いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「頭蓋骨のようなもの」

 「人の骨のようなものがみつかった」「頭蓋骨のようなものが発見された」――。宇部市長生炭鉱水没事故の坑道からついに遺骨が出てきたというのに、メディアときたらおしなべて前述のように「ようなもの」という表現に終始し、「遺骨か?」といったニュアンスを振りまいていた。そこに183人の水非常の犠牲者の骨が眠っており、83年にわたってそのままにされていたことから潜水調査をくり返し、遺骨収拾そのためだけに尽力してきたというのに、「遺骨かどうかはわからない」「まだ確定はしていない」ような表現で伝えたがるというのは、いったいどのような神経なのだろうか。

 

 確かに警察の鑑定によって人骨か否かを確定する事項ではあるが、あの坑道から出てきた頭蓋骨を見てなお「頭蓋骨のようなもの」などと報道しているのは、同じくジャーナリズムを志す者としては恥ずかしいばかりである。誰がどう見ても人間の頭蓋骨なのに、もしかすると牛や馬の頭蓋骨かもしれないとでも思ったというのだろうか。坑道に牛や馬がいたかも知れないと思ったというのだろうか。あるいはレプリカかもしれないと思ったというのだろうか。

 

 現場の記者たちは遺骨が出てくるか否かを大挙して取材に来て、ダイバーたちが引き上げてくる度に「出てきましたか?」ばかり尋ねていたというのに、いざ出てきたらこれである。「人間の頭蓋骨が発見された」「犠牲者の遺骨が発見された」ときっぱり報道するのが仕事だろうに、誰の判断でこうした「のようなもの」という曖昧模糊とした報道がなされたのか――である。現場では命がけで潜ってきたダイバーたちが「4体の遺骨を確認した」「ブーツを履いた状態だった」等々、生々しい海底の遺骨の状態を伝えていたのに、それでもなお「人の骨のようなもの」という表現にこだわるというのは、「遺骨ではないかもしれない」と伝えたいメディア側の信念にも思えて仕方がないのである。今後本格化するであろう遺骨収拾で183体が引き上げられた場合、それはもう膨大な遺骨の数となる。そのたびに「人の骨のようなもの」という表現をくり返した場合、メディアは「あいつらバカではあるまいか?」と白い目を向けられ、例の如く「マスゴミ」と罵られるのが関の山であろう。それはジャーナリズムとしては自殺行為なのである。

 

 同じく山口県では先週、上関町への中間貯蔵施設誘致を巡って中電が上関町に「建設は可能である」と適地調査の結果を伝え、反対派住民たちが抗議行動をくり広げた。この中間貯蔵施設を巡る報道についても商業メディアときたら極めて恣意的な伝え方に終始しているのが特徴である。誰がどう見ても中電の必要性からではなく、大飯、美浜、高浜など福井県内にある関西電力の原発が抱える使用済み核燃料の持って行き場がなく、関電の都合で上関町がゴミ捨て場にされようとしているにもかかわらず、そのことには一切蓋をして触れることなく、まるで踏み込んでいかない姿勢である。なぜ郷土山口県が全国のどこも受け入れたがらない核のゴミを引き受け、「中間」とは名ばかりで実質的には永久のゴミ捨て場にされないといけないのか――という単純な論点をかき消そうという欺瞞に満ちた報道が余りにも目に付く。関電や経産省への忖度以外のなにものでもなく、反対世論を抑えたいという意図が丸出しなのである。

 

 権力の監視を生業とし、人々に真理真実を伝えるのがジャーナリズムの役割だったはずが、いまやすっかり商業化して魂を抜かれ、スポンサーや権力に媚びを売り、報道機関というよりは不動産会社かと思うような経営状態になっているところも少なくない。斯くして鋭く社会問題に切り込んでいったりすることは稀となった。「首相退陣へ」の号外までまき散らしてデマ報道をした大手新聞あり、1面トップのスクープ記事で容疑者(国会議員)の名前をまるで別人名にて秘書給与詐取疑惑を報道した大手新聞あり、以前なら考えられないようなやらかしをしているではないか。それは必然というか、堕落したジャーナリズムのお粗末な末路なのかもしれない。

 

武蔵坊五郎          

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