住民自治システムが根付いている。下水道事業について話し合うベネズエラ・ララ州のコムーナ協議会(13日)
質問 日本の報道では、マドゥロ大統領がいなくなって喜んでいる人がたくさんいるとの報道がされているが、それは一部なのか? 今の体制についても「民主主義ではない」と評するメディアがほとんどだが実態はどうなのだろうか?
バルガス まず一つは、ベネズエラの街角で、マドゥロ大統領を誘拐したアメリカの軍事行動を祝っている人の姿は見られないということだ。アメリカでも他の国でも、少なくとも私はその姿を見たことはない。
おそらく拡散されている報道は、ベネズエラから国外へ逃れた人々の一部の声だろう。たとえばスペインやアメリカなどにいるベネズエラ移民の中には、マドゥロ大統領がいなくなったことを喜ぶ人たちもいるだろうが、それはキューバからアメリカに渡った人たちと同じようにベネズエラの体制に反対して出国した人々だ。彼らはアメリカ植民地下で利益を得てきたため、ベネズエラの主権や尊厳そのものに反対している。
ベネズエラ国外にいる移民の60%が今回の軍事行動を支持しているという数字が報道で出ているが、ベネズエラ国内では90%が軍事行動に反対している。よく考えてほしい。誰が爆撃されたいと願うだろうか? まったくもって馬鹿げている。私たちの大事な国民が100人も亡くなっているのに、悲しむ人はいても喜ぶ人がいるだろうか? ベネズエラでこの攻撃を喜ぶ人の姿や映像を見ることはこれからもないはずだ。
国内で実際に目にする状況は、アメリカの軍事攻撃に抗議し、マドゥロ大統領の解放を求める人々によるデモだが、そんなことはメディアでは報道されない。多くのメディアは、アメリカのエリート層と同じ考え方だけを流布している。彼らは自分たちの利益のためにトランプと同じような極右大統領を据えたいと願っているようだ。
民主主義という点についていえば、ベネズエラは2004年以降、非常に革新的な民主主義システムを国内に確立している。それは民主主義の新たな段階を確立したといえる。私たちが「国民協議会」と呼ぶものだ。国家予算を政府が決めるだけではなく、その予算の一部を国民自身が直接管理し、みずから活用する仕組みだ。
国民協議会の核心は三つある。その第一は、「コムーナ」(地域共同体組織)制度だ。これは住民による自治システムだ。ベネズエラ全土に5000以上のコムーナが存在する。都市部にも農村部にもあり、国民全体を包括する住民組織体系だ。
そこでは住民自身が事業を提案し、住民みずからの投票(VBO)によって最も重要なプロジェクトを決定する。水道、エネルギー、学校、医療に至るまであらゆる事業の提案がおこなわれ、コムーナの自治組織がプロジェクト実行の責任を負う。昨年から現在までに、約3万5000件のプロジェクトがこれらの住民自治組織によって実行された。政府でも公共機関でもない自治制度だ。私たち住民自身が民主主義を実践している。だから、私たちは民主主義について語ることはたくさんある。
たとえば、アメリカと比較してみてほしい。アメリカでは現在、連邦政府の移民排斥政策に抗議する人々が警察などによって路上で撃ち殺されている。昨日も移民政策に抗議していた一般女性をICE(移民・関税執行局)の武装警察が射殺した。人々と軍国主義が対峙し、民主主義が危機に瀕しているのがアメリカの日常だ。私たちは人権と民主主義を尊重する。だからこそベネズエラの人々は、軍事攻撃に反対し、その意見を表明するために路上に出ている。
うわべの言葉やレッテルに惑わされることなく、誰が民主主義と人権を尊重し、それを守ろうとしているのか、どの国が本当の意味での民主主義を実現できているのか、あるいはこれを守らないのは誰なのか、これを機会にぜひ皆さんに考えていただきたいと思う。





















